第139回:『五香宮の猫』の“ドブ板”宣伝作戦(想田和弘)

 ニューヨークから瀬戸内海の牛窓に移住して、三度目の夏を迎えている。

 ウチの近所にある神社・五香宮を中心とした半径二百メートルの中で撮影し、牛窓の小宇宙を観察した拙作『五香宮の猫』(2024年、119分、観察映画第10弾)の日本劇場公開が、10月に決定した。

 そこでこの夏は一軒一軒、地元牛窓や瀬戸内市のお店や施設を訪れ、チラシの配布やポスターの掲示をお願いする“ドブ板”宣伝作戦を展開している。

 今までに牛窓では『牡蠣工場』(2015年)と『港町』(2018年)という2本の映画を撮ったが、それらの公開時にはニューヨークに住んでいた。だからこういうドブ板宣伝など、まったくする機会がなかった。

 初めてやってみて感じることの一つは、過疎化が進む牛窓にも、僕と(妻でプロデューサーの)柏木規与子だけでは廻り切れないほどのお店や施設があるということである。ふだんの日常生活でお世話になっているお店や施設ばかりだが、改めてリストにしてみると「こんなにあったのか!」と驚かされる。逆に言うと、それだけの営みがあってはじめて、僕らの生活は成り立っているのである。

 また、直接足を運んで協力をお願いすることは、それ自体が貴重なコミュニケーションでもあることも実感させられる。

 僕は人様に何かをお願いするのが苦手な方で、実は最初は尻込みしていた。

 だが、思い切って飛び込んでみれば、映画のことだけでなく、お互いの近況や感じていることをざっくばらんに話す機会になるので、なんだか楽しくもある。ポスターに写っている人を指して「あっ、○○ちゃんも出とるがあ」と盛り上がる人も結構いて、「おおっ、この人とあの人はお友達だったのか」などと発見することも多い。

 話が盛り上がりすぎると、なかなか行脚が進まないのが玉にキズだが、狭い牛窓、そんなに急いでどこへ行く。快く受け入れていただけることが、本当にありがたい。そしてこうした過程を通じて、『五香宮の猫』が僕と柏木だけのものではない「みんなの映画」になってくれたら、これほど嬉しいことはないのである。

 訪問時には、せっかくなので写真を撮らせていただいた。ときどき撮影するのを忘れてしまってごめんなさい。それにここに掲載されているのは、あくまでも現時点までにお邪魔したお店で、まだまだ増える予定である。

 こうして見ると、いいお店ばかりだなあ。

 なお、映画『五香宮の猫』のチラシ配布やポスター掲示に協力してくださる応援団(サポーター)を日本全国で大募集中です。よろしくお願いいたします。

\✨🚢『五香宮の猫』応援団(サポーター)募集中!🐈✨/
https://note.com/tofoofilms/n/ndb2ecd831069

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。