第140回:配信サービスの普及と映画の苦しい台所事情(想田和弘)

 10月19日から日本各地で劇場公開される拙作『五香宮の猫』(2024年、観察映画第10弾)は、僕にとっては4年ぶりの新作である。

 今まではだいたい1〜2年に1本は公開してきたので、こんなに間があいたことはない。久しぶりに映画界の皆さんと仕事をしている気がする。

 今回、世間話の延長で、何度か話題に上ったことがある。

 それは「DVDやブルーレイがいよいよ売れなくなった」ということである。

 Netflixなどのインターネット配信サービスが台頭してきた10年くらい前から、ささやかれ危惧されてきたことではある。しかしそれでも海外に比べて日本ではDVD・ブルーレイ市場が案外長持ちしていて、そこそこ売れてきた。

 だが、コロナ禍を経て配信サービスが一気に普及した今、“ついに終わった”感があるというのである。

 実はこれは、多くの映画、とくに中小規模の映画にとっては、深刻な問題である。

 かつては劇場で観客動員が振るわなかったとしても、DVDに資金回収の望みを託せたりしたものだが、その道がほとんど閉ざされたことを意味するからだ。

 こう申し上げると、「DVDの代わりに配信で回収すればよいのでは」と思われる方が多いのではないだろうか。

 だが、あまり世間では知られていないことだが、実はごく一部の映画を除いて、映画制作者や配給会社にとって、配信はほとんど収益にならない。少なくとも、かつてDVDやブルーレイで稼げた収益の代わりにはならない。

 悪いことに、経済的にはもう一つの頼みの綱であったテレビ放映の方も、テレビ局の予算が縮小していくなか、枠も放映料も削られてきている(これもネットの影響だ)。

 そうなると当然、映画は劇場公開で稼ぐしかない、ということになる。

 考えようによっては、それは「映画の原点に還れ」という天命にも聞こえる。

 だが、そもそも映画館で映画を見る人が少なくなってきたからこそ、経済的にDVDやテレビ放映に頼るようになったわけだから、現実的にはなかなか厳しいものがある。それどころか、コロナ禍のダメージを受けた映画館の閉鎖も相次いでいる。

 このままでは、映画会社もバタバタと倒産していくのではないか。そんな悪い予感もしている。

 なぜこんな話をするのかといえば、こういう映画界の苦しい経済事情が、案外世間では知られていないからである。みんな知らずに「配信が普及して便利になったな〜」と無邪気に喜んでいるように見える。

 もちろん、配信は便利だ。

 僕だって便利に使っているし、自分の作品も配信に出している。

 配信によって、映画館が近くにない人にも、映画へのアクセスが担保されるという良さもある。

 しかし逆説的だが、配信があまりにも画期的で便利であるがゆえに、そこに流れる映画を作る制作者や映画会社の多くは、窮地に陥っているのである。なぜだかよくわからないが、そうなっている。資本主義のマジックである。

 僕などは、拙作を配信することには、メリットよりもデメリットの方が多いのではないかと考え始めている。少なくとも『五香宮の猫』の配信の是非については、慎重に考えたい。

 ということで、『五香宮の猫』はできれば劇場で観てくださいね(笑)。

 本作の公開にあたり、各地の映画館で舞台挨拶させていただく予定である。また、新刊のフォトエッセイ『猫様』刊行記念イベントも企画している。

〈舞台挨拶の予定〉
10月19日(土) 東京 シアター・イメージフォーラム
10月19日(土) 横浜 シネマ・ジャック&ベティ
10月20日(日) 京都 京都シネマ
10月20日(日) 大阪 第七藝術劇場
10月26日(土) 岡山 シネマ・クレール
10月27日(日) 名古屋 ナゴヤキネマ・ノイ
11月2日(土) 福岡 KBCシネマ
11月3日(日) 広島 横川シネマ
11月4日(月・祝) 神戸 元町映画館
11月9日(土) 松山 シネマルナティック
11月10日(日) 高松 ホールソレイユ
11月30日(土) 尾道 シネマ尾道

〈『猫様』刊行記念イベント(東京)〉
・10月17日(木)19:00~
下北沢・本屋B&Bにて想田和弘×劇作家・坂手洋二さん対談「映画と演劇とフォトエッセイ 猫のように自由な表現とは 映画監督と劇作家が語る表現の方法」

・10月18日(金)17:30~
神保町・猫の本棚でサイン会。サイン会参加権付き書籍の予約販売(50冊限定)を、下記の「猫の本棚」特設販売サイトで実施中。
https://my-site-108285-102336.square.site/

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。93年からニューヨーク在住。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。監督作品に『選挙』『精神』『Peace』『演劇1』『演劇2』『選挙2』『牡蠣工場』『港町』『ザ・ビッグハウス』などがあり、海外映画祭などで受賞多数。最新作『精神0』はベルリン国際映画祭でエキュメニカル賞受賞。著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』『観察する男』『熱狂なきファシズム』など多数。