第704回:野菜が高い!!物価高騰にとうとう美容オタクも悲鳴〜今年最後の「なんでも電話相談会」の巻(雨宮処凛)

 「美容オタクの友達が、とうとう『デモ行きたい』って言い出したんだけど」

 先週、飲み友達のA子に言われて面食らった。

 A子とはしょっちゅう一緒に飲む仲。しかし、彼女はリベラル系には批判的で一定の距離を置いているスタンス。そんなA子の周りの女子は政治に興味がない層が大半とのことだが、今月に入り、いつも「ボトックス」とか「韓国の美容施術」が話題のほぼすべてを占めるという女子たちが突然「デモに行きたい」と言い出したのだという。

 理由は、物価高。

 「もう野菜が高くて我慢できない」とのこと。

 その通りで、このところの物価高には私も言葉を失っている。特にもやしに次ぐ「庶民の味方」だと思っていたキャベツが一玉500円近い値段になっていることには、「お前まで富裕層側につくの?」と膝から崩れ落ちそうになった。

 ちなみに美容女子たちの強い味方は、やはり野菜。ブロッコリーとゆで卵などのダイエットメニューが基本という女子たちの「頼みの綱」がここまで爆上がりしているのだから、とうとう怒りに火がついたようである。

 さて、そんな物価高騰、すでに3年以上にわたって続いているわけだが、ここに今年7月に開催された「いのちと暮らしを守るなんでも相談会」のデータがある。コロナ禍から隔月で開催されている相談会で、私も相談員をつとめている取り組みだ。

 全国の弁護士や司法書士、支援者などが無料で相談を受けるのだが、寄せられる相談に「物価」というキーワードが増えたのは2022年2月頃から。以降、それは困窮者を苦しめ続けている。

 ということで、7月27日に寄せられた相談件数は489件。以下、悲鳴のような声を紹介しよう。

 まずは生活保護を利用している層の声から。

 最後のセーフティネットにひっかかっていても、保護基準引き下げと物価高騰のダブルパンチで苦しいという声が多い。電気代が高すぎて、またそもそもなくてエアコンを使えないとの声も少なくない。以下、今年の猛暑を思い出しながら読んでほしい。

 「40代男性。単身。障害年金と生活保護が収入。物価高で生活が苦しい。油、乳製品、パンなど食料品全般、光熱費が値上がりしているため、一日1食にしている。追い詰められているので、食糧支援をしてほしい」

 「70代男性。生活保護受給中。保護費が少なくて生活できない。クーラーがないため暑くて熱中症になった。死んだ方がまし」

 「80代女性。2人世帯。収入は年金と生活保護。生活保護費が低すぎる。普段は扇風機もつけずに我慢し、一日1食、安いせんべいを水に浸して食べている。夫はレタスが噛めないほど衰弱している」

 また、冬場に寄せられた声としては、「エアコンは使うと電気代が大変なことになるので、一日中湯たんぽを抱いて過ごしている」「エアコンはあるが使わず、オーバーを着てこたつに入っている」「灯油が1000円から2000円になった」などがある。

 13年に生活保護基準が引き下げられ、利用者の厳しい状況が続いてきたことはこの連載でも書いてきた通りだ。が、国は「泣きっ面に蜂」とばかりにさらなる生活保護基準引き下げを狙っている。都市部の高齢者を中心にだ(12月17日の報道によると引き下げはなんとか食い止められ、引き上げとなるようだが、月500円程度らしい。キャベツ一個分……)。

 ちなみに物価高騰は世界的なことだが、ドイツやスウェーデン、韓国ではそれを受け、生活保護に該当する制度の基準は引き上げられている。

 そんな状況を受け、12月4日、「物価高で暮らせないぞ! 下げるな! 上げろ! 生活保護基準」と題された緊急集会が開催され、13人の国会議員も駆けつけた。国はこれらの声にどう答えるのか。

 さて、次は生活保護を利用していない人たちからの声を紹介しよう。同じ7月の相談会に寄せられたものだ。

 「30代女性。2年前パワハラで仕事を辞めた。昼間は商業施設で過ごし、路上生活2ヶ月。両足のむくみもひどく2週間前から痛み。生活保護利用についてはしばらく考えたい」

 「70代夫妻。自営業をしていたが体調悪化し働けなくなった。月4万円の年金だけで電気も止められるくらい生活困窮。生活保護の相談に行ったが、審査に3ヶ月かかるとか、自動車はダメと言われたので申請していない」

 「60代女性、単身、無職。6月に仕事をクビになり、給与の残りで生活している。食べるものに困っている。夜1時間半ごとに目が覚める。毎朝、死にたくなる。フェイスブックで、自殺志願者グループに4つ登録」

 「知人宅に最近居候。所持金数百円で自身の携帯電話もない。食料支援があると教えられたが取りに行く電車代もない」

 「奨学金の免除申請をしたが、一生仕事できないという診断書がなければ免除できないと言われた。精神疾患なので、そんな診断書は出せない」

 どれもこれも、深刻すぎるケースだ。というか、路上生活をしている女性には、一刻も早い生活保護利用を勧めたい。

 ちなみに今、制度を利用しようか迷っている人には、年末年始で役所が休みになる前に生活保護申請を勧めたい。長期休みのうちに何が起きるかわからないし、住まいがないならなおさらだ。あればあったで家賃に該当するお金が今月分から出るなど、早い申請の方が何かと利点がある。

 また、生活保護の「審査に3ヶ月かかる」「自動車はダメ」と言われたとの声があるが、まずは審査に3ヶ月かかるなんてありえない。通常であれば申請から2週間以内に保護は開始されるものである。

 一方、自動車も、通勤や通院に必要と認められれば所持したままでOK。一律ダメなんてことはない。

 ということで、生活保護を巡って困った場合は「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」などに相談してみるといいだろう。

 さて、今年も年の瀬が近づいてきた。

 そんな年末年始を前に、12月21日、「いのちと暮らしを守るなんでも相談会」が開催される。10時から18時まで、全国で弁護士や司法書士などが無料で電話相談を受けるので、困りごとがある人、また周りで困っていそうな人がいる場合などはぜひ電話してみてほしい。

 電話番号は 0120-157930。

 詳しいことはこちらから。

 また、全国9ヶ所で対面での相談も受け付けている。会場一覧はこちらから。

 対面の場合は食料配布があるところもある。

 まずは気軽に、相談してほしい。
 

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。