第706回:「戦後80年」に考える、「戦後100年」を達成する方法。の巻(雨宮処凛)

 2025年が始まった。

 私にとっては生誕50年、デビュー25周年という「周年イヤー」である。

 そんな年が始まる直前の大晦日は、横浜・寿町と東京・池袋の炊き出しを巡った。14時から年越しそばが振る舞われた寿町の公園には長い行列ができていて、500食用意されたおそばはあっという間になくなった。18時から弁当が配られた池袋の公園には、寒風の中、400人近くが並んでいた。

 どちらにも、若い世代や女性の姿もちらほらあった。3年にわたる物価高騰に苦しむ人々の悲鳴を、それぞれの現場で耳にした。

 そうして明けた25年。そんな今年は「戦後80年」の年でもある。

 まがりなりにも80年、戦争をしてこなかったということ。それって実は、ものすごくめでたくて奇跡的で本当にすごいことだと今、しみじみ思う。

 なぜなら私たちは3年前の2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まるのを目撃したからだ。ある日突然、破壊され、奪われた日常。寒い中、大きな荷物を手に、大人だけでなく小さな子どもやお年寄り、またペットたちもが足場の悪い道を逃げる姿を今も鮮明に覚えている。

 23年10月には、ハマスによる襲撃をきっかけに、イスラエルによるガザへの猛攻撃が始まった。悲劇は今も続いている。

 現代の「戦争」は、SNSのタイムラインにリアルタイムで現れる。

 私たちは崩れた家屋や爆撃された建物だけでなく、その下にいる人々の助けを求める声も耳にしている。子どもの亡骸を抱えて泣き叫ぶ親や、爆撃で損傷した遺体を目にする日もある。そうして今この瞬間も、燃料も食料もないガザで、凍えて死んでいく子どもたちがいる。

 ある意味、SNSによって、「戦争」は恐ろしく「身近」なものとなった。遠い国のこととして見ないでいられた時代と、確実にその距離感は変わった。

 そんな中で迎えた、戦後80年。

 この国は、貧困や格差、また自民党の裏金をはじめとして今も多くの問題を抱えている。しかし、「戦後80年」を日本全体でもっともっと寿ぎ、祝い、世界にアピールしまくってもいいのではないかと今、声を大にして提案したい。

 なぜなら、経済大国でもなくなってきた日本が誇れるのは、もう「戦争してない」くらいしかないと思うからだ。

 よって、全国各地で「戦後100年まであと何日」みたいなカウントダウンを始めちゃうのはどうだろう。ちなみに兵庫県尼崎中央3丁目商店街は「阪神タイガース優勝カウントダウン」を日本一早く始めることで有名だが、それを凌駕する気の早さで、もう20年前からカウントダウンを始めてしまうのだ。

 商店街だけじゃない。何億円も使って批判を浴びている都庁のプロジェクションマッピングなんか最適ではないか。それ以外にも東京タワーやスカイツリー、そして永田町なんかでもド派手にカウントダウンを始めるのだ。

 また、学校とかでも「戦後100年」である20年後、自分はどうしていたいか、日本はどうなっていてほしいかとかの作文を書いたり、大人もあらゆる手法で発信したり、全国の市役所とかにも「戦後100年まであと何日」って横断幕出したりして、みんなで「戦後100年」を待ち望んでる感を出すのだ。

 そんな光景が、全国各地に祝祭ムードたっぷりで出現したら。

 政治家たちは、戦争協力的なことはもちろん、「軍事費を上げる」とかも言い出しにくくなるに決まってる。それだけじゃない。各政党も、選挙公約に「戦後100年を目指します」とか入れざるを得なくなるではないか。これは、チャンスだ。私たちがかけられる、唯一にして最大限の「圧力」だ。

 しかも世界に向けて「わが国は戦後100年に向けてカウントダウンしています」とアピールしまくっていれば、そんな国を攻めたりしたら大顰蹙。結果的に「抑止力」にもなるし、多大なお金がかかる万博やオリンピックなんかより、ずーっと安上がりに「日本」をアピールできる。世界情勢が不安定な上、日本の経済が停滞している時だからこそ、お金をかけずに日本を売り出す大チャンスではないだろうか。

 私が偉い人だったら、とにかくこの20年で最大限何ができるか、何が日本の国益になり、アピールポイントになるかを考えて「戦後100年」をいい意味で政治利用しまくってブランディングすると思うのだ。

 ということで、向こう20年かけてこんな大ムーブメントを始めることを提案したい。

 しかも「戦後100年」を考えることは、これから20年の日本や世界、そして自分について考えることだ。戦争だけじゃなく、気候変動や資本主義のあり方そのものみたいな、「持続可能性」についても考えざるを得ない。なんかこれって、本の企画とかにもなりそうじゃない?  ということで、空気は「読む」ものではなく「作る」もの(15年、SEALDsの大学生が言ってた言葉)。

 2025年が、そんなカウントダウン一年目になれば、とけっこう本気で夢想している。なんか、一緒にやりませんか??

 2025年は私の生誕50年&デビュー25周年ということで、誕生日である1月27日、「雨宮処凛生誕50年&デビュー25周年大感謝祭」を開催します!
 ゲストはなんとゴールデンボンバーの歌広場淳さんとサイコ・ル・シェイムのseekさん!! 新宿のロフトプラスワンで19時から。チケットまだあるのでぜひ! 配信チケットもあります! 詳しくはこちらで。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。