第710回:『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』〜全人類が観るべき映画〜(雨宮処凛)

 全人類が見るべき映画と出会ってしまった。

 それは『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』。

 長らく動物をテーマに作品を作り続けてきた山田あかね監督が手がけたドキュメンタリー映画で、サイトには「〈戦場にいる犬たち〉と〈小さな命を救う人々〉を追った希望のドキュメンタリー」とある。

 今月で、ロシアによるウクライナ侵攻から丸3年。

 ここ最近、トランプ大統領とプーチン大統領、またゼレンスキー大統領との電話会談で再びウクライナへの関心が高まっているが、2023年に始まったガザ地区への攻撃以降、ウクライナへの世界の関心は明らかに低下していた。

 この映画は、そんなふうに忘れられつつあるウクライナ侵攻で何が起きていたかを私たちに突きつけるものである。しかも犬や猫という、戦争でもっとも置き去りにされがちな小さな命を通して。

 最初にスクリーンに映し出されるのは、犬たちの亡骸だ。

 場所は、ウクライナのボロディアンカにある犬のシェルター。ここには約500頭の犬が収容されていた。

 しかし、ロシア軍の占領により、職員もボランティアもシェルターに行くことができなくなってしまう。

 キーウ市内とボロディアンカをつなぐ橋が爆破され、またロシア軍がシェルターの入り口に検問所を設置したからだ。下手なことをすれば、発砲されてしまうかもしれないという状況。

 そんなロシア軍が撤退を始めたのは、1ヶ月以上経ってから。近くには地雷が埋められていたものの、ボランティアたちはシェルターに駆けつける。

 結果、シェルターにいた犬485頭のうち、222頭が息絶えていた。

 映像には、「まるでアウシュビッツ収容所のよう」という声が入っている。

 しかし、私が思い出していたのは東日本大震災後の福島の動物たちだ。

 原発事故によって20キロ圏内に残されたペットや家畜たち。すぐに戻れると思って避難したのに帰れなくなった飼い主たち。牛舎の中で多くの牛が餓死し、繋がれたまま息絶えた犬がいた。テレビや映画で観たあの光景を、私は一生忘れることがないと思う。

 あの光景を彷彿とさせる映像から始まる映画はしかし、私たちに多くの「希望」を見せてくれる。

 戦争中でも動物を助ける人たちが多く存在するからだ。

 避難民を支援する場所には犬や猫のブースがあり、そこには獣医もいて治療が受けられる。飼い主と離れ離れになっても再会できるよう、無償でアニマルIDを配る人もいれば、激戦地の犬や猫を保護する人たちがいる。

 中でもシビれたのは、元イギリス軍兵士のトムだ。自身が戦争のPTSDにより退役したという彼は、もっともつらい時期を犬に救われた経験から動物救助隊を立ち上げ、戦地や最前線での動物救出を行う。

 軍人としての知識と経験とスキルがあるからこそ、不発弾がある中でも果敢に救助に向かっていくトム。

 そうして瓦礫の中、生まれたばかりの子犬を助け出すマッチョなトムの姿は、どれほどの言葉を尽くしても言い表せないほどカッコいい。

 そんな姿を見て、トムの団体「BREAKING THE CHAINS」にどうしても課金したくなった結果、こちらのプロジェクトに寄付をするとそのお金が「BREAKING THE CHAINS」にいくということで早速、課金させて頂いた。

 つらいシーンもある映画だけど、強調したいのは、それを上回る「人間の美しさ」がこの映画には刻まれているということだ。

 「これが戦争だ」

 シェルターで息絶えた犬たちの亡骸を前にして、ボランティアが口にした言葉が今も耳に焼き付いている。

 『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』は、2月21日から全国ロードショーだ。

『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。