第159回:東アジア反日武装戦線の桐島聡氏の映画を元日本赤軍の足立正生監督が映画にするというテンション高すぎる事態が発生!(松本哉)

 この、少しでも異質だったり反抗的な存在が敬遠されがちな世の中で、足立正生監督の新作映画『逃走』が完成したという、ふざけきったニュースが舞い込んできた。最高すぎる。去年、東アジア反日武装戦線のメンバーとして指名手配を受けながらも約50年間逃走を続け、突如名乗りをあげて世間を驚かせた桐島聡氏を描いた映画だ。このご時世にこんな映画が登場するなんて、それ自体がすでに事件だ〜!!

“コンコン…”忍び寄る悪の気配

 去年の冬、桐島聡氏が突如病床から自ら名乗り出てニュースになった時、単純に驚いて「そうか~、ついに捕まったのか! 生きながらえてたんだ〜、でも死ぬ間際ってすげえな。貫いたな〜」なんて感動しつつも、そのぐらいの感想で報道を見ていた。
 その時自宅にいたんだけど、その半日ぐらいあと、コンコン、とドアを叩く音がする。開けてみると制服の警官が2人。何かと思ったら「いや~、お隣さんのお母様から本人確認の連絡があったので来てみたんですが、ご存知ないですかね~」だって。で、「いや知りませんね」と言うと間髪入れず「ところで、お宅さん名前は? 本人確認できるものあります?」などと矢継ぎ早に聞いてくる。懐かしいな~、この感じ。昔、警察が活動家の家とか調べるときもこんな感じだったな~、近所で事件があったとか隣の人がどうのこうのとか言って目当てはこっちみたいな、……って、それ完全に目的俺じゃねーか! そもそもそんな隣人の家庭の事情ペラペラ他人に話すわけないだろ~! ま、もちろん本当に隣の人に何かあった可能性もあるから何とも言えないんだけどね。
 そこでふと思ったのが、そう言えば桐島聡が見つかったってニュースあったけど、あれじゃねえだろうな~、と頭をよぎる。確かに50年近く逃げ延びていたんだから、警察はその逃走劇の実態や匿ってた支援者の有無なんかを必死に探していたことだと思う。そして本人登場ってことで、もしかしたらこの50年の逃走中のことが続々と明るみに出て、巨大な組織的な逃走支援体制なんかが浮かび上がってきて、その瞬間に少しでも関わってた関係者を一網打尽に一斉に逮捕~! なんてこと、警察は当然考えてただろうから、全国各地の不穏な奴らの居所を一斉にチェックしたのかもしれない。
 しかも桐島氏は大きな党派などのバックを持たないノンセクトラジカルのポジションでアナーキストグループの人間だった。それを追う警察にとっては一番訳わからない厄介な界隈で、組織じゃないだけに、誰がどう繋がってて誰が誰と仲いいか仲悪いかとかがすごくわかりにくいし、みんな勝手にやるからその芸風も手法も細かい方向性もバラバラだったりする。自分が大学生だった1990年代の法政大学もそんなノンセクト系の謎の活動家の宝庫で、自分自身もそんなところからいろんなふざけた活動を開始してることもあり、ものすごく広く捉えれば同系列の人間であることには違いない。いや~、しかし、いくらなんでも高円寺の素人の乱界隈が密かに匿うなんて、そりゃさすがに想像力豊かすぎだし、仮にここまで「もしかして」と疑うようなら、全国津々浦々、数万人数十万人を疑わなきゃいけないレベル。こりゃ、やっぱり隣人に何かあったのかな。心配になってきた。まあどっちにしろ、それぐらい本気で捜査しててもおかしくない状況ではある。

不死鳥のごとく蘇った左翼取締り担当警察

 ただ、今は昔と違って左翼活動家なんて激減してて、そっち担当の警察も相当余ってて手持ち無沙汰なんだろうから、桐島氏登場なんていう10年20年に一度の大仕事が出現して、一同「よっしゃ~! やっと俺たちの出番だ~!!! 頑張っちゃうぞ~」と、腕まくりしてお父さん大ハッスルだったはずで、全国津々浦々の無所属系不穏分子に当たりをつけまくっていたとしてもおかしくはない! それもそのはず。普段から、最近忙しい宗教担当やら極右差別主義者担当なんかから「いいよな~、左翼担当ヒマそうで。それで同じ給料出てるんだから楽なもんだよな~」などと嫌味を言われ続け、「マズイ、このままだとリストラ候補に上がる!」と脂汗をかいてるに違いない。職場にいると居心地悪いもんだから、寒風吹き荒ぶ中とりあえず意味なく新宿の模索舎とかブラっと行ってみて、なんの新情報もないしょうもない左翼新聞とか買って帰り、ひと通り目を通すも「ダメだ! 今月もこいつら大したことやってねえ」と、クシャクシャと新聞を丸めてポイとゴミ箱へ投げ入れ、鼻くそでもほじりながら窓から外を眺め「いいよな~、統一教会担当のやつら楽しそうで」なんて呟く日々。そしてやることないので気晴らしに部下でも飲みに連れ出して「オマエら知らねえだろ。昔はすごかったんだぞ~、左翼。火炎瓶の火力がまたすげえんだ。俺らなんて殺るか殺られるかだよ」なんて10倍ぐらいに話盛って武勇伝語りまくったりして、結果部下からウザがられて嫌われたりしてるはずだ。そう思うとかわいそうになってきたな~、あの人たち。
 そんな時に天の恵みのような朗報の桐島聡氏の名乗り。外回りのフリして公園のベンチで時間を潰しながら飲んでたコーヒーの缶をゴミ箱にぶち込み、すわと立ち上がり「よっしゃあ〜! 一世一代の大勝負だ〜」と叫んで、砂場で遊んでるチビッコを驚かせ、署まで猛ダッシュで走る。そして心には「あ、ありがとう桐島! お前だけはあの時代の緊張感を知っているはずだ」と、不覚にも謎の親近感を覚えちゃったりしつつも「いや、しかしここはここは心を鬼にして臨む! 俺はオマエを許さない! オマエを支えた巨大な組織も許さない! さあ〜、勝負だ!!」と、気合を入れたはずだ。
 そして間違いなく刑事ドラマみたいな捜査本部的なもの作って、見栄張ってここぞとばかりに大会議室とか借りて、ホワイトボードに危険分子の相関図とか家系図みたいなの書いちゃったりして、「諸君、ここは正念場だ!」なんて檄を飛ばして、みんなホクホクして眉間に皺を寄せてみたり、鉢巻きしめたりタスキかけちゃったり、「しばらく帰れない」と家に電話しちゃったりしているはずだ。そんな流れでさまざまな指示が飛び、そのついでに最後のオマケで「よし、オマエは一応高円寺を洗っとけ」→「いや、あいつらただのバカだから、さすがにそれはないんじゃないっすか?」→「バカヤロー、あいつらはバカだから『ウェーイ、おっちゃんいいね、飲もうよ。えっ、反日武装戦線? いいよ、なんでもいいよ、みんな仲間だよ〜』とか言って訳わからずに一緒に飲んだり遊んだりするんだ、あいつらバカだから! いいから行け!」なんて指令が出てもおかしくない。

徐々に明るみに出る桐島氏の50年!

 ところが、その後が面白い。衝撃の第一報のあと、続々と報じられるニュースは、そんな警察の追っ手を裏切るような情報の連続! 普通に工場で働いてその日暮らしの生活をしてたなんていうのはまだ予想できる範囲で、意外とのんべえだったとか、音楽が好きで夜な夜な遊び歩いてたとか、雲行きの怪しいニュースが次々出てきて、さらには「ブルースや70年代ロックが好きだった」みたいな好きな音楽のジャンルまで出始める始末。さらには、いい感じの彼女がいたらしいだの、観るだけじゃなくて自分でバンドもやってたらしい、「うーやん」っていうあだ名で呼ばれみんなから親しまれていたなどと、いよいよとんでもないニュースが続出。そんな新情報は続々と捜査本部へ持ち込まれ「ぐぬ〜」と唸りをあげ腕組みするしかない鬼軍曹の凄腕刑事(デカ)たち。さらに、テレビの取材なんかでも、「いや〜、あのひといい人でしたよ〜」とか「裏の未舗装の道を舗装してくれてねえ」みたいな話しか出てこないし、銭湯仲間や飲み友達なんかが「そんなことするような人じゃないねえ」「なんかの間違いじゃないの?」なんて言い出すほど。しかも、ライブハウスなどではノリのいい感じの時はその場を盛り上げ、しっとりした感じの時は落ち着いてゆっくり酒飲んでるという素行まで報じられて、ゴキゲンな映像まで出てきて、結構いいやつじゃねえかという空気感が日本中のお茶の間に広がる。確かに、そういう遊び方って店からしたら「あの人分かってるな〜」という100点満点すぎる客。コラー、のんべえの鑑じゃねーか! それを示すかのように、遊んでた場所や店への取材に対しても「うちらが知ってるのはうーやんで、桐島は知らない!」と追い返されたりもしたという。それは裏を返せば、“うーやん”がどれだけその界隈の仲間として受け入れられてたかってことだ。50年近くも溶け込んだ身の回りの社会があるなんてすごいし、それってもう立派にその界隈の人だよ、完全に。いや〜、そうなってくるともうその遊び仲間たちの手でも映画作って欲しいぐらいだ。学生時代の闘いも大事だけど、本人史的にはもっと大事なエピソードとかマヌケな事件とか大量にあるはず。うわ〜、それも観たい!!
 一方、左翼担当の警察。大会議室にひしめく捜査本部員を前に、次々入ってくるゴキゲンなのんべえオヤジの姿。かつての活動仲間や支援グループたちにも一切連絡を取ってなかったことも明らかになり、50年間“その辺のオヤジ”として生きてきたことが判明。いよいよ巨大組織もヘッタクレもない。「極左過激派・重大逃走事件」なんて物々しく書かれたホワイトボードにも、飲んでる写真とか踊ってる写真が並び、好きなバンドとかよく飲む酒の種類なんかの情報が張り巡らされる。シーンとした会議室では、汚名返上とばかりにサスペンダーとか大門サングラスとかかけて気合いを見せていた凄腕デカたちも、かき集められた100人以上の若手捜査員たちからの白い目を一身に集め、苦しまぎれに咳払いしたりメガネの位置を直してみたりしながら、“俺の顔を見るな”と言わんばかりに黙々と桐島情報のニュースが流れるモニターを見つめ、苦虫を噛み潰したような渋い表情を続ける。う〜ん、哀れすぎる。

かっこよすぎる桐島氏

 さて、そんなマヌケな警察を尻目に、当の桐島氏は末期がんのため数日を待たずして死んでしまう訳だが、これがまたかっこよすぎる。瀕死の状態だからまともに捜査ができるわけもなく、結局時間切れで逮捕はされない。最終的に逃げ切ったことになる。すげ〜。
 しかも一番すごいと思ったのが、税金や国との関わりのこと。よくよく考えたら確定申告なんてしてないはずだから、当然所得税や住民税などは1円も払ってないはずだし、国民健康保険や国民年金にも加入してないことになる。これがすごい。国家にはビタ一文払わない代わりに、そのサービスも一切受けずに生涯を閉じた。ま、消費税や酒税、タバコ税などは多額に払ってるだろうけど、その分は道路や水道、電気などのインフラを享受することで相殺されるって考えれば、国家に頼らずに本当に自力で生きたことになる。そしてあとは、自分が生きている周りの人たち、つまり職場の同僚やら飲み友達なんかとうまいこと社会ができていて、それでなんとかやりくりして生きてきたってこと。おーい、ちょっと待て、それってさりげなく本当にアナーキズム実践してるじゃねーか! しかも、アナーキズムの思想の理解者たちの政治的なコミュニティで生きて来たんじゃなくて、本当にその辺の社会(多少は社会派の人もいるだろうけど政治ゼロみたいな人も大量にいて、いい人からロクでもない奴まで混在してるどこにでもありそうなコミュニティ)で結果的に最期まで生きたのがすごすぎる。指名手配中ってことで図らずもそうなったのかもしれないけど、これってすごいことだよ、本当に。
 当然、大変なこととか、捕まったらアウトという緊張感とか、想像できない大変なこともたくさんあっただろうけど、すごく充実した人生だったんじゃないかな〜。
 これは勝手な主観だけど、自分が考えると、どうしてもマヌケな感じ(←いい意味で)のストーリーに見えてくる。学生の頃、勢いとノリででかいことに関わって、まんまと指名手配をくらい「こりゃ、やべえことになった〜」と思いつつも、当時の時代背景もあり「ま、うまいこと革命でも騒乱でも起きて世の中ひっくり返ってくれれば指名手配チャラか。逃げ通すか〜」ぐらいに思ってたところ、世間はまんまと運動は低調になる一方で、バブル経済みたいになっていよいよ革命から遠ざかってくる。こりゃまいったな〜、と、引くに引けなくなるが、楽しいことが好きな性格が出て、だんだん遊び歩き始めてたら楽しくなってきて、ゴキゲンなマヌケのんべえオヤジとして楽しく生きたりもしたんじゃないかな〜。いや〜、憧れるなその人生。

トドメに足立正生監督の登場

 なんて甘ちゃんも甘ちゃんのクソ素人の自分が勝手な予想をしてる傍で、伝家の宝刀、足立監督の登場。なにを隠そう元日本赤軍の足立監督が、よりによって東アジア反日武装戦線メンバーの映画を撮ってしまうという、そのシチュエーションだけでテンション高すぎてヤバすぎる感じ。そんなテンション高すぎの角度から桐島氏をどう描くのか!? いや〜、こりゃとんでもないことになりそうだ。

 で、なんでこのご時世にこんなテンション高いことになってんだと思ったら、ライブハウス・ロフトの大御所の、これまたとんでもないオヤジの平野悠氏が裏で支えているという! これがまたやばい。この平野氏がまたお調子者の権化みたいな人で、勢いづいてるバカな反骨者を焚きつけまくる習性がある強者で、世が世なら死刑確定の最高すぎる迷惑老人だ(褒めてる)。どいつもこいつもどうなってんだ〜! こんなとんでもない布陣の映画ができた時点でもう観なくてもいいぐらいの勢い。
 こうなってくると、さあ〜、桐島聡というこれまた稀有な闘士(あるいはマヌケのんべえオヤジ)をどう捉えるのかが超気になってくる。
 そして、自分たちが予測してた巨大な極左過激派無政府主義シンジケートがことごとく的外れだったことが確定してグッタリしている地獄の軍団の面々のもとへ、トドメの足立正生監督とロフト平野氏の悪だくみの知らせが入る。映画の内容以前の段階で「ザマアミロ」との声がどこからともなく聞こえてくる感じ。チッ、と舌打ちをして「くだらねえ、そんな映画観ねえ!」と意地を張るけどちょっと観たいと、遠目から映画のチラシを盗み見する地獄の軍団の面々の様子が目に浮かぶ。

こちらが地獄の鬼軍曹が丸めて捨てるけどやっぱり気になって拾う映画パンフレット

 というわけで、このとんでもない映画。そして桐島氏。こんな状況目の当たりにしたら、これからも引き続き、くだらない支配層による秩序を脅かすことをやっていきますか〜、と改めて思わされた。いや〜、いつまでもいうこと聞かない人たちがいるっていいね〜。
 ってことで、その景気づけの意味でも、この映画を観て「そうそう、それだよ〜」だったり「バカ、そうじゃねえだろ!」と思ったりしてみれば楽しいと思う。
 あれっ、未来は意外と明るいかもしれない!

※映画『逃走』は3月15日(土)より公開。詳しくは公式サイトを。

試写会で足立監督と。85歳でこのテンション最高すぎる

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。