第351回:ああ、四月馬鹿っ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 この原稿を書いているのは4月1日、いわゆる「エイプリルフール」である。まあ、この日ぐらいは、愉快なウソをついて楽しもう……というわけだ。
 東京新聞は、毎年この日に「こちら特報部」面を使って、盛大なウソ記事を掲載する。かつては騙されたこともあったけれど、さすがにぼくはもう慣れっこ。それだけ長く東京新聞を購読しているということだ。
 今朝の東京新聞のこちら特報部は、「ふるさと選挙権⁉」というタイトルでけっこう笑わしてくれた。「あの納税制度の返礼品『ポイ活』で寄付殺到」という記事。つまり例の「ふるさと納税」というバカげた制度を茶化し、ふるさと納税で村の村長選の選挙権を返礼品にします、というわけ。その上、その選挙結果が「SNS駆使し村と無縁の28歳当選」と皮肉っている。「ふるさと納税」と「SNS選挙」をツーレツに批判しているわけで、なかなかのデキである。
 なおこの日の「本音のコラム」では、あのとっても真面目な鎌田慧さんまでが「再審法成立!」なるエイプリルフールネタを書いている。もっともこれは、近い将来の成立を目指す鎌田さんの願いを込めたエイプリルフールネタである。

やはり凄いのは「トランプネタ」だな

 さて、新聞各紙をじっくりと読み、必要な記事を切り抜いてファイルしておくのが、ぼくの毎朝のルーティンである。
 今朝(4月1日)も、もちろん各紙(朝日、毎日、東京と沖縄タイムスのデジタル版)を読みながら、同じ作業をしていた。ところがどうも、これホントかよ、もしかしたら4月馬鹿なんじゃないの?的な記事がいっぱい見つかってしまったのだ。世の中、噓と偽に満ちている?
 ここから先は、エイプリルフールネタではなく、マジな記事だから怖いというか恐ろしいというか……。
 その第一は、朝日新聞(むろん4月1日付)。

トランプ氏、3期目に含み
憲法では2期まで「実現方法はある」

 トランプ米大統領は30日、NBCのニュース取材に対し、大統領として3期目を目指す可能性を排除しない考えを示した。合衆国憲法では大統領への選出は2期までと定められているが、「実現する方法はある」と述べたという。(略)
 NBCによると、トランプ氏は3期目について「多くの人が私にそうしてほしいと思っている」と強調。そのうえで「しかし、私は彼らに『まだ先は長い。政権は始まったばかりだ』と言っている」と語った。3期目を望んでいるか問われると「私は仕事が好きだ」と答えたという。また「冗談を言っているのではない」と述べたという。(略)

 冗談も飛び石連休(休み休み)にしてほしいが、トランプ自身が「冗談を言っているのではない」と言うのだから穏やかではない。
 米国憲法修正第22条には「いかなる者も、大統領職に2回を超えて選出されてはならない」とあるのだから、ちょっとやそっとで実現できるはずがないのだが、ずる賢いヤツはずる賢い手を使う。
 ぼくにだって、方法のひとつくらいは考えられる。
 例えば、次の大統領選でトランプは誰か子分を自分の「替え玉」として大統領候補に据え、自分は副大統領候補になる。そして、もしその替え玉が選挙に勝って大統領に就任したら、すぐに辞任させる。大統領職が空位になれば副大統領がその職を継ぐ。まあ、これに近い手は、すでにロシアのプーチンが実証済みだ。
 それにアメリカでは、ケネディ大統領が暗殺されたとき、副大統領だったリンドン・B・ジョンソンが跡を継いだという例もある。
 手続き上は様々な難関があるだろうが、トランプのことだから、そんなもんはぶっ飛ばしてしまえると思っているのだろう。これがトランプにとっては「エイプリルフールネタ」ではなく「マジネタ」であることが、(今風の言葉で言うと)メッチャ怖いのである。

エイプリルフール記事であってほしいが…

 今日(1日)の新聞各紙は「南海トラフ大地震」の被害想定について巨大見出しで伝えている。ほとんど、エイプリルフールネタと思えるほどに恐ろしい内容だった。例えば、毎日新聞の見出しだけを掲げよう。

南海トラフ 死者29万人
地震被害想定 経済損失292兆円

 凄まじい想定だ。
 そういえば、軍政が続くミャンマーで3月28日に巨大地震が起きて死者は2000人を超えたという。さすがの軍事独裁政権も被害を隠しておけず、さらに自力では援助活動もできぬ有様だから、各国に援助要請を出さざるを得ない状況だ。
 そんな大地震報道の最中に出されたのが、国の正式な有識者会議による「南海トラフ地震被害想定」なのだから、国民が鳥肌立つのも無理はない。決してエイプリルフールネタではないのだ。
 そうであるならば、原子力規制委員会の以下の対応はメチャクチャというしかない。朝日新聞(これは4月1日ではなく、3月29日付)の記事。

原発事故 屋内退避継続が基本
規制委が報告書 5~30キロ圏内、3日間経過後も

 原子力規制委員会の検討チームは28日、原発事故時の周辺住民の屋内退避について、報告書をまとめた。これまでの案では、期間の目安を3日間と指定したが、国や自治体からの物資供給などによって、3日後以降も屋内退避の継続が基本と修正した。(略)
 検討チームは昨年10月の方針案で、屋内退避の期間の目安を3日間と明記。3日間を過ぎても生活が続けられる場合は屋内退避を続けるが、できない状況なら30キロ圏外に避難とした。(略)
 報告書はまとまったものの、積み残された課題はある。
 たとえば、入院患者や在宅の要配慮者への支援は具体的には示されていない。(略)
 能登半島地震のあった石川県からは「家屋の損傷状況に応じた屋内退避のあり方について、検討が必要なのでは」という意見が寄せられた。(略)

 能登半島地震では建物が崩壊し道路も寸断され、屋内退避自体が困難だったという事実がある。それを踏まえた見直しが必要だと、自治体側は強く訴えていたのだ。ところが規制委の検討チームは、こうした自治体側の懸念をほとんど考慮していない、というのが今回の報告書の内容である。
 自然災害と原発過酷事故が複合的に起きた場合、屋内退避にはどう考えても無理があり、それを見直してくれという自治体側の要求は妥当なものだ。そもそも倒壊した家屋内にどうやって「退避」し続けられるというのか! ぼくには、この「屋内退避」という考え方自体が、ほとんどエイプリルフールだとしか思えないのだ。
 原発関連では、他にも数多くの、まるでエイプリルフールネタとしか思えないようなことが溢れている。
 だいたい、南海トラフ大地震のこの凄まじい被害想定を前にして、なお「原発推進」を言う連中のアタオカぶりには暗然とする。せめて被害想定区域の原発は停止すべきだとぼくは考えるのだが、それをどう否定するのか、原発推進論者たちにお聞きしたいものだ。

他にも「4月馬鹿記事」がてんこ盛り

 4月1日、他にもエイプリルフールネタみたいな記事が並んでいた。その中には、うほっ、ホントかよ、と目を疑うようなのがいくつもあった。見出しを列挙してみる。
 すべて朝日新聞(4月1日記事)より。

◎仏右翼ルペン氏 有罪
27年大統領選有力候補 被選挙権停止

◎トランプ氏語る
プーチン氏に「非常に腹が立った」
イランに「核取引 拒否なら爆撃」

 どうですか、なんだかみんな四月馬鹿記事に見えませんか? こんなことがあり得るのか、と。
 フランスの極右政党「RN(国民連合)」党首のマリーヌ・ルペン氏が公金横領の罪で有罪判決を受け、5年間の被選挙権停止を言い渡された。ふむふむ、これでルペン氏は2年後の仏大統領選出馬が困難になった。
 これ、エイプリルフールネタじゃないよね。さすがにフランスの司法、まだしっかりしているとみえる。これが日本であれば、どれだけ裏金疑惑が発覚しても、検察はピクリとも動かないし裁判所は見て見ぬふり。少しはフランスを見習ったらどうか、なんてぼくはつい愚痴っぽくなる。

 トランプとプーチンの仲が、伝えられるほど親密ではなさそう。というより、トランプは自分の言うことを聞かないヤツは誰あろうと許さない凶悪なジャイアンなのだ。トランプとプーチンが大げんかか…なんてエイプリルフールのトップニュースだろう。
 その上、トランプは「イラン爆撃」をも示唆している。これだけはエイプリルフール記事であってほしいのだが。

テレビは毎日がエイプリルフール

 ちょいと驚いたのが、4月1日に全紙が大きく取り上げた「フジテレビ第三者委員会報告書」である。これはこれでなかなかの強烈な一発! 第三者委員会、けっこう頑張ったじゃないか、という評価が多い。
 ところで、その同じ日の紙面に躍ったのが「日テレの捏造編集」というテレビネタである。これも朝日新聞(むろん4月1日付)。見出しだけを掲げる。

日テレ、捏造を謝罪
発言編集 中国ではカラス「食べる」

 うーむ、こりゃひどい。
 簡単に言えば「中国ではカラスを食う」というデタラメな内容を、さも事実のように編集して番組を作っちゃった、という記事。「エイプリルフールでした、ごめんなさい」と謝ったって許されるわけがない。
 記事によると、この番組は4月1日ではなく、3月24日放送の「月曜から夜ふかし」だった。番組内で中国出身女性の街頭インタビューを流したのだが、女性の別の発言を切り貼りして、「中国人はよくカラスを食べるので、中国ではカラスが少ない」という意味に改竄捏造したというもの。これが中国国内のSNS上で話題になり、結局、日本テレビは女性に謝罪したという。
 番組を面白くしたい、とのディレクターの思いだったというが、そこに「中国人蔑視」「民族差別」の視線が含まれていたと言われても仕方ない。
 こんなことが、4月1日ではなく日常的に行われていたとしたら、それこそ「テレビは毎日がエイプリルフール」なのである。テレビの堕落は、決してフジテレビだけの問題ではなかったということだ。
 どうも、世の中は毎日がエイプリルフールになりつつあるらしい。

 例の兵庫県知事に対する百条委員会報告や第三者委員会報告を見ても、行政や企業の幹部たちが「浮かれ浮かれて毎日4月1日バカ踊り」……みたいだ。
 それをSNSが巨大に増幅する。お祭り騒ぎを拡大する立花某らの黒い踊り手がわんさか出現するのだから始末が悪い。
 こんな中では政治もバカ踊りになろうというもの。
 結局、我々は「毎日がエイプリルフール」に馴らされているのかもしれない。
 そろそろ目を覚まさなくちゃなあ……。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。