3月末に政府は、台湾に近い与那国・石垣・宮古などの島々に住む5市町村の住民ら12万人を、有事の際に避難させる初期計画を公表した。今回は珍しく全国紙も大きく報じ、テレビでも全国ニュースになった。でもそれは「台湾有事」が迫っているのか、武力攻撃が予測されるのか、緊迫した事態なのかと焦る国民の興味関心を刺激しただけで、本気でこの地域に住む11万人とそこに居合わせた観光客1万人が、九州・山口に逃げて助かるのかについて心配してくれたり、本気で6日間で移動できるのか、計画自体がナンセンスだと激昂したりしてくれたりした人は少数だったと思う。そもそも、島を棄てて避難する必要などあるのかを論ずるべきだが、そんな議論にさえ繋がっていない印象がある。
与那国島1700人の避難計画が突如町のホームページに掲載された2023年春から私はずっと、なぜ与那国島に人が住めない状況が作られるのか、こんな理不尽な話はないと世の中に訴えてきた。が、世の中の反応は鈍かった。この1700人の移動は試金石であり、うまくいけば先島と言われる宮古島から西の島々12万人の移動も可能ならしめるだろうという防衛省の目論見を、非常に危険な考え方だと警鐘を鳴らしてきた。けれども、沖縄本島の住民でさえ、自分たちは移動対象ではないという点においてどこか他人事だった。
沖縄県の新聞二紙では、なぜ戦争のために島を棄てて避難しなければならないのか、その不条理を報じる回数は増えてはいる。しかし新聞を読まない世代が主流になる中で、沖縄県民の中の危機感も正しく育っているとは言えない。そんな中で、ネットニュースになったというタイミングを捉えて改めて、今回の防衛局要請の映像をお届けするのは、忸怩たる思いがある。
私たち「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」(ノーモア沖縄戦の会)は設立当初からずっと言ってきたことだが、なぜ「台湾有事」で沖縄県民の生活空間が戦場にされるのか理屈が通らないし、移動することにも納得してはいない。この間、危機感を記者会見で訴えたり、沖縄県や防衛省に対して地道に要請や疑問をぶつけたりしてきた。報道のチャンスを作ってきたつもりだ。でも効果的に全国ニュースにできていない日々があり、政府の発表と主要メディアが報じたタイミングに合わせてこういう動画やリポートを出すしかないことに歯ぎしりする思いがあるのだ。前置きが長くなったが、私たちがどれほどの危機感を持っているのか、ぜひ動画を見て欲しい。
「下手したら、宮古・八重山から人を追い出して基地の島として使おうとしてるんじゃないか。私たちは生まれ育ったこの場所で生きていく権利、生活していく権利があります。国が出ていきなさいと言っても従うわけにはいかないです!」
4月7日、ノーモア沖縄戦の会・共同代表の具志堅隆松さんは、沖縄防衛局の前に集まってくれた人たちにこう言った。
「私たちはこれまで自衛隊基地の建設、ミサイルの持ち込みに抗議してきましたが、ここにきて戦争疎開ですよ。これは受け入れるわけにいきません」
集まった30人くらいの県民の応援の拍手を背に、市民の代表らは防衛局長との30分の面談に臨んだ。前もって要求していた主な項目はこの5つである。
- 実現不可能な避難計画の即時廃棄
- 南西諸島を舞台に台湾有事に対処する「日米共同作戦計画」の内容開示と撤廃
- 長射程ミサイルの沖縄配備断念
- 空港・港湾・道路を軍事優先使用するための「特定利用指定」の撤回
- 沖縄市の弾薬庫・嘉手納弾薬庫の貯蔵兵器など詳細について住民に対する説明会の開催
ところが、どれについても
「今の自衛隊の手の内を明らかにすることになるので回答できない」
「まだ具体的に決まってはいない」
「国民保護計画は防衛省の管轄外で内閣官房の危機管理担当にあたってほしい」
と繰り返すばかりで、いつものように、説明にも回答にもなっていなかった。
軍事機密だから言えない、まだ決まっていない、管轄外で答えられない。この三つを繰り返して言えばどんな市民団体の追及も逃れられるとマニュアルにあるのだろう。逆に言えばそれ以外のことを言って墓穴を掘らないという任務が、沖縄防衛局長の腕の見せどころなのかもしれない。こんな仕事は、私ならとても耐えられない。この30年沖縄で報道を続ける中で、米軍や自衛隊に円滑に基地を提供する那覇防衛施設局(※2007年に改組)、そして沖縄防衛局の仕事に就く人たちの苦渋の顔をわたしはずっと見つめてきた。なかにはメンタルを病んで仕事を離れた方もいるし、耐えに耐えて大出世した方のうわさも聞いた。いずれにしても、担当になった彼ら個人を責めるつもりなど毛頭ない。しかし、一つひとつの防衛省の政策が沖縄県民の命と暮らしを根底から覆す内容であるだけに、こんな矢面に立たされる過酷な仕事をさせているものの正体は誰なのか? と見る人に考えてもらうために、彼らの苦渋の表情をこちらは撮り続けるしかないのである。
墓穴と言えば今回、伊藤晋哉沖縄防衛局長は一つ記事の見出しになるような失言をした。いや、失言ではない。ごく当たり前の認識を伝えただけなのだが、当たり前のことでも、政府側に、これまでちゃんと口にした人がいなかったことを言葉にしたら、それが言質となる。そして私たち県民はそこを追及していかざるを得ない。
それは、ミサイルの発射地点は駐屯地内なのか市街地なのかという質問に対して、「市街地から隔離した場所で周囲の安全確保に努めた上で実施する」と答えた発言。つまり基地の外の民間地からミサイルを発射するということだ。
「有事の際に、ミサイル発射台を乗せた車が道路を移動するんですね? 周りにいる県民の安全はどう確保するんですか?」
「ミサイルを撃つ車両だけではなく5、6台で移動しますよね、それが展開できる場所は沖縄本島内にも多くはない。小学校のグラウンドとか公園とか。そういう場所はもうリストアップされているんですね?」
代表らは色めき立った。ノーモア沖縄戦の会の事務局長である新垣邦雄さんは言った。
「防衛研究所の高橋杉雄室長はこう言った。中国のミサイルは精度がいいから、基地など軍事施設をピンポイントで狙える。だから民間人にはそう多くの被害はでないと。新聞のインタビューでそう答えてるんです。でもあなたは今、基地から外に出て島中を移動してミサイルを撃つといった。民間人に大きな被害が出るじゃないですか!」
もちろん私たちは12式地対艦ミサイルが車載式で、報復攻撃を避けるために移動しながら攻撃することは知っている。基地の中から撃ったら、基地がすぐにターゲットになるのだからそうしないことも知っている。伊藤局長も、何をいまさらそんなところに色めき立っているんだと目を白黒させていた。この素人たちはそんなこともわかってなかったのか? と。
それが大事なのだ。沖縄の自衛隊基地にあるすべてのミサイルは、基地の外に出て市街地から中国を狙い、報復を恐れてすぐに移動しますと、沖縄防衛局長の口から言ってもらうことが最大の成果なのだ。
車載式なんだから、移動しながら撃つに決まってるでしょ、と知ったかぶりで解説できる人間は右にも左にも大勢いるだろう。しかし、その人たちは、私たち沖縄県民がその発射拠点とされる場所で生活をしながら、なんとかそれを回避するために重ねてきた、このような地味な要請・記者会見・勉強会・デモ行進――とても効果が上がらないけど、知ってもらうための努力――の、どれを担ってくれているだろうか。島で、移動しながらミサイルを撃つってどういうこと? と何年も説明してきていても分かってもらえない私からすれば、それを防衛局長の言葉で言わせるまでに、ニュースの見出しにしてもらうまでに、長い長い荒野を歩いている感がある。
怖い話を聞きたくない人に危機感を伝えるのは、難しい。「多少の犠牲は仕方ないんじゃない?」と無意識に思っている人に、加害者側にいることを自覚してもらうのはもっと難しい。そして自分が助かる側だと信じている人達に、このままいけばあなたの頭の上にもミサイル来ますよ? と理解してもらうのはもっともっと難しい。みんな、知りたくない。理解したらショックを受けて、その次に打つ手がわからなくて大混乱するから、そうなるくらいなら現状認識はしたくないのだから。
「私たちの命にかかわる問題だから聞いているんです。それを答えられないんだったら、自衛隊はミサイルをもって沖縄から出て行って下さい。それが、私たちが生き残る道なんです。みなさんの自由にさせていたら、私たちはまた犠牲になります!」
また具志堅さんが叫んだ、最近は、この穏やかな具志堅さんが叫ぶ場面に何度も遭遇するようになった。ガマフヤーで、ひとり黙々と遺骨収集にあたってきた具志堅さん。長い間無口な人だという印象があったが、自分たちは次の戦没者になるのか? とこの数年、ハンストをはじめあらゆる反戦活動に乗り出さざるを得なくなり、焦燥感が増している。
「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会」共同代表の照屋寛之さんも、沖縄戦遺族であるお母さんの弔慰金証書を示しながら、また沖縄の人間を犠牲にするのか、と怒りをぶつけていたが、今進んでいる国防政策はどう考えても、沖縄県民でなくても考えたらわかると思うが、無謀すぎる。どうか、16分のこの動画をご覧いただいて、私たちの発しているSOSは日本人全員の危機に対する警鐘だと、理解したくないかも知れないけれども、覚悟して、理解をしてほしい。
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