第715回:女性県議に殺害予告8000件〜なぜ、この界隈のことを「安全」に語れないのか〜(雨宮処凛)

 「生理」をめぐってまた「炎上」が起きた。

 三重県の女性県議(共産党)のX(旧Twitter)への書き込みを発端としたものだ。

 内容はといえば、「今日いきなり生理になって困った」「津市役所のトイレにはナプキンは残念ながら配置されていなかった」「トイレットペーパーみたいに、生理用ナプキンをどこでも置いてほしい」という、読み飛ばしてしまうようなものだ。

 女性を中心に投稿に対する共感も広がったものの、「自分で常備しておけ」「買えよ」「自分の不手際を周りの環境のせいにしてることの方が問題」、果ては「こんな人に県政を任せられない」などといった書き込みが殺到。

 そればかりか、女性県議への殺害予告メールが8000通以上も届く事態にまでなっているという。

 なぜ、こんな異常事態が起きてしまうのか。みんな、それほどにストレスが溜まっているのか。それとも単に暇なのか。

 理解に苦しむが、そんなものを見るにつけ、この国ではまだまだ女性が安心して生理について語ることはできないのだな、と思わず遠い目になってしまう。

 思えば、被災地にナプキンが届けられたなんて聞くと「ならコンドームも配れよ」などのトンチンカンな言い分が出てくるのがX(旧Twitter)という魔境。あまりの無理解ぶりには教育が必要だとつくづく感じるが、果たしてそれだけでなんとかなる問題なのだろうか、という疑問もわく。

 そんなことを通して思い出すのは、数年前、「生理の貧困」が話題になった時のことだ。

 経済的な理由からナプキンをなかなか買えないなどが注目されたわけだが、貧困問題に長年関わってきた私の周りでは、違和感を覚えること、もっと言えば「引く」ことがほんの少しだけど、起きていた。

 それを一言で表すと、「これまで貧困問題に見向きもしなかった男性が、生理の貧困にはなぜかものすごい熱量で首を突っ込んでくる」という現象だ。

 もちろん、それはごくごく一部の話で、「生理の貧困」に関心を持ってくれた男性の大部分が真摯にこの問題を捉えていただろうことは理解している。そのことは強調しておきたい。

 が、首をひねるような光景を幾度か目にしたことも事実だ。

 突然街中で「生理の貧困」について大声で演説しつつナプキンを配布する議員が現れたり(それまで貧困問題へのコミットは確認できない保守系の人とか)、「ナプキンがなかなか買えずに衛生的に問題が」というような内容の話を、聞いている女性が不快になるほどの詳細さと無神経さで街頭や集会で語る男性がいたり、等々。

 「子どもの貧困」も「ひとり親の貧困」もスルーしてきたのに、「生理の貧困」になった途端、「俺のターン!」とばかりにスイッチが入った男性の発生。貧困の現場にいるからこそ、私はそんな男性がすごい勢いで新規参入してくるのを目撃し、「生理の貧困」ブームが落ち着いた途端、あっという間に消えていく一部始終を見た。

 いったいあれは、なんだったのだろう。なぜみんな、あれほど鼻息が荒かったのだろう。

 「なんであの人たち、あんなに気持ちよさそうなの?」

 自らを「生理の貧困の当事者でもある」という女性が、ここまで書いたような光景を見てそう口にしたことも覚えている。

 それは私も感じていたことで、「生理の貧困」に食いついた男性の中には、明らかに「かわいそうな女性を救う自分」というストーリーに酔っているように見えた人もいた。しかも「生理の貧困」は貧困と女性、両方にリーチできる。一部の議員(国会議員だけでなく地方議員も)や活動家志望的な人にとって、それは「コスパがいい」ものだったのかもしれない(もちろん、節度ある語りを心がけているのがわかる男性もいたし、「支援する/される側」の非対称性について敏感であろうとしている男性ほど、この問題についてはものすごく言葉を選んでいたことも知っている)。

 そんなことや今回の炎上で思うのは、どうやったら、「平常心」かつ「平熱」で、生理などについて語れるのかということだ。

 生理をめぐる話でこれだけ攻撃されたり、あるいは過剰に前のめりな姿勢を目撃したりするたびに、この国には長らく「女性の体」に付随するあらゆるものは「エロ」としてのネタにすぎなかったこと、それ以外の文脈で語るのに人々があまりにも慣れていないことに気づかされる。

 結局、下ネタ的に「消費する」ことしかしてこなかったから、みんなテンションがおかしくなるのではないか。

 そんな中で、どうやったら女性が自分たちの身体やそれに関することについて、「安全に」話せるのだろう?

 ちなみに今回は「ナプキン設置」が大きな議論を呼んだわけだが、海外に目を向けると、学校や公共施設で生理用品が無償提供されているのは珍しいことではないという。

 「しんぶん赤旗日曜版」(2025年4月13日)によると、スコットランドやフランス、ニュージーランド、スペインなどで広がっているそうだ。

 そうした国では今回の「炎上」、そしてそれを発端として女性県議に殺害予告が8000通以上届いたなど、どのように思われるのだろう?

 この国の「幼稚さ」を、改めて突きつけられた気がするのは私だけではないはずだ。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。