第353回:気持ちが悪いっ!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

あの「東京五輪報道」を思い出す

 気持ちが悪い、イライラする。
 新聞を開いてもテレビニュースを見ても、どうにもイヤな感じがする。なんでみんな一色になっちゃうのか。
 先日(12日)のツイッター(“X”って名称は嫌いだから使わない)で、ぼくはこんなふうに呟いた。

五輪に疑義をとなえていたマスメディアも、開会間近になると掌返しで「素晴らしき五輪」の翼賛報道になった。今回の万博も明日開幕ということで「ここが見所」的なヨイショ報道一色に。朝日夕刊「素粒子」だって結局は万博推奨。何なんだ、いったいアンタらはっ!

 マスメディアの「一致団結スクラム報道」は、今に始まったことではないけれど、いくら批判されても同じことを繰り返す。ぼくは「オールドメディア」だとか「真実を伝えないマスコミ」などというSNS上の論調には与したくないけれど、この有様を見ていると、少しはそんな気にもなってくる。
 朝日新聞夕刊の一面の小コラム「素粒子」は、時折けっこう鋭い皮肉を効かせた批判でそれなりの存在価値を保っていたが、この日(12日)は、皮肉を効かせたつもりのヨイショでしかない。こう書いていた。

「一番のハンパク(反万博)は太陽の塔だ」と岡本太郎は語っていた。〈人類の進歩と調和〉のアンチテーゼとして突き立てたと。それが今や、栄光のシンボルだ。
               ◇
 この戦禍に〈命輝く未来社会のデザイン〉なんて白々しいと呆れてもいい。突貫工事のあら探しに行ってもいい。「ハンパク」も熱烈歓迎してこその万国博だ。
               ◇
 楽観主義者はドーナツを見るが、悲観主義者はその穴を見るのだそうだ。とりあえず大屋根リングに登って、自分はどちらなのか確かめてみよう。いよいよ開幕。

 いったいなんじゃコレ? 結局、皮肉を効かせたように見せながら、その実「いろいろあったが始まったんだから、とにかく行ってみよう」である。こういうの、ぼくは気持ちが悪くて仕方がない。
 「この戦禍のなかで」というのなら「こんなことやっている場合か」との怒りにつなげるのが「寸鉄、人を刺す」コラムといえるだろうが、この寸鉄、まるで発泡スチロールみたいなもの、どこにも突き刺さりはしない。
 売り物の皮肉批判コラムがこれなのだから、あとは推して知るべし。

各紙の見出しを見比べてみると

 とりあえず、開会日13日のぼくが購読している朝刊各紙の一面の見出しだけでも挙げておこう。

◎朝日新聞
万博 きょう開幕
「いのち・未来社会」テーマ 184日間
来場者・参加国の期待に応える運営を

◎東京新聞
20年ぶり 万博 きょう開幕
大阪・夢洲で開会式
「持続する未来創る」

◎毎日新聞
未完の万博 きょう開幕
大阪55年ぶり 165カ国・地域・機関
開会式に1300人
安全対策の徹底を

◎沖縄タイムス
万博きょう開幕
開会式 Awichさんら彩り

 まあ、どれも似たり寄ったりだ。中では毎日新聞が「未完の万博」「安全対策の徹底を」と、やや警告っぽい見出しを掲げているが、あとは同工異曲。ただし、一面トップは朝日と毎日、東京と沖タイは一面の2番手の左上の扱い。それなりに万博に対する取材姿勢が垣間見える。

なぜ一面で批判しないのか?

 中面では、けっこう万博の中身を抉る記事も散見できる。
 これも見出しのみ引用する。

◎朝日新聞
前半勝負 集客に躍起 インフルエンサー、限定グッズ、割引…
「6月に収支見込み」 赤字なら税金で穴埋めか
人工島 大地震や風水害リスク 災害時は孤立可能性

◎毎日新聞
万博 平和「共創」なるか
パレスチナ「占領で展示品送れず」 ウクライナ「非売」暗に米露へ抵抗
問われる費用対効果 国・地方で3115億円

◎東京新聞
万博きょう開幕
維新 浮沈賭けた夢の島
IR誘致 財界後押し
費用膨張 失敗なら批判必至

 各紙はこんな感じで、それなりに「万博の負の側面」にも触れている(なお、沖縄タイムスは一面以外には万博関連記事は見当たらない。それも見識か)。
 東京オリンピックの時は、大手マスメディアが揃って五輪協賛企業になってしまったため、ほとんど五輪批判記事は出稿できなかったと言われていたが、今回の万博にそんな事情はないのだから、それなりに批判的記事も許容されたのだろう。
 だがそうであるとしたら、一面でもっとそれを前面に押し出すべきだったのではないか。新聞はまず一面から目を通す。だから、新聞社の主張はまずきちんと一面で知らせるべきだとぼくは思っているのだが、各紙とも、どうにも腰がひけている。
 だから読んでいても、気持ち悪さがぬぐえないのだ。
 また、報道に関してはかなり問題も指摘されている。
 例えば、「しんぶん赤旗」には取材許可証が与えられなかったという事実。ほかにも批判的な視点で報道する「Ark Times」やフリーランス記者たちも取材拒否された模様だ。そういう事実に対しては、マスメディア各社も思想信条の垣根を超えて、一致して万博協会に抗議すべきだと思うのだが、そんな動きは毛筋ほどもない。「スクラム取材」はやるくせに、なっさけねえなあ……。
 だから、ぼくは気持ちが悪いのだ。

テレビ報道はどうだったか

 テレビニュースでは、ほとんど批判が見当たらない。
 ニュース原稿を読むアナウンサーまでが、万博について伝える際には急に笑顔になって「13日、大阪万博がいよいよ開催されました。入場を待つ方たちの笑顔が溢れています……」などと、もうほとんど万博協会の広報番組と化している。
 各国のパビリオンの「目玉展示物」を紹介しながらはしゃいでいるだけだ。ほんの少しだけ付け足しのように「まだ完成していないパビリオンもありますが、順次入場できるようになるとのことです」とフォローする。
 もはや、テレビは論外である。それこそ「オールドメディア」と揶揄されても仕方がない。
 ぼくが見た限りでは「報道特集」(TBS系)が、メタンガス問題についてかなり突っ込んだ取材をしていた。また「モーニングショー」(テレビ朝日系)が若干のルポ風のまとめをしていたが、あとは横並びの「翼賛放送」。
 その意味でも、ぼくは「報道特集」の姿勢を支持する。
 テレビよ、目を覚ませ!

ヘンな「呼称」が気持ち悪い

 ところで、小さなことだけれど引っかかるのが、吉本芸人たちによるオンラインカジノの事件報道だ。なんなんだ、テレビニュースでの「〇〇メンバー」という呼び方は!
 一方で、広末涼子“容疑者”と報じることには躊躇していないのに。
 「犯罪の質が違うのだから仕方がない」という言い訳には、ぼくは納得がいかない。気持ちが悪い!
 吉本興業というお笑い界での絶対権力の頂点にいるプロダクションへの忖度気分が芬々と臭う。そう言えば、この「〇〇メンバー」という呼称を初めて耳にしたのは、絶頂期のジャニーズ・タレントの事故・事件報道だったことを思い出した。確か、草彅剛氏や稲垣吾郎氏という人気絶頂のジャニーズ“メンバー”だったはずだ。
 権力は腐りますよ。
 あの時も、忖度報道の気持ち悪さを感じていたのだ。

もはや「気持ち悪い」を通り越して

 トランプは次々と、テキトーな政策(とても政策とは言えないが)をばら撒いて世界を啞然とさせ、それがうまくいかないと見れば朝令暮改、すぐに撤回。
 それも「オレは全部、こうなることは分かっていた。だから、その手当てをしているんだ。薬はある」などと開き直る。
 それをトクトクと記者団に説明するキャロライン・レビット報道官。若さと美貌を鼻にかけ、「大統領はやられたら必ずやり返します。殴られたら殴り返すということを忘れないように」などとうそぶく。
 冗談じゃない。最初に殴りかかったのはアンタの親分だろう。
 この人の話し方、ぼくにはすさまじく気持ちが悪い!
 とにかく、最近の世の中は、気持ちの悪いことばかりである。もっとすっきりした気分になりたいけれど、世はますます「気持ち悪い時代」へ向かっているようだ。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。