むちゃくちゃ面白いドキュメンタリー映画を観た。
それは今月から公開される『能登デモクラシー』。
監督は石川テレビの五百旗頭幸男氏。『はりぼて』では富山市議会の不正を暴いて市議が続々と辞職。『裸のムラ』では村社会の異様さをあぶり出し、石川県知事の馳浩氏が定例会見を拒否するまでになったという、「問題作」ばかり作り続けている「空気読まない」系の人だ。
そんな五百旗頭氏がこのたびカメラを向けたのは、能登半島の中央に位置する石川県穴水町。
人口7000人を下回るこの町は、過疎化が進む「人口減少の最終段階」に入っているという。
町議会議員は10人で、うち9人が男性。平均年齢は72.9歳。町長の定例会見は開かれず記者クラブもなく、町議会の傍聴席は常にガラガラ。町議の中には37年間の議員生活で9回しか一般質問をせず、この20年間一度も一般質問をしていない「長老」もいる。が、本人は悪びれる様子もない。そんな穴水町では、「利権」という言葉をそのまま具現化したような事態が進行していた。
町長が理事長をつとめる社会福祉法人が新しく「多世代交流センター」を建てることになったのだが、その建設費を負担するのはなんと――。そしてその施設が建てられる場所がまさかの――。
と、こんな感じで「いつの時代の話?」と憤慨しつつも、あまりのベタさに笑ってしまうような状況なのだが、そんな穴水町を2024年元日、能登半島地震が襲う。
倒壊した建物、寸断された道路。ライフラインも断ち切られ、陸の孤島と化した集落も生まれる。そんな中、助け合う住民たち。
一方、SNSでは震災を受け、被災した過疎地の集団移転などの話が無関係な人々によって「上から目線」で語られる。そこに生きる人たちの思いを無視し、費用対効果などから導き出した「都会」の勝手な言い分だ。そんなものを前にした途端、これまで古臭く、昭和感たっぷりに見えていたこの過疎地の政治がまた違った顔を見せてくる。
採算など関係なく、国からの補助金が頼みの綱で、民主的な手続きよりも、いかにそれを引っ張ってこられるかがもっとも重要視される世界。机上の「民主主義」や「二元代表制」では語れない、過疎地の政治のリアルな力学。
そんな映画で核となるのは、元中学教師の滝井元之さんだ。
20年から手書きの新聞「紡ぐ」を毎月発行している滝井さんは、町議会や町長を「裸の王様」と表現する。
というと、多くの人はいわゆる「左翼なおじさん」を想像するだろう。が、滝井さんはそんな枠には到底収まらない人だ。
ちなみに東京に住む私が「左翼のおじさん」と聞いて思い浮かべるのは、常に何かに怒っていて、自民党の話になるとヒートアップ、時にゼッケンやハチマキを装着し、合言葉は「団結」――というような人物像をイメージしてしまうのだが(偏っていたらすみません)、滝井さんは物腰柔らか。退職後の人生をボランティアに捧げ、町議会批判をしながらも町の人たちの絶大な信頼を勝ち取っているという、奇跡的な「好感度高めおじさん」なのだ。
カメラはそんな滝井さんの活動を追うのだが、途中から、なんだか泣けて仕方なかった。
どんな小さな町にも「カッコいい大人」が存在していて、そんな人たちが「民主主義」といわれるものを身体を張って守っているのだ、ということが、ひしひしと伝わってきたからだ。その献身ぶりと物腰の柔らかさが「迫力」となるような人を、私は初めて見た気がする。
さて、穴水町がどうなっていくかは観てのお楽しみなのだが、小さな町で起きているあれこれから写し鏡のように浮かび上がるのは、この国にあるひずみだ。都会だろうと田舎だろうと描かれていることは普遍的で、それをこれほど面白いドキュメンタリーにしてしまった手腕に脱帽、ということは強調しておきたい。
そんな『能登デモクラシー』、5月17日より、東京のポレポレ東中野や大阪の第七藝術劇場などで公開される。
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『能登デモクラシー』
5月17日(土)ポレポレ東中野(東京)、5月24日(土)シネモンド(石川)ほか全国順次公開予定 https://notodemocracy.jp/