第362回:野党の道は「ザ・ロング&ワインディング・ロード」(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

国会終わって日が暮れて

 国会が終わった。
 昨年の衆議院選挙で有権者たちが示した「自公与党の過半数割れ」という投票行動の結果は、いったい何だったのだろうかと、ぼくは首をかしげている。

 企業・団体献金禁止
 選択的夫婦別姓
 選挙でのSNS規制強化
 ガソリン税の暫定税率廃止
 消費税減税
 トランプ関税交渉

 これらの大事な案件は、残念ながら国会を通らなかったし、後への進展もなかった。逆に、おかしな法案は、与党の強引なゴリ押しと野党(?)の腰砕けによって、あっさりと成立してしまった。

 日本学術会議改組
 能動的サイバー防御法
 年金制度改革関連法

 よく見てみると、学術研究や思想表現の自由、個人のプライバシーへの政府の介入、そして若年層と高齢者層の分断を図るような傾向が強まっているのが分かる。
 そして極めつけは、小泉偽歌舞伎第2幕「令和米進次郎突然人気握飯」(れいわのこめしんじろうきゅうににんきのにぎりめし)での自民党逆転への進軍ラッパである。ほんの少しだけだが、石破内閣支持率が上昇した。
 それに恐れをなしたのが、野田立憲民主党代表。ぐずぐずと「石破内閣不信任案」を出すの出さないのと逡巡した挙句、やっぱり出すのはやめよう~っと、というしまらない決着、チョ~ンと柝が入り、はい、国会終了。

 なにしろ、石破首相は不信任案が出されたら「即・衆院解散」という切り札をちらつかせていたから、参院選と衆院選の同時選挙になる可能性が高かった。
 そこへ踏み込む勇気は、野田代表も玉木代表も前原共同代表も持っていなかった。彼らも本音では、ホッと胸をなでおろしているのが実情で、有権者には極めて評判は悪いけれど、国会内は「ありがたい。同日選は避けたかった」という雰囲気が充満。
 つまり、不信任案が出されれば、提案者の立憲は当然賛成しなければいけないし、維新や国民民主なども、賛成しなければ「弱腰だ、やはり自民党の別動隊だ」という批判を受けるだろうし、そんな国会最終盤の闘いの構図はどうしても避けたかったのだ。口先ばかりの野党議員たち、なんとも情けない。
 国会が終わって、あっという間の夕暮れなのだった。
 闘わない野党なんて野党じゃねえぞ!

 けれど、物価高に苦しむ庶民にとってみれば、もうアホらしくてやってらんねえ。
 結局、残ったのは参院選前に自民公明がばらまく「2万円」。子どもや低所得層には加算もありというのだが、その2万円の根拠がふざけている。
 自民党の森山裕幹事長は「消費税は守り抜く」と強調した上で、「2万円というのは、1年間の食品の消費税分にあたる」と説明した。ん?
 その森山幹事長の言い分をきちんと計算してみると、なんと1日当たりの食費は700円ほど。1日3食として1食分は200円ちょっと、ということになる。
 おいおい、今どき、200円で飯が食えるのかよ、いったいどこの世界の話だよ? と、批判というより呆れて言葉も出ない。まさに、政治家というのは浮世離れ、自分たちは高級料亭で美味いものを食っているかもしれないが、さすがにこれはないだろう!

与野党「腰砕け合戦」

 それにしても、石破首相の「腰砕け」ぶりはすさまじい。あれほど「私個人としては、選択的夫婦別姓には賛成」と、ずっと言い続けて来たくせに、いざとなると党内極右派の鼻息を伺い、あっさりと掌返しで先延ばし。
 だが野田代表だって負けちゃいない。野党多数の国会なのだから、せめて「別姓案」の採決に持ち込むくらいの度胸を示せばいいのに、これもシ~ン(沈黙)。
 ガソリン暫定税率の廃止も、なぜか言うだけ番長で結局は廃案。
 日本学術会議改組だって、体を張ってでも阻止するぐらいの意気を示すかと思ったが、これも粛々と自民党の言いなり。
 いったい、立憲民主党は今国会で何をしたかったのか? 野党の先頭に立って闘うべき立憲がこの有様なのだから、あとは何をかいわんや。

 石破首相の「腰砕け」ぶりは外交でも。
 イスラエルが突如、イランを爆撃したとき、石破氏は「イスラエルの攻撃は到底許容できるものではなく、極めて遺憾で、今回のイスラエルの行動を強く批判する」と極めて真っ当な意見を述べた。
 ところがカナダで開かれ17日に閉幕したG7では、「イスラエルの自衛権を支持する」というまったく逆の声明に賛同してしまったのである。「腰砕け」はもはや石破氏のお家芸。情けねえの極致である。

「暗い日曜日」

 21日には、ついにトランプがイラン核施設攻撃に踏み切った!
 「2週間の猶予」などと言っていたはずだが、トランプにそんな堪え性があるわけもなかった。えーい、やっちまえーっ!
 それが伝えられたのは、22日(日)。なんとも『暗い日曜日』になってしまった。
 『暗い日曜日』はハンガリーの歌だが、この歌詞に引きずられてたくさんの自殺者が出たという伝説がある。第3次世界大戦を予感させるような暗い時代に影響されて、鬱に苦しむ人たちが出てくるかもしれない。
 さて、イラン爆撃の報に石破首相はどう応えたか? 22日、記者団の取材には、「事態を早期に沈静化することが重要。同時にイランの核兵器開発は阻止されなければならない」 何それ?
 結局、「イランの核開発阻止のためにはアメリカの攻撃もやむを得ない」という英スターマー首相らのコメントとまるで同じ。イスラエルのイラン攻撃の際に語った「イスラエルのイラン攻撃は到底許容できない。強く非難する」との発言は何だったのか。トランプのイラン攻撃だって同じで「到底許容できない」はずだ。
 まあ、へっぴり腰の石破氏にはしょせん無理だったか。外交でしっかりとした姿勢を示し、欧米各国をリードしようなんて意気込みは毛筋ほども感じられない。内政がダメなら外交で…という戦略も、はなっから放棄してしまっている。いやはや、情けなくって涙も出ねえや。
 だが、野党からだって、米のイラン攻撃に対する非難・批判はちっとも聞こえてこない。日本の政治家たちは、そろいもそろって哀れな根性なしばかり。

 そのトランプ大統領。23日には「イスラエルとイランは完全停戦に合意した。平和だ。私の仲介の応じたのだ」と、自身のSNSに投稿。鼻高々である。ぶん殴っておいて、まだやるなら徹底的に殴り倒すぞ! と力を背景の得意の脅迫外交。まさに「キング・オブ・ザ・ワールド」の得意絶頂。
 だが、このままで済むとはとても思えない。ひどいしっぺ返しが待っていると、ぼくは思う。

都議会議員選挙の虚妄

 さて、参議院選の前哨戦と言われた東京都議選が終わった。結果はみなさんご承知のとおりである。
 自民党の退潮は、はっきりと結果に示された。それは、ぼくでさえ事前に予想がついたことだった。だが立憲が勝ったとは、ぼくには思えない。多少の上積みはあったものの、とても勝利と言える結果ではない。自民劣勢という千載一遇のチャンスを、野党第一党の立憲がなぜ活かせなかったのか?
 そこで結局、最初のフレーズに戻ってしまう。
 「闘わない野党なんて野党じゃない」
 あの国会終盤の立憲の闘争放棄の情けなさが、そのまま都議選に反映されたということだろう。
 野党の道は『ザ・ロング&ワインディング・ロード』だ。それを乗り切って、真の政権交代へとつなげることができる日は来るのか?

 その中でぼくの心配は、国民民主党の一定の伸びと、参政党の議席獲得である。この両党の何が気がかりか? それは、あからさまな外国人差別と、ジェンダーへの無理解・差別、そして若年層と高齢者層の分断化などである。
 ことに、参政党は、帰化人(?)排斥、在日外国人への極めて激しい憎悪感情を煽り続ける。当初はオーガニック政党などといわれて、食の安全などを語っていたはずだが、いつの間にやら外国人排斥がメインの極右に変貌していた。
 考えてみれば、日本はアジアの吹き溜まり。様々な人たち(人種?)が、海流に乗って流れ着き、やがて定住してきた混合民族に過ぎない。そんな中で、「帰化人」って、いったい何? いまさら外国人を差別して何が変わるというのか。投げた罵声はブーメラン、いずれ自分の頭を直撃する。
 少子化が凄い勢いで進行している日本で、外国人労働者の手を借りずに、どうやって産業構造を維持できるのか。そんな構想をまるで語らず、ひたすら「外国人の犯罪」や「外国人優遇」「日本人差別」などと喚きたてる。
 そのくせ、インバウンドによる経済効果はいかほどか、そこから日本経済がどれほどの恩恵を受けているかを考えようともしない。トランプの「アメリカ・ファースト」を真似た「ニッポン・ファースト」の猿芝居。
 そう言えば、都議選では「都民ファースト」が、予想以上の大勝をした。多分、国民民主や参政党とともに、都民ファも、外国人排斥の波に乗ったのだろう。「都民ファースト」という党名が人を惹きつけたのだと思う。
 参政党はすでに「日本人ファースト」と言い出している。当然、それは「外国人排斥」につながる。

 注意しなければならない。
 そんなに外国人を排斥したいなら「日本鎖国党」とでも名乗るがいい。
 小さな島国日本。
 また長崎辺りに「出島」でも造って、こぢんまりの引き籠り国家が似合いだ。
 多分、その頃には、もうぼくはいないけれど。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。