衝撃の参院選から1週間以上が経った。
選挙以来、メディアは参政党の話題で持ちきりだ。
先週は参政党による神奈川新聞記者の取材拒否が大きな注目を浴びたが、今後、支持率はどうなっていくのだろう。
個別のスキャンダルや「危ない」という報道は続きそうだが、私はあまり影響はないように思う。
なぜなら、それよりも人々の「古い政治への忌避感」の方が大きい気がするからだ。
たとえば自民党の裏金に象徴されるような問題。世襲議員たちによる権力闘争にまみれた「永田町」に独占された政治には、1ミリたりとも「付け入る隙」などない。
が、参政党にはあるように見える。そういう演出に成功している。
私は毎日新聞のインタビューで、参政党のやり方を漫画の『ワンピース』にたとえたが、この国の多くの人は永田町の利権政治より『少年ジャンプ』の方が馴染み深く、「好き」なものだと思う。
「利権渦巻く金権政治」というドス黒い物語(しかも専門用語ばかりで退屈)と、「みんなで成長しよう!」と呼びかけてワクワクさせてくれるストーリー。どちらが人気が高いかと言えば、間違いなく後者だろう。そして実際に過去、神谷氏は「ワンピースのような政治をしよう!」と呼びかけている。
もうひとつ、ずっと思っていたのは参政党って「安倍昭恵さんぽい」ということだ。
私は2017年、この連載にて安倍昭恵さんについて「ゆるふわ系愛国」というキーワードで原稿を書いている。
詳しくは読んで欲しいのだが(いろいろと懐かしい話題にも満ちている)、あなたが安倍昭恵さんという人物から思い浮かべるのはどのような言葉だろうか?
ふと浮かぶものを列挙してみると、スピリチュアル、エコ、オーガニック、日本の四季、神社仏閣、神道、反原発、「水の波動」などのエセ科学、といったもの。
ちなみにこの原稿で引用した、「安倍昭恵 『家庭内野党』の真実」(石井妙子、「文藝春秋」2017年3月号)には、以下のような一節がある。
「反原発、反防潮堤、大麻、神社、農業、天皇、神、宇宙、夢、平和…といった彼女のキーワードは、彼女のなかでは矛盾なく、すべてつながっている。そして、そのベースにあるものは日本を神聖化する、危うさを含んだ、少し幼い思考ではないだろうか」
同感だが、ここに列挙されるキーワードは、参政党にも結構あてはまるもののように私は思う。
そして特筆すべきは、これらのキーワードの一部って、一般の「女性誌」には馴染み深いものということだ。そう、まるで『少年ジャンプ』のように。
たとえばスピリチュアル的なものは当然として、女性誌では「伊勢神宮」が取り上げられる時は「神社本庁の本宗」ではなく、「女子旅で行くパワースポット」「願いを叶える開運スポット」としてである。
しかも伊勢神宮の神様は女性なので、彼氏と行くと神様が嫉妬して二人の仲がうまくいかなくなるかも……なんてアドバイスまであり、いやそんなに小せぇ神様ってなに? っていうか世が世なら不敬罪? とツッコミどころ満載なのだが、「お伊勢様」は「私の素敵な彼氏」を見て私たちに嫉妬するかも、くらいに馴染み深い存在なわけである。
ちなみに私の周りにもスピリチュアル系女子はいるが、彼女たちは元右翼の私より、ずーっと天皇や皇室や日本全国の神社やその由来に詳しい。
他にも女性誌には「縁結び神社」特集などが当たり前にあるわけで、「神聖なもの」を取り上げる時には外せない「神道マーケット」みたいなものが、もうずっと前から当たり前に存在する。
それだけではない。「水に『ありがとう』と言ったら綺麗な結晶ができる」系の話はいくらエセ科学と言われようとも、手を変え品を変え登場している。
これらが受け入れられる背景には「綺麗な言葉を使いたい」「神聖な気持ちになりたい」「ご先祖様に感謝したい(そのことによって現世利益を得たい)」というような思いがあり、それは非常に「いい」ものである(だからこそ、街宣現場などで参政党を批判すると支持者から「性格が悪い」などと言われる)。
そして極め付けのオーガニック。これに抗える女子はなかなかいないのではないか。
参政党の女性支持についてはいろいろ言われており、それは「別に結婚しないでバリバリ働くこととか望んでないのに働かざるを得ず、しかしこの30年ずーっと非正規で年収はずっと200万円以下」的なロスジェネ女性の現状という側面から読み解くこともできるわけだが(もちろん既婚・子持ち女性の支持も少なくないことはわかった上で)、世代や属性問わず、「女子に馴染み深いものがデコレーションされている」ことも大きいのではないか。
女性誌でよく見るキーワードが政治の場に現れたら、それは当然「安心感」につながる。やっと自分たちに向けた政治が現れたとも思うだろう。
と、ここまで論じてきたことから考えると、参政党について「極右」とか「排外主義」と批判しても通じない理由が見えてこないだろうか。
好きか嫌いか、馴染み深いか馴染み深くないか。
そう思うと、そりゃあ「給付付き税額控除」より「オーガニック」の方がとっつきやすい。私でも「給付付き税額控除」という漢字だらけの文字列を前にすると「無知は去れ」と言われているように感じてしまう。
参政党に対して、「中身はからっぽ」という意見もあれば「中身は本当に危険」という声もある。
が、彼らは周りのデコレーションという演出に成功している。
そして特筆したいのは、女性誌も漫画も、政治ガチ勢の男性たちがうっすらとバカにしているジャンルであることだ。しかし、そこにとてつもない鉱脈があることが発見された。参政党は、「手付かず」だった場所を開拓したのだ。
言葉を扱う仕事をする一人として、「抗う言葉」をどう発するか、深く深く、考えさせられている。