第374回:参加できない選挙だけれど……(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

人間を破壊するトランプと米国民

 ようやく少し涼しくなった。しかし、今年の夏はすさまじい暑さだったなあ……と、去年もその前の年も同じことを言っていたような気がする。つまり異常気象が毎年のことになってしまったのだ。とすれば、今年起きたことは異常気象ではなく現代の普通気象(?)と思うしかないのかもしれない。

 トランプは、国連総会の演説で気候問題に触れ「気候変動問題は大嘘だ。とんでもないグリーン詐欺だ」と、例によって何の根拠も示さずに吠えてみせた。
 東京新聞(9月29日付)もこう書いていた。

トランプ氏「気候変動は詐欺」
COP30前に議論停滞も

 トランプ米大統領が国連総会で、気候変動問題を「史上最大の詐欺だ」と主張した。地球温暖化は現実には起きていないとし、国連機関などによる「悪意を持った予測」に基づくとも述べた。11月にブラジルで開かれる国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)を前に、世界的な議論や対策が停滞しかねない不穏な空気が醸成されつつある。(略)
 23日の米ニューヨーク国連本部での一般討論演説でも「偽りの再生可能エネルギーは廃止する。機能せず高過ぎる。国を偉大にするために必要な発電所を稼働させるほどの力はない」と持論を展開。風力発電の風車は多くが中国製だとし、膨大な補助金なしでは稼働できないと皮肉った。温室ガスを大量に放出する石炭を「クリーンで美しい」とまで言い放った。(略)

 この男の大言壮語、嘘言連発、無責任発言には慣れてしまったとはいえ、さすがに腹が立つ。おまけに「石炭は美しい」と、化石燃料使用の大幅増加を推奨したのだ。彼にとって、目先のカネになることだけが正しく「人類の未来など知ったことか」である。ほんとうに、凄まじい大統領をアメリカ国民は選んだものだ。
 こんな史上稀に見るデタラメ権力者に、もう3年以上も我慢しなければならないと思うと、別の星へ移住したくなる。
 もし地球が壊れてしまったら、その責任の大半はアメリカ国民にある!

 でもよく考えてみたら、別に地球は壊れやしない。戦争があり大地震が起き、豪雨で人や家が流され、旱魃で作物栽培が絶望的になったりしても、別に地球は壊れない。壊れるのは、地球で暮らしている人間や動物たちだ。そんなものがいなくなったって、地球は静かに存在し続けるだろう。
 トランプとアメリカ国民は、世界中の人間と動物たちの破壊者なのである。気の毒なのは地球上の生物たちだ。悪いのは人間なのだが、そのとばっちりを受けてみんな絶滅してしまうのだ。
 だが生物は再生するだろう。
 人間たちがいなくなったら、逆に地球はホッとして新しい生物を創り出すに違いない。くだらん戦争や環境破壊の異様な乱開発などのない世界で、争いを好まぬ生物たちの新しい地球が再生するかもしれない。
 むしろ、それを地球は望んでいる……。そんな「美しい星」のイメージのSF世界。

待ったなしの地球温暖化

 ぼくは毎朝、新聞3紙を見比べながら、大事だと思う記事を切り抜いてファイルしている(もう1紙はデジタル版購読なので、後でパソコン検索する)。
 日曜日と月曜日の朝刊は、ニュースとしてはあまり大した記事が載っていない。土日は政治や経済も社会もほぼ休みなので、大ニュースは事件や事故や災害以外は発生しないからだ。そのかわり、特集ページに面白い記事があることも多い。
 9月28日(日)の朝日新聞は、1面で「砂漠拡がるルーマニア」という記事を載せていた。そして2面の「時時刻刻」という特集で、欧州各国の異常気象や気候変動に関する記事を展開していた。
 タイトルだけ拾っておこう。

欧州むしばむ気候危機
砂が覆う故郷 進む人口流出 ルーマニア
風車の島「脱炭素」のひずみ イタリア
雨1年分 濁流に消えた日常 スペイン

 まあ、これだけでだいたいの想像はつくだろう。
 ルーマニアでは砂漠化が進み、ほとんど農業は不可能になった。
 イタリアのサルデーニャ島では、林立する巨大風車は生態系を破壊すると批判を浴び、過剰な設備の規制が始まった
 地中海に面したスペイン東部のバレンシア自治州の町ピカーニャは昨年10月に大洪水に襲われた。これも地球温暖化の影響と指摘されている。

 まあざっとこんな記事なのだが、欧州だけに限らず、最近では台風18号によってフィリピン、台湾、中国などに凄まじい被害が出ている。それは日本のテレビでも、連日報道されていた。
 日本でだって局所的豪雨が頻発し、東京でも地下に水が流れ込み、地下の店舗や駐車場などで大きな被害が出た。静岡県牧之原市では、これまでの日本ではほとんど観測されていなかった大規模な竜巻が派生した。それによって家や車が吹き飛ばされる光景を、テレビは繰り返し放送した。地球規模で大災害は頻発しているのだ。
 ミャンマーやアフガニスタンといった世界の目があまり届かない国では、大地震などの災害後の復興がまったく手つかずのままだ。数カ月たった現在でも、被災者たちは仮テントや掘立小屋で雨露をしのいでいる。ミャンマーの軍事政権やアフガニスタンのタリバン政権がきちんと機能していないからだ。
 その上に、ガザやウクライナのように、狂犬国(強権国と打とうとしたら、こんな変換になった。このほうがむしろ正しいのかもしれない)の侵略に呻吟している民衆も多い。ガザでは多くの餓死者さえ出ている。
 戦争なんかしている場合じゃない。本気でそう思う。
 トランプをなんとかしなければ、世界中の人たちは巻き添えを食ってしまう。これはもう、焦眉の急である。

全メディア協賛(?)の自民党総裁選

 いまもっとも大事な政府の施策は、このような大災害にどう対処するかということだろう。いつどこで起きるか分からない大災害。
 だがぼくらが毎日のように目にするのは、トランプによる世界の大混乱と自民党総裁選というコップ(どころかお猪口)の中の嵐。総裁選で話されるのは、なぜか「外国人排斥」議論。
 外国人労働者問題を論じるなら、その人たちの力を借りてでも災害に強い体制を構築すべき、という議論にならなければおかしい。
 ところが「奈良の鹿をいじめるのが中国人観光客」などという根拠薄弱の意見をあたかも真実のように言い立てる高市氏のような候補者まで出る始末。そこに「進次郎ステマSNS問題」が重なって、総裁選の薄汚い内情が暴露された。
 またトランプ(狼)の威を借る誰か(狐)のように「風車や太陽光パネルはほとんど中国製。中国に侵略されている」などとして再生エネ批判をする候補者もいる。
 自民党総裁選の投票権を持つ自民党員は約91万人、日本の全有権者数1億400万人の1%以下なのだ。つまり、次期首相の座にもっとも近い人を選ぶ選挙を、99%以上の有権者は指をくわえて見ているしかない。むろん、ぼくも党員じゃないから投票できない。
 けれどマスメディアは朝から晩まで「自民党総裁選」で持ち切り。これではまさに、無料の自民党の大宣伝キャンペーンである。
 誰が当選するのかは分からないけれど、新総裁の下で、自民党は息を吹き返すかもしれない。だって、これだけ全マスメディアを挙げての“自民党わっしょいキャンペーン”だもの、有権者たちの頭の中に「自民党は政権政党」ということがしっかりと植え付けられたとしても不思議ではない。
 そう考えると、次期衆院選にもあまり期待はできないかもしれない。

 ぼくらは当然、アメリカの大統領選挙にも加われない。
 アメリカ人(それも有権者登録をした人)だけが、世界を揺さぶる大統領を選べるのだが、その結果が現在世界のカオス状態なのである。

 参加できない選挙の結果が、世界の平和やぼくらの暮らしを破壊していく。
 まったく冗談じゃねえや、と唇をかみしめているぼくである。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。