今月に入ってから、次々と「大番狂わせ」が起きている。
まずは10月4日開票の自民党総裁選。当初の予測では、小泉進次郎氏の勝利という声が根強かった。が、蓋を開けてみると高市早苗氏の勝利。
そんな高市氏が初の女性首相になるかということでメディアが盛り上がる中、10月10日、なんと公明党が連立離脱を突きつけた。
青天の霹靂、という言葉はこのような時に使うのだろう。まさかこんな日が来るなんて――。自民党議員こそが、そう思っているのではないだろうか。
公明党は26年間、自民党と連立を組んでいたわけで、それは「失われた30年」の大半を政権与党で過ごしたということである。そのようなことから鑑みると、当然、この国の衰退や格差・貧困の進行に、非常に大きな責任がある。
とくに公明党にはもともと「福祉と平和」というイメージがあったわけだが、連立の26年間は、そんなものをかなぐり捨てるような年月ではなかったか。 その極め付けは、なんといっても15年の安保法制。この時には「福祉」のみならず「平和」の旗も降ろすのか……と思ったことを覚えている。
その一方で、時々「お?」と思うようなこともしてきたのが公明党だ。
例えば、れいわ新選組の木村英子さんが参議院議員になった2019年。
彼女は就任そうそう、国土交通員会の質問で新幹線の車椅子スペースの数や広さが不十分であるという問題提起をしたのだが、この時の国交大臣が公明党の赤羽一嘉大臣。
「さて、大臣は木村さんの悲痛な声を受け止めてくれるのか?」と半信半疑で見ていたのだが、ここからの赤羽大臣の対応は早かった。
木村さんの提起を受け止め、12月にはJR5社の社長や鉄道局、また障害者団体などを集めて「新幹線のバリアフリー対策検討会」を設置。
19年と言えば、オリンピック・パラリンピック開催の前年(実際は一年遅れとなったわけだが)。それもあって力も入ったのだろうが、赤羽大臣はこの対策を「待ったなしの課題」「オリパラの特定期間だけでなく、上乗せしてレガシーとして残したい」「国民が驚くくらいの改善が必要、国土交通省を上げて協力することをお約束したい」と発言。
そうして口だけでなく、実際に「新幹線のバリアフリー化」は進んでいった。
21年4月には東海道新幹線N700Sの車両にて1〜2席だった車椅子席が6席に増設。
21年7月には北陸新幹線E7系で6席に増設。
21年11月には東北新幹線E5系で6席に増設。
22年9月には西九州新幹線かもめで6席に増設。
24年3月には山形新幹線E8系で6席に増設。
木村議員、舩後議員の登場によって国会のバリアフリー化がみるみるうちに進んだわけだが、たった一人の議員の質問によって、「車椅ユーザーの移動」がこれほど大きく改善されることに驚きを禁じ得なかった。
このことから私が知ったのは、大臣が本気になれば、事態はこんなにも鮮やかに動くということである。
公明党関係で覚えていることは他にもある。
例えば生活保護関連。
非常に細かい話になってしまうのだが、生活保護を利用すると、収入がある人は「収入認定」というものがされる。働いた全額が手元に戻るわけでなく、生活保護費の額との兼ね合いで減額されてしまうのだ。
が、例えば高校生がバイトして稼いだお金や貰った奨学金を修学旅行費やクラブ活動費に使う場合は収入認定されない(=それに使うなら減額されない)。
それが15年10月からは、バイト代・奨学金の「収入認定されない」範囲が広がり、塾代、模擬試験代、教材費などが加わるという制度変更があった。 また、16年からはそこに受験料と入学金も加わった。
それだけではない。もともと生活保護世帯の子どもが大学に行く際には「世帯分離」をしなくてはならず、その場合、家賃も減額されることになっていたものの、18年からは家賃分については減らさなくていいことになったのだ。
15年から18年頃にかけて、このような「生活保護世帯の子どもの未来を切り開くような制度変更」が幾度かあったのだが、それらは委員会で質問してくれる議員たちの力あってこそ、である。そんな議員が誰かと言えば、れいわの山本太郎議員や共産党の田村智子議員なのだが、特筆したいのは、公明党の議員もこの件については積極的だったということ。
制度が変わった背景には、与党である公明党議員が動いたことがあったのでは――。当時、各方面からそんな声を聞き、「福祉の党」を掲げていたことを忘れていたわけではないのだ、と思ったりもした。
公明党について思うところはそれだけではない。
この夏の参院選中、多くの政党が「日本人ファースト」に負けじと「違法外国人ゼロ」や「外国人への過度な優遇見直し」などを掲げて実態のあいまいな「外国人問題」を煽りに煽った。が、公明党の斉藤鉄夫氏は、それをいさめる発言をしていた。
それは本来あるべき与党の姿であり、「なぜ、自民党にこれをする議員がいないのか」と思いつつも、ほっとしたりした。
というか、それが本来の政治家の姿ではないのか。しかし、あまりにも「マトモ」な議員が少なくなった中、「普通」のことをしているだけの公明党が輝き始める、ということが私の中で起きていたのである。
そんなタイミングでの連立離脱。
斉藤氏は高市氏との会談で、派閥の裏金問題のけじめと企業・団体献金の規制強化、靖国参拝を含む歴史認識などと並んで「過度な外国人排斥」について懸念を述べたという。
おそらく高市氏は「政治とカネ」についてなんてみんなもう忘れてるし、歴史認識や外国人排斥については「好きにさせろ」、もしくは「世論は自分の味方」なのでチョロいと思っていたのではないか。
しかし、現実は違った。
これからどうなるか見守るしかないが、そんな連立離脱が報じられた10日、入管庁がある数字を発表した。
それはこの連載の第731回(「『不法滞在者ゼロプラン』の裏で存在自体が『違法』とされてしまう子どもたちに今、起きていること」)でも取り上げた「不法滞在者ゼロプラン」(今年5月23日発表)についてのデータ。
「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている」として打ち出されたものなのだが、一言で言えば入管が「強制送還キャンペーン」を始めたということである。
ゼロプランに基づいて今年6〜8月に送還されたのは119人。前年同期は58人なので倍以上の人数だ。
「不法滞在者なんて強制送還されて当たり前じゃん」と思う人もいるだろう。
が、その中には難民認定率が極端に低い日本で難民と認定されなかった人や、さまざまな理由で在留資格を失った人、また送還されると命に危険が及ぶ人や難民申請中の人もいる。実際、送還されたうちの3割にあたる36人が難民申請中だった。
国籍別で見ると、もっとも多いのはトルコで34人。おそらく大半はクルド人と思われる。ついでスリランカ、フィリピン、中国と続くのだが、驚いたのは今年1〜8月に強制送還された中には18歳以下の子どもが7人も含まれること。
その子たちは、日本生まれ、もしくは幼少期に来日し、日本育ちで日本の教育を受けて母語は日本語という子たちである。突然「送還」されても、「母国」とされる国には行ったこともなければ知り合いも一人もおらず、言葉もルールもわからない状態だろう。
「不法滞在者」と言われる中には、このような、「たまたま日本で生まれた」こと、そして「今、生きて日本にいること」そのものが「違法」とされてしまう子どもたちも含まれるのである。これは制度のバグというか、法律や制度を変えるべき問題ではないのだろうか(送還に怯える子どもたちの声については前述した第731回で読んでほしい)。
そうして書いておきたいのは、このような「怒涛の強制送還」は、国会が開催されていない期間に進んでいることである。その上、今の入管は「強気」だろう。何しろ排外的な世論がバックについているのだ。
さて、公明党連立離脱の一方で、高市新総裁のもとでの執行部の面々が決まっている。が、麻生氏が蘇ったりと、なんだか時代が昭和に逆戻りしているかのようだ。
思えばトランプ氏が再び大統領となったこの10ヶ月で、アメリカはものすごい勢いで時間を巻き戻している。民主主義や人権といった積み上げてきたものを蹴散らし、多様性は否定され、移民の強制送還が続き、連邦政府職員が職を失うという異常事態だ。
日本も同じ轍を踏むのだろうか。今、大きな不安の中にいる。