第737回:高市内閣に思うこと。の巻(雨宮処凛)

Photo : Masaki Kamei

 10月21日、日本で初めて女性の総理大臣が誕生した。
 
 女性閣僚は2人。財務相の片山さつき氏と、経済安保相に起用され、外国人政策担当などを兼務するという小野田紀美氏である。

 片山さつき氏といえば、2012年の生活保護バッシングを主導した人である。

 13年、第二次安倍政権の下で生活保護基準が引き下げられたことは、この連載でも触れてきた通りだ。

 きっかけは、12年に起きた、芸能人の母親が生活保護を利用していた問題。不正受給でもなんでもないのだが、片山さつき氏ら自民党議員が国会で取り上げるなどしてオオゴトに。それが生活保護バッシングにつながり、野党だった自民党は「生活保護プロジェクトチーム」を立ち上げ。座長は世耕弘成氏、メンバーには片山さつき氏や小泉進次郎氏がいたのだが、このチームが「生活保護1割削減」を掲げる。

 12年12月の選挙で自民党は政権に返り咲いたのだが、そんな第二次安倍政権が真っ先に手をつけたのが、公約でも掲げていた「生活保護1割削減」だったのだ。

 そうして段階的に生活保護基準が引き下げられたのだが、これに対して全国で1000人以上の生活保護利用者が原告となり、「引き下げは違法」と国を提訴。

 10年以上にわたって続く裁判で、今年6月、最高裁は引き下げを「違法」と判断したのである。

 が、引き下げを押し進めた片山さつき氏をはじめとする議員らはこの判決にダンマリを決め込み、コメントすらない状態。本来であれば原告らに謝罪すべきところ、無視を決め込んでいるのである。

 それだけではない。判決から3ヶ月以上経つというのに、厚労省からも原告らには謝罪すらない状態。

 これがどれだけ異常かというと、障害者らに強制不妊手術がなされたことを訴えた優生保護法裁判では、原告勝訴という判決の翌日には大臣が謝罪。ついで岸田総理(当時)、石破総理(当時)も謝罪している。それなのに、いまだ謝罪もなければ損害についての補填の話もない状態。

 一方、1000人を超える原告からは、10年以上にわたる裁判で、200人以上の死者が出ている。

 判決後にも、神奈川の原告が亡くなっている。その人はこの夏の猛暑の中、エアコンなしで生活していたという。生活保護の引き下げは、このような形で人の命を奪い、脅かしているのである。

 片山さつき氏は、そんな生活保護に対して「生活保護を恥と思わないことが問題」などと発言してきた人物である。

 このたび総理大臣となった高市氏も12年、生活保護問題に絡めて、「さもしい顔してもらえるものはもらおうとか弱者のフリして少しでも得をしよう、そんな国民ばかりになったら日本国は滅びてしまいます」と述べている。

 そんな2人がタッグを組むのである。そう思うだけで、目の前が暗くなる。

 もう一人の女性閣僚は小野田紀美氏。経済安保相に起用され、外国人政策担当などを兼務するという。

 が、小野田氏と聞いて頭に浮かぶのは、「違法外国人ゼロ」というスローガンである。もちろん、違法な行為をする人物は日本人であろうと外国人であろうと取り締まりの対象になるのは当然だ。

 しかし、「日本人ファースト」という言葉が登場した今年6月頃から突如として排外的な空気が広がったこの国で、ことさらに「違法外国人」と強調することに、私は大きな抵抗を感じる。

 この数ヶ月、難民も留学生も観光客も投機も働き手の問題もいっしょくたに語られ、「外国人犯罪への恐怖」が煽られるということが続いているからだ。

 その過程で、8月末にはJICAの「アフリカ・ホームタウン」騒動が勃発。

 ナイジェリアなどが「日本が特別ビザを用意する」という誤情報を発信したことにより「アフリカから移民が押し寄せる」という声がSNSに溢れ、各自治体には数千件の抗議が殺到。JICA前では「移民反対」を掲げるデモが開催され、9月25日、JICAは同事業を撤回。

 また、6月末には博士課程の学生への生活支援に留学生も含まれることが問題視され、日本人限定となる。

 一方、8月末から「移民反対」を掲げたデモが開催されるようになり、9月はじめには「東京都エジプト合意」が話題に。都庁前で「東京都エジプト合意撤回デモ」が開催されるように。9月18日には宮城県の村井知事がイスラム圏の人々のための土葬墓地の整備を撤回。その数日後にはSNSで「イスラム教徒に配慮した給食」や「福岡で移民マンション建設」が話題に。どちらも誤情報だったが多くの抗議が寄せられた。

 9月27日には、札幌でインド系インターナショナルスクール建設についての住民説明会が反対の声で「大荒れ」となり、警察が出動する事態に。

 これらの背景には「外国人が優遇されている」という言説があるわけだが、実態は優遇とほど遠い。

 SNSには「外国人は生活保護を受けやすい」というものがあるが、そもそも外国人は準用という扱いで、永住・定住などの資格がある人のみが対象。生活保護利用者の97%が日本人で、外国人は3%ほどだ。

 ちなみに海外に目を転じると、フランスでは、生活保護を利用者における外国人の割合は12.4%。ドイツでは37.8%。スウェーデンは59.4%。もちろん、総人口に占める外国人の割合が違うわけだが、それでも最後のセーフティネットが外国人をも救っていることがわかる。
 
 健康保険に「ただ乗り」しているという言説もあるが、在留期間が3ヶ月以上の外国人には加入義務が課せられ、被保険者のうち外国人は4%、医療費は2%以下。外国人は完全に制度を「支える側」だ。

 投機などを取り上げて「日本が乗っ取られる」という声もあるが、規制をしてこなかったのは国であり、必要な規制は速やかに進めるべきである。

 また、SNS上では「外国人犯罪への恐怖」が煽られているが、外国人の検挙率については05年をピークに減少中。

 ということで、問題なのは外国人ではなく、実態のない「外国人問題」で高まる排外主義が当事者を追い詰めていることではないのか。

 さて、そんな自民党は維新と連立を組んだわけだが、連立政権の合意書には、国旗損壊罪やスパイ防止法、緊急事態条項についてなどが盛り込まれている。また、維新はOTC類似薬の保険給付からの除外について具体的な薬剤名も挙げているが、アトピー持ち、喘息持ちであるアレルギー体質の私にとっては死活問題だということも付け加えておきたい。

 さらに同時進行していることとして見過ごせないのは、自民党はNHK党の議員と参院で会派を組んだということだ。

 NHK党の代表は立花孝志氏。立花氏についてはもう書き切れないほどさまざまな問題が指摘されるわけだが、1月に自死した元兵庫県議の妻に刑事告訴されている人物である。
 
 そのような党の議員と会派を組むことがどんなメッセージとして伝わるか、考えていないのだろうか?

 ということで、ちょっと絶望している。現実逃避したい気分だ。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。