第10回: 脅しに屈しない。シカゴは黙らない(小嶋亜維子)

「偏向メディア」への補助金停止

 私が運転中にいつも聞くのは全米公共ラジオ(NPR, National Public Radio)に加盟する地方局、WBEZ Chicagoだ。公共という点では日本のNHKラジオに近いが、準公的機関であるNHKとは違い、独立した非営利法人によって運営されている。義務的な受信料制度はなく、財源は寄付や企業スポンサー、助成金、そして政府からの補助金によっている。

 WBEZの場合、財源の約60%が個人からの自発的な寄付によって賄われているため※1、自分で決めた額を毎月寄付し続ける「メンバー」リスナーを募るキャンペーンが季節ごとに行われる。キャンペーン中は番組の間ごとにパーソナリティたちが入れ替わり立ち替わり呼びかけを行い、すでにメンバーとして少額だが寄付を続けている私には、少し鬱陶しく感じることもある。

 10月になり、またメンバーキャンペーンの時期がやって来た。車を走らせながら特に気に止めず聞き流そうとしていたら、今回はいつもとは呼びかけの雰囲気が違っていた。

 「本日10月1日をもって、連邦政府からWBEZへの補助金約300万ドルの支給が停止しました。WBEZが連邦資金なしで運営されるのは、50年以上ぶりのことです」

 パーソナリティの声色は重かった。トランプ大統領が「偏向メディアへの税金補助の打ち切り」※2という大統領令を出したのが5月。さらに7月には、政府効率化局(Department of Government Efficiency, DOGE)により削減対象とされた、対外援助、公共放送などの予算が取り消された※3。政府補助金はWBEZの財源の6%とはいえ、300万ドル(約4億5千万円)という額の大きさに驚く。もしかしたら番組がいくつか終わってしまうのでは……と思った。

 しかしパーソナリティは続けた。

 「わたしたちは綿密な取材と調査に基づいた報道を続けます。多様な文化や芸術の素晴らしさを伝える番組を作り続けます。そのためには資金が必要です。300万ドルの不足をみなさんが補ってください。わたしたちはサブスクリプション方式をとりません。なぜなら良質な情報はすべての人に届くべきだからです。そのかわりに一人ひとりができる範囲で私たちを支えてください。5ドルでも10ドルでもいいのです。あなたにできる範囲で毎月寄付をしてください」

 10月19日現在、寄付はすでに270万ドルに達したとのことだ。

※1 https://www.wbez.org/about

※2 “Ending Taxpayer Subsidization of Biased Media.” Executive Orders, 1 May 2025.

※3 Fox, Lauren, et al. “House Passes Trump’s $9 Billion Doge Cuts Package in Another Legislative Win for President | CNN Politics.” CNN, Cable News Network, 18 July 2025,.

人気番組への脅しに対する人々の怒り

 この地方ラジオ局だけではない。7月、三大テレビネットワークの一つである、CBSの看板番組「ザ・レイトショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア」が1年後に打ち切られることが決定した。高視聴率番組であるにもかかわらずこのような決定が下された背景には、CBSの報道番組におけるインタビューの編集をめぐってトランプ大統領から起こされている訴訟や、CBSの親会社であるパラマウントが予定していた企業合併に際して連邦政府の承認を得る必要があったことが指摘されている。つまり、トランプへの痛烈な批判と風刺を続けてきた人気司会者コルベアの番組を終了させることが、訴訟和解と合併承認の「取引条件」とされた可能性が高い※4

 発表を受けて、すぐに番組存続を訴えトランプを非難するデモが収録スタジオの前で起きた。さらに、各テレビ局の名物番組―いわゆる「競合番組」を含む―の司会者たちが「レイトショー」に一斉に登場し、コルベアへの支持と連帯を表明した※5。その後もコルベアは全く怯むことなく、むしろ以前よりも鋭いトランプ批判の風刺ジョークを毎晩披露している。現在打ち切りの決定は覆ってはいないが、番組は9月にエミー賞を受賞、コルベアは鳴り止まないスタンディングオベーションを受けた。

“God bless America, stay strong, be brave, and if the elevator tries to bring you down, go crazy and punch a higher floor.(アメリカに神のご加護を。強くあり続けよう。勇気を持とう。もしあなたを乗せたエレベーターが下がっていくなら、狂ったように上の階のボタンを押し続けるんだ)”

──スティーブン・コルベア、第77回エミー賞、受賞スピーチ※6

 9月17日には、同じく三大ネットワークの一つであるABCの看板番組「ジミー・キンメル・ライブ」が無期限の放送停止となった。司会者キンメルによる、チャーリー・カーク※7暗殺事件についての風刺的コメントを、連邦通信委員会(FCC, Federal Communication Commission)のブレンダン・カー委員長が問題視し、ABCに対してなんらかの措置をとると示唆した数時間後のことである※8

 そもそもキンメルのコメントはカークの死を嘲笑するようなものではなかった。犯行の動機はまだ明らかではないが、犯人はトランプ支持者の家庭出身でありながら最近左派的な思想に傾いていたという話がある。それを吹聴する形で、トランプ始めMAGA勢力が「左派は暴力的だ」という言説を広めていることをキンメルは揶揄したのだった※9。それにもかかわらず、キンメルもコルベアと同様、結局は権力に「たてついた」ために「干される」形になったのである。
 
 しかし、この事件に対する人々の怒りは大変なものだった。ABC前に加え、ABCの親会社であるディズニー本社前でもデモが起こった。抗議はさらにディズニーが所有するストリーミングサービス、Disney+、Hulu、ESPNのボイコットにまで発展し、17日から23日までの1週間に170万人がサービスを解約した。これは通常の解約率と比べて436%増にあたる※10。さらにカー委員長の発言は、憲法修正第1条によって保障された言論の自由の重大な侵犯と受け止められ、共和党内からもテッド・クルーズ上院議員※11やランド・ポール上院議員※12などが公に批判した。ディズニーの被った経済的・社会的ダメージは大きく、22日、ディズニーは、「ジミー・キンメル・ライブ」の無期限放送停止を取り消し、翌23日、たった1週間で放送は再開されたのである※13

 つまり、私が今、トランプ政権下のアメリカで目にしているのは、次から次へと降りかかってくる権力からの脅しや圧力に抗い、それを跳ね返すことさえある人々のパワーだ。

※4 “‘Big Fat Bribe’: Stephen Colbert’s Show Canceled after He Slams Trump & Paramount/Skydance Merger.” Democracy Now!, 23 July 2025,

※5 Thomas, Carly. “Stephen Colbert’s Late Night Allies and Famous Friends Make Cameos on ‘The Late Show’ after Cancellation.” The Hollywood Reporter, The Hollywood Reporter, 21 July 2025,.

※6 Cartwright, Megan. “Stephen Colbert Wins Emmy after Show Cancellation-Acceptance Speech in Full.” Newsweek, 15 Sept. 2025,.

※7 “Make America Great Again”のスローガンのもと、トランプとそのビジョンを支持する保守運動、 “MAGA”運動の中心的人物であった活動家

※8 Steinberg, Brian. “ABC Pulls ‘Jimmy Kimmel Live!’ Indefinitely After Host’s Charlie Kirk Comments.” The New York Times, 17 Sept. 2025,.

※9 “Trump Says ‘We Have to Beat the Hell Out of Radical Left Lunatics’ After Kirk Killing.” Politico, 11 Sept. 2025,. なおキンメルのコメントは “We hit some new lows over the weekend with the MAGA gang desperately trying to characterize this kid who murdered Charlie Kirk as anything other than one of them, and doing everything they can to score political points from it”.

※10 “Over 1.7M Users Cancelled Disney+, Hulu and ESPN Subscriptions Following Jimmy Kimmel Suspension.” New York Post, 30 Sept. 2025,.

※11 Walsh, Joe. “Ted Cruz Criticizes Trump-Appointed FCC Chair for Urging ‘Action’ on Jimmy Kimmel: ‘Right out of Goodfellas.’” CBS News, CBS Interactive, 19 Sept. 2025,.

※12 Lebowitz, Megan. “Sen. Rand Paul Says FCC Chair’s Comments Threatening ABC over Jimmy Kimmel Were ‘Absolutely Inappropriate.’” NBCNews.Com, NBCUniversal News Group, 21 Sept. 2025,.

※13 この事件は、高市早苗氏が安倍政権下の総務大臣時代、「政治的に公正を欠く」放送を繰り返す放送局について電波停止の可能性に言及したことを思い出させる。米国国務省の2016年版「人権報告書」では、日本における報道の自由への懸念の一例として、この高市氏の発言が名指しで指摘されているが (U.S. Department of State, U.S. Department of State,.)、今となってはそれが皮肉にも思える。ただ、私がここで考えたいのは、その後どうなったか、ということである。2014年の「報道の公平中立、公正の確保」を求める自民党からの要請や、上述の高市氏による電波停止発言以後、政権に批判的な論者やジャーナリストが番組を降板する例が相次いだ (Thompson, Nevin. “Political Interference? The Culling of Japan’s Broadcasters Culminates in a Respected Journalist’s Ouster.” Global Voices, 4 Feb. 2016,.)。もちろんその問題性を指摘する声も上がったが、私の知る限り、日本では降板した論者たちにマスメディアの真ん中で連帯を示す著名人は現れなかったし、視聴者からの批判が大きなうねりとなることはなかったように思える

標的にされたシカゴでの移民取り締まり

 民主党が強く、また移民に対して寛容な政策をとる「聖域都市 (sanctuary city)」であるシカゴは、トランプに標的にされている。9月に入り「ミッドウェイ・ブリッツ作戦」と名付けた移民取締まりが始まった※14。ICEと呼ばれる移民関税執行局 (Immigration and Customs Enforcement)の執行部隊により、「犯罪歴のある、滞在許可を持たない移民(undocumented immigrants)※15」を摘発、逮捕するというものだが、実際には犯罪歴に関係なく、また滞在許可を持っている移民やアメリカ市民権保有者であっても逮捕される事例が起きている※16。ICEは覆面をして突然町に現れ、逮捕状もなしに人々を拘束し連れ去ってしまうのだ※17

 9月12日、子どもを学校に送り届けたところを止められた男性がICEによって撃たれ死亡する事件が起きた。ICE側は命の危険を感じたための正当防衛であるとしていたが、のちに公開されたビデオではそのような状況は確認されず、発砲の正当性が問われている。男性は18年間アメリカに住み、コックとして働いていたそうだ※18。9月30日には私の住む地域から車で10分ほどのところにあるアパートで大規模な突撃作戦が行われた。ブラックホークと呼ばれるアメリカ軍ヘリコプターや軍用車が取り囲み、窓ガラスやドアを破っての一斉突撃の様子は文字通り戦場のようだった。このアパートがベネズエラのギャングの巣窟になっているということで突撃作戦が行われたのだが、拘束、逮捕された人々の中にはギャングメンバーではない移民や黒人のアメリカ市民なども含まれ、また、親が滞在許可を持っていない子ども(アメリカ市民)は親から引き離され、施設に入れられた※19

 こうした大きな事件だけでなく、ニュースにもならないような事件は毎日至る所で起きている。作戦が始まって1ヶ月以上、現在の正確な数字はわからないのだが、最初の10日間だけで550人が拘束、逮捕されたことが報告されている※20。当然ICEを恐れる移民は多く、リスクを避けるために家に引きこもり状態になっている子どもたちもいる。しかし同時に、ICEに立ち向かい移民を守ろうとする動きも大きく広がっているのだ。

 “Know Your Rights”とは「自分の権利を知ろう」という意味で、警察、ICEなどの執行機関に質問や拘束された際に、法律で保障されている権利を理解、行使することを意味する。現在では特に移民に対しての情報共有として、例えばイリノイ州移民・難民権利連合 (Illinois Coalition for Immigrant and Refugee Rights, ICIRR)は、ICEや警察などが家に来てもドアを開けなくていいこと、拘束された場合でも黙秘権があること、弁護士を要求できることなどとともに、何かあった時のために準備しておくといいこと、ホットラインの番号などを載せたKnow Your Rightsパンフレットを13ヶ国語で作って配布している※21。逮捕された移民が一時的に収監されるICE施設前にはたくさんの人々が集まり抗議を行っており、抗議者が逮捕されたりもしている※22

 いつどこに現れるかわからないICEに対して、もし現れたら報告しあうためのグループがあちこちにできている。これは人々が監視し録画している中ではICEが激化しにくく、時には退却することがあるからだ※23。わたしが評議員をつとめている近所の公立小学校でも、いざというときに即学校に駆けつけられる近隣住民を募集したところ、あっという間に30人ほどから申し出があり連絡網ができた。こうしたグループがネットワークを作り、市全体を覆うように情報共有、支援をおこなっている。先週、この近隣にICEが現れたという目撃情報があり、使わずに済めばと願ったこの連絡網をついに使う時が来たかと緊張が走った。結局この小学校には現れなかったが、シカゴ大学の学生が一時拘束され、また地元のイタリア料理店で長年働いていた従業員が2人連行されたと聞いている。もともとご近所の情報交換のためのほのぼのとした場だったSNSのグループも、こうした情報やどうやって支え合うかといった話題で溢れている。

※14 Ice Launches Operation Midway Blitz in Honor of Katie Abraham to Target Criminal Illegal Aliens Terrorizing Americans in Sanctuary Illinois | Homeland Security, 8 Sept. 2025,.

※15 この言葉については、本連載第3回の注釈2でも触れている。書類未提出は犯罪というよりも行政手続き違反であるため、偏見を助長しない中立的な表現としてundocumented immigrantsという語が使われる。しかし、トランプ大統領含め排外主義的な立場からは、むしろ犯罪者というイメージを喚起させるillegal immigrants「不法移民」という語を好んで使う傾向がある

※16 Tenenbaum, Sara, et al. “2 U.S. Citizens among 7 Detained at Early Morning Elgin, Illinois Ice Raid.” CBS News, CBS Interactive, 18 Sept. 2025,.

※17 参考:ウィルキンス,ブレット.「これがアメリカ!? 悪名高いICE(移民関税執行局)のやり口をカリフォルニアの弁護士らが提訴」『Newsweek日本版』,2025年7月3日,17時45分,

※18 Brooks, Brad, and Renee Hickman. Footage of Deadly Ice Shooting in Chicago Suburb Challenges Official Narrative | Reuters, 24 Sept. 2025,.

※19 Riess, Rebekah, and Bill Kirkos. “37 People Arrested and American Kids Separated from Parents after Ice Raid at Chicago Apartments.” CNN, Cable News Network, 3 Oct. 2025,.

※20 Santana, Rebecca. “Ice Arrests Nearly 550 in Chicago Area as Part of ‘Midway Blitz.’” AP News, AP News, 19 Sept. 2025,.

※21 “Family Support Network & Hotline.” ICIRR,.

※22  Hernandez, Cindy, et al. “11 Arrested at Broadview Ice Facility during Latest Protests.” Times, Chicago Sun-Times, 17 Oct. 2025,.

※23 “ICE Agents Halt Raid after Local Residents Protest in Rochester, New York.” Democracy Now!, 10 Sept. 2025,.

下から上まで広がる、反トランプ・反ICEの動き


 上の写真はあるカフェの入り口に貼ってあったチラシ。「憎しみも恐怖もいらない、ここは移民を歓迎する場所」と書かれている。また、下の写真は電信柱にはってあったビラで、「やあICE、バカで寂しいナチども。そんな病んだ仕事をしているからお前らはクズなんだ。シカゴはお前らが大っ嫌いだ!」というICEに対する強烈な風刺である。電話番号が2つ掲載されているが、上の方はジョークで、「詳しくはこちらへ」という意味のfor further assistanceをもじり、for fuhrer assistance、つまり「フューラー(総統閣下)によるご支援はこちらへ」とし、「773 (シカゴの市外局番)EAT CACA (うんこ食え)」と書かれている。下の方の電話番号はスペイン語で、もしICEを目撃したらこの番号に電話してくださいというメッセージと、ICIRR(イリノイ移民・難民権利連合)のホットライン、そしてスペイン語でKnow Your Rights、「Conozca Sus Derechos」とある。

 こうした人々のローカルな取り組みだけでなく、法的、政治的なレベルでも反トランプ、反ICEの動きは広がっている。

 人々のひるまない抗議に対して、トランプ大統領はICE支援のためとして、J.B.プリツカー州知事の反対にもかかわらず、国境警備隊(Border Patrol)※24や州兵(National Guard)※25を送り込んできた。これらの大統領指揮下の実質的な軍隊に対し、ブランドン・ジョンソン市長は、駐車場などシカゴ市の所有物の使用禁止命令を出した※26。また連邦地方裁判所からは、警告なしに催涙ガスやペッパーボールなどの使用を禁止する命令27、捜査活動中にボディカメラの着用を義務付ける命令※28が出ている。連邦地方裁判所はさらに、逮捕状なしの逮捕は違法であると結論づける※29とともに、10月9日、州知事の同意を得ない州兵派遣を差し止める2週間の仮差し止め命令を出した※30。これを書いている現在、少なくとも州兵はシカゴで活動していない。

 下から上まで、ありとあらゆる方法で、シカゴは抵抗しているのだ。

 ちなみにシカゴと同じく聖域都市であるオレゴン州ポートランドにもICEや州兵が投入されている。トランプ大統領は、抗議運動の広がりによって治安が悪化し、ポートランドが「戦闘地域」状態だとして、州兵派遣を正当化したのだが※31、実際はそのようなことはない※32。アメリカの中でも特にリベラルでヒッピー文化の名残が強いポートランドでは、トランプの主張がいかに馬鹿げているかを一目でわかるようにと、抗議者たちがカエルやユニコーン、恐竜などの着ぐるみを着て踊るようになった。その様子がSNSで広く拡散され※33、着ぐるみ、カエルは瞬く間に反ICE、反トランプの象徴となった。

※24 Thrush, Charles. “Armed Border Patrol Agents Disrupt Peaceful Downtown Day: ‘It’s Horrifying.’” Block Club Chicago, 28 Sept. 2025,.

※25 Ward, Tre. “Trump Administration Federalizing 300 National Guard Members in Illinois, White House Confirms.” ABC7 Chicago, 4 Oct. 2025,.

※26 “Mayor Brandon Johnson Signs ‘Ice Free Zone’ Executive Order, Prohibiting Use of City Property for Federal Immigration Operations.” City of Chicago :: Mayor Brandon Johnson Signs “ICE Free Zone” Executive Order, Prohibiting Use Of City Property For Federal Immigration Operations, 6 Oct. 2025,.

※27 “Judge Rules Feds Can’t Pepper-Spray, Tear-Gas Journalists after Block Club Chicago and Others Sue.” Block Club Chicago, 9 Oct. 2025,.

※28 Jones, Diana Novak. “Judge Orders Federal Immigration Agents to Use Body Cameras in Chicago | Reuters.” Reuters, 17 Oct. 2025,.

※29 Rivera, Mark, et al. “Warrantless Arrests by Ice in Chicago Area Ruled Unlawful by Federal Judge.” ABC7 Chicago, 9 Oct. 2025,.

※30 Mercado, Melody. “Judge Temporarily Blocks Trump’s National Guard Mobilization to Chicago.” Block Club Chicago, 9 Oct. 2025,.

※31 Foran, Andrew. ‘Like World War II’: Trump Talks Portland during Address to Military Leaders, 30 Sept. 2025,.

※32 Rush, Claire, and Melissa Goldin. “Fact Focus: Trump Paints a Grim Portrait of Portland. the Story on the Ground Is Much Less Extreme.” AP News, AP News, 9 Oct. 2025,.

※33 https://www.tiktok.com/@nowthisimpact/video/7562282859420044557

“No Kings”デモ――私たちは黙らない

 10月18日は全米でトランプ政権批判のデモ、“No Kings”(王はいらない)デモがあった。私もこれまで色々な抗議行動に参加してきたが、ここまで大規模なデモは経験したことがない。さらにあれだけの人出にもかかわらず、一度も緊迫するような場面はなく、終始平和的でポジティブな空気に溢れていた。みな思い思いのプラカードを持ち、衣装を身につけ、もちろん着ぐるみの人もたくさんいた。共和党のマイク・ジョンソン下院議長が、これは“Hate America”(嫌米)デモだ※34、と発言したことを受けて、自分たちこそがアメリカを愛し、民主主義を愛しているのだというメッセージを伝えようと、この類のデモには珍しく、多くの星条旗も見られた。シカゴの推定参加者は25万人※35、2700カ所全ての参加者の合計は700万人を超えたという※36

 数時間にわたり約4kmを行進し、疲れたことは疲れたのだが、デモに参加したことで心から晴々とした気持ちになった。この数ヶ月ずっと思っていたことを確認できた気がする。つまり、反対するものには反対、賛成するものには賛成と、自分の考えをはっきり口に出すこと、そしてそれを一緒にできる仲間がたくさんいるということ、―それがいかに尊く、自分という一人の存在がこの社会を生きていく上において不可欠かということを改めて思ったのだ。もちろん暴力や差別による実際のダメージは計り知れない。傷ついた人、今も困難な状態にある人、中には命を落とした人さえいる中で、こうやってデモに参加し思ったことを言えるのは、まだ恵まれた立場に自分がいるということでもある。だからこそ、なのである。

 公共ラジオは守られ、コメディアンはスクリーンに戻り、州兵は止められた。

 私たちは脅しに屈しない。シカゴは黙らない。

※34 Blake, Aaron. “Analysis: The GOP’s Extraordinary Rhetoric about the ‘no Kings’ Rallies | CNN Politics.” CNN, Cable News Network, 18 Oct. 2025,.

※35 Holmes, Evelyn, and Maher Kawash. “About 250K ‘No Kings’ Protesters March through Downtown Chicago to Denounce Trump, Organizers Say.” ABC7 Chicago, 18 Oct. 2025,.

※36 Faheid, Dalia. “Millions Rally against Trump at ‘No Kings’ Protests across the US, Organizers Say. Here’s Why Protesters Say They Attended.” CNN, Cable News Network, 19 Oct. 2025,.

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小嶋亜維子
こじま・あいこ シカゴ美術館附属美術大学 (School of the Art Institute of Chicago) 社会学教員。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。イリノイ州における公平な公教育の実現を目指す団体「レイズ・ユア・ハンド・フォー・イリノイ・パブリック・エデュケーション(Raise Your Hand for Illinois Public Education)」理事。