第739回:「いい外国人」と「悪い外国人」の選別が、「日本人」にも向けられる時。の巻(雨宮処凛)

Photo : Masaki Kamei

 「われわれは常に、『一部のルールや法を守らない外国人をちゃんと適正にしていく』ということを発言しているが、それをすべての外国人を排斥する意図があるというような報道をされてしまうと、真っ当に頑張っている人が萎縮してしまう」

 「私も外国のルーツが入っている人間として、一部が行ったことで全てが悪いかのように思われてしまうと、本当に風評被害が広がってしまう」

 「ルールや法律を守らない人をきっちりと対応して、日本に暮らす外国人はみんな、ルールと法に則って暮らしている人だと発信していくことが非常に重要だと思っている」

 この言葉は11月4日、小野田紀美外国人政策担当相が記者会見で述べたものである。この日、外国人政策について議論する「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」が開かれた。

 高市総理が指示の柱のひとつとしたのは、外国人による土地取得のルール。

 他にも日本国籍の取得の厳格化、留学生や外国人学校に対する支援の見直し、観光客の過度な集中の防止などなどが検討項目に挙げられた。

 これに先駆けて、政府は国民年金や健康保険料を滞納している外国人を対象に、原則として在留資格の更新や変更を認めない仕組みを導入すると発表した。2027年6月以降から始まるという。

 これまでは「不法滞在」や「偽難民」とレッテルを貼られた人などに強かった風当たり。それが今後、外国人全般に及んでいくことが予想される。

 さて、そんな中での小野田氏の発言、私には非常に気になった部分がある。

 それは、今後「真っ当に頑張るいい外国人」と「ルールや法律を守らない悪い外国人」が選別され、「誰もが認めるいい外国人」でないと存在が許されなくなっていくのでは――ということだ。しかもその条件は今後、ルールや法律の遵守だけでなく、「日本により多くの利益をもたらす」などが加わっていくではないか。

 そして、そんな選別・線引きは、「日本人」の側にだって適用されていくのではないか――。そんな不安を抱いていたところ、ある文章に非常に感銘を受けた。

 それは『世界』25年11月号に掲載された、森千香子さんの「拡大する『内なる敵』のレッテル 排外主義のメカニズム」。

 原稿では、他国に先駆けて排外主義を唱える極右政党が支持を拡大したフランスの、この数十年が描かれる。

 「100万人の失業者は100万人の移民のせいだ!」をスローガンに1980年代前半に頭角を現した国民戦線。2011年、政党名を「国民連合」に変え、過激な主張を改めるなどでイメージを刷新。24年には下院選挙や欧州議会選挙で第一党に躍進と「フランス政治の中心勢力」となり、今や「極右政権の誕生は時間の問題との見方が広がっている」という。

 フランスでは長年、歴代政権により「反移民的」ともいえる政策が行われてきた。特に標的とされたのが、旧植民地出身のムスリム移民。そんなムスリム移民にとって決定的な打撃となったのが、01年の9・11同時多発テロだ。

 「国内のムスリムは問題視され、『良いムスリム』と『悪いムスリム』をつくり出す包摂と排除の政治が行われてきた」

 その後、15年にシャルリー・エブド事件が、同年パリ同時多発襲撃事件が起き、ムスリムを「内なる敵」とみなす動きはより加速。

 恐ろしいのは、その過程でムスリムへの差別を調査・集計し、法的解決を求める団体に国家が解散要求を行い、実際に解散に至ったこと。

 そんなフランスでは、排外主義が移民だけでなく、高齢者やその他の弱者にまで広がりつつあるという。

 それを象徴するのは「払っているのはニコラ」というネットミーム。

 架空の30歳男性が、高い税金や社会保障費に頭を抱えているというミームが拡散され、メディアだけでなく国会でまで取り上げられたという。ニコラを苦しめている存在として示唆されるのが、「働かず、生活保護などで得た金を出身国に送ったりする移民の若者」。

 ニコラを苦しめるのは移民だけではない。もうひとつ示唆されるのが高齢のカップル。プールサイドチェアに腰掛け、グラスを片手にクルーズ船旅行も楽しむような高齢者だ。

 「移民の若者」だけでなく、「優雅な生活を送る高齢者」も現役世代を苦しめている――そんなことが、ミームからは伝わってくるという。

 このような高齢者バッシング、日本でもすでに起きている現象だ。

 「税金を食い潰す」「制度にただ乗りする」「今ある制度で他の人より得をしている」――。

 外国人問題が出てくる以前、そんなバッシングの的となっていたのは生活保護利用者であり高齢者であり障害者だった。

 しかし、その線引きはいつだって簡単にずれ、拡大されていくだろう。

 例えば私はアレルギー体質なのでしょっちゅう病院に行くが、持病があったり身体が弱くてよく通院する人間が「健康保険制度で他の人より得をしている」とターゲットにされることだってありえる。

 一方、「同世代平均に比べて納税額が低い」なんてことがある突然、敵視のきっかけになることもあるだろう。理由なんて、いくらでも作ることができるのだ。

 さて、ネットミームの話でじゅうぶんに恐怖を煽られたのだが、さらに戦慄したのが排外主義の拡大と同時にフランスで進む「社会運動やデモに参加する人びとへの弾圧・攻撃の激化」。

 18年の「黄色いベスト運動」以降激しくなったそうだが、23年には、農村部で行われた気候変動に関するデモに厳しい弾圧がなされ、デモ隊からは重症者――頭蓋骨骨折で意識不明、脳内出血で重体など――が出たという。

 当然、警察による武力行使が批判されるわけだが、これに対し内務大臣は、デモ隊には暴力的な「極左分子」がいたため対応は妥当と発言。また、主催者団体のひとつを「エコ・テロリズム」と非難。

 国の政策への抗議が「極左」「テロ」とされて排除され、デモ参加者が重症を負う――。

 これで思い出すのは過去、石破総理が「デモはテロ」と発言したことだ。ちなみに私はこの発言がどうしてもひっかかり、少し前の「石破さんやめないで」的な動きには乗れなかった一人だ。

 さて、これらについてのさまざまな分析がなされ(詳しくは読んでほしい)、著者は最後に以下のように書く。

 「以上の分析は、排外主義の浸透が移民・外国人だけでなく、高齢者やその他の弱者、また政府の政策に反対する人などより広い層への攻撃や権利の制限につながる可能性を示唆する。つまり排外主義とは『内なる敵』を次々につくり出し、社会全体を萎縮させていく」

 森さんのこの原稿を読んで、はっきりと自覚したことがある。

 6月以来、私が参政党の躍進や移民政策反対の声の広がりなどにとらわれ、ずっとこのテーマで書き続けているのは、この現象を放置していたら絶対に攻撃の矛先が自分に向かうという確信があるから、ということだ。

 政府の政策に反対し、物申してきた人は全員、ある日突然ターゲットにされる可能性がある。そうなったら、あっという間に「反対はしてなくても特に賛成とわかるような行動をしていない」人に広まっていくだろう。誰も安穏とはしていられない社会の完成だ。

 時々、まったく政治に関心のない友人に、「なんで外国人の問題にそんなに肩入れするの?」と聞かれることがある。

 だけど、これは外国人の問題ではなく、私たちの問題だ。結局、私は自分のためにやっている。

 この原稿を書いている最中、北海道・江別市のパキスタン人が経営する中古車販売店にロケット花火が打ち込まれるという報道があった。打ち込んだのは日本人とみられ、バットやナイフを持って敷地の中に入ってきたこともあるという。

 少し前から「江別にパキスタン人が」という書き込みが、「川口にクルド人が」と同じノリで拡散され、見るに堪えないコメントが多くついていることは知っていた。が、それがネットの誹謗中傷にとどまらず、現実の事件となったのだ。この事実は、本当に、重い。

 と、今回も絶望的なラストとなりそうなので、希望の芽もあるということを書いておこう。

 例えばドイツでは、今年2月の選挙で極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進したわけだが、その一方で、「左翼党」も躍進している。

 また今年2月には「右傾化」反対デモがドイツの各都市で開催され、ベルリンでは実に16万人もが参加したという。

 一方、アメリカでは10月18日、トランプ政権に抗議する「王はいらない」デモが各地で開催、参加者総数は700万人にものぼると封じられている。

 それだけではない。10月29日投開票のオランダ下院の総選挙では、移民排斥を訴えて支持率を伸ばし、2年前に第一党となった極右政党「自由党(PVV)」が議席を大幅に減らし、大接戦の末、中道リベラル政党「民主66(D66)」が第一党となった。

 そうして11月4日、アメリカ・ニューヨークの市長選で「民主社会主義者」を名乗り、生活に根ざした政策を訴えたマムダニ氏が当選した。ウガンダ生まれでイスラム教徒という氏はまさに「多様性」を体現したような人物だ。

 思えば昨年の今頃にあった出来事といえば、大統領選でカマラ・ハリス氏がトランプ大統領に敗れたこと。

 インド出身の母とジャマイカ出身の父を持ち、気候変動や性的マイノリティの問題に取り組む女性候補がトランプ氏に敗れたという事実は、昨年の都知事選、兵庫県知事選で相次いで「リベラルな女性候補」が負けたことと相まって、「このままでは本当に先がないのでは……」という暗澹たる思いを私に植え付けた。

 しかし、トランプ就任から10ヶ月のニューヨークで、マムダニ氏が勝利したのだ。

 つい最近まで、世界各地で極右や排外主義ばかりが躍進しているような思いに囚われていた。だけど、あらゆる場所で、それに対する強烈な抵抗が起きている。

 と、希望に満ちた感じで終わりたかったが、11月6日、生活保護引き下げ訴訟について大きな動きがあった。

 6月、最高裁で引き下げは「違法」と認められ、しかし、4ヶ月以上厚労省は謝罪も被害補償についての具体的な話もしないできたわけだが、この日、減額分の「全額補償見送り」で調整中、という報道がなされたのである。

 違法行為をしていた側が勝手に被害補償をディスカウントするとは、一体どういうことだろう?

 その翌日、高市総理は衆院予算委員会で引き下げについて初めて謝罪したものの、そのような場ではなく、原告らと正式に会って謝罪すべきではないのか。また、その一方で全額補償を見送るのであれば、あまりにも不誠実と言わざるを得ない。

 引き続き、これらの動き、見守っていてほしい。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。