第379回:「トランプ危機一髪」と「お子ちゃまニッポン」(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

我が母校にも熊が出た!

 立冬(11月7日)も過ぎた。もう午後5時になると外は暗い。秋を愉しむ余裕もなく、冬がすぐそこ。ぼくのふるさとからは、さすがにまだ「雪の便り」は届いていないが、毎日のように「熊の便り」がもたらされる。
 ふるさとの新聞「秋田魁新報」の電子版を見ると、「熊出没マップ」が連日更新されている。ぼくの母校(秋田高校)や、そのそばにある秋田大学の構内にまで熊が出没し始めたという。いったいどうしたというのだろう?
 秋田市の中心部にあるのが「千秋公園」である。ほんとうに街のど真ん中。ぼくも高校時代には、時間があればこの公園をぶらぶらするのが好きだった。
 ほんのちょっとした淡い思い出もあるな。ぼくは高校の新聞部に属していたのだが、秋田北高(女子高)の新聞部の子と一緒に、顔を赤らめながら散歩した記憶もある。そんなところに熊? ウソだろ!である。だいたい、この公園の周りはほとんどが住宅地である。熊がどこからやって来たのか見当もつかない。
 東北地方では、今年はブナの木の実(どんぐり)が大凶作だという。この夏の異常な暑さも一因らしい。熊は秋にこれらの実を腹いっぱいに食べて冬眠に備える。それが凶作となれば、他の食べ物を探すしかない。そのために人里へ下りてくる。熊だって必死なのだ。

気候変動は「陰謀論」?

 熊の人里への出没は、やはり気候変動の影響だと主張する学者も多い。どんぐりの大不作も、今夏の灼熱地獄だった異常気象のもたらしたものだろう。なんとかこの気象異常に終止符を打たなければ熊どころか人類の未来も危ない。
 それを世界中の国々が議論するのがCOP30(第30回国連気候変動枠組条約締約国会議)であり、11月6日からの首脳級の事前討議を経て、具体的な閣僚級会議は10日からブラジルの大河アマゾン河口の街ベレンで始まった。そこで何らかの結論を出したいというのが各国の思惑である。
 ところが例によって“拳骨外交”のトランプは「気候変動など史上最大の詐欺であり、陰謀論だ。そんなものは存在しない。左翼が煽っているだけだ」とわけの分からないリクツを持ち出して、COP30を否定、米代表団は不参加となった。どっちが“陰謀論”なのか。これまでさんざん陰謀論をまき散らしてきた男が何を言うか。
 世界屈指のCO2排出国であるアメリカが不参加であれば、この会議の意義が大幅に失われる。なにしろ「化石燃料を掘って掘って掘りまくれ!」と喚き散らすのが超大国の大統領なのだから始末に負えない。温暖化はこのまま進み、人類のみならず熊も含めた動植物に甚大な影響を与えることは目に見えている。
 アメリカは自らの首を自らの手で絞めにかかっているのだ。

追いつめられるトランプ

 だが、そんなでたらめトランプに対して次第に逆風が吹き始めた。
 11月4日、アメリカ最大の都市ニューヨークの市長選で、反トランプを高らかに叫び、民主社会主義者を自認するイスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が当選した。それもトランプが苦し紛れに推した民主党の元市長クオモ氏を圧倒しての当選だった。
 また同日に行われたニュージャージー州とバージニア州の両知事選でも民主党が圧勝、共和党候補は惨敗した。トランプ支持MAGA(MAKE AMERIKA GREAT AGAIN)派の勢いは消えかかっている。
 さらにトランプには大きな試練が待ち構えている。大声で世界を脅しつけるための武器であった「トランプ関税」に、どうも法的な「待った」がかかりそうなのだ。こんな報道がある(朝日新聞11月7日付)。

米関税 保守派判事が疑問視
米最高裁 権限や必要性めぐり

 トランプ米大統領が課す「相互関税」などの適法性が争われている訴訟で、米連邦最高裁は5日、口頭弁論を開いた。判事からは、関税の必要性などをめぐる厳しい質問や指摘が相次いだ。下級審では違法判決が続いており、最高裁でも違法判断が出ればトランプ氏の看板政策は大きな打撃を受ける。(略)
 最高裁は9人の判事で構成され、うち6人はトランプ政権に比較的寛容な保守派が占める。こうした保守派からも疑問の声が次々に上がった。
 関税で打撃を受ける米中小企業などは今年、相互関税などは違法だとして提訴。一、二審ともトランプ氏が大統領権限を逸脱して関税を課したとして、相互関税などを違法で無効だと判示した。(略)

 まったく恣意的に高関税を課し、それで相手が退くと見るや関税を下げてやる。相手国の足元を見ながら好き勝手に関税を上げたり下げたり。いかに超大国であっても、こんなデタラメな外交をこれまでやった国はない。
 弱小国は仕方なしに関税を下げてもらうために「ノーベル平和賞に推薦」などという恥ずかしい“ゴマすり外交”をする。高市早苗首相の米戦艦上での“ぴょんぴょん外交”など、まさにその典型だった。
 だがさすがに、こんなトランプ拳骨外交に、米国内からも反発の声が上がり始めた。「NO KING=王様はいらない」とのスローガンのデモが多発、反トランプの流れは全米に広がりつつある。それにお墨付きを与えるような、連邦最高裁の動きである。なにしろ、トランプが任命した保守派判事らさえ「トランプ関税」には否定的なのだ。
 それでも王様気取りのトランプは、絶対に「ごめんなさい」とは言わない。なんだか妙な次の手をひけらかしている。あまりまともな中身はなさそうなのだが、毎日新聞(8日付)がこんなふうに書いていた。

「関税 敗訴なら代替措置」
トランプ氏 法律差し替え検討も

 トランプ米大統領は6日、連邦最高裁で審理中の「相互関税」などの合法性をめぐる訴訟で敗訴した場合、代替措置を講じる意向を示した。(略)具体策への言及はなかったが、トランプ政権の通商政策の中核である関税措置を継続するため、根拠となる法律の差し替えを検討する可能性もある。(略)「仮定の議論には応じたくない」とする一方で、「第2プランも練る必要があるだろう」とも述べた。
 関税を武器に相手国に対し、米国に有利な形で貿易措置の見直しを実現できたとし、仮に合意が破綻すれば「米国にとって壊滅的だ」と強調した。(略)

 トランプの意図はよく分からない。どうも具体策なんか持っていないらしい。相手の出方次第でコロコロ言い分を変えるのがトランプなのだから、今回も同じく適当な思いつきを垂れ流したに過ぎないのかもしれない。「オレが法律を変えてやるぞ」と言うのだが、何の法律をどう変えるのか、まったく言及がない。本人も分かっていないに違いない。
 しかしそれを諫めるような側近も見当たらないのが、この政権の不幸なところ。
 茶坊主政権のなれの果てだ。

追い討ち、「州兵派遣」も違法

 その上、トランプが奥の手として使う軍事圧力にも、法的なNO! が突きつけられ始めた。これまでトランプの圧力に屈していたように見えていた米国司法も、世論の後押しを受けて、ついに法律重視に舵を切り始めたのだ。毎日新聞(9日付)。

州兵派遣は「違法」
政権側に差し止め命令 米連邦地裁

 米西部オレゴン州の連邦地裁は7日、治安維持を名目にしたトランプ政権による同州最大都市ポートランドへの州兵派遣は「権限を逸脱しており違法」との判断を示し、恒久的な差し止めを命じた。(略)
 トランプ政権は中西部シカゴ西部ロサンゼルスなど野党・民主党が優勢な地域に、治安維持名目で州兵を派遣してきた。各地で訴訟が起こされているが、恒久的な差し止めは初めて。(略)

 トランプが名指しで恫喝してきた民主党優勢地域への軍事圧力が「法律違反」だと裁判所に指摘されたのだ。同様の訴訟は各地で起こされているが、これからも同じ判決が続くだろうとみられている。
 つまり、関税という乱暴な経済政策も州兵派遣という軍事圧力も、ともに司法によって「違法」とされたのだ。次第にトランプは追いつめられていく。
 もうひとつ、トランプへの国民の反発のもとになっているのが「政府機関の閉鎖」である。社会保障制度の存続をめぐってトランプの共和党は民主党と対立。その余波で「つなぎ予算」は不成立、10月1日以来、政府機関の職員たちが無給のまま1カ月以上の自宅待機となっている。
 とくに管制官不足による航空業務の支障は深刻で、このところ連日、数千便に欠航や遅延が出ている。広いアメリカ、飛行機は日本における新幹線と同じような庶民の足だ。だから欠航や大幅遅延に不満が爆発、トランプへの批判に転じ始めた。
 さすがにトランプ共和党も妥協せざるを得ず民主党との話し合いに応じたので、今週末までには閉鎖解除になるのではないかといわれているが、先行きは不透明だ。
 『007/危機一発』ならぬ、“トランプ/危機一髪”である。

お、義妹の川柳が載っていた!

 ろくでもない政治家がトップの座に就き権力を握ると、その国は疲弊する。それが超大国のトップであれば、世界中がカオスに巻き込まれる。トランプが大統領になってからの世界中の混乱は目も当てられない。
 日本だってよそ事ではない。ビックリ記事が朝日新聞(7日付)に載っていた。

小泉氏、原潜必要性に言及
「周りの国々 みんな持っている」

 小泉進次郎防衛相は6日、TBSの番組に出演し、トランプ米大統領が10月末、韓国による原子力潜水艦の建造を容認したことに触れ、原潜の導入を検討する必要性に言及した。次期潜水艦の動力をめぐって「今までのようにディーゼルでやるのか、それとも原子力潜水艦なのか、議論をしていかなければいけないぐらい、日本を取り巻く環境は本当に厳しくなっている」と述べた。(略)
 「新たな動きがあり、周りの国々はみんな(原潜を)持っている」と指摘。小泉氏の発言は、韓国での動きが日本での原潜導入をめぐる議論をさらに後押しすることを示したものだ。(略)

 なんだって? さすがに目を疑ったね。首相がアレなら防衛相がコレか!
 “ぴょんぴょん外交”に匹敵する“アレほしい発言”である。「みんな持っているんだから、ボクちゃんもアレ欲しい」と、新しいおもちゃが欲しいと駄々をこねるガキかよ。
 誰だ、あんなのを防衛相にしちゃったのは!
 もう目先が真っ暗になる。「あたしゃはなから目先は真っ暗だよ」(By座頭市)などとしゃれのめしている場合じゃない。原潜導入とくれば、次はもう核武装までほんのひとっ飛びだ。どこかで歯止めをかけないと、ほんとうにヤバイ!
 朝日川柳欄(8日)にこんな句が載っていた。

 【その理由「みんな持ってる」お子ちゃまか】

 ふむ、感じているのはみんな同じなんだなあ……。そう思いながら作者の名前を見てビックリ。なんと、この句の作者が、実はぼくの義妹(弟の妻)であったことが判明したのだ。
 すぐに電話して「おお、才能あるじゃん!」と褒めておきました。
 でもねえ、義妹の川柳才能は素敵だけれど、この国の政治には暗雲が立ち込めている。

早くも末期症状の高市内閣

 高市首相の「台湾有事は存立危機事態になる」というまさに戦争前夜のような発言。しかも、それを批判されても撤回も謝罪もしない。中国が怒るのは当然だろう。だが、中国領事の不穏な発言を非難することで、ことの本質をごまかし続ける高市政府。

 午前3時からの高市首相の“国会対策勉強会”が問題になっても「野党の質問通告が遅いせいだ」と、デマを飛ばして高市擁護をしたのが国光文乃外務副大臣。すぐにウソがばれて謝罪と当該ポストの削除をせざるを得なくなる始末。
 この午前3時の勉強会、高市首相の「私はこんなに頑張っているのよパフォーマンス」の臭いが濃厚だ。なぜなら、マスメディア各社は官邸入りする深夜の高市御一行様の様子を、克明に動画でとらえていたからだ。つまり、事前にマスメディアに官邸側から知らせていたのだろう。でなければいくら勤勉な記者たちだって、午前3時前から官邸につめて待ち構えているはずがない…。

 そこへ黄川田仁志北方担当大臣の北海道納沙布での「外国にいちばん近い」妄言が続く。沖縄北方担当大臣の「耐えられない存在の軽さ」(Byミラン・クンデラ)。
 そして鈴木俊一自民党幹事長は「維新との連立条件の“今国会での議員定数削減”は無理」と記者会見で発言した。これでは、維新は連立離脱しなければ「連立条件」がデタラメだったことがバレてしまう。利権欲しさの連立入りだったのか。
 維新だってまさに“危機一髪”なのだ。

 さらにさらに、立花孝志NHK党党首逮捕で新たな問題勃発。脚光を浴びたのが、参院における「自民党とN党の共同会派」だ。
 N党副党首である斉藤健一郎議員と高市自民党は正式に手を組んでいる。そこを突かれると高市首相は「無所属である斉藤センセイと会派を組んでいるので問題はない。立花さん逮捕については捜査中なのでコメントはしない」と、木で鼻をくくった答弁をしたが、いくらなんでもそれはない。詭弁にもならん!
 斉藤氏はれっきとしたNHK党副党首だ。その斉藤議員と組んでいるのだから、そんなデタラメ答弁が通るわけがない。だが、そういう以外に高市には答えようがない。

 こう見ていくと、今は発足直後の「女性初の首相」人気で湧いてはいるが、どこをとっても評価点がない。
 まだ発足からは指を折って数えられるほどしか日にちは経っていないけれど、高市内閣、末期症状だよなあ。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。