第740回:手の内、すべて明かします〜『25年、フリーランスで食べてます 隙間産業で生きていく』。の巻(雨宮処凛)

Photo : Masaki Kamei

 今年の1月、50歳になった。

 ということを誰も祝ってくれないので誕生日、ロフトプラスワンにて自ら「生誕祭」を企画、開催した。

 そんな50歳を迎えた今年は「デビュー25周年」という記念の年でもある。が、これまた誰も祝ってくれないどころか気づいてくれる気配もないので、やはり自分で「記念の一冊」を準備していた。

 それが11月25日、河出新書として出版される。

 『25年、フリーランスで食べてます 隙間産業で生きていく』だ。

 思えば私が物書きとなったのは、25年前、25歳の頃。

 その7年前の1993年に北海道から上京したのだが、上京する際には、「自分探し」ブーム真っ盛りの90年代の地方出身者すべてがそうであるように、「何者かになってやる!」と鼻息を荒くしていた。

 しかし、バイトをしながら人形作家を目指したりバンドを組んだり当時できたばかりのロフトプラスワンに入り浸ったり、果ては右翼団体に入ったり自分でイベントを主催したりといろいろしても、一向に「何者か」になれる気配はない。それどころか「やりたいこと」のためにお金は出ていくばかりで一円にもならず、親や周りの人間には「いつまでフラフラしてるんだ」と呆れられるばかり。

 そんな私が、何をどうしてどうやって、コネもツテもゼロで学歴も資格も飛び抜けた才能もない中、元手ゼロ円で「一冊目の本を出版」に漕ぎ着いたのか。そしてそれからの四半世紀をどうやってサバイヴしてきたのか、すべてを晒した一冊だ。

 ちなみに上京する前からぼんやりと心にあったのは、「就職したくない」「あまり人と関わりたくない」「自分に嘘をつきたくない」という思い。

 あまりにも消極的な願いだが、50歳の今、振り返るとそれはすべて叶っていることに気付かされる。

 思えばこの四半世紀は、その状態をキープするためにさまざまな微調整をしてきた日々でもあった。

 よく、長くひとつの仕事を続けてきた人が「どんな工夫、努力をしてきたんですか?」などと聞かれて「いやいや何もしてないんです」「すべては流れに任せてっていうか」「幸運なことにいろんな巡り合わせがありまして」などの発言をしている。が、断言したい。あれは、嘘だ。

 何かを続けている人は、その人なりの努力をむちゃくちゃしている。しかし、それを悟られたくない上(余裕ぶっこいてる方がカッコいいと思ってる)、努力していると答えたら、「どんなふうに?」とあれこれ詮索されるに決まってる。そんな企業秘密、どんだけ大金積まれても決して教えたくないからそんなふうに答えてるだけだ。

 それを破格の1100円で全公開したのが本書である。

 ちなみに私はこの連載を約20年続けているが、「約20年に渡り、毎週必ず原稿をアップする」というのはなかなかのことではないだろうか?

 もちろん連載はこれだけでなく、現在は17本。月に2回締め切りがある媒体もあることや(この連載は週一)、単発の原稿依頼もあることを鑑みると、だいたい毎日が締め切りという状態だ。

 が、私はこの25年、一度も締め切りを破ったことがない。

 それだけでなく、この20年ほどは「原稿を書く」ことに困ったこともない。ノンフィクションやエッセイ、社会批評などを書くにあたり、一度たりともネタ切れもなければ「なかなか書けなくてパソコンの前でウンウン唸る」なんて経験がない。今もそうだが、パソコンの前に座ったら自動的に文字が溢れ出てくるのだ。

 よって私は書くのが非常に早く、また、書いている時間も非常に短い。

 というようなことを言うと、同業者はもちろん、そうでない人からも「なんで?」「どうやってるの?」と聞かれるのだが、理由のひとつは日頃からさまざまな「仕込み」(取材をはじめとして、どの媒体に何を書くか振り分けてそのために自分を動かす。これについても詳しく書いた)をしているということ。

 もうひとつは、あるテクニックを身につけたことが大きい。

 それは「毎晩寝る前、脳に原稿を発注する」こと。

 そうすると、起きた瞬間には原稿が脳内で完成しているので、あとはそれを出力するだけということになる。

 これを体得してからは、書くことが格段に楽になった。

 よって、朝起きたら、それを忘れてしまわないように一気に書く。複数締め切りがある時は、起きてすぐに3本くらい書く。粗くていいのでとにかくすべて出力してしまうのだ。微調整はあとですればいい。

 ちなみに世の中には「やる気を出す秘訣」などのメソッドが溢れており、それほどにみんな「やる気」の枯渇とその招聘に困っているわけだが、これだと「やる気ゼロ」で仕事に入れる。「せっかく頭にあるものを今出さなきゃもったいない」という貧乏性に基づいた動機の方が、やる気などという漠然としたものよりも人を動かすからだ。

 このコツを詳しく知りたい方は、本に細かく書いたのでぜひ読んでほしいが、とにかく、こんな感じで私が普段使っているノウハウを詰め込んだ。

 もうひとつ、本書でページを割いたのがメンタルのこと。

 帯にも「結局これが最重要、メンタル保って続けるノウハウ」と入れたのだが、周りを見渡してもメンタルの調子を崩して休んだり、仕事をやめたなどの話は少なくない。

 もちろん、大変な時は休む・やめるが最適解だと思うが、失業給付も傷病手当も何もないフリーランスにとっては休む・やめることは収入ゼロとイコールだ。

 よって私はフリーランス人生のかなり初期から「メンタルを保つ」ためにさまざまな工夫をしてきた。それらの結果、25年間にわたり、調子を崩すことなく淡々と仕事を続けられている。

 また、ある時期からは「デビュー25年まではとにかく毎年本を出し続ける」を目標としていたのだが、それもなんとか達成できた。ちなみに「一冊の本を完成させる」のはかなり体力・気力のいる大仕事だが、それをクリアできたのは体調管理とメンタル管理を徹底してきたゆえ、と思っている。そう、メンタルのみならず、フリーランスは体力勝負。この本では、決して身体が強くないものの、「25年、体調不良でのドタキャンはゼロ回」を誇る私の体調管理についても触れた。

 さて、メンタル部分で特に詳しく触れておいたのは、フリーランスは「浮き沈みが激しい」ということ。

 この四半世紀、いい時もあれば「どん底」という時もあった。

 何しろ去年と今年で年収一桁違うなんてことが当たり前なのがフリーランス。年収200万の年もあれば2000万の年もあるということだ。そんな「一人格差ジェットコースター」の中でメンタルを保てという方が無理な相談だが、中でもキツいのが、「急激に仕事が減る」事態。

 私の場合は十数年前の「年越し派遣村」をピークとして「貧困ブーム」的なものが下火となった時、初めてそれを経験した。

 「いい時」は怪しい人含めていろんな人が寄ってくるのに、「旬を過ぎた」「金・数字にならない」と思われた瞬間、多くの人が手の平を返す。

 それまで頻繁にあったメディア出演も講演依頼もどっと減り、「本を出さないか」と連絡があったさまざまな出版社からもさっぱり声がかからなくなった。それどころか、旧知の編集者に「こういう本を出したいんだけど」と連絡しても(もともと執筆依頼を受けていたものの時間がなく先延ばししていたのでお詫びの意味も込めて)、迷惑そうにされる、無視されるなどの冷たい対応を受けたりもした(かわいそう)。

 初めてこのような経験をした時には「自分はオワコンなんだ」「以前の勢いとか本当にまったく全然一切ないんだ」とショックを受けたものの、25年もやってるとそんな浮き沈みにはビクともしなくなる。

 春のあとには夏が来るとか、雨が降る日もあれば晴れる日もあるとか、食ったら太るくらいの「自然現象」としか受け取らない境地に達したのだ。そうして浮き沈みの波が来るたびに、「ああ、第一波の時もこの手の人は“ありえないようなうまい話”とともに近づいてきたなぁ」とか「下り坂の時に嫌な裏切り方するのってこういうタイプだよな」などと「人を見る目」が養えた。それだけではない。「自分の価値を、たかが仕事やたかが金などと関連づけない」ことを徹底できるようにもなった。

 そんな私の周りには幸いなことに「より貧乏でより働いてない方が偉い」という、世間と真逆な価値観の人々のコミュニティがあるので、そこにいる愉快で楽しい人々にも非常に助けられている。

 ということで、仕事が減った時、犯人探しをしてしまうとメンタルがやられるだけでなく、人生がエゴサとネット監視で終わるのでオススメしないということや、誰もが気になる「SNSでの自分の不評」はゼロにするとかもう不可能なので、では私はどのように対処しているかなども盛り込んだ。

 それだけでない。フリーランスとして独り立ちするためには「ライバルがいない・少ない過疎地を狙う」のが重要であること、自己開示しすぎると危険なので「ビジネス自己開示」のススメ、はたまた印税、原稿料、講演料などのギャラ関係について、また締め切りを守る・連絡が取れない人にならないなど「常識人」であることの重要性などなど、「私が実践してきたこと」を盛り込んだ。

 さらには現在フリーランスとして活躍するデザイナー、困窮者支援団体スタッフ、また自らを「ザ・出稼ぎ」と自称する海外出稼ぎ中(ワーホリ)の方にも取材。フリーランス110番の弁護士さんにも「自衛の仕方」を取材し、ウーバーイーツユニオン、フリーランスユニオンの方にもご登場頂いた。

 ということで、フリーランスやフリーランスを目指す人はもちろん、「会社ムリ」「仕事やめたい」人にも役立つ上、働いていてもいなくても今日から使える「役立つノウハウ」が詰まった一冊となった。

 ぜひ、手にとってみてほしい。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。