第743回:「ここで生きたい」と願うことは、そんなにいけないことですか? 〜ゼロプランに怯える子ども・若者たちの声。の巻(雨宮処凛)

Photo : Masaki Kamei

 「私たちは毎日存在を否定されるような言葉を浴び、制度の狭間で生きています。ある子どもは、『生まれたことが罪なの? そんなことないでしょ』と言いました。その言葉は過去の私のものでもあり、今も制度の外で生きている子どもたちのものでもあります」

 「高校3年の受験生です。在留資格がないため進学がとても難しく、これまで何度も学校に断られてきました、それでも今までの努力を無駄にしたくないので絶対に諦めたくないし、諦めません」

 「最近、『外国人怖い』と耳にすることが増えてきました。けれど、夜になると家の周りでタバコを吸ったりバイクの音を大きく鳴らしたり喧嘩したりする日本人ヤンキーの人たちをよく見ます。刃物を持って刺されそう、という意味で怖いならわかります。でも、何もしてない私たちが怖がられる。なぜ外国人だけが生きてるだけで『怖い』と言われてしまうのか、疑問に思ってます」

 「私たちはここで一生懸命に生き、頑張ってきました。専門学校も奨学金も合格することができました。その歩みをどうか無駄にしないでください。急に強制送還になってしまったら、私たちの将来はどうなってしまうのですか。これからの人生をどうやって生きていけばいいのでしょうか。知らない国で知らない言葉でどうやって暮らせばいいかわかりません」

 11月7日、参議院議員会館の講堂に、切実な声が響き渡った。声の主は、日本生まれ、あるいは幼い頃に来日し、日本で暮らしてきた子どもたち。しかし、多くが在留資格がない状態。このままでは強制送還されてしまうと怯える子どもたちだ。
 ちなみに入管庁(出入国在留管理庁)が5月、「不法滞在者ゼロプラン」という強制送還キャンペーンを始めたことは、この連載の第731回でも書いた通りだ。

 このことによって、今年6〜8月の強制送還者は119人と、昨年の2倍となっている。

 特筆したいのは、その3割を難民申請中の人が占めること。難民申請中の強制送還はしないのが国際的なルールである。

 一方、今年1〜8月に強制送還された中には18歳以下の子どもが7人含まれることも問題視されている。送還された子どもたちは日本生まれ、もしくは幼少期に来日し日本育ちで母語は日本語。突然「送還」されても「母国」には行ったこともなく、言葉もルールもわからない。そんな場所に送還されるのは酷すぎるという理由だ。

 「不法滞在者」と言われる中にはこのような子どもが含まれていることを、この国のどれくらいの人が知っているだろう。

 ということでこの日開催されたのは、「強制送還ではなく在留資格で子どもの権利を守ってください」と題された省庁交渉と院内集会。

 午後3時に始まった省庁交渉にはこども家庭庁、文科省、入管庁が参加し、「反貧困ネットワーク」メンバーや「仮放免高校生奨学金プロジェクト」などで子どもたちの支援をする大学生、また、今まさに送還に怯える高校生などが参加した。

 上智大学の稲葉奈々子氏からは、子どもの強制送還は、国連子どもの権利委員会が第4・5回総括所見において日本へ勧告した事項に反していることが指摘される。

 また、入管庁はゼロプランを、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢に鑑み、不法滞在者ゼロを目指し、外国人と安心して暮らせる共生社会を実現する」ことが目的だとしているが、その点についても多くの人から指摘がなされた。

 まずは、刑法違反(殺人や強盗など)と入管法違反(不法入国、不法滞在など)、そしてコミュニティルールやマナー違反(ゴミ出しルールや騒音など)が意図的に混同されている点。

 不安や心配にはさまざまなものがあるが、犯罪や治安の問題からゴミ出しルール、果ては観光客のマナーに至るまでグラデーションがあり、また観光客については日本で生まれた・幼少期に来た外国人の子どもたちとは一切関係ない話であることは明白だ。

 一方、すぐに犯罪と結びつけられがちな「不法滞在者」だが、その割合はどれくらいかというと、刑法犯に占める不法滞在者の割合は、わずか0.25%。

 入管庁の職員に対し、次々と示される具体的なデータ。

 これを見ていた外国籍の大学生女子は、「選挙で排外的な政党が出てきて、入管もそれに乗っかったんじゃないかと思わざるを得ない」と鋭い突っ込み。

 それだけではない。

 「新しいプロジェクトを始める時には対象となる人の声を聞くべきなのにしていない。各自治体にヒアリングもしていない」と次々に的確な指摘をする。

 そんな集会では、「不法滞在者ゼロプラン」によって影響を受ける子どもたち17人への当事者アンケートも配布された。

 「ゼロプランによって、生活や心にどんな影響を感じていますか(複数選択可)」の問いには10人が「不安が大きくなった」と回答し、9人が「家族や友人が送還されるのではないか心配」と回答。

 また、「自分の、子どもの権利は守られていると感じますか? または、自分が子どもだった時、子どもの権利が守られていたと思いますか?」という問いには15名が「いいえ」と回答。

 「どんなことで守られていないと感じましたか?」には以下のような記述が並ぶ。

 「病院に行けない、お金がないのに自治体の支援が受けられないなど」

 「仮放免であることにより、行きたかった大学には当時受験を拒否されました。それ以外にも、県外移動が禁止されており、クラスメイトとの修学旅行等は行けませんでした。また、保険証もないので、怪我をしたり、体調を崩したら多額のお金がかかってしまうので、怪我をしても風邪をひいても病院に行くのを避けていた時期もありました。この状況の中で、『子どもの権利が守られていた』とは言えないと思います。私は元仮放免者ですが、幼少期に来日したまたは日本生まれの仮放免者の子どもは日本で生きて行くことを前提にさまざまな夢を掲げていても、いつ強制送還されるかわからない状況にあり、その不安が常に付き纏っています」

 その次の質問は、「子どもの権利が守られるためには、何が必要だと思いますか?」。

 以下、回答だ。

 「偏見をなくす、政治家の発言がひどいことの認識、そういう発言から今を生きている子どもたちに偏見を植え付けていることわかってない、同じ人間なのに現状を知らなすぎている」

 「自分達の力を証明させて欲しい。努力する姿や社会に貢献している姿を見る。ちょっとした行動を見て欲しい」

 続いての質問は「日本で生まれた/育った子どもが”違法な存在”とされることについて、どう感じますか?」。

 「意味がわからない。生まれたことが罪なの? そんなわけないでしょ」

 「流石にやばい何もしてないのに可哀想」

 「生まれるところを選べないのに悪い存在にされるのは本当におかしいことだと思う。親がどうであっても子どもとは関係ないことが多いと思う。しっかりそこを見てほしい」

 「おかしいと感じる。親の出身国がどこであろうが外国人だろうが日本で生まれて日本で育った自分にとってはこの国は母国であり基準であるから、他の人もそうだと思うが親の出身国に強制送還されても、言葉が完全に理解できるわけでも現地の法律やルール、働き方がわかるわけではないから、強制送還=殺人だと思っている」

 最後の質問は、「国に対して『こんなことを聞いてほしい』『こんな疑問がある』と思うことを書いてください」

 「なぜ子どもまで違法とされるの?」

 「なぜ、私たちの人生を無駄にするようなことをするのですか? 私たちは、ここで生きたい、ここで未来をつくりたいと思っています。それなのに、私たちの努力や夢が、誰かの判断一つで消されてしまうのは、とても悲しくて悔しいことです」

 「『ここで生きたい』と願うことは、そんなにいけないことなの?」

 そんなアンケート、憲法に関する記述が多かったのも印象的だった。

 「日本国憲法には、『基本的人権の尊重』や『平和主義』など、大切な考え方が書かれています。私は、その中でも『すべての人が平等に尊重される』という言葉に強く共感します。国籍や生まれた場所が違っても、人として大切にされる社会でありたいと思います」

 「日本国憲法には、『すべて国民は、法の下に平等であっても人種、信条、性別、社会的身分又は門地によって、差別されない』と書かれています。この考え方は、人としての尊厳を守るために欠かせないものです。私は、この憲法の精神を、外国人や子どもにも平等に生かしてほしいと強く願います」

 あらゆる権利が守られていない状態だからこそ、憲法の言葉が響くのだろう。外国籍の子どもたちが日本の憲法を読み込み、それを拠り所としている事実に、なんだか胸が熱くなったのだった。

 翻って、10代の頃の私が自らの境遇から「憲法」など意識したことがあるだろうかと思うと、当然皆無。日本で生まれた日本国籍のある自分が、いかに多くものを無意識に持っているかに気付かされた。

 さて、ここまで読んでもらってわかるように、「不法滞在者ゼロプラン」によって強制送還され得る子どもたちの思いは、ただただ生まれ育った場所で生活したいというものだ。

 最後に、集会の当事者の声を紹介しよう。

 高校生女子は以下のように言った。

 「この国でたくさん人に支えられ学び、成長してきました。これからも日本で安心して暮らし地域社会に貢献しながら誠実に生きていきたいです」

 日本に来て20年というウガンダ出身の女性は、支援者に代読してもらった文章で、「おゆるしください」を繰り返した。以下、一部引用だ。

 「ゼロプランを遂行するというのならば、ビザなしの人たちに就労ビザを与えることで不法滞在をゼロにしましょう。日本は今、労働者を求めています。私たちは日本の生活の仕方を理解していますからご迷惑はかけません。
 日本も我々を必要とし、我々は日本を必要としています。一部の非正規滞在者は日本社会が必要とする高度な技能を持っています。日本生まれの子どもたちをどうかおゆるしください。
 彼らにビザを与えてください。仕事のない生活は本当に厳しい。冬の停電、ガスも水も食料もない日々」

 「どうかビザを発給してください。そして納税義務を私たちに果たさせてください。
 私たちに、日本社会に貢献させてください」

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。