第744回:2025年を振り返る〜「日本人ファースト」に覆われた下半期、そして第二次トランプ政権により後退・激変した数々のこと。の巻(雨宮処凛)

Photo : Masaki Kamei

 今年もあと数日で終わりだ。

 去年の今頃とこの年末を比較すると、1年前には想像もしていなかった領域にこの国が足を踏み入れつつあるのをひしひしと感じる。

 きっかけは、やはり「日本人ファースト」。この言葉が出てきた6月以降、それまで政治の争点として語られることのなかった「外国人問題」が突如として最優先課題となり、わずか半年で、空気は完全に変わった。

 そんな2025年下半期の最も大きな出来事と言えば、10月、「高市新総理」が誕生したこと。

 「初の女性総理」ともてはやされ、いまだ高い支持率を誇るものの、就任早々の台湾有事発言で日中関係は悪化。中国人観光客は激減し、日本海産物の中国への輸出は停止され、日本人アーティストの中国公演は続々と中止に。それどころか中国軍機が自衛隊機にレーダー照射、とたたみかけるように日中関係は緊迫感を増している。

 この1年は、第二次トランプ政権が始まった1年でもあった。

 1月に大統領に就任した途端、「パリ協定」離脱やWHO脱退など多くの大統領令に署名したことは全世界に衝撃を与えた。そうして多くの人の懸念通り、反DEIや移民排斥、LGBTQの否定や気候変動完全スルーと、これまで積み上げてきたものがブルドーザーで轢き潰されていくような光景を見せつけられた1年間。

 振り返ると、ハーバード大学への助成金停止に始まり、USAID(米国際開発庁)への予算・人員の削減。

 6月には国家安全保障を理由に、イランやアフガニスタンなど19ヶ国からの入国を原則禁止・制限する大統領令に署名。8月には、留学生や報道関係者へのビザの発給を厳しくする改正案が公表された。

 一方で「不法移民」の摘発も急増。1日3000人というノルマが課せられているとも言われる中、9月はじめ、日本人もその網にひっかかった。アメリカの韓国企業の工場で、不法就労の疑いで475人が拘束された件だ。多くが韓国人だったが、その中にビザを持つ日本人3人が含まれていた。拘束は1週間にわたり、9月12日、330人が無事帰国したものの、アメリカに住む外国人の緊張は高まった。

 9月10日、保守活動家のチャーリー・カーク氏が殺害されてからのトランプ大統領はさらに「なりふり構わず」といった様相だ。

 自らに否定的な報道をする放送局の放送免許取り消しを示唆し、反ファシズム運動「アンティファ」を国内テロ組織に認定。捜査や解体を進めるよう関係機関に命じる大統領令を発出。一方、10月には人道上の理由などで受け入れる難民の数を年間7500人に制限すると発表。バイデン前政権下の上限は12万5000人だったというから大幅な削減である。

 また同月からは大規模な人員削減により、連邦政府機関の閉鎖が相次ぐ事態に。

 11月には容疑者がアフガニスタン人だった州兵銃撃事件を受け、途上国からの移民受け入れを制限するとSNSに投稿。

 そうして12月9日、ビザ免除の外国人観光客にSNS履歴の開示を求める方針を示し、16日には入国禁止・制限国を19カ国から30カ国以上に拡大する布告に署名。

 こうして見ると、この1年でアメリカという国が根底から変わったことがよくわかる。

 アメリカに私はこれまで何度か行っているが、SNSの履歴云々なんて言われると、もう気軽に行ける国ではないのかも……と遠い目になる。

 ちなみに私は北朝鮮に5回行き、うち一回は「行きは6人帰りは5人」だったという経験を持っている。一緒に行った一人が「スパイ疑惑」で拘束され、2年間抑留されたまま帰国できなかったのだ。SNS情報開示などというアメリカ大統領の姿に、90年代の北朝鮮の姿が重なってくるようだ。

 一方、日本でもさまざまなことがあった。

 ここで「日本人ファースト」以降に起きたことを振り返ると、6月末、博士課程の学生への生活支援に留学生も含まれることが問題視され、日本人限定に変更。

 8月末にはJICAの「アフリカ・ホームタウン」騒動が勃発し、9月末、事業の撤回が発表される。

 同じ9月、SNSで「東京都エジプト合意」が話題となり、「東京都は移民を受け入れるのか」と都庁前では「東京都エジプト合意撤回デモ」が開催されるように。

 同月、宮城県の村井知事がイスラム圏の人々のための土葬墓地の整備を撤回。

 その数日後にはSNSで「イスラム教徒に配慮した給食」が話題となり、そのまた数日後には福岡で「移民マンション」が建設されると話題に。いずれも誤情報だったが、自治体などには多くの苦情が寄せられた。

 そうして9月22日に告示された自民党総裁選では、告示前に茂木敏充氏がクルド人が多く住む埼玉県・川口市のコンビニなどを視察。また、所見演説では高市早苗氏が、外国人観光客が奈良の鹿を蹴り上げているなどと発言と、まるで「ヘイト合戦」のような様相を呈す。繰り返し全国放送される場で、総理大臣になるかもしれない人物による真偽不明な情報の拡散により、「外国人問題」は決定的に既成事実化し、人々の不安はより煽られる結果となった。

 ちなみに私は「日本人ファースト」や「外国人への過度な優遇を見直す」などの言葉が野党から出てきた時、自民党はそれを諌めるくらいには成熟した政党だと思っていた。しかし、そんな自民党が参院選で掲げたのは「違法外国人ゼロ」。それを見た瞬間、非常に落胆したことを覚えている。

 さて、10月には「不法滞在者ゼロプラン」に基づき強制送還された外国人が119人(6〜8月)であることが発表される。「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている」として5月に始まったものなのだが、一言でいえば「強制送還キャンペーン」。社会の排外的な空気を追い風にするかのように夏頃から一気に強制送還が進んだ形で、昨年の倍以上の人数が送還されている。

 「不法滞在者なんて強制送還されて当たり前じゃん」と思う人もいるだろう。が、送還されたうちの3割、36人が難民申請中であること、また1〜8月に送還された中には18歳以下の子どもが7人含まれることが問題視されている。

 難民申請中の強制送還はしないのが国際的なルールである上、送還された子どもたちは日本生まれ、もしくは幼少期に来日し日本育ちで母語は日本語。突然「送還」されても「母国」には行ったこともなく、言葉もルールもわからない。そんな場所に送還されるのは酷すぎるという理由だ。

 が、圧倒的な「世論」を味方に、入管は強気の姿勢で送還を進めているのが実態だ。

 10月、高校無償化から外国人学校は除外されることになり、10月21日、高市政権が発足。高市総理は政権発足そうそう、不法滞在対策の強化と出入国の管理徹底を法相に要求。また小野田紀美議員が初入閣し、経済安全保障や外国人政策を担当することとなる。

 10月26日には東京、大阪、福岡、愛知、山形、愛媛、茨城、栃木、埼玉、千葉などで全国一斉の移民反対デモが開催。そうして10月末、政府は外国人政策の見直しを進める関係閣僚会議を設置する方針を固め、発表。

 政府の司令塔機能の強化と外国人の土地取得ルールの厳格化、オーバーツーリズム対策、治安対策、帰化の厳格化などが検討項目になるということで、11月4日には最初の会合が開かれた。

 11月に入ると、政府は国民年金や国民健康保険の保険料を滞納している外国人の在留資格や変更を認めない仕組みを導入することを発表。

 北海道・江別のパキスタン人の経営する工場にロケット花火が打ち込まれる事件が起きていたことが報道され、11月11日には立ち上げられたばかりの自民党の「外国人政策本部」が初会合。在留資格のあり方や土地規制などのテーマ別に3つのプロジェクトチームを設置することを決めた。

 11月末には外国人の医療費不払い問題に関して、1万円以上の不払いから入管と共有する方針であることが示された(現在は20万円以上)。

 11月30日には2度目の全国一斉「移民政策反対デモ」が開催。

 また12月16日、内閣府は土地利用規制法に基づく規制対象区域での24年度の土地・建物の取得状況を調査した結果を発表。その結果、外国人や外国系企業が取得しているのは全体の3.1%であることが確認された。

 そして先週末の12月21日、またしても移民政策反対デモが行われた。

 と、ここまでが、今年下半期をざっと振り返ってのものだ。

 ちなみに読売新聞の参院選出口調査によると、有権者が投票でもっとも重視した政策は「物価対策・経済政策」で46%、「外国人に関する政策」はわずか7%。

 にもかかわらず、この夏以降、毎日のように「外国人問題」が不安を煽るような形で報道されている。

 去年の今頃を思い出してほしい。そんな光景はまったくなかったはずだ。もちろんSNSでのクルド人ヘイトなどはあっても、これほどメディアで連日報道されるような「外国人問題」は存在しなかった。しかしこの半年で、政党はこの問題が「票になる」ことを知り、一部メディアは不安を煽る報道が「数字になる」ことを知ってしまった。

 そんなこの国の名目GDPは来年、インドに抜かれる見通しだという。日本のGDPはアメリカ、中国、ドイツに次いで4位だが、インドに抜かれて5位になるというのだ。

 「没落」と反比例するように排外主義が広がっている気がして仕方ないのは私だけではないだろう。

 さて、本当はこの原稿、個人的に1年を振り返ろうと思っていた。

 たとえば1月には50歳になったのでロフトプラスワンで生誕祭をしたこと、3月には元韓国大統領の文在寅氏と会って会談してきたこと、等々(文在寅氏は私の『生きさせろ!』を愛読書と公言している)。

 しかし、書き始めたら、やっぱりこんな内容になっていた。

 来年は、どんな年になるのだろう。また思ってもいないスピードで「最悪」が更新されるような年になるのだろうか。悲観したくはないけれど、楽観できる要素がない。だけどその中でも、できることをやっていくしかないのだ。

 ということで、今年も1年、本当にお疲れさまでした。来年も、よろしくお願いします!!

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『“普通の日本人”のあいまいな不安』 第1回ゲストは伊藤昌亮さん。ぜひ、こちらからご覧ください。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。