第747回:強制執行絡みの事件で思い出した12年前の銚子の悲劇と「中道」について。の巻(雨宮処凛)

撮影・井上治

 「住むところがなくなり、すべて終わりだと思った。自分も死んでもいいと思った」

 この言葉は、1月15日に殺人容疑で現行犯逮捕された40歳の容疑者が口にしたものだ。この日、容疑者の男性は2人を包丁で刺し、1人は死亡。

 刺されたのは、保証会社の男性(死亡)と東京地裁の執行官。東京都・杉並区のアパートに住む男性は家賃を数十万円滞納しており、この日、住宅明け渡しのための「強制執行」が行われたのだ。

 刺された2人を含む4人が訪れると、男性は「荷物はこれだけです」と段ボールを持って出てきたという。が、段ボールからは黒い煙。中にはカセットコロン用ガスボンベが入っており、爆発。避難した執行官と保証会社の男性が刺されたのだという。

 「殺すつもりはなかったが、死んでもいいと思った」
 「自宅を追い出されると金もないし、自暴自棄になった」

 逮捕後、容疑者の男性はそう供述しているという。

 困窮者支援の現場にいる私は、「住まいを失いそう」「すでに失った」などの相談を受けることもある。多くがパニック状態になっているが、本当に「家を失う」となった時、自殺を考えたという人が少なくない。

 だからこそ、このような強制執行が行われる場合、お金も次に行くあてもないのであれば「公的支援と繋げる」ことをルール化すべきと以前から指摘してきた。

 理想を言えば、家賃滞納があった時点で介入があるといい。実際、ドイツなどでは滞納があると大家さんは役所へ通報しなければならない。ホームレス化を防ぐため、その時点で役所の担当者が介入するのだ。

 日本もこのように、生活保護制度や住居確保給付金(最大9カ月、家賃が給付される。家賃の上限額あり)に繋ぐことが当たり前になれば、こんな事件は起きないはずだ。そうすれば、保証会社の人が犠牲になることだってなかったのだ。

 と、ここまで書いて、逮捕された男性は「生活保護を受けていたが、隙間バイトをするようになってから生活保護を打ち切られた」と供述していることが判明した。なんと、公的福祉の利用歴があったのだ。しかしそれが、「隙間バイト」という不安定極まりない仕事を始めたことにより打ち切られていたのだ。

 この「打ち切り」に違法性はないのか、また保護の再開について打ち切られる時に詳しい説明はあったかなど、非常に気になるところだ。

 さて、そんな強制執行で思い出すのは、千葉県銚子市で2014年に起きた事件。

 現場となったのは、シングルマザーと中学生の娘が住む県営住宅の一室だ。

 この日、部屋は家賃滞納によって強制執行されることになっていたのだが、訪れた執行官らが目にしたのは、放心状態の母親と娘の遺体だった。

 生活苦から家賃を滞納していた母親は強制執行の日に自殺を計画、娘を公的な保護に繋げようと考えていた。が、執行当日、母親の様子がいつもと違ったのか、娘は心配して学校を休んでしまう。結果、母親は母子心中することにし、運動会で娘がつけていた鉢巻で首を絞めて殺害。執行官が訪れた際、母親は娘の遺体のすぐそばで、4日前に開催された娘の運動会のビデオを観ていたという。ビデオを観終わったら自分も死ぬつもりだったらしい。

 母親は、殺人容疑で逮捕。

 このケースでは、母親は市に生活保護の相談に行っていたものの申請に至らず、また住んでいるのが県営住宅だったため、強制執行されるにあたってその情報が市と県で共有されていなかったことも問題視された。

 私の属する反貧困ネットワークにも、そして反貧困ネットワークが呼びかけて立ち上げられた「新型コロナ災害緊急アクション」にも、よく「家賃滞納で部屋を追い出される」「何日後に強制執行される」という相談が入ってくる。

 どんなに無理だと思っていても手立てはある。生活保護利用によって今の部屋にそのまま住み続けられることもあるし、部屋は立ち退きとなっても、シェルターなどを経由して引っ越しし、新たな住まいを見つければいい。生活保護を利用すれば引越し費用も出る上、家財道具が何もなければ家具什器費も出る。そうして生活を立て直せばいいのだ。何も自分が死んだり、誰かの命を奪わなくとも生きていけるのだ。

 こんなことを強調するのは、年明けそうそうの1月6日にも悲しい事件が発覚しているから。この日、福岡で母子3人の遺体が発見されたのだ。

 亡くなっていたのは33歳の母親と6歳の長女、4歳の長男。

 部屋の家賃は3カ月の滞納で、不審に思った家賃保証会社が警察に通報。部屋に入ると、3人の遺体があったという。子ども2人の死因は窒息死、母親は縊死。シングルマザーの母親が無理心中をはかったとみられるそうだ。

 この事件に関しては「生活保護を断られた」という情報がSNSで拡散したようだが、福岡市の広報Xアカウントは「事実ではありません」と否定している。

 年明けそうそう悲惨な事件に胸を痛め、今年こそはみんながもう少し安心して暮らせるように……と祈ることしかできない自分が歯痒い。

 が、肝心の政治の方は「それどころではない」とばかりにバタバタしている。

 高市総理が突然の解散を発表したかと思えば、立憲民主党がまさかの公明党と合流、「中道改革連合」なる政党ができるのだという。

 いろいろと頭がついていかない状態だが、記者会見でおじさんとおじさんとおじさんとおじさんとおじさんが党のマークを掲げる姿を見て、「女で単身でフリーランスのお前にはこの党の結成はなんの関係もないからな」と言われた気がした。

 「中道」は右にも左にも偏らないということらしい。が、おじさん×5から頭に浮かんだのは、新自由主義でも社会民主主義でも共産主義なく、「事なかれ主義」という言葉だったのはなぜだろう?

 ということで、一体政治はどうなるのか。選挙はまたしても「おじさん中心」なのだろうか。というか、それじゃあ最初っから「テンション高めで演出上手の女性総理」に有利すぎる展開じゃん……と思うのは私だけではないはずだ。

 ちなみに最近、ネットフリックスのヤンキー男女による恋愛リアリティー番組『ラヴ上等』を観て(私は恋リア大好きでバチェラーやバチェロレッテとか全部観てる)、「ヤンキーは日本人の多数派」という当たり前の事実に気がついたのだが、つくづく高市総理は「ヤンキーの好み」を知り尽くしている人でもある。そう、彼女の振る舞いは、日本人の最大公約数に「刺さる」のだ。

 それに対して「中道」や他の野党はどのようにアピールするのか。

 朝日新聞によると、新党が政権に対抗できる勢力に「ならない」と考える人は実に69%。

 私自身はぜひまた政権交代を目にしたいところだが、果たしてどうなるのか。そして昨年参院選で吹き飛んだ「ロスジェネ対策」を復活させてくれるのはどこかなど、引き続き、注視していきたい。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。