高市早苗首相による衆議院解散奇襲攻撃に、僕は並々ならぬ危機感を覚えていた。
高い支持率を背景に自民党が圧勝し、長期政権化するのではないか。そしてスパイ防止法や軍拡、憲法への緊急事態条項の追加といった右翼的な政策をどんどん進めてしまうのではないか。野党がジリ貧状態であることを思えば、むしろほとんど不可避ではないか。このままでは日本の全体主義化が一段と進み、デモクラシーはますます弱体化してしまう。
ところがその動きに対抗して、立憲民主党と公明党が新党「中道改革連合」を結成した。自維政治が急速に右傾化するなか、中道勢力の結集を目指し、自民党を含む他党の穏健派にも参加を呼びかけるという。
驚いた。立憲も公明も、よくぞ腹をくくったものだと思う。
Abemaニュースによると、公明党の斎藤鉄夫代表は、記者会見で「中道とは何か」と問われて、こう答えた。
分断と対立をエネルギーにする、そういう政治手法ではなく、いろいろな異なる意見を聞きそして合意形成を図っていく、粘り強い対話で合意形成を図っていくそういう政治手法、これを私どもは中道主義、このように考えているところです。右と左の真ん中という意味ではなく、大きく包み込む包摂主義、共生社会これを目指していくということも中道主義の1つの側面だと思います。
定義に、異議なし。
こうした中道主義的態度こそが、日本であれ、米国であれ、右傾化によって致命的に失われつつあるものである。世界を敵と味方に分けて相手を徹底的にやっつけようという政治手法を、誰も彼もがこのまま続けていくなら、その先にはファシズムや戦争しかない。というより、そのプロセスはすでに始まっている。
だからなんとかその流れを食い止めなければならないと思うのだが、中道改革連合の結成の効果は、右傾化に対する理念的なカウンターを提供するにとどまらない。
それは実際の選挙でも衆議院で多数派を形成し、ファシズムの防波堤となりうる選択である。つまり高市首相が自らの政権基盤を強化するために行おうとしている解散総選挙で、逆に首相から政権をもぎ取ることさえありうる。そこがこれまで繰り返されてきた離合集散の新党結成とは、かなり異なるように思う。
実際、時事通信が興味深いシミュレーションをしている。
2024年衆院選の際、自民党は公明の組織票の支援を受けて、132議席を獲得した。しかし各小選挙区での公明比例票が自民候補から減るだけで、自民は81議席に減る。さらにその公明票が民主系候補(立憲民主党と国民民主党の候補)へ上積みされると、54議席に激減する。逆に立憲民主党の議席は170議席に激増する。
公明党が持つ組織票は、各小選挙区で1〜2万票だと言われるが、それが自民から立憲などへ移るだけで、国会の勢力図は反転しうるのだ。公明党、恐るべし。
もちろん、これはあくまでも2024年衆院選のデータをもとにした単純計算である。低支持率に悩んでいた当時の石破政権と違って、今の高市政権は支持率が高いので、シミュレーション通りにはならないだろう。対立していた勢力同士の合併という急激な変化によって、立憲や公明の支持者が相当数、離反することも考えられる。
しかし、立憲も公明も党勢が低迷しつつあるなか、中道政治、いや、民主主義勢力を政治に残そうとするなら、これ以外に方法はないのではないか。
公明党が安倍政権の片棒を担いで、日本のデモクラシーを蝕んできた過去を忘れたわけではない。しかし斎藤代表率いる現在の公明党は、高市政権とはさすがに組めないと言って、自分から連立を離れた。自らの権力を維持したいだけなら、政権内に止まったはずだが、そういう選択をしなかった。彼らが、戦争やファシズムへと向かう流れの防波堤となろうとしている意志については、信頼できるのではないだろうか。
僕はそこに希望を見出したい。
というより、それ以外に道がないように思う。
もっとも、両党には政策的な違いもあり、それをいったいどうするんだという懸念もある。個人的には、公明党が安保法制を合憲としていることや、原発再稼働を容認していることなどには、賛成できない。
だが、主張や政策にどんな正当性があったとしても、十分な数の人々が運動に賛同し、参加してくれなければ、社会運動が成功することはない。運動を純化させればさせるほど、仲間は減っていく。それは物事の道理である。
したがって自分の主張は主張として保持し、違いは違いとして認めながらも、他者との一致点を見出して、合意形成し、協働していくことがぜひとも必要になる。それが中道主義の態度であり、民主主義の理念である。それはまさに、今回の新党結成の精神の核にあるもののようにみえる。
だからこそ、気になることもある。
斎藤代表は1月16日にアップされたYouTubeの「公明党のサブチャンネル」でインタビュアーから「政策が違うのに一緒になって大丈夫ですか?」と聞かれ、次のように述べた。
斎藤代表「たとえば集団的自衛権を限定的に容認した、公明党が作った平和安全法制、これが日本の今の安全保障を守る上で非常に大きな役割を果たしているというふうに評価されています。あの平和安全法制を認める。また原発については再稼働を認める。こういうことも5つの中道政治の柱に入っておりまして、そういうことに賛同する人が集ってくるということです」
インタビュアー「じゃあ賛同しない人は新党に来ない?」
斎藤代表「そういうことです、はい」
この動画は公明党支持者に向けられたもののようなので、あえてこのように言い切ってみせたのかもしれない。だが、このような方針を徹底してしまうと、こうした問題に異なる意見を持つ立憲民主党の議員が排除されてしまい、「希望の党」の失敗の二の舞になる。斎藤代表ご自身が説いている中道の精神からも外れてしまう。
立憲民主党の小西洋之議員は15日、ツイッターに次のように投稿した。
本日午後の立憲民主党の両議員懇談会では、2017年希望の党の失敗は犯さない、すなわち、立憲・公明の基本政策のすり合わせをしっかり行い、排除の論理は講じないことが確認されました。 私は安保調査会副会長として、安保法制に関する調整に責任を持って関与することの言質を安住幹事長から得ました。
僕は新党の中に、安保法制や原発について異なる意見の人たちがいて良いと思う。というより、それこそが今回の新党の結成の趣旨だと理解している。
すなわち、対話と合意形成と包摂を目指す中道主義の実践である。



