第390回:ヘリクツ天国ニッポン!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

高市首相の言い分

 「理屈と膏薬(こうやく)はどこにでもつく」という俗諺がある。まあ、この場合は「理屈」というよりは「ヘリクツ」に近い。でも膏薬ならば薬だから貼れば痛み止めの役には立つ。けれど、この場合のヘリクツは鬱陶しいだけで何の役にも立ちはしない。
 そんな最近の「ヘリクツ」の最大のベタ貼り膏薬(公約じゃない)が、「高市解散」であったことは間違いない。先週のこのコラムでも書いたけれど、もう一度強調しておく。高市首相の言い分はまったく無内容なヘリクツである。
 なにしろ「解散の大義は何か」を問われて、「ワタクシ高市早苗が総理大臣にふさわしいのかどうか、それを問う解散総選挙でございます」と答えたのだ。そんなバカな解散理由があるか。そんなヘリクツが成り立つならば、首相が替わるたびに解散総選挙をしなければならないことになる。
 さすがにそれでは筋が通らないと思ったのか、次はこれだ。「総理大臣としてワタクシ高市早苗がいいのか、野田さんや斉藤さんがいいのか、それを選んでいただく」などと言い始めた。開いた口が塞がらない。
 日本は「議院内閣制」であり「大統領制」とは違う選挙制度なのだ。だから直接首相を選ぶというシステムではない。それを無視して「高市か、野田か斎藤かを選べ」というのだから、ヘリクツにもなっていない。だいたい高市氏、日本の選挙制度そのものを理解できていないというしかない。
 さらに、2月1日のNHKでの党首討論を突如「持病のリウマチ悪化のため」との理由で欠席。ところがなぜかその足で岐阜や愛知へ出かけ、街頭演説で痛いはずの腕をぶんぶんぶん回している動画が流れていた。もしほんとうにリウマチで緊急治療を受けなければならない状態ならば、せめてその日は「静養」に充てるのが当然だろう。病気で休んだって、誰も批判なんかしない。
 これは直前の『週刊文春』で統一教会から高市氏への献金疑惑が報じられたので、またもれいわの大石晃子氏に事実関係を問い質されるのを回避したのではないか、との憶測も飛んでいた。そうでないならば、きちんとヘリクツでない理由を説明すべきだろう。
 さらに高市氏、1月31には「円安で外為特会(外国為替資金特別会計)の運用が好調でほくほく状態」と、まるでアホな発言をして周囲を呆れさせている。円安が物価高騰を招き国民が四苦八苦している現状をまったく分かっていない。さすがにこれには自民党内からも「頭を抱えた」との戸惑いの声が上がっている。
 もはや高市氏は、ヘリクツ以前の問題を抱えている。この人に日本経済を任せていては、困窮で「一億総火だるま」になりかねない。

「サナエ推し」のヘリクツ連発

 そういう人が首相なのだから、「サナエ推し」だとか「サナ活」などという人たちのヘリクツもなかなかのものだ。
 少し前に、ぼくはツイッター(“X”とは言いたくない)で、こんな発言をした。

テレビでは「日本からパンダがいなくなる」と大騒ぎをしている。なぜパンダがいなくなるのか…にはほとんど触れない。

 最初は賛成するリプがほとんどだった。そしてそれが「高市首相の台湾有事発言」のせいであることを、みなさんは理解しているようだった。ところが2、3日経つと、妙ないちゃもんが増えてきた。そのほとんどが同じ主張。例えばこんな具合だ。
 ただし、武士の情けでアカウント名は記さない。

何言ってんの
上野動物園のジャイアントパンダは中国から有償でレンタルし、そのレンタル期限が2026年2月だったからですよ
別の理由をあげて誰かを批判したかったのでしょうが残念でした
それどころか、多くの人から反撃されましたね

(原文ママ)

 これなどヘリクツの典型。高市氏の発言に怒った中国側が、田中角栄首相の時代(1972年)に始まった日中友好のシンボルの、いわゆる「パンダ外交」をいったん取りやめたというのが当然の理解だ。
 ところが「サナエ推し」の人たちは、そこに触れられるのを極端に嫌がる。だから「レンタル期限が過ぎたから返したのだ」の一点張り。
 それなら……、とぼくは問い返したい。
 角栄さんの時代からずっと日本に居続けたパンダが、なぜ急に1頭もいなくなってしまったのか? これまでだって「レンタル期限」が過ぎたパンダは返したけれど、他のパンダをずっと中国が貸与してくれていたではないか。パンダが日本でゼロになったのは、1972年以来初めてのことなのだ。
 それをなんとかごまかそうとするから、「期限切れ」を言わなければならない羽目に陥る。ヘリクツは所詮ヘリクツでしかない。本当の理由は少し考えれば誰だって分かる。それをむりやり取り繕おうとするから、苦しいヘリクツをこね回さなければならなくなる。
 ヘリクツという膏薬は、パンダの頭にだってくっついてしまう。

 同じようなことが、ぼくの他のツイートでも起きた。今回の選挙で使われる税金が約850億円にものぼるという報道に、ぼくは以下のように反応した。

この総選挙で使われる税金が約850億円。もしそれを食料高騰に悩む「子ども食堂」へ1000万円ずつ配ったら、なんと「8500カ所の子ども食堂」が助かるのですよ。

 これにも当初は賛同の反応が多かった。その中で「ほんとうは『子ども食堂』がない方がいい。それは本来政府がやるべきことです」というリプには、ぼくもその通りだと思うし、賛同する。
 けれど、やはり時間が経つと、悪意に満ちた反応が増え始める。こんな感じだ。

今後選挙はやらないって事でいいんですか?
この850億を使わないから子ども食堂へは配られませんよ?
それどころか選挙をしないという事は、子ども食堂に予算を配らなくても問題ないと考えるかもしれません。

(原文ママ)

 まあこの手の人たちの文章はなかなか理解しがたいけれど、とりあえず、ぼくが「選挙はやらなくていい」と言ったということが前提となっているらしい。こちらが言ってもいないことを捏造して批判するという、ヘリクツにもなっていない文章だ。
 ぼくのツイートをどう読めば「今後選挙をやらなくていい」ということになるのだろうか? ぼくは、その多額の費用を「もし他のことに振り分けたら……」というひとつの例を書いただけで、選挙否定などとは言っていない。
 しかも、選挙をやらないから予算を組めない。すると、子ども食堂へは予算を配らなくても問題はないということになる、と妙なヘリクツをこね始める。へえー、子ども食堂へ国の予算が投入されているのですか? そんなこと、初耳ですよ。もはやこうなると、ただの難癖に過ぎない。
 まあ、ほんとうにこの手のヘリクツが蔓延しているのがSNSである。疲れるからいちいち反論はしないけれど、そういう連中が大手を振って跋扈している現状は、やはり亡国の兆しなのだろう。
 彼らやたらと「オールドメディア批判」を口にする。だが、おかしなヘリクツをこね回すことが「ニューメディア」なのか。もういい加減にしてほしい。
 闘え、オールドメディアよ。こういう連中に、せめて事実を提示してあげてほしい。それがいまや「オールドメディアの使命」である。

トランプ氏の精神状態が?

 高市氏のヘリクツには呆れ果てているけれど、そんなもんを完全に飛び越してしまったのがトランプ氏だ。
 もはや、ヘリクツさえ口にしない。トランプ氏が話すのは、その時々の単なる思いつきである。だから言うことがくるくる変わる。支離滅裂なのだ。
 トランプ氏は、やや変調を来しているのではないか……と思えることさえある。
 ちょっとゾッとする記事があった(毎日新聞1月29日夕刊)。

トランプ氏の精神状態「危険」
スロバキア首相発言 米報道

 米政治専門メディア「ポリティコ」は28日、スロバキアのフィツォ首相が22日に開かれたブリュッセルでの複数の欧州首脳との非公式会談で、同氏が直前に面会したトランプ米大統領の精神状態について、懸念する内容の発言をしたと報じた。
 フィツォ氏と会談した欧州首脳から説明を受けた複数の欧州外交官が匿名を条件にポリティコに証言した。(略)
 ポリティコはフィツォ氏の発言について、会談した首脳から説明を受けた4カ国の外交官とEU高官1人から証言を得たとしている。外交官の一人によると、フィツォ氏はトランプ氏との面会で心の傷を負い、トランプ氏の様子について「まともではない」と形容したという。(略)
 フィツォ氏はEU首脳の中でも、ハンガリーのオルバン首相と並び、トランプ氏寄りの姿勢で知られる。報道は、トランプ氏に近いフィツォ氏の発言とされるだけに、EU内で波紋が広がっている。(略)

 「ポリティコ」は国際的に信頼できる「政治評論メディア」として知られているだけに、この報道はとくに欧州各国でかなりの話題となった。もっとも、当のフィツォ氏はあまりの反響の大きさに驚いたようで、すぐに自身の“X”で「憎悪に満ちた虚偽報道を強く拒否する」と投稿し、ホワイトハウスの報道担当者も「完全なフェイクニュース」と、報道を強く否定している。
 でもねえ、火のないところに煙は立たない。
 そのトランプ氏にべったりと寄り添い、中国に後ろ足で砂をかける高市首相の姿勢は、ますます危なく見えて仕方がない。
 各社の調査によると、今回の選挙では高市人気で自民党が圧勝の勢いだという。
 それで本当にいいのだろうか!?

 こんなふうに書くと、またも「そんなに日本がイヤならさっさと出ていけ」などという罵倒が飛んでくるだろう。
 もしも高市天下になったら、ぼくだってどこかへ逃げだしたい。
 けれど、ぼくは高齢年金生活者である。
 多少の副収入はあるけれど、とても外国へ移住できるほどの資金も体力もない。
 せめて穏やかな生活を、と願うだけなのだが……。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。