第13回:2026年1月ミネアポリス:絶望の中で立ち続ける勇気(小嶋亜維子)

ICEや国境警備隊による暴力的な取り締まり

 2026年1月7日、ICE(移民関税執行局、Immigration and Customs Enforcement)により、アメリカ市民であるレネー・グッドが銃殺された。それから1週間後の1月14日、無登録移民※1のフリオ・セザール・ソサ=セリスがICEにより撃たれ、命に別状はなかったものの病院に搬送後、収監された。1月20日、エクアドル出身のわずか5歳の男の子、リアム・ラモスが、幼稚園から帰ってきたところを家の前で待ち構えていたICEにより父親と主に逮捕され、収監された。彼ら親子は難民申請中であり「不法滞在」にはあたらない。その数日後、1月24日、アメリカ市民のアレックス・プレッティがICE支援のためとして投入された国境警備隊 (Border Patrol)により銃殺された。

 すべてミネアポリスで起きたことである。

 ミネアポリスはシカゴよりもさらに600kmほど北、農業地域であるミネソタ州の中にあって、IT、医療、流通産業などを基幹とする大都市である。隣接する州都、セントポールと合わせて「ツイン・シティズ(双子の都市)」と呼ばれ、ゼネラル・ミルズ、ターゲット、3Mなど、経済誌フォーブスによるリスト上位にランキングする大企業がいくつも本社をおいている。またミネアポリスには1990年代の難民受け入れ政策により、ソマリアからの難民・移民が多く定住している。ミネソタ州選出連邦下院議員であるイルハン・オマルも、ソマリア内戦を逃れミネアポリスに移住し、帰化した元難民である。

 この非常に進歩的で知的、多文化的な都市であるミネアポリスがトランプ政権による標的にされたのは昨年12月のことだった。

 9月から、「ミッドウェイ・ブリッツ作戦」として、イリノイ州シカゴがICEの標的にされてきたことは、このコラム(連載第10回~)でも繰り返し報告してきた通りである。特にグレゴリー・ボビーノ(Gregory Bovino)司令官率いる国境警備隊の暴挙に対して裁判所が差し止め命令を出すなど、暴力的な取り締まりに対する市民・司法による抵抗の高まりを受け、作戦は12月の終わりにはシカゴでの活動に一旦区切りをつけた。その代わりとして発動したのがミネアポリスをターゲットとする「メトロ・サージ作戦」である。

 これには、ミネアポリスが聖域都市(第10回参照)であることに加え、ミネソタ州で発覚した非営利団体「フィーディング・アワ・フューチャー(Feeding Our Future)」による大規模な連邦資金詐欺事件※2が関係している。同団体は、コロナ禍において連邦政府の補助金を受け、貧困層の子どもたちに食事を提供する活動をしていたとされていた。しかし検察によると、実際には活動実態が確認できない拠点が多く、総額2億5,000万ドル以上の補助金を不正に受け取っていたことが明らかになっている。

 横領した資金を高級車やブランド品、宝飾品などに使っていた同団体の代表は、エイミー・ボックという白人女性だった。ところが、起訴された70人以上の被告の中に、ソマリア出身の移民を含む東アフリカ系の人々が一定数含まれていたことから、この事件は反移民政策や福祉支出削減を推進するトランプ政権の文脈において象徴的に取り扱われ、「メトロ・サージ作戦」の根拠となったのである。

※1 いわゆる「不法移民」だが、このコラムでも何度か説明したように、 “illegal”という語が、手続き上の不備による違反状態というよりも深刻な「犯罪」を喚起させ、偏見を助長することから、より人道的に配慮した中立的な言い方として “undocumented immigrants”という語が使われる

※2 https://en.wikipedia.org/wiki/Feeding_Our_Future 米国最大規模といわれるこのパンデミック支援詐欺事件の影響は大きく、昨年カマラ・ハリスの副大統領候補として大統領選を戦ったミネソタ州知事、ティム・ウォルツは、監視責任をとる形で、今年の知事再選出馬を断念している。https://www.politico.com/news/2026/01/05/tim-walz-out-minnesota-00710541

「正当防衛」の説明とビデオ映像の矛盾

 1月7日朝レネー・グッドはパートナーと一緒に車で息子を学校に送り届け、その帰りにICE部隊と遭遇する。近くに移民が多く通う小学校があるため、ICEが暴力的な活動に出ないように法的監視員として見守っていたらしい。その地点は彼女の自宅から数ブロックの距離である。ICEの車両が雪道にとらわれて立ち往生しており、ビデオで見る限り、拘束・逮捕活動が行われている様子はなく特に緊張した場面ではなかったようだ。レネーの車は道に対して斜めに停車していて、そこで複数のICE隊員が異なる指示を出している。レネーに車を出して立ち去るように指示するものがいた一方で、車から降りるように指示するものもいた。レネーは車をゆっくりバックさせ、車体の向きを変え前方に走り始めたところで、ICE隊員のジョナサン・ロスが、運転席のレネーに向かって突然発砲、顔面を含む4発を撃ち込み射殺した。

 ICEを管轄する国土安全保障省 (Department of Homeland Security,DHS) のクリスティ・ノーム長官は、この事件は、レネーが車を「武器」として ジョナサン・ロスを轢こうとした「テロリズム行為 (“an act of domestic terrorism”)」であり、発砲は正当防衛であると発表した。しかし、この説明がまるで虚偽であることはビデオを見れば一目瞭然である。その証拠に、DHSの発表通りの見解を述べていたトランプ大統領自身が、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビュー中にビデオを見せられ口篭ってしまったことが報告されている

 さらにジェイミー・バンス副大統領が、ジョナサン・ロスを庇い、ICE隊員は「絶対的免責 (absolute immunity)」を有すると発言した。つまりICE隊員はその活動中に起きたいかなる事件において一切の責任を問われない、ということである。また、この事件の捜査からミネソタ州当局が排除され、連邦機関であるFBIのみが行うことになり、捜査の公正性をめぐりウォルツ州知事が強く抗議することとなった

続けて起きた、アメリカ市民2人目の犠牲

 アメリカ市民2人目の犠牲者となったアレックス・プレッティは集中治療室の看護師だった。

 メトロ・サージ作戦が激しさを増す中、連日ミネアポリスではICEに対する抗議行動も増えていた。1月24日朝9時頃、ICEが未登録移民を拘束していたところ、監視、見守りのため人々が路上に集まってきており、アレックスは携帯電話で状況を撮影していた。ビデオによると国境警備隊員がこうした抗議者のうち2人の女性を突き飛ばし、路上に倒したのが確認できる。アレックスは携帯を片手に持ちながら倒れた女性に駆け寄り、自分の体をつかって彼女をかばったところ国境警備隊員によりペッパー・スプレーを浴びせられ地面に押し倒された。そこでアレックスが腰に銃を携帯していたことがわかり、銃がとりあげられた。

 8人の隊員によってアレックスは押さえ込まれ地面に跪いた状態で、1人の隊員が背後からアレックスに発砲、さらに数発打ち込んだ。アレックスは倒れ、拘束していた隊員たちはみなその場を離れた。完全に地面に1人で倒れている状態のアレックスに、さらに最初の隊員と別の隊員が少し離れたところから2人で発砲。5秒間に少なくとも10発がアレックスに撃ち込まれている

 まだ捜査も行われていない中、大統領次席補佐官のスティーブン・ミラーは、事件について、「テロリスト(“terrorist”)」あるいは「暗殺者(“assassin”)」が連邦法執行機関職員を殺そうとしたという内容を繰り返し自身のSNSで発信。クリスティ・ノーム国土安全保障省長官も会見にて以下のように状況を説明した。〈アレックスが銃を持って国境警備隊員に接近してきたため、銃を取り上げようとしたところ「暴れて抵抗した (“reacted violently”)」。「自身と周りの隊員の命の危険を感じた (“fearing for his life and for the lives of his fellow officers around him”)」ために、当該隊員は「正当防衛として発砲した (“fired defensive shots”)。〉

 しかし、この説明はビデオとは真っ向から矛盾している。アレックスは銃を腰に携帯していたものの取り出してはおらず、片手に携帯電話を持っていただけである。国境警備隊によって押し倒されるまで、彼らはアレックスが銃を携帯していることすら気づいていなかったし、気づいた瞬間には銃を取り上げられたので、アレックスが撃たれたのは、丸腰で8人によって押さえつけられている状態だった。

各都市に広がる市民や企業による抗議

 レネー・グッドの殺害とアレックス・プレッティの殺害によって、これまでなんども繰り返されてきたICEの正当化――未登録移民のなかでもとくに凶悪な犯罪者、「最悪中の最悪 (“worst of the worst”)」な者たちを拘束し強制送還することで、アメリカを安全にしている――が欺瞞であることが暴かれたのである。トランプ政権は、未登録どころかそもそも移民ですらないアメリカ市民を、ほぼ処刑といってもいい形で殺害した上に、彼らをテロリスト呼ばわりし、その殺害の責任さえ明らかにしないのだ※3。もっと言えば、今回はアメリカ市民が亡くなってしまったからここまで大きな問題になったのであって、移民の犠牲者を含めればこれまでに少なくとも14人が銃撃され、4人が亡くなっている

 この圧倒的な暴力と不正義に対して、人々は抵抗し続けている。数えきれないほどの抗議集会が各都市で行われているが、特に1月23日、ミネアポリスでは “Day of Truth and Freedom”(真実と自由の日)と名付けられた大規模なデモとゼネラル・ストライキが起きた。約5万人がデモに参加し、約300の企業が連帯を示して休業したといわれる。この数にも驚かされるが、私がどうしても強調したいのは、この日は大寒波に襲われ、最高気温がマイナス22度、最低気温がマイナス30度という、想像を絶する寒さの日だったということである。その上で、この人出をあらためて見ていただきたい。

Photo:Downtown Minneapolis demonstration January 23,2026 by Lorie Shaull-Flickr

 NYをはじめ各都市もミネアポリスに連帯しデモが行われた。1月30日にはさらに全米に広がり、“National Shutdown”(ナショナル・シャットダウン)、“ICE Out” (ICE出ていけ)行動が、300カ所で行われた。こちらから各都市の写真を見ることができる。この日、次の反トランプ全米デモ “No Kings”(王はいらない)の日が3月28日になると発表された。

 絶望的な悲しみと怒りの中、人々は強く、強く立ち続けている。

※3 アレックス・プレッティの殺害については、彼が銃を所持していたことを正当防衛の根拠にするような政府の説明に対して、全米ライフル協会をはじめとする銃愛好家団体も、合法な銃所持者であるプレッティには銃を携帯する権利(憲法修正第2条)があるとして、異議を唱えている。この首尾一貫した銃への愛は、正直なところ私の理解を超えるが、理屈としては筋が通っており、その結果として共和党、トランプ政権の大きな支持基盤である銃愛好家から批判をうけている状況は皮肉だと思える。https://www.cnn.com/2026/01/26/politics/second-amendment-minneapolis-trump-pretti-shooting-nra

「抗議活動に近づかない」への違和感

 ここで紹介したいのは、日本領事館に在外邦人として登録すると配信されるメーリングリストのメールである。デモや抗議活動が予定・発生している際、「注意喚起」として送られてくるもので、道路や公共交通機関のルート変更の可能性などにも触れながら、状況への注意を促す内容になっている。おおよその文言は、おそらく外務省で作成された定型文なのだろう。具体的な場所や事態の詳細はその都度異なるものの、ある一文だけは、毎回必ず、一言一句変わらずに含まれている。

 不測の事態に巻き込まれることのないよう、報道等で最新の情報の入手に努め、抗議活動が行われている場所に不用意に近づかないなど、十分に注意を払ってください。

 毎回、この一文を読むたびに釈然としない気持ちになる。もしこれが、「抗議活動に参加するには、十分に注意を払ってください」ならわかるのだ。「不測の事態」は確かに起こる。レネー・グッドが亡くなったのもアレックス・プレッティが亡くなったのも「不測の事態」だ。だからこそ、命を守るために注意し安全を確保すべきなのは当然のことで、誰の身にも2度とあんな悲劇が起きるべきではない。しかし、巻き込まれるな、不用意に近づくな、とは……?まるで抗議活動とはそもそも避けるべきもの、参加するなど論外、という風に聞こえる気がする。

 硬い言い方をすれば、それは集会の自由・表現の自由を侵していると思う。しかしそれ以上に、抗議者への対決姿勢を崩さない政権下において危険な目に遭うかもしれないリスクを負って、マイナス22度の極寒の中立ち続ける、何千、何万という人々の姿を目にする時、もっと心情的な、強烈な違和感がある。巻き込まれるな、不用意に近づくな、とは、レネーやアレックスがその日そこにいた意義、彼らの存在が示している価値観、彼らが生きていた意味とはあまりにも真逆ではないか。

たった一つ絶えることのないものは慈悲

 全米青年桂冠詩人の初の受賞者となり、2021年のバイデン大統領就任式で若干22歳の若さで詩 “The Hill We Climb”(私たちの登る丘)を朗誦したアマンダ・ゴーマンは、レネーの死の直後と、アレックスの死の直後に詩を発表している。彼女もまさか数週間と時をあけずしてこのような詩を2つも詠むことになるとは思わなかっただろう。下記は “For Alex Jeffrey Pretti Murdered by I.C.E. January 24, 2026(2026年1月24日 ICEによって殺されたアレックス・ジェフリー・プレッティのために)” からの一節である。

We can feel we have nothing to give,
& still belove this world waiting, trembling to change.
If we cannot find words,
may we find the will;
if we ever lose hope,
may we never lose our humanity.
The only undying thing is mercy, the courage to open ourselves like doors,
hug our neighbor,
& save one more bright, impossible life.

私たちはもう何も差し出せるものがないと感じながら
それでもなお、変わることを待ち、震えているこの世界を愛することができる
もし言葉がみつからなくても
どうか意志をみつけられますように
もし希望を失うことがあっても
どうか人間性だけは決して失いませんように
たった一つ絶えることのないものは慈悲 自らを扉のように開き、
隣人を抱きしめ、
輝く、不可能にも思える命をもう一つ救う勇気

 悲しみと怒りの中で立ち続け、声を上げ続けること。その一番根底にあるのはこの世界への愛である。人を思いやるという勇気なのだ。

絶望の中からの動き

 人々の声が無視できなくなったトランプ政権※4は、移民取り締まり政策を軟化せざるをえなくなった。

 国境警備隊司令官グレゴリー・ボビーノは降格、左遷された。バンス副大統領は、ICE隊員に「絶対的免責 (absolute immunity)」があるとした自身の発言を否定し、「そんなことは言っていない」と主張している。ホワイトハウス報道官であるカロリン・リーヴィットは、アレックス・プレッティを「テロリスト」としたスティーブン・ミラー大統領次席補佐官の発言について「問題がある、看過できない (“troubling”)」と批判し、ホワイトハウスの見解ではないと距離をとった。クリスティ・ノームDHS長官は一連の事件とその扱いの責任を問われ、辞任を求める動きが強まっており、最新の世論調査でも58%が辞任すべきと答えている

 議会ではDHSの予算をめぐり、ICEの根本的な改革を求める民主党が激しい突き上げを続けている。予算更新期限の2月14日までに合意に至らなければDHSは予算失効し、業務が制限されることになる。ICEの活動自体は別枠の財源によってある程度支えられているため、直ちに停止することはないとされているが、それでもDHSの改革と予算の行方は今後を左右する重要な争点として注目されている。

 この原稿を書いているのは日本時間で2月9日、衆議院議員選挙の翌日。レネー・グッドの殺害から約1カ月、絶望の中から、ここまで来た。日本で生活する方たちに、そのことをどうしても伝えたかった。

※4 最新の世論調査では国民の3分の2がトランプの移民政策に批判的、支持政党別には、民主党支持者の91%、無党派層の66%が批判的な一方、共和党支持者は73%がトランプの移民政策を支持しており、分断がうかがえる。https://www.pbs.org/newshour/politics/poll-nearly-two-thirds-of-americans-say-ice-has-gone-too-far-in-immigration-crackdown

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小嶋亜維子
こじま・あいこ シカゴ美術館附属美術大学 (School of the Art Institute of Chicago) 社会学教員。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。イリノイ州における公平な公教育の実現を目指す団体「レイズ・ユア・ハンド・フォー・イリノイ・パブリック・エデュケーション(Raise Your Hand for Illinois Public Education)」理事。