第391回:われら闇より天を見る(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

重い気分

 ぼくは文章を書くのはわりと好きだから、このコラムの執筆もあまり苦にしたことはない。でも今回はちょっと(かなり)気が重い。いくら何でも、この選挙結果はあんまりだ……と思うからだ。
 だいたい、ぼくの周囲には「高市シンパ」なんて人はほとんどいない。「それはお前の交友範囲が偏っているからだ」と言われればその通りだろうが、それにしても、高市自民党の大勝ぶりは、ぼくには衝撃だった……。

 いまぼくが読んでいるミステリは『われら闇より天を見る』(クリス・ウィタカー、鈴木恵訳、ハヤカワ文庫)という文庫本。
 アメリカ・カリフォルニア州の小さな町に、かつて少女を殺した容疑で刑務所に服役していた男が帰って来る。そこから物語が始まるのだが、内容はこの際どうでもいい。このタイトルが、やけにぼくの気分を言い当てているような気がするというだけだ。闇の底から、せめて明るい空があるなら、それを見あげていたい。
 みなさんはどうだろうか?

失墜の原因

 「中道改革連合」の敗因ははっきりしていると思う。
 本来、立憲民主党支持者であった人たち、つまりある程度のリベラル傾向を持っていた人たちが、ごっそりと逃げてしまったことだ。まさに、それが中道改革連合の大敗の最大の意味だろうと思う。「中道」とは名乗りながら、ぐんと右寄りへシフトした中道。それはもはや「右派の中の中道」でしかなかったのだ。

 例えば、これまで革新系の強かった沖縄。そこでは今回は4選挙区とも、いわゆる「オール沖縄」系候補が敗れた。自民党が沖縄で4選挙区とも独占したのは復帰以降の選挙では初めての衝撃だ。敗因のもっとも大きな理由は、安住淳幹事長の「辺野古基地工事はいまさら中止はできない」発言だったに相違ない。
 これまでなんとか連携を保ってきたリベラル派の人たちが「それだけは許せん!」と、新政党「中道改革連合」から離反した。結果はご存じのとおり。

 また、反自民の色合いが濃かった新潟県でも、自民党が5区すべてで勝利した。ここでの大きな争点の一つが柏崎刈羽原発の再稼働をめぐる問題だった。新潟県による直前調査ですら「再稼働の条件は満たしていない」との県民の声が強かったのに、中道改革連合は公明党の意を汲み、再稼働容認に舵を切った。
 これは新潟県民の中のリベラル傾向に、ザブリッと冷水をぶっかける効果しかなかった。そして結果がこれだ。
 敗因を探ればたくさんの理由があるだろう。けれど、全体として「中道とは何か」をほとんど提示できなかった結果である。本来の支持者たちがごっそり逃げ出した。たった1年半前の衆院選で獲得した立憲候補者たちの票数から、どれだけの票が逃げ出したか比較してみればよく分かる。

左派連合

 共産、れいわ、社民も、惨憺たる有様だった。そこから脱するためには、この3党が「左派連合」を形成することだ。もっとも分かりやすいのは「左派連合」という新政党の立ち上げだ。しかしそれは不可能だと思う。
 共産党は「共産党」という名称を絶対に捨てないだろう。党名を自らの存在証明と思っているのだ。れいわも社民も、さすがに「共産党」という名称の下への参加はできない。とすれば、名称がネックとなって新党結成は難しい。
 名前にこだわれば、未来は暗い。
 だが、名を捨てて新党を結成するのが果たして成功するかどうかは疑わしい。かつての諸政党の浮沈を見れば死屍累々だ。新党が現れては消え、消えては現れた。今回の「中道改革連合」もその例だろう。
 だから共産党が名称にこだわる気持ちも分からないわけではない。けれど、それにこだわればじり貧であることは結果が示している。
 ぼくはやはり、リベラルの新しい旗が必要なのだと思う。
 かつて枝野幸男氏が“排除されたリベラル派”を結集して「立憲民主党」を立ち上げたときのような熱気を、もう一度国民の前に示すことができるかどうか。

小選挙区制

 ところで、今回の選挙での自民党の比例での得票は21,026,139票で、得票率は36.7%。つまり、党としては40%に満たない得票率でも、定数465議席のうち316議席という約68%を獲得してしまうという結果になった。
 これまでもさんざん指摘されてきたことだが、1区1人当選という小選挙区制の歪みがここに表れている。つまり、小選挙区制は多量の「死に票」を生んでしまうシステムなのだ。ぼくはこれまで「小選挙区制反対」をずいぶん言ってきたのだが、ここまでくると、現行選挙制度が国のかたちを歪めているとしか言いようがない。
 早急に「選挙制度改革」をしなければ、国民の意思が議会に反映されないという現象がこれからも続くことになる。しかし、小選挙区制で勝った側が政権を握るのだから、政権側が選挙制度改革に乗り出すとは考えにくい。国民が声を挙げるしか方法はない。でも、それは難しいだろうなあ……。

大政翼賛会

 高市首相は、すさまじいほど図に乗るはずだ。なにしろ、あの保守派専属(?)評論家の田崎史郎氏でさえ、テレビで「これからの課題は高市さんの暴走を抑えること」とコメントせざるを得ないほどなのだ。
 トランプ米大統領は衆院選直前、内政干渉ともとれるような「高市推し発言」を行った。高市首相は3月、トランプの後ろ盾を得た形で渡米する。首脳会談でどれだけの“貢物”をトランプ様に捧げるのか。高市は、世界を大混乱に陥れているトランプと“これまで以上に緊密な同盟関係”を謳い、日本を国論二分の混乱状態にしてしまうに違いない。
 つまり、選挙中はひた隠しにしていた「国論を二分するほどの政策」を次々に出してくるはずだ。そして最終的な目標は、言わずと知れた「憲法改定」だ。中でも彼女が忌み嫌う「前文」と「9条」を目の敵にするだろう。
 その前段階として、「スパイ防止法」「国家情報局新設」「国旗損壊罪」「外国人排斥」「安保3文書改訂」「非核3原則否定」「核保有」「原子力潜水艦建造」「殺傷能力武器輸出」「赤字国債無制限発行」「軍拡増税」「社会保険制度改悪」「円安進行の物価高騰」などなど、危ない施策のバーゲンセール。
 だが、国会はそれに歯止めをかけられそうもない。3分の2の議席を得た高市自民党天下の国会は、戦争へひた走った“あの時代のあの国会”のような「大政翼賛会」の様相を呈するだろう。

 日本の行く末はどうなるか。
 行き着く先は地獄とぼくは見る。
 しばらくは「闇より天を見る」しかないだろう。
 ただ、選挙直前にSNS上に発生して拡がったフレーズ。
 【#ママ戦争止めてくるわ】
 ぼくはそこにほんの少しだけ、「明るい天の光」を見た気がしている。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。