第2回:仮放免の子どもたちの人権はどうなっているのか(樋田敦子)

1日の食事は1回か2回でいつも空腹

 「昼食は、おにぎりを1個作って持参するので、それを食べ、足りないので友だちのお弁当をもらって食べています。何も持っていけないときは『ダイエットをしているから』と嘘をつくこともあります。この間は、体育の授業でテニスの試合で勝ったので、友人に食事をおごってもらいました(笑)」
 ナイジェリア出身の高校3年生のエマさん(18歳、仮名)はそう言って笑った。この日は昼食をとりながらのインタビューになり、「本当に何食べてもいいんですか?」と彼女は嬉しそうにハヤシライスを選んだ。

 エマさんは小学3年生のとき、キリスト教の牧師だった父親と母親、1歳上の姉と妹の一家5人で、日本にやってきた。故国はイスラム原理主義の過激派「ボコ・ハラム」が支配しており、彼らはキリスト教徒たちを襲撃し、村を焼き払い、拉致誘拐して女性や子どもたちを迫害していた。
 エマさんの両親も双方の両親や家族を誘拐、殺害された。
 「ナイジェリアには良い記憶はありません。銃撃の音やあちこちで死体をみるなど、“やばかった記憶”しかないのです。目の前で繰り広げられる状況がただただ怖かったのを覚えています。それに引き換え日本は銃撃もなく、日本にたどり着き、初めて安心して眠れた夜のことを私は一生忘れないと思います」
 小学校3年生なのに、姉とともに小1のクラスに入り、日本語を猛特訓した。最初の頃は、日本語が分からないため授業についていけなかった。周囲からも肌の色をばかにされ、差別に遭ったが、持ち前の明るさと粘り強さで乗り越えた。「見返してやろう」の気持ちが勉強に向かわせ、少しずつ差別もなくなっていった。
 「この場所で頑張りたい、日本は私の故郷だと思いました。勉強することは私にとって未来への希望そのものだったのです」
 しかし、安住の国であるはずの日本で、違う困難が待ち受けていた。

在留カードに穴があいた

 故国を追われるように来日した一家は、その後何度も難民申請をしたが、許可されなかった。日本は難民認定が厳しく、イギリスは年間3万7021人(認定率42.4%)、ドイツは4万1107人(同15.6%)を難民認定しているのに対し、日本は190人(同2.2%)にとどまっている(2024年)。
 エマさんが中学生になるまで所持していた、3カ月を超える中長期の在留者に対して交付される在留カードには、目の前でパンチの穴が入れられた。中学1年生のこの日から仮放免になったが、幼いエマさんには仮放免の意味が分からなかった。
 「仮放免」とは出入国管理及び難民認定法第54条に定められた制度で、難民申請が認定されないなどの理由で超過滞在(オーバーステイ)になり「収容令書若しくは退去強制令書の発付を受けて収容されている者」に対して、健康上、人道上などの理由で一時的に収容を解除すること。入国管理局に収容されず、外で生活することができる。
 しかし在留資格は付与されず、収容されるかもしれない待機中の状態で、基本的に「就労不可、移動制限、国民健康保険への加入不可」などの厳しい制限がある。移動制限によって、修学旅行や部活の遠征などで居住地から他の都道府県への移動の際には入管の一時旅行許可がいる。運用の変更で、現在エマさんは県外移動ができるようになっているが、ある仮放免のクルド人の男子高校生は、修学旅行先のホテルの部屋割りの提示までも求められたという。エマさんの場合も修学旅行の申し込み前日に許可が下りて、修学旅行に参加することができた。
 また、働くことが制限されるので収入がなく、食事は教会や支援団体からの寄付品を頼り、いつも空腹を感じながら、制約の中で生きている仮放免の家庭が多い。何より困っているのは医療費だという。健康保険に加入できないので医療費は100%自己負担になり、風邪をひいても、インフルエンザにかかっても、けがをしても病院には行けず、市販の薬で対処してやり過ごす。
 「私がアルバイトできれば、少しは家族の生活が楽になると思うのですが、それもかないません――」
 エマさんはそう言って明るく笑った。

ゼロプランにより大幅に増えた強制送還

 現在、一家は月に1回ないしは2回、品川の出入国在留管理庁(通称・入管)に出頭し、職員との面談で生活状況をチェックされ仮放免の延長許可を受けている。
 入管では、外国人が入管の職員に「帰れ」と怒鳴られている光景を見た。
 「うちら何か悪いことしたの」
 犯罪者扱いに恐怖を感じたという。
 入管の仮放免制度は入管法で大枠が決められているものの、具体的な運用は現場の判断に委ねられる。例えば移動許可の制限などについては、全国にある入管ごとに「独自のルール」や「施設ごとの基準」があるので、運用の仕方はばらつきがあり、平等とは言えない現状だ。エマさんはそこに疑問を持つ。
 日本政府は2025年5月に「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」(以下ゼロプラン)を発表し、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢を鑑み、不法滞在者ゼロを目指す」という方針を打ち出している。
 このプランにより、強制送還(護送官付き国費送還)の数が大幅に増え、同年6月~8月の3カ月で、119人が母国などに送還された。前年同時期の2倍の数だ。ゼロプランの開始以来、日本で育った子どもやその親が次々に強制送還され、親子が離れ離れになったケースも多い。
 エマさんにとっても他人事ではない。両親は強制送還の危機にさらされており、自分や姉妹もどうなるかわからない。だからこそ、自分が大学に行って認められ、きちんと在留許可を取りたいと考えている。

命を守るために日本に来たのに……

 中学校から打ち込んだ部活は経済的な困窮のために、高校生のときに断念せざるを得なかった。両親がいろいろな人からの借金をして生活を何とか維持してきたものの、その様子を見てきたエマさんは、これ以上、迷惑をかけられなかった。
 通学する公立高校の授業料も滞納している。高校は国の就学支援金制度によって実質上無償化されているが、就学支援金は国内に住所を有するなどの要件が必要で、仮放免の子どもたちには適用されないのだ。エマさんも無償化の対象にはならない。収入のない家庭なので、学校側とは授業料などを分割で払えばいいという取り決めを交わしたが、困窮により毎月払うことは難しくなった。
 外国人も含めた困窮者支援をしている一般社団法人反貧困ネットワークの「仮放免高校生奨学金プロジェクト」では、2023年から、就労が認められず困窮する家庭の子どもたちに返済不要の奨学金を月に1万円(高校の授業料相当)ずつ支給している。エマさんもその対象になっているが、その1万円は学校への通学定期代に消えてしまう。
 一般的に高校にかかる費用は、授業料のほかに、施設設備費、副教材費、修学旅行積立金、PTA会費など“隠れ教育費”と呼ばれるものがある。3年で100~150万円程度、1年間に30万円ほどと言われ、食糧支援や学用品購入サポートがあっても、支給金だけではとても追いつかない。
 「うちの学校も月に4万円ほどかかります。このままの滞納が続けば、高校が卒業できないかもしれないのです」
 いろいろな困難はあるが、エマさんは自分と同じ境遇の、外国にルーツを持つ子どもたちへの学習支援やボランティア活動にも励む。自分の姿を見て、子どもたちにも希望を持ってほしいからだという。
 心を痛めているのは、そればかりではない。ヘイトスピーチの影響もある。YouTubeやTikTokなどのSNSでも外国人への批判が流れ、街頭では外国人排斥のスピーチが平然と行われている。
 「学校の友人との会話の中で、非正規滞在者、仮放免の話がネタとして出てくることもあります。私は自分が仮放免であるとは周囲に言ったことはないので、話を逸らして回避しています。ヘイトの街宣に遭うと、パーカーのフードをかぶって、日本人とのハーフを装うこともある。そんなときはとても複雑な心境になります」

学びたいだけなのに、それがこんなに難しい

 1月27日、東京・千代田区の参議院会館において「エマさんの進学を応援し、日本で生きる選択肢を!」という集会が行われた。エマさんの訴えを受け、進学費集めを応援し、大学進学まで伴走しようと呼びかけるものだ。
 エマさんの姉は、昨年専門学校に入学した。2年間の学費と生活費の一部を支給するという奨学金を取り付け、晴れて専門学校生として一歩を歩み出した。そんな姉の姿に勇気をもらい、エマさんも何としてでも専門学校や大学に進みたいと考えた。
 「こんな状況でも姉は努力していて自分の夢を勝ち取っていいます。私も自分の夢を勝ち取るために寄付金を募る呼びかけをしようと考えました」
 反貧困ネットワークの業務執行理事の稲葉奈々子さん(上智大学教授)は次のように語る。
 「これまで仮放免高校生奨学金プロジェクトでは、54人の仮放免高校生を支援してきました。今年度は資金不足により大学などの進学支援を断念しましたが、エマさんの大学に進学したいという強い意思により、彼女の主導でこの集会を実施しました」
 エマさんは、ナイジェリアの作家、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの小説『アメリカーナ』を読み、移民の経験や文化的なアイデンティティの葛藤と形成に強く心を動かされたことから、将来は英米文学を学びたいのだという。大学に入学したいが、かなわなければまずは専門学校を卒業して大学に編入することも視野に入れている。
 昨夏には語学専門学校への出願を試みて説明会に参加した。説明にあたった学校側からは「ぜひ入ってほしい」と言われたが、出願しに行くと、在留資格の問題で断られた。
 「入ってほしいと言われてその気になり、100%行く気でいたのに仮放免だからと断られ絶望的な気持ちになりました。高校では担任に、この受験拒否の問題で叱責されてひどく落ち込みました」
 稲葉さんによると、仮放免の高校生の相談にのっている大学生のチューターたちが、約50の専門学校、大学に出願・受験に関するアンケートを実施したところ、「在留資格を持つ学生のみの受け入れとなる」「これまで受け入れていない」などの理由を掲げ、受験拒否や出願拒否とした学校が大半だった。また合格後に仮放免であることが発覚して入学を取り消されたケースもあった。
 文部科学省に「在留資格を理由とした受験・入学拒否」について質問すると、「仮放免の高校生が受験することは、法令上何の問題もない」としつつも、大学が在留資格を理由に入学を拒否することについて、「大学にとっては合理的な判断ではないとは言えない」という回答だった。
 「『強制送還になったら勉強が続けられないから』というのですが、日本の学生でも外国人でも経済的な理由で大学を退学する人はいるので、仮放免という理由だけで断るというのは納得いきません」(稲葉さん)
 エマさんのチューターを行っている大学生ボランティアは「私たちは、高校3年の受験のとき、勉強することしか考えなかった。勉強さえ頑張ればよかった。しかしエマさんをはじめとする仮放免の高校生は、勉強すれば何とかなるという状況ではありません。何とか改善してほしい」と訴える。

エマさんへの支援を訴えるチューターのおふたり

子どもの最善の利益を保障するのは国の義務

 エマさんはその後受験できる学校を見つけ、この記事が出るころには入試は終了している。合格すればすぐに入学金や学費、諸経費が必要となる。
 「皆様からの支援は単なる寄付ではなく、生きていい、夢をもっていいという希望になります。将来は教育の分野に進み移民問題や人種問題、ジェンダーやアイデンティティに関して学生に教え、社会運動へも貢献していきたいと考えています。
 仮放免の私たちは何もしてはいないし、普通に暮らしているだけ。私にはどうにもできないし、考えることも行動することも含めて、自由にさせてほしい」
 最後にエマさんは「夢をあきらめない」と結んだ。
 この連載の第1回にも書いたが、子どもの権利条約の4つの原則「差別の禁止、子どもの最善の権利、生命、生存及び発達に対する権利、子どもの意見の尊重」を日本の政府は守っているのだろうか。
 国連・子どもの権利委員会が2017年に出した一般意見には「正規、非正規の移住者であるかどうかにかかわらず、子どもたちの最善の利益を受けるために国は義務を果たさなければいけない」と述べられている。日本への教育に関する勧告も行われていて、大学・短大入試へのアクセスについても差別しないように促している。
 人々が命を守るために来た国で、こどもたちの未来を奪ってはならない。日本の入管行政はどこに向かっているのか。子どもの最善の利益を守れる日本の社会であってほしい。

〇現在、仮放免高校生エマさんの進学費用の寄付を募っています。集まった寄付金はエマさんの学費、入学金、進学のための諸費用に充てられます。

寄付口座 みずほ銀行飯田橋支店(061)普通3056440
一般社団法人反貧困ネットワーク

※エマさんは銀行口座をつくることができないため、一般社団法人反貧困ネットワークが協力しています

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樋田敦子
ひだ・あつこ:ノンフィクションライター。明治大学法学部卒業後、新聞記者に。日航機墜落事故、阪神淡路大震災など、おもに事件事故、司法の報道現場に立った。その後、フリーランスになり多くの雑誌やネットメディアで、主に女性や子どもたちをテーマに取材執筆。テレビ、ラジオの構成ほか、女子短大教員も。著書に『女性と子どもの貧困~社会から孤立した人たちを追った~』『東大を出たあの子は幸せになったのか~「頭のいい女子」のその後を追った』『コロナと女性の貧困2020-2022~サバイブする彼女たちの声を聞いた』(すべて大和書房)などがある。認定NPO法人CAPセンター・JAPAN理事。