第754回:排外的な空気に乗っかる入管難民法改正案と、18〜25年のものと比較して今年から突然「喧嘩腰」の「総合的対応策」について。の巻(雨宮処凛)

撮影・井上治

 またしても、排外的な空気に「乗っかる」ようなことが起きた。

 3月10日に閣議決定された入管難民法改正案だ。

 どのような内容かと言えば、一言でいって外国人への負担爆上げ。

 在留資格の更新・変更は現在の6000円から最大7万円への大幅値上げ、また永住許可は1万円から20万円程度と突然の20倍アップである。

 選挙権のない外国人へのいきなりの負担増。政権支持率にも響かないことから、政府はやりたい放題だろう。思えば昨年から、排外的な空気に乗じる制度変更はすでに起きていた。

 例えば昨年6月末には博士課程の学生への生活費支援から留学生が排除されることが決定し、11月には社会保険料などに滞納があれば在留資格の更新が難しくなるなどの運用変更が発表されている。

 それだけではない。入管庁は昨年から「不法滞在者ゼロプラン」にて強制送還を倍増させている。これの何が問題かについてはこの原稿を読んでほしい。

 そうして昨年10月に発足した高市政権では外国人担当大臣が誕生。その翌月には外国人問題に取り組む関係閣僚会議も設置された。いずれも共生よりも管理や排除といった強硬姿勢が目立っている。

 もちろん、外国人による投機や土地取得などへの規制は一定必要だろう。が、満足な議論もないまま急ぎすぎ、やりすぎな感は否めないのではないだろうか。と思っていたところにこの入管難民法改正案の閣議決定である。

 そんな中、1月23日に出された「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(以下、総合的対応策)が注目を集めていることをご存知だろうか?

 これは外国人政策の方向性を示すもの。発表された総合的対応策には、日本国籍取得や永住許可の厳格化、土地取得のルールのあり方、外免切替の厳格化などが盛り込まれているのだが、外国人の生活保護について「適正化」として触れられている。

 こう書くと、「外国人は生活保護を受けやすい」「生活保護利用者の3割が外国人」などというネット上のデマが事実であるかのように思う人もいるだろう。

 が、データをみれば生活保護利用者における外国人の割合はわずか3%。そもそも外国籍の人は生活保護の対象ではなく「準用」という扱いで、その対象となるのは永住・定住等の人のみ。それでも疑う人のため、「外国人は生活保護を受けやすい」がどれほど現実とかけ離れているかを示す実例があるので紹介したい。

 それは2021年、42歳で亡くなったあるカメルーン人女性の例。

 日本で難民申請したものの認められなかったこの女性は乳がんに罹患。在留資格がないので保険証もない状態で入院するものの、がんは脳や肺、骨などにも転移し、末期の状態に。手の施しようのない状態で退院したのだが、そんな彼女を待っていたのはホームレス生活。入院中、家賃を滞納していたため部屋を追い出されてしまったのだ。末期がんにもかかわらず、住まいのない状態に陥ってしまった女性は友人宅やネットカフェを転々とする生活となり、コンビニの駐車場で途方に暮れているところを牧師さんに発見され、保護される。

 最期は教会などの尽力で病院のベッドで息を引き取ったのだが、言葉もわからない国で末期がん、かつホームレスという状態でも生活保護が利用できないのがこの国の現実なのだ。「外国人は生活保護を受けやすい」のであれば、こんな悲劇が起きているはずはない。生活保護の「適正化」など、現実とかけ離れた話なのだ。

 さて、そんな総合的対応策だが、最初に「基本的な考え方」が書かれている。その1行目は、以下だ。

 「一部の外国人による、我が国の法やルールを逸脱する行為・制度の不適正利用について、国民が感じている不安や不公平感に対処する必要」。

 が、それがどのような行為であるかについては触れられていない。前々回の原稿で、外国人問題は今後、刑法違反と入管法違反とゴミ出しなどのルール違反が意図的に混同されて語られるだろうと指摘したが、まさにそのような書きぶりではないか。

 そして「国民が感じている不安や不公平感」という言葉。が、前年比でこれだけ不安や不公平感を感じている人が増えているなどのデータなどはどこにも示されていない。完全に、「今がチャンス」とばかりに排外的な空気に乗っかっているのだ。

 では何を根拠にしているのかと言えば、小野田紀美外国人担当大臣は、「ネットを見て、世間で問題になっていることを拾えているかチェックしている」とのこと。ネット世論で政策を決めるなら、外国人担当大臣って誰でもできるのでは──と遠い目になるのは私だけではないはずだ。

 そんな「総合的対応策」だが、最近、『ニッポンの移民──増え続ける外国人とどう向き合うか』を読んでいて、これが日本の「統合政策」に位置付けられているということを改めて知った。

 統合政策とは、「生活保護や国民皆保険への加入などの社会保障や、裁判を受ける権利など司法システムへのアクセスといった基本的権利の付与に関する政策と、語学研修や公営住宅への入居など、より積極的な介入にかかわるものの2つに分けられる」ということ。外国人との共生の根幹をなす、むちゃくちゃ大切なものではないか。

 で、その「総合的対応策」、18年に策定されたとのことで、18年から昨年までのものを見てみたのだが、一読してとにかく驚いた。

 18年から25年の「総合的対応策」、非常にマトモなのだ。

 例えば今年1月に発表されたものには、前述した通り「一部の外国人による、我が国の法やルールを逸脱する行為・制度の不適正利用」云々とあるわけだが、18年バージョンには「外国人材の適正・円滑な受入れの促進に向けた取組とともに、外国人との共生社会の実現に向けた環境整備を推進する」とある。

 昨年25年版には「日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会の実現を目指し、外国人がキャリアアップしつつ国内で就労して活躍できるようにすることなどにより、日本が魅力ある働き先として選ばれる国になるような環境を整備していく」とある。

 内容も、「生活者としての外国人に対する支援」「外国人の目線に立った情報発信の強化」「外国人が抱える問題に寄り添った相談体制の強化」などが並び、さまざまなサービスの充実や環境整備が謳われていて、一言でいって非常に「優しい」印象を受けるのだ。

 それがどうしたことだろう。18〜25年まで共生しよう、選ばれる国になろうと言ってた国が今年からいきなり喧嘩腰になって外国人を疑いの目で見始め、管理・排除を進める強硬姿勢を剥き出しにしているのである。

 しかも昨年までずっと「外国人の受入れ・共生のための総合的対応策」だったのに、今年から「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」と「秩序ある」が加えられた。

 100年後とか、歴史の勉強をしている未来の人がこの変化を見たら――。

 「この国で2025年から26年にかけて何があった? 戦争でも準備してるのか? それかこの国で戦争が始まったのか?」と思うのではないだろうか。

 もちろん、去年までだって外国人を巡っては、実習生の人権侵害などさまざま問題はあった。しかし、共生社会を目指すという理念は、その方向性は決して間違っていなかった。それなのに今年から、まるで怪文書のようになっている総合的対応策。

 はからずも現在、世界は不穏すぎる情勢だ。

 そんな中、排外主義が煽られることは百害あって一利なしということは子どもにだって理解できるだろう。

 今一度、軌道修正の道を探ってほしい。そのためにこの原稿を書いた。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など50冊以上。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。