第396回:「テロ国家」とは……(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 トランプの口汚さは毎度のことだ。イラン爆撃について「イランは狂ったテロ国家だ」と喚きたてた。イスラエルとともに、他国の首脳を問答無用で暗殺しておいて「狂人をひとり屠った。これで世界は平和になる」と平然と主張する。
 武力で他国の首脳を殺し体制変換を図ることは、国際法違反であることは間違いない。だが「オレには国際法など関係ない」とうそぶく。

 アメリカとイスラエルはイランを「テロ国家」だと罵倒する。イランは逆にその両国を「お前らの国こそテロ国家だ」と批判する。どちら側にとっても相手が「テロ国家」なのだ。つまり「テロとは絶対悪である」と双方が認識しているということだ。
 「ナチズム絶対悪視」とよく似ている。

 ただし、今回のイラン戦争について、世界の中で、トランプの言い分を是とする国家首脳は“片手の指で数えられる”くらいしかいない。
 極右といわれ、トランプとの関係良好とみられていたイタリアのメローニ首相でさえ「今回のイラン爆撃は国際法から逸脱している」としてNO! を突きつけた。スペインのサンチェス首相はもっと強くイスラエルとアメリカを批判した。カナダのカーニー首相も「中堅国の連携」を呼びかける。
 トランプは15日、「7カ国にホルムズ海峡封鎖解除のため艦船を送るよう要求した」と記者団に語った。その中には、日本、中国、イギリス、韓国、フランスが含まれているというが、18日現在、艦艇派遣を表明した国はない。
 むろん、中国もトランプ要求に応じる気配はない。それに業を煮やしたトランプは「3月下旬に訪中予定だったが、1カ月程度延期する」と言い出した。オレの言うことを聞かないヤツの顔は見たくない、というガキ大将。

 トランプは四面楚歌だ。だが我が高市首相は、片手の指で数えられる首脳のうちのひとりらしい。19日に渡米し首脳会談をする予定の高市首相に、トランプは当然のように「ホルムズ海峡への艦船派遣」を要求するだろう。国会での高市首相の答弁はあやふやで、「要求を拒否する姿勢」は示していない。
 高市氏は例の作り笑いでトランプの腕にぶら下がりながら、いったいどんなことを言うのだろう。ぼくは心配でたまらない。

 事態は緊迫している。トランプの行き当たりばったりの言動がことごとく裏目に出ている。数日間で終わるはずだったイラン攻撃は、2週間を過ぎてもまるで先が読めない。出口は遠く真っ暗闇だ。
 トランプは例によって「戦争はもう数週間続くだろう」と前言を翻した。
 戦争開始で原油価格は高騰。トランプが「この戦争はすぐに終わる」と豪語したので一旦は下がったものの、イランによるホルムズ海峡封鎖で、すぐにまた凄まじい高騰に転じた。それでもトランプは「米艦隊がタンカーの護衛をするから価格はすぐに下がる」と豪語。だがトランプの言葉など、もう誰も信用しなくなった。

 後先かまわず相手かまわず、その場その場で思いついたことを言う。それも「狂人」「愚か者」「最低首脳」「悪の指導者」等々、とても最強国の大統領とは思えぬ汚語まみれのデタラメ罵倒、朝令暮改どころかつい数時間前に言ったことでさえ忘れている。周りの者たちだって、どう対処していいのか分からない。手の施しようがない。
 そんなトランプだから、ホワイトハウスのレビット報道官の記者会見での対応も、もうシッチャカメッチャカだ。例えばこんなやり取りが11日にあった。

記者:トランプ大統領は「イランが戦争を仕掛ける前にこちらが攻撃しなければならなかった」とおっしゃっていますが、イランがアメリカを攻撃するという確かな証拠はあったのですか?
レビット報道官:それは大統領の直感です。

 まるでブラック・ジョークである。
 相手がオレを殴ろうとしていると感じた。だからオレの方が先に殴ってやったんだ。
 どう思いますか、あなたは?

 いつも大国の顔色ばかりうかがっているIAEA(国際原子力機関)のグロッシ委員長でさえ「イランの核兵器開発の兆候は見られない」と言っていたのに、「いや誰が何と言おうとイランは核開発を進めているに違いない」と喚くトランプ。
 2003年のイラク戦争で、当時のブッシュ大統領が陥った罠。当時のイラクのフセイン大統領が「大量破壊兵器を隠し持っている」というCIAの偽報告にまんまと乗って戦争を開始、泥沼にはまり込んだあの歴史の反省がまったくない。
 トランプは、ほんの少し前の歴史さえも知らなかったのか。いやそんなはずはない、と思いたいところだが、もしかしたらとことん無知だったのかもしれない。

 世界中が「王様は裸だ」と気づいているのにトランプだけは気づかない。どんなに寒くたって、頭の中が爆発して発熱中なのだから、ちっとも寒くはないらしい。寒さを感じたら即座に爆弾の雨をばら撒いて自分も温まろうとするのだから始末が悪い。
 どうしていいのか分からなくなったのか、13日、ついにイランの原油輸出の9割を担う拠点、ペルシャ湾のカーグ島の爆撃に踏み切った。
 ここはイランの生命線でもある。ここを狙うというのはアメリカにとっても一種の賭けだ。イランの報復攻撃はある程度の自粛もあったのだが、もはやそれは意味を失い、中東全域へと戦乱は拡大する。アメリカは、地上部隊の投入に踏み切らざるを得なくなるかもしれない。まさにイラク戦争の再来だ。
 腰まで、首まで、頭まで泥まみれ……(『腰まで泥まみれ』元ちとせ)である。

 すでに日本からも、中東へ艦艇が出撃した。沖縄や横須賀、佐世保の米軍基地から海兵隊の強襲揚陸艦、イージス艦などが出撃した。
 日本だって戦争に巻き込まれるのだ。
 事実、イラン側は「他国にある基地からの米軍がこの戦争に参加するなら、その国は攻撃対象になる」と言っている。日本から出撃したイージス艦がトマホークを発射したという報道もある。それはイランが日本を敵国扱いにする理由になりかねない。

 アメリカCIAは、アメリカ・カリフォルニアに対して近海の船籍不明の船からのドローン攻撃があるかもしれないと警告を発している。日本からの米派遣軍が直接戦闘に参加するなら、沖縄や長崎、横須賀などの米軍基地も標的になりかねない。
 戦争は身近に押し寄せている。

 米国内ではすでに「テロ」」の可能性のある攻撃が起きている。ユダヤ教のシナゴーグ(集会所、教会)が狙われた。つらい予測だが、これ以降、世界の多くの場所でアメリカ人を狙ったテロが多発するだろう。「弱者の戦争」である。
 その種を蒔いたのが、トランプとネタニヤフであったという事実は消えない。
 せめて日本人が標的にならないように、高市首相には言動に気をつけてもらいたい。ぼくは高市氏には何の期待も持たないが、せめて害毒にならないようにと願う。
 「高市鬱」に「トランプ鬱」が加わって、ぼくのこのところの鬱気分はかなり重い。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。