第420回:「こんな人たち」による安倍辞めろデモ!!の巻(雨宮処凛)

 「安倍はやめろ!」「さっさとやめろ!」

 7月9日、新宿の街にはそんな声が響き渡った。

 この日開催されたのは、安倍政権の退陣を求めるデモ。告知期間は短かったにもかかわらず、この日、新宿には8000人が集結。午後5時半に出発したデモ隊は新宿のど真ん中を突っ切りながら存分にアピールし、午後7時からはアルタ前で集会。野党議員なども登場し、安倍政権へ退陣を迫るスピーチをしたのだった。

 久々に、あんなに長いデモの隊列を見た。デモ隊は全部で5梯団。共謀罪反対をアピールする梯団もあれば、ひたすら「安倍やめろ!」と叫び続ける梯団もある。また、最低賃金1500円を訴えるAEQUITAS(エキタス)の梯団では、サウンドカーの音楽にのせて「非正規舐めてる総理はいらない!」「貧困知らない総理はいらない!」というコールがリズミカルに響き渡る。

 そうしてデモ終了後、アルタ前に響き渡った「安倍やめろ」コール。デモや集会に参加した人々が持つプラカードや幟には、「日本の挨拶 安倍辞めろ」「No thanks 忖度」「私は黙らない」「おかしいだろ、これ」「怒」「ABE IS OVER」「説明責任果たせ」「国民舐めるな」などなどの言葉が踊っていた。

 中でもこの日一番見かけたのは、「こんな人たち」というプラカード。都議選最終日、秋葉原の演説で沸き起こった「安倍辞めろ」「帰れ」コールに激昂し、安倍首相が放った「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という言葉にちなんだプラカードである。この日、デモ後の集会でスピーチした人々は、集まった聴衆に対し、何度も「‟こんな人たち”の皆さん!」と呼びかけていたのだった。「こんな人たち」、今年の流行語にノミネートされないだろうか。

「こんな人たち」プラカードを掲げる人たち


響き渡る「安倍辞めろ」コール

 それにしても、安保法制以来の「熱」を感じたデモだった。

 2012年12月に安倍政権が誕生してから、4年以上。「安倍一強」「盤石」と言われる中、安倍政権は文字通り好き放題を繰り返してきた。

 生活保護基準の引き下げをはじめとして、生活保護法の改悪、派遣法の改悪で生活の基盤・セーフティネットを破壊し、特定秘密保護法や安保法制を強行採決。そして集団的自衛権行使容認の閣議決定。カジノ法も無理矢理通し、そしてこのたびの共謀罪は委員会採決をすっ飛ばして成立させた。その上、武器輸出と原発輸出を進め、また沖縄の民意を無視し続けてきた安倍政権。そんな安倍政権は、これまで人々の「反対の声」をどれほど踏みにじっても揺るがなかったというのに、今、大揺れに揺れているのだ。

 森友問題、加計問題、稲田防衛大臣の自衛隊を私物化するような発言。共通するのは、権力や国政の私物化だ。そしてそこに、豊田真由子議員の暴行・暴言も加わった。

 高支持率を誇っていた安倍政権の支持率は、現在、下がり続けている。

 NNNの調査によると、支持率は31.9%で前月比7.9ポイント下落と過去最低。朝日新聞の調査でも支持率33%でやはり過去最低。

 この日、デモに参加した人たちに話を聞くと、都議選最終日の秋葉原で「安倍辞めろ」コールをする人たちをテレビで見て、居ても立っても居られなくて来たという人や、低賃金で生活が大変なのに、自分の友達には億単位の特別扱いをする安倍首相が許せないという人などがいた。また、沿道には、このデモのためわざわざ子連れでやってきたという女性もいた。ベビーカーのためデモには参加できないが、どうしても意思表示をしたくて来たという女性は「こんなにたくさんの人が安倍政権退陣のために来ていて勇気づけられた」と語った。たまたまデモを見ていた人々からは、「すごい! あの『安倍辞めろ』の人たちだ!」という興奮した声も聞かれ、飛び入り参加者も多く見られたのだった。

 そんなデモの翌日、国会では閉会中審査が行なわれ、前川前文科事務次官が参考人として登場。が、そんな超重要な閉会中審査に安倍首相は「ヨーロッパ訪問」を理由に出席せず。森友学園問題で「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」とまで断言した安倍首相だが、そんなに自信満々なのであれば、なぜ、閉会中審査から逃げるのだろうか?

 新宿で8000人が「安倍辞めろ!」と汗だくで声を上げた日、全国各地でも同じ声が上がった。

 北海道・旭川、福岡、大阪、和歌山、愛媛、そして名古屋で「こんな人たち」による「安倍退陣を求めるデモ」が開催されたのだ。

 来週には、札幌で開催されるという話も聞いている。

 この4年以上、この国に生きる人々の声は常に無視され、軽んじられてきた。「丁寧に説明する」と言われながらも、いつだってマトモな説明はなかった。だけど、あまりにもそんなことが続くと、だんだん麻痺してくる。どれほど声を上げても、あれだけの強行採決を何度も何度も見せつけられると、学習性無力感に襲われそうにもなってくる。しかし、権力の私物化がここまで露呈した現在、「安倍辞めろ」の声は確実に広まっている。安倍首相が友人に便宜を図ることで使われるのは、税金だ。

 隣の韓国では、やはり権力を私物化してきた大統領が連日のデモによって退陣に追い込まれた。その背景には、この国と同じ貧困化、不安定化、格差の拡大など「未来が見えない」人々の閉塞感があった。そしてそんな人たちが、本気で怒ったのだ。

 今、日本全国に増殖している「こんな人たち」。

 怒りの声は、更に広がっていくだろう。

素晴らしいプラカード

未来のための公共の梯団

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。