第73回:自民公明の奇妙な論理、大阪と沖縄の「民意」(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 また政治家たちのいい加減さが浮き彫りになるニュース。
 大阪の府知事選・市長選に続く大阪12区衆院補選での維新の圧勝を受けて、公明党が「大阪都構想についての住民投票」の実施容認を決定。さらに、自民党も住民投票容認に舵を切るらしい。
 では、あの大騒ぎの反対運動はなんだったのか?

「大阪都構想」をめぐって

 5月21日の毎日新聞は、こう伝えている。

 今春の大阪府知事・市長のダブル選を含む統一地方選や、衆院大阪12区補選で大阪維新の会の圧勝を目の当たりにした公明党は、衆院見据えて選挙後わずか1カ月で大阪都構想の住民投票実施容認にかじを切った。公明以上に反対していた自民党内にも容認論が広がる。(略)
 「今回の民意を受けて、より充実した協定書(都構想の制度案)のため、積極的、建設的に改革を進める立場で前向きな議論をする」
 11日の公明党大阪府本部会議で住民投票実施容認の方針を決め、記者会見に臨んだ佐藤茂樹代表(衆院議員)はにこやかな表情で方針転換の理由を説明した。(略)
 維新代表の松井一郎大阪市長から就任のあいさつを受けた先月9日、公明市議団の土岐恭生幹事長は報道陣に「すんなりノーサイドというのは違う」と話し、対決姿勢を崩さなかった。これに対し、党本部は「政局感がなさすぎる」と激怒し府本部に懸念を伝えた。(略)
 安倍晋三首相が衆参同日選に踏み切るとの憶測もある中、議席を死守したい公明としては住民投票の容認方針で維新に対し、関係修復に向けたシグナルを早期に送り国政選挙の不安要素を取り除きたい考えだ。(略)

 佐藤茂樹公明党大阪府本部代表は「積極的、建設的に改革を…」と語ったという。「積極的」とか「建設的」という言葉は、政治家が発した場合、ほとんど無意味な形容詞であることは誰でも知っている。この佐藤氏の言葉は、まさにその典型である。
 むろん、公明党だけじゃない。自民党大阪府連新会長の渡嘉敷奈緒美衆院議員も公明党に足並みをそろえ、住民投票容認の意向を示した。だが、渡嘉敷氏のこの住民投票容認発言に対しては、自民党大阪府連内部からもかなりの反発が出ている。しかし、知人のジャーナリストによれば、「安倍首相の意志は維新との連携であり、自民党が結局は住民投票を容認することになるのは間違いない」とのことだ。
 要するに、渡嘉敷氏もまた“安倍忖度”だったのだ。
 何のことはない、7月の参院選(及び同日選の可能性)を考えての方針転換で、政策なんぞは二の次三の次だ。

 しかしまあ、現在の政治家たちは、真面目に政策を練るよりも、次の選挙にどう生き残るかしか考えていない連中ばかりなのだから、それも仕方ない。だから、ぼくはいまさらそんなことを批判するつもりもない。問題は、この住民投票の扱いにある。
 自民党と公明党は、もしこの投票が実施され、「大阪都構想」が多数を占めた場合、いったいどういう態度をとるのだろうか? もろ手を挙げて「都構想支持」を表明するのだろうか?

「民意」に違いがあるのか!?

 沖縄では、最近の各種選挙において圧倒的な差で「辺野古米軍基地建設反対の民意」が示されている。
 玉城デニー氏の知事選圧勝、その玉城氏の抜けた後の衆院補選でも、やはり基地反対を全面に掲げた屋良朝博氏が、基地容認の島尻安伊子氏に、やはり圧勝。極めつけは、辺野古基地建設の賛否を問う「県民投票」での、基地反対が7割以上という結果だった。
 これほど明確な「民意」の表明があるだろうか。誰がどんな屁理屈をとなえようと、沖縄が県民の総意として「辺野古米軍基地建設反対」を示したことは揺るがない。
 だが、自民党安倍政権は、その明確な「民意」をまったく無視して、投票結果が出た直後から、工事を強行しているのだ。

 さて、大阪だ。
 知事&市長選、さらに大阪12区の衆院補選で圧勝した維新は、「大阪都構想」への賛否を問う住民投票を2020年末までには実施したい意向だ。かつて2015年の住民投票で否決された「都構想」をまた持ち出すために、市長と府知事を取り換えてしまうという暴挙をあえて行った維新は、選挙という民主主義の根本を、自らの党利党略で覆したわけだ。
 だが、大阪の有権者たちが選択したのだから、それは仕方がない。ぼくは納得はしないが、あえて異はとなえない。
 しかし、ここからが問題だ。
 もし、住民投票で「大阪都構想」が支持された場合、それに自民党や公明党はどう対処するのか……という問題が残る。
 自民党は、最後まで「都構想」には反対した。だが、住民投票で「都構想賛成」が多数を占めるということになったら、ころりと態度を変えて「大阪都」を認めるのだろうか? そうであれば、巨大なブーメランが安倍自民党を直撃することになる。
 繰り返すが、沖縄では何度も何度も「辺野古米軍基地反対の民意」が示された。だが安倍自民党は、その「民意」を完全に無視し続けている。もし、安倍自民党が大阪では「民意」を尊重して大阪都構想の賛成に回るのであれば、こんなデタラメなことはない。
 沖縄の民意は無視するが、大阪の民意は尊重する。そんないい加減なことが罷り通るならば、国家など成立しない。同じような住民投票結果を、アッチはダメ、コッチは認める…。
 そうなりゃもう国なんてメチャクチャだ。
 そんなバカなことがあるかよっ!

安倍首相の個人的な野望のために

 しかし、安倍自民党は、最終的には維新の「都構想」を認めるだろう。自民候補が大阪12区の衆院補選で維新に大敗したときでさえ、さほど悔しがらなかったのが安倍首相だ。
 ひたすら「改憲」に執念を燃やす安倍首相にとって、改憲に前向きな維新は、実は“友軍”である。とにかく「改憲」さえ実現できれば、経済が破綻しようと、外国首脳に小馬鹿にされようと、国が壊れようと、そんなのはどうでもいい。維新は「改憲」を押し通すためには、絶対に必要な“安倍のお友だち”なのだ。
 だから、大阪に媚を売るためには、吉本の舞台に飛び入り出演するなどという恥ずかしい真似もしてしまう。
 すべては「改憲」のためだ。

公明党はどこへ行く?

 公明党のいい加減さはいまに始まったことじゃないが、前出の毎日記事の中で、佐藤茂樹公明党大阪府本部代表は「今回の民意を受けて…」とはっきりと語っている。それならばなぜ、沖縄の住民投票の直後に、「沖縄の民意を受けて、連立政権の一翼として、辺野古工事中止を安倍政権に要請する」と言わなかったのか?
 まあ、いまさら公明党に理を説いても無駄なことは分かっているが、それにしても安倍自民党への尾の振り方は情けないほどいじましい。
 「改憲」には一応慎重姿勢で、「加憲」(現憲法に足りないところを補うように、必要な部分を付け加える)を主張している山口公明党だが、もし、「安倍改憲」がスケジュールに上がるようなことになったら、多分、いろんな屁理屈はこねくり回すだろうが、最終的には「安倍改憲」に賛成するのではないかと、残念ながらぼくは見ている。

日本国憲法第95条には…

 安倍首相にとって「民意」とは、いったい何だろう? 支持者のネット右翼諸兄諸姉のSNS上の書き込みが「民意」なのだろうか?
 ここで釘を刺しておきたい。
 大阪の民意を認めるなら、沖縄の民意も認めなくてはならない、と。

 こう書くと、そのネット右翼諸士から「一地方の問題と、国家安全保障上の問題は違うのだ。少しは勉強しろ!」などという罵声が飛んでくるだろう。だが、憲法にはこういう条項もあることを示しておこう。

第95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。