第114回:恐怖! 高円寺再開発計画が判明!!!(松本哉)

 みなさん、一大事、一大事。驚天動地のニュースが舞い込んで来た。なんと謎のカオス感が最大のウリの高円寺に再開発計画があるということだ。あろうことか高円寺北口の主要商店街を潰して大通りを通してしまうという。う〜ん、ゴチャゴチャして意味不明の店が大量にある感じの高円寺の良さを全く理解していないような、こんなバカな計画があるだろうか! なに考えてんだか、まったく〜!
 実はこの計画、だいぶ昔からあった東京都の都市計画の一環。80年代ごろには、東京都がいよいよ実施に移そうとしたところ、高円寺住民のとんでもない猛反対に遭い、見事に頓挫。東京都としては「こりゃあ、もう無理」って感じのお手上げ状態で、ほぼ凍結に近い状態が続いていた。ただ、東京都の都市計画なので一旦作った以上そう簡単に引っ込めるわけにもいかず、計画自体はそのまま。そう、そんな感じだった。
 ところが、東京都は自分たちじゃ実施に移せないからとばかりに市区町村に責任を転嫁! 高円寺の再開発案も「区で実行してください」だって。なんだよ、自分たちで勝手に計画して実行しようとして失敗したやつを、そのまま地元自治体にやらせるなんてそんな虫のいい話あるか〜。そもそも誰がそんな話に乗るんだよ。…と思ったら、びっくり仰天、なんと杉並区は「やりましょう〜!」だって。おい!!! 東京都は開発の10カ年計画みたいなものを節々に計画してくるんだけど、2年前にその新計画の提案があった時、杉並区長がなぜかノリノリでOKするという謎の奇行に!!!! お前!!!
 ちなみにその再開発計画は、駅南口にすでにある大通りを北口までそのまま延長するというもの。もしこれが実現したら、その延長線上にある純情商店街と庚申通り商店街という北口の主要な二大商店街が消滅することになる。この計画、いったい誰が喜ぶんだ! で、さっき書いた通り、すでに実施権は区に移っているので、杉並区がGOサインを出せば開発開始という、タイミング待ちの状態になっている。2年前に策定された10年計画なので、仮に予定通りに進むならばあと8年以内に完成することになる。で、恐るべきことに、その北に伸ばす大通りのさらに北の中野区側ではすでに工事が着工しており、大通りを作り始めている。うーん、このまま行くと、高円寺北口だけ大通りが中断しているような肩身の狭いような状態になりかねない。やばいやばい!!
 実は、今月末に杉並区長選挙を控えており、そんな各候補の政策の論争の中からこの計画案のことも明るみに出て来た。いや、危ない危ない、誰も知らない間に物事が進んで行くところだった〜。

都市計画の予定図。役所作成なので半端なく見にくいけど、「区-45」という線が問題の高円寺北口の大通り。この「区-45」の北と南はもうすでに大通りが出現している。(杉並区ホームページより)

世界が注目する高円寺の謎のカオス感

 さて、開発するしない以前に、行政の側は高円寺の良さを考えたことがあるんだろうか。高円寺好きの人たちが口を揃えていうのがやはり、この現代版昭和の世界のようなゴチャゴチャした、いい意味のカオス感。これがなくなったら高円寺でもなんでもない。今、日本中の駅前などで商店街が滅んで消えて行く中、いまだに高円寺一帯は商店街だらけ。しかも、一本や二本の商店街だけじゃなく無数の商店街があり、特に北口に至ってはほぼ商店街だけで街が成り立っている。そこがいい。地方から来る人たちなんかはみんな「いまだに商店街が賑わってるなんてすごすぎる!」と驚きまくっている。さらには、商店街だらけということは小規模店舗だらけということなので、無数の個人商店がある。すると中には、完全に謎の店や、どう考えても採算あってなさそうな店、高円寺から他の街に引っ越した瞬間に倒産しそうな店などなど、訳のわからない店が大量にある。そういう店はさすがにどんどん潰れたりもするけど、同時にどんどん新しく謎の店ができたりするところもすごい。そのおかげで、どんな人生送ってんだかわからないような謎の人物もウロウロしているのも高円寺の面白いところ。
 そして、訳のわからない若者がのさばってる街かというと、実はそうでもなく、最強の老人たちもやたら生き生きしてるところも高円寺の恐るべきところ。街中が商店街で個人商店だらけなので、人と人の距離感がやたら近いので、そんなオッサンやおばちゃん達もそんな謎の若い奴らと渡り合いながら妙に生き生きしている。
 あともうひとつ。海外から来る人たちから異常に人気なのも高円寺の特色のひとつ。特に観光地らしい街ではないので、そんなに海外のガイドブックには載ってないんだけど、それでもやたら集まって来る。そんなマニアな外人さん達に話を聞くと、「ファッション、音楽、アニメや映画などなど、日本には面白いものがたくさんあっていいけど、ちょっと窮屈でみんな仕事ばかりで忙しそうなので生活には向かない」っていうのが典型的な日本観。それを全部打ち砕いて「こんなローカル感と人間味ある感じの街が日本にはあったのか! ここなら居座っても面白そうだ!」という。さらには、海外からでは絶対にわからないような、とんでもないアーティストやらミュージシャンやら変な店などに続々と遭遇したり、高円寺現地の遊び友達もどんどんできるところも最高だという。
 確かに自分で考えてもそうで、海外に行ってその街に住む超ローカルなやつらとどんどん友達になって、そこでしかお目にかかれないいろんなものに遭遇しまくったら最高に違いないし、そんな街は世界を探してもそうそうない。ということで、海外から来る人たちも、最初は観光で新宿や渋谷、浅草なんかに遊びに行っても、何度か行けば満足して来る。その後に高円寺みたいな所にたどり着けるかどうかが、次のステップへの分かれ目。一度高円寺的なものにはまってしまえば、ものすごいリピーターになる。成田空港から高円寺に直行して、そのまま長居して高円寺で遊びまくる奴らがどれだけ多いことか! しかも、地域も欧米からアジア圏まで地域も問わず。いやー、この辺は本当に杉並区長や東京都の都市計画の奴らにはぜひ知っておいてもらいたいところ。

上から見た高円寺・北中通り商店街付近。細い商店街があり、その周りに住宅がある。夜は酔っ払いであふれるが、昼は極めて平和だ

高円寺は再開発でどうなるか!?

 そんな、高円寺にウロウロするいろんなジャンルや年齢の人たちの絶妙なバランス感によって、類まれな街と化している高円寺。これを、不用意に再開発なんかやったらどんな酷いことになるか…。そもそも、行政で行われる再開発はすぐ新宿・渋谷化しようとする。そりゃ、大規模開発したら、場合によっては経済効果とかで考えたら、その瞬間は数字上はいいのかもしれないけど、長い目で見て街の魅力がなくなるのはものすごい損失。そういうセンス、もう完全に高度成長期のことが忘れられない幻想。今時、もうそういうのはいいから。そう、一般的な再開発のセンスがやばすぎる証拠に、ちょっと「再開発案」でgoogle画像検索してみてほしい。クソつまらなそうなビルや広場が軒並み出て来る。逆に「再開発前」で検索するといい感じの味のある写真がたくさん現れる。ほら、やっぱり余計なことしないほうがいいじゃん!!!
 で、仮に開発して高円寺をミニ新宿やミニ渋谷みたいにしたらどうなるか。その路線で行くなら、近隣の中野や吉祥寺に勝てるわけはないし、そもそも新宿まで電車でたった7分のこの立地。ミニ新宿いらないでしょ、どう考えても。ってことで、結果的にわざわざ高円寺に来てくれている人たちの期待を全て裏切り、誰も寄り付かない中央線で一番ショボい駅になりかねない。
 そして、今回の計画案では高円寺のど真ん中に大通りを南北に通すとのことだけど、そうなったら街が地続きじゃなくて完全に二つに分断される。大通り沿いというのは高いビルが建てられるようになるので、軒並みビルが建ち始める。すると家賃も上がって来るので、マヌケな店などもなくなって高円寺特有の商店街感が損なわれ、挙げ句の果てには大きい会社やチェーン店しか入れなくなって来る。そんな大通りが街の真ん中を貫いてたらどれだけ街の雰囲気が変わるか。謎の商業通りを挟んだこっちと向こうでは街の一体感は絶対になくなる。さらに腰の曲がって異様にゆっくり歩いてるじいちゃんばあちゃん達に至っては、そんな大通りなんてもう大海みたいなもので、通りの向こう側なんてハワイ同然で、とてもじゃないけど行く気がしなくなる。「最近は街ものびのび出来なくなったねえ」なんて言って引きこもりはじめて、死んじゃうかもしれない。それは浮かばれない。
 とは言っても、人間の生命力っていうのは強いもんで、再開発されようとなんだろうと、いろんなところに面白いものを作ったり、意外としぶとくやるもんだ。でも、「あの街は面白い!」というのと「こんな面白い一角もあるよ」というのでは訳が違う。街全体から出てくる面白い街がいい。

毎度おなじみのフリーマーケットイベントの「北中夜市」。こんなほのぼのとしたイベントもいつまでやってられることやら!!

徹底抗戦! 奇策・逆再開発を!

 さて、高円寺を変に再開発したって大していいことないと書いて来たけど、さてじゃあどうするか!?
 まずこの再開発計画、不幸中の幸いというか即決行という段階までは来ていない。例の悪の10カ年計画に沿って着々と下準備を整えている段階だ。いざ工事着工という段階になってしまえばかなり分が悪くなるので、今のうちに「そんなバカな開発はいらねー!」と、言いまくっておくのがいい。明らかにみんなが求めてないのなら、突如ブルドーザーで強行着工なんていう前近代的なこともしにくいはずだ。
 …いや、手ぬるいか! ここはやはり先手必勝。攻撃は最大の防御。こっちから攻めてみるのもいい。例えば、南口の大通りと環七(高円寺付近を通る大環状道路)を埋め立てて無数のシャッター商店街を建設するという再開発案を提案してみるとか! 全て木造で車はおろかようやく人がすれ違えるような路地ばかりの商店街。もちろん物件の契約は又貸しの又貸しで、たまに所有者不明物件も。消防署や区役所がそれだけは勘弁してくれと青くなってお願いに来るぐらいの再開発案。そこでこちらも「そこまで言うんじゃしょうがねえ、埋め立てだけは勘弁してやる」と、しぶしぶ譲歩し、とても大通りをもうひとつ増やすなんて口が裂けても言えない雰囲気を出して行く。
 もちろん油断は禁物なので、区長が代わったときなどには、軽いジャブのようにまた埋め立て案が浮上してくる感じで牽制。あるいは別の作戦もいい。隣接する中野区に囲まれた地域性を生かし、中野区への寝返りをチラつかせつつ交渉を優位に進めるとか、杉並区の中では完全に独自色の強い特殊エリア性を生かし、独立の住民投票の計画があるらしいとか、背後にロシアがついてるらしいとか謎の噂を流してみるとか。いろいろ手はある(いや、ダメか)。

 ま、ともかく、高円寺のような街を下手なやり方で再開発しては取り返しのつかないことになる。特に開発を決定しているような人たちは、年齢的にはおそらく高度成長期に生きた人、もしくはバブル世代以上の人たちだろう。今の時代はそういうやり方ではないということを、思い知らせないといけないね〜。よし、やっぱり環七の埋め立て開始だ!!!!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。