第39回:「SNS」が持つ政治破壊の力(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 暑いですねえ。暑さの中のボランティアの方々には、ただただ頭が下がります。ここまで暑いと、ぼくなどはやはり思考力が停滞気味。
 それに、ぼくは「高齢者教習」を受けなければ、免許更新ができない年齢になってしまった。先日、自動車教習所へ行って講習を受けてきた。暑いさなかの2時間だから、反射神経にも影響が出ようというもの。と、暑さのせいにして、年齢とは関係ないと、自分を納得させるのだが…(苦笑)。

与党の面々の思考力低下を憂う

 ただ、私のような者の思考力低下など、社会には何の影響もないけれど、政治家のみなさんの思考力の低下は、日本社会にとっては大迷惑。これはそうとうに危ない現象なのだ。

 今回の大災害をめぐっても、大阪や兵庫などの住民11万人に避難勧告が出ていた5日夜の赤坂自民亭の大宴会だとか、
 そのあきれた様子を、西村康稔副官房長官が嬉々としてツイートして猛批判を浴びたとか、
 よせばいいのにその西村官房副長官「誤解を与えたようなので謝罪する」と、まるで「誤解した国民が悪い」(だいたい、どこが誤解なのかっ!)かのような、炎上必至のおバカ謝罪をしてしまうとか、
 翌6日のオウム死刑囚の大量執行を控えていたはずの上川陽子法務相が、宴会では「女将役」を務めて上機嫌だったとか、
 10日と12日には公明党の石井啓一国交相が、悲鳴の上がる被災地の災害対応そっちのけで「バクチ法案」の審議に出ずっぱりだったとか、
 安倍首相があれだけ行きたがっていた11日からの外遊(フランスでの軍事パレードが見たかったらしい)を、9日になってようやく中止に踏み切ったとか、
 その安倍首相が11日になってやっと被災地の岡山に出かけたと思ったら、ほんの短時間のパフォーマンスを繰り広げてすぐに帰京したとか、
 13日の愛媛訪問に続いて15日に予定していた広島訪問だったが「股関節周囲炎」とかで中止するとか(ま、これは病気ならやむを得ないが…)。
 一方、河野太郎外相はフランスへお出かけで、ほんとうに能天気なお遊び写真をツイートして大炎上してしまうとか………。
 もう冗談を通り越して、この国の政治は末期症状を呈していると思わざるを得ない状況ではないか。

新聞の参考度はたったの24%

 こんな凄まじい政治の荒廃状況にありながら、それでも安倍内閣の支持率はあまり下がらない。ぼくにはそれが不思議でならない。
 しかも、その支持のいちばんの理由が「安倍さんのほかに適当な人が見つからない」とか「ほかの内閣よりよさそう」などといった、ほとんど思考停止によるものでしかない。政治の荒廃は、そんな有権者の思考停止が支えているのかもしれない。
 朝日新聞(7月16日付)に、面白い記事が載っていた。毎月やっている世論調査の結果報告だけれど、その中に、かなり興味深い項目があったのだ。

 政治や社会の出来事を知る際に一番参考にするメディアを尋ねたところ、

 テレビ 44%
 インターネットのニュースサイト 26%
 新聞 24%
 ツイッターやフェイスブックなどのSNS 4%

 参考にするメディアによって、内閣支持率に違いがあった。

 「新聞」 安倍内閣支持32% 支持しない54%
 「テレビ」 同支持 38% 支持しない41%
 「インターネットのニュースサイト」 同支持42% 支持しない38%
 「SNS」 同支持48% 支持しない22%

 なんとも興味深い結果ではないか。新聞を読まず、SNSのフェイクまがいの情報をそのまま受け取る人たちの多くが、安倍内閣の支持に回っているということだ。
 あの麻生太郎財務相の6月24日の発言「新聞を読まない人は全部自民党支持」が、まさに当たっていた…か。
 しかしよく考えてみると、SNSを参考にしている人たちはたった4%にすぎない。実はその4%が問題なのだ。彼らの声は、ネット上では実際の数よりも数倍も大きく増幅される。たった4%が、いつの間にか多数の意見のように見えてくるのだ。

 加計学園の疑惑に関するスクープを放ったのは朝日新聞だった。それは本来なら、内閣総辞職に値するほどの疑惑だったはずだ。実際、スクープ直後には「安倍政権はもうもたない」「秋の総裁選に安倍氏は不出馬か」などといった観測記事も流れたほどだったのだ。
 だが「知らぬ存ぜぬ」一本鎗の安倍内閣、菅官房長官の木で鼻をくくったような記者会見での応答などにも、それほどの批判は巻き起こらず、さらには安倍首相の「外遊という名の海外逃亡」も功を奏したのか、次第に疑惑も沈静化していく。4%のネット民がそれに手を貸す。
 そこへ、サッカーW杯や大阪での大きな地震を隠れ蓑にしたゲスすぎる加計孝太郎氏の突然の記者会見。これで一件落着、田舎芝居の幕引き劇。何もかも安倍官邸との打ち合わせ済みとしか受け取れない。
 マスメディアも、一挙にサッカー大狂騒曲で、いつの間にか疑惑報道は隅に追いやられた。サッカーW杯となれば、動画配信できぬ新聞と違い、テレビの独壇場だし、ネットサイトでの実況報告もそれなりの力を発揮する。めんどくさいことや汚い事実は忘れて、とりあえず「ニッポン、ニッポン!」で昼間から深夜まで盛り上がる。
 大事な出来事から目を逸らさせるシステムが、すでに完成されつつあるような気がする。
 自民党という政党は、とても古臭い衣をまといながら、実は、こうしたSNSの利用などで、はるかに野党の上をいっている。むろん、その陰に電通などの巨大広告代理店や携帯通信企業などが暗躍しているのは、紛れもない事実だ。新聞が24%の人にしか参考にされていないという事情がよく分かる。

安倍首相よ、アンタはエライッ!

 本音を言えば、ぼくはかなり絶望的な気分だ。これほどまでにいい加減な政治が罷り通る社会。
 「稀代の嘘言宰相」とまで罵られても、大した反論をするでもなく、ひたすら総裁選へ向けての事前運動に邁進する安倍首相。「ウソつき」とここまで言われてもニヤニヤ笑いで平気でいられる神経は、ぼくには理解できないが、権力というのはそこまで魅力的なのだろう。
 新聞をきちんと読んでいれば、どんなに安倍氏がウソをつき続けているか、1冊の本がかけそうなほどの事実がボロボロ出てくる。それでもこの「ウソつき首相」を支えているのは、いったい誰なのだろう?

 しかし、「ウソつき首相」と、まるで常套句のような形容で語られる首相なんて、日本の憲政史上に存在しただろうか? その意味で、安倍晋三氏が近来稀に見る政治家ではあることは確かである。
 もう破れかぶれで言っちゃおうか、あんたはエライッ!

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。