第45回:「期日前投票制度」の落とし穴(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 沖縄知事選、現在真っ最中。4人の方が立候補したが、やはり佐喜真淳氏(前宜野湾市長)と玉城デニー氏(前衆院議員)の一騎打ちの様相。メディア各社の調査では、このふたりが大接戦を演じているという。

 異常な現象が起きている

 とても気になることがある。
 異様なほどの「期日前投票」の多さだ。選挙戦が始まったばかりだというのに、すでに前回知事選(2014年)の同時期を大きく上回っているという。「みらい選挙Project」の情報によれば、期日前投票開始の初日(14日)の段階で、以下のような状況だという。

那覇市 1132票(前回297票)
沖縄市 821票 (前回195票)
浦添市 540票 (前回276票)
名護市 500票 (前回240票)

 どう考えても、これは異常である。特定の組織からの働きかけもなしに、こんな現象が起きるはずがない。
 実はこれ、今年2月4日の名護市長選挙で大きくクローズアップされた問題だ。このときは、なんと総投票数約3万7000票の6割に当たる約2万票が「期日前投票」だったのだ。むろん、過去最多の期日前投票数だった。その結果、何が起きたか?
 前回の名護市長選(2014年)では自主投票だった公明党が、このときは自民党推薦の渡具知武豊氏の支持に回った。名護市内に約2000~2500の基礎票を持つと言われる公明党は、中央の指示に従って自民党とタッグを組んでしまった。
 沖縄公明党は、それまで「辺野古新基地建設反対」の立場をとってきたが、渡具知氏が「辺野古には言及しない」と公明党に約束したことから態度を一変、渡具知氏支持に回ったのだ。前回は、辺野古反対の立場から、公明党支持者の投票は反対派の稲嶺進氏にもかなり回ったというが、それがそっくり渡具知氏へ流れたと見られている。
 また、この選挙では凄まじいと言っていいほど、業界団体の主導による「期日前投票」が激増したという。その結果、当初は有利といわれていた現職で辺野古反対の稲嶺氏が、約3500票差で敗れた。明らかに、公明党支持者の票の動きが影響を及ぼしたと見られている。
 また、期日前投票をした人は、自民党支持者が最も多かったという調査結果も出ている。

監視される投票

 ぼくは、こんなツイートをした。

大動員をかけて集めた人たちをそのままバスで投票所へ。それが今の「期日前投票」の実態だ。この制度が悪用されていることをマスメディアが批判しないのはおかしい。実際、期日前投票が全体の40%を占めたという例や、期日前投票と当日投票の出口調査が大きく違う例も報告されている。

 ここでは、40%と他所の例を書いてしまったが、前述のように、名護市長選では実に60%が期日前投票だったのだ。
 「本人が投票しているのなら、バスで来ようが徒歩だろうがどうでもいいじゃないか。替え玉なら問題だが、本人の意志で好きな候補に入れるのなら問題はないはず」というような批判は来た。だが、これはあまり実態を知らない人の批判だ。
 建設会社などが割り当てられた動員数を確保し、その人数をまとめて「期日前投票所」へ送り込む。その際には“監視員”を配置して、投票行動をチェックする。そして後日、指定したA候補への得票数を綿密に調べ、もし割り当て数に足りなければ仕事を干してしまう、などということまで行われているというのだ。
 こうなってくると「思想の自由」「投票の自由」という日本国憲法で保障された権利なんかないに等しい。
 勝つためには、そこまでやる陣営があるのだ。
 これでは、各企業も必死にならざるを得ない。仕事がかかっているのだから仕方がない。当然ながら、個人の意思よりも企業の指示が優先されることになるわけだ。
 自民党が、今回の沖縄知事選では大量の国会議員を沖縄に送り込んでいる。だが、彼らがほとんど表面には出ず、業界団体を回って強烈な締め付けを行っているのは、こういう圧力をかけるためだ。だから、自民党国会議員は“人寄せパンダ”の小泉進次郎氏を除いては、ほとんど街頭に立つことはない。むしろ、不人気の安倍首相のイメージを隠すのに必死だ。沖縄では、安倍首相の支持率は圧倒的に低いからだ。安倍首相は“沖縄イジメ”の張本人と受け取られているのである。
 それに加えて、公明党が支持母体の創価学会員を数千名規模で沖縄へ送り込んでいる、という情報もある。どうやら、物量作戦と人海作戦が、いまや沖縄を席巻しているようだ。
 これらの作戦により、期日前投票はすごい勢いで伸びている。これがはたして正しい選挙の形といえるだろうか?

当初の理想は崩れた

 こんなふうに「期日前投票」なるものが使われ出したのはいつからなのだろうか?
 実は、この制度は意外に新しい。2003年の公職選挙法の改正によって新たに作られたものだ。それまでは「不在者投票」というものがあり、投票日当日に自分の選挙区に不在である有権者が、不在理由などを申請して投票日以前に投票できる、というものだった。
 しかし、投票率の低下を防ぐために、この「不在者投票」とは別に、もっとゆるやかな「期日前投票」という制度が設けられた。これで、特段の理由がなくとも、期間内であればいつでも投票できるようになった。しかも投票所入場券で指定された投票所ではなくても、自分の選挙区内であればどこの投票所でも投票可能となった。
 だから、業界団体や宗教団体が集めた多人数を「バスで大量に期日前投票所へ送り込む」ということが可能になってしまった。
 「不在者投票」という制度そのものは現在もあるけれど、これにはかなり厳しい制約があり「期日前投票」とはまるで違う。投票用封筒があって、不在者は自分の投票用紙をこの封筒に入れて提出する。開票日まで開けられることはない。ほとんど制約がない現行の「期日前投票」との大きな違いがお分かりだろう。
 ぼくには、現行の「期日前投票」という制度が、最近の選挙をかなり歪めているとしか思えない。

「動員投票」を裏づける文書

 現在進行中の沖縄知事選では、激しいデマやフェイクが乱れ飛び、訴訟に至りそうな事態まで起きている。
 そんな中、事実としては看過できないような文書も出てきた。

 例えば、「沖縄県知事選挙 期日前投票報告書」という文書だ。【内部資料】との注意付きで、さまざまな事項が付記されているが、要するに内容は、指示されたとおりに期日前の投票者を集めたかどうかを報告させる、という文書なのである。
 「ご担当者氏名」に始まり「期間:9/14~9/29」「市町村支部行き」とあって、集めた人たちの「氏名・住所・実効日」(注・「実効日」は「実行日」の誤りと思える)を書き込む欄がある。さらには、以下のような詳しい注意書きもある。

※ ご家族・ご親族・ご友人・知人の方々の期日前の状況について、調査協力をお願いいたします。

•個人情報についての取り扱いには十分にご注意ください。当方も十分に注意をいたします。
•氏名・地域・実行日については、必ず記入いただけますよう、よろしくお願いします。
•足りない場合はコピーをして使用下さいますよう、よろしくお願いします。
•FAX:098-860-xxxx
•那覇市牧志2-xx―xx

 この宛先は実在する。
 つまり、かなり大きな組織が「期日前投票」を仕切っているということだろう。“大きな組織”とはどんなものか、誰にだって想像がつく。巨大な資金がなければこんなことは行えない。とすれば、陰で暗躍している実体も見えてくるだろう。

 「期日前投票」とは本来、低迷する投票率を上げて、民主主義の根幹である選挙制度を支えるために作られた制度ではなかったか。それが今や、選挙の正当性を疑わせるような事態を生み出す制度に変質してしまっているとは言えないか。
 この制度を見直し、不正の温床にならないよう改正する必要があると、ぼくは強く思うのだ。

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。