第117回:バムサム海賊団の再来! 〜韓国で最も信頼できるバカ〜(松本哉)

 先日、あの韓国のとんでもないバンド「バムサム海賊団」の映画を観てきた。いや〜、やっぱりあいつらはヤバいね。実はやつらとの付き合いはもう、なんだかんだと10年近くになるけど、やはりあいつらは大バカだ!! 『パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』というタイトルで、今年の山形ドキュメンタリー映画祭にも出された作品。前から見たいと思ってたんだけど、なかなか機会がなく観そこねてた。
 とりあえず、わかってはいることだけど、やっぱりバムサムのメチャクチャさが最高。知らない人もいるかと思うので一応少し紹介しておくけど、こいつら本当に大バカ(いい意味で)。ソウルで活動する二人組のインディーズ・バンドで、例えば映画の中でも、野外のイベントの出演した時も「我々は国家保安法に違反するためにやって来ました〜!」みたいないい加減なことばかり言い出して「金正日万歳」っていう曲を演奏したりする(ちなみに演奏は基本的にパンク、ハードコア、メタル、グラインドコアって感じで完全にメチャクチャなんだけど実は演奏は超うまい)。当然、北朝鮮を賛美しているわけではないが、かと言って完全にザ・皮肉って感じでもない。基本的に反体制的なやつらなので、他にも韓国のマッチョな男中心社会を皮肉ってみたり、李明博大統領(当時)をおちょくってみたりする曲とか連発するんだけど、この一瞬権力を褒めるようなこと言いながら完全にバカにしてるという、絶妙なところをつくセンスが並大抵じゃない。これはすでに芸人業だ!

2010年にバムサムに初遭遇した時。再開発に抗しての立てこもりのビルの中にて

 映画の前半ではこのバカさ加減を改めて思い知らされる感じだけど、後半ではパク・ジョングン逮捕事件の話が出てくる。何かというと、当時バムサムのプロデューサー役をやってたパクくんが、完全に同じセンスで北朝鮮ネタのふざけたコメントをツイッターで書いたりしてたら、なんと国家保安法違反で捕まったという、韓国史上屈指のマヌケな事件。さすがにこれ、日本でも少し話題になった。ま、ある意味ギャグのような騒ぎになったんだが、裁判になってくるとこれまた面倒なことに。裁判ではバムサムの活動についてにも話は及び、歌詞の内容だとか意味についても、なんだかクソ真面目に意味を問われはじめる。いや〜、これは痛い! というか、これはバムサムの芸風にとって一番ヤボなこと。本来ならそんなこと言うまでもないし聞くまでもない。見ればわかるはず。これ、落語家や漫才師にネタやオチの意味を真面目に質問してるようなもので、そんなヤボな話はない。詳細は映画本編を観てもらったらいいと思う。
 確かに、ちょうどその事件の頃、韓国だったか日本だったかでドラムのヨンマンと飲んで話していると、「いやーバムサムもマンネリ化して新しいこと出来ない気がして、どうも今そういう気分じゃないんだよね〜」と言い出したのは、まさにそのタイミングだった。根掘り葉掘りネタについて聞かれた芸人がその芸を続けるのは確かにキツい。
 ま、この映画見る前は、「バムサム海賊団の映画なんだし、メチャクチャに飛ばしてる痛快な映画だろう」と思ってたけど、実はその微妙なジレンマもたくさん登場していて結構奥が深くてすごかった! いや、観たほうがいいよこの映画。特にいろいろ突っ込まれて苦悩に満ちた表情でなんとか切り抜けようとウヤムヤに返事するヨンマンや、同じくバカな顔をしてとぼけるベースのソンゴンの様子はこの映画のベストシーン(笑)。

 世界各地にもこういう風刺的な立ち位置の芸人や活動家など各種表現者っているけど、色々問われると結構語りまくったりする人多い。雑誌でもテレビでもイベントでも、インタビュアーにうまいこと乗せられて「そこにはこういう意味が込められている」みたいに。ところが例えばヨンマンは映画の中でも、確信犯なのか本当に弱ってるのか、苦渋の表情で「いや〜、どっちでもないですね〜」みたいに曖昧に答えてる。ここが超面白い! いや、これできるの大したもんだよ、本当。
 自分自身、ヨーロッパなどに行ったときにイベントで高円寺あたりのくだらないデモやイベントの紹介なんかしていると、ヤボな質問がたくさん飛んでくる(経験から言ってどっちかというと欧米の方が理論的に話したがる人が多い)。そんな時にヨンマンと同じく「いや〜、どっちかわからないですね〜」と答えると、明確な答えを聞きたいみんなはすごい不満そう。たまにその雰囲気に押されたり質問の嵐に根負けして、バカなことの意味を真面目に解説してみたりすると、みんな「なるほど、それはすごい。いいね!」と大満足。でも、ふと、迂闊に答えてしまったことに気付き、今度はこっちが「こりゃどうも粋じゃねえな〜」と自分自身イヤな気分になって「余計なこと言わなけりゃよかったな〜」と、ちょっと後悔する。いや、バムサムすげえなー。
 ヤボな質問には「それ聞いちゃおしまいでしょ!」とか「その話はヤボってもんじゃないですかねぇ〜」「大将、アンタ粋じゃないね」なんて言ってみたいね〜、裁判長に。

こちらも2010年当時。彼らは昔も今も変わらず大バカ! さすがだ!

 で、映画の話に戻るけど、バンドが主役ってこともあって、全編にわたって各所で音楽が爆音で流れるのがまたいい。監督は常に「この映画は爆音で聴かせたいから、上映の際は音量を極力上げて!」と劇場に頼みまくってるらしいんだけど、なかなかそれは実現しないのを残念がってるとのこと。確かに。ライブハウスとかで上映するのがいいかもね。…なので、この映画を観た後、家に帰ってヘッドホンで爆音でバムサムのCD「ソウル火の海」を一枚丸々通しで聴いてみた。これがまたヤバい。映画観た直後ってこともあって、ソンゴンとヨンマンの大バカな魂を耳元で感じると同時に、映画内のいろんなシーンが全部爆音で吹き飛ぶ感じ。しかもバンドの音もすごいカッコいい(+バカ)ので、やたら痛快。そう、間違っても映画を見終わった後に静かなカフェとかに行って映画の感想を思い巡らせたり語り合ったりしてはいけない! それじゃバムサムが台無しだ!

 ところで現在のバムサム。彼らはその後結局解散してしまい、現在は基本的には活動はしていない。ベースのソンゴンは相変わらずソウルでマヌケな顔をしてマヌケな生活を送っている。ドラムのヨンマンは、中国人観光客相手が大量に押し寄せるリゾート地の済州島で、中国人相手に観光でひともうけしようと目論み済州島に渡った。が、その直後にTHAAD問題(アメリカによる対中ミサイル防衛問題)が勃発し、中国人がゼロになり、目論みは大失敗。ヒマでしょうがないからスターバックスでバイトしながら毎日家でゲームをしているという(う〜ん、こいつは本当の大バカかもしれない…、いや、そんなことはない!)。

 そう、今の世の中、立派に生きなきゃいけない、間違ったことをしてはいけない、という倫理観がどんどん過剰になってきて、さらには正しいことや理にかなった効率化などが求められるようになってきている。挙げ句の果てにはそれが捻じ曲がってきて、街を再開発して効率よく金が回るようにしたい、競争に負けたり失敗した人は自己責任だから助けない、経済発展や国益にならないことは無意味、子どもを産まないのは生産性がない、…みたいなトンチンカンな発想まで出てくる始末。
 いやー、そう考えたらやっぱり、世の中を完全になめきっているようなバムサム海賊団の存在は最高すぎる!!! ま、ともかくいい映画だった。
 よーし、俺も引き続き真面目には生きないぞ〜。ザマーミロ!!!

〈おまけ1〉
バムサム海賊団「ソウル火の海」の音源は現在、ネットで無料配信中。CDはあっという間に完売してもはやプレミアレベルだとのこと。とりあえず、これは聞いてみるしかない!!!
https://bamseompirates.bandcamp.com

〈おまけ2〉
映画のタイトルは「パムソム海賊団〜」となっていて、確かに韓国語の発音としてはそっちが近いんだけど、文章内では基本的に「バムサム」と表記しておいた。これは、初めて奴らと出会ったころ、CDの日本語訳の紙をもらったんだけど、その時のバンド名表記が「バムサム海賊団」。その時の歌詞の日本語訳がところどころカタコトの表現がたくさんあって、それがさらにバカさ加減を上乗せして最高に面白かったので、その雰囲気も込めて「バムサム海賊団」としてる。

〈おまけ3〉
「この映画観たい!」と思ったあなた、残念ながら現時点では個別に決まった上映会の時にしか観られないので、次にどこでやるかはまだ未定~。あるいはそのうちDVD化とかもあるとは思うので、首を長くして待つしかない!

松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。