第57回:破壊するために、創造する…(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 本を読んだり映画を観たりしていると、時折、「おっ!」と思うような一節に出会うことがある。先日も、少し古いSF映画を観ていたら、そんなセリフがあった。
 『フィフス・エレメント』(リュック・ベッソン監督、ブルース・ウィリス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ゲーリー・オールドマン 1997年)の中で、古代から甦った不思議な力を持つ「5番目の要素」であるリールー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が、こんなことを言うのだ。
 「人間って不思議な生き物。破壊するために創造する…」

逆転した発想

 沖縄の辺野古への土砂投入という、醜くも薄汚い安倍政権の所業をテレビ画面で見ながら、ぼくはこの言葉を思い出していた。
 米軍の新基地建設に対して何度も示された住民の思いを踏みにじり、むりやり土砂を青い海に放り込む。青さが茶色く濁っていく。それに抗い、12月の冷たい海へ、小さなカヌーで漕ぎ出して声を挙げる人たち。そのカヌーを転覆させて、反対する人を水の中へ引きずり込もうとする屈強な海上保安庁の職員たち。圧殺の海、である。
 見ているだけで胸がしめつけられる残酷な光景。ぼくには、それを平然と見ていられる人たちの心根が分からない。
 これは「軍事基地を造るために、美しい海を破壊」しているのではない。まさに「美ら海を破壊するために、軍事基地を造っている」としか見えないのだ。言い換えれば、サディスティックな政治。

 壊すために作る。逆転した発想。
 何かを破壊するために何かを創造する。

 兵器という創造物が、その象徴的なものだろう。人間の命を破壊するための道具として兵器を作る。それも次第にエスカレートして、大量破壊兵器に行き着き、ついには地球上の全人類を数百回殺してもまだ余るほどの核兵器を保有するに至った人間の狂気。
 その狂気に歯止めをかけるどころか、むしろ狂気を煽るような政権さえも出現する。煽動を覆い隠すために、ナショナリズムの旗を振り回し、愛国心を強制する。
 ここしばらくの世界の動きは、そう捉えるしかない。むろん、日本における安倍政権の強権ぶりもそんな流れの中にある。2018年は、悲しいけれどそういう年だったと思う。

軍人よりも政治家が危ない

 どれだけの兵器をアメリカから(というより、トランプ大統領から)買わされたか? そのカネがあれば、いったい何をどのくらい実現することができたか?
 イージス・アショア?
 最初に2基あわせて1600億円(それだってすごい値段だが)といっていた購入費用が、ほんの数カ月で4664億円に跳ね上がり、しかも、これには1発40億円のミサイル48発が必要な定数なのだという。したがって、総計では6600億円ほどになる。こんなもの、朝鮮半島の状況が劇的変化を見せ始めている現在、なぜ必要なのか。不要だ、アメリカの防波堤の役目をするだけのものに過ぎないと、軍事ジャーナリストの田岡俊次さんは言うのだ(週刊金曜日・12月21日号)。
 さらには、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の空母化が決定した。専守防衛を逸脱するではないか、との批判を避けるために「多用途運用護衛艦」などというわけの分からない名称でごまかしにかかる。安倍首相の得意の言い換え「安倍話法」が、政権全体に蔓延してしまったのだ。
 呆れ果てて言葉も出ない。
 イージス・アショアも「いずも」も、別に自衛隊が望んでいたものではなかったというのは、田岡さんも、東京新聞の半田滋さんも同じ見解だ。どちらも、安倍政権による「国家的虚栄心」であり、政治主導で決められたものだというのだ。
 その上で半田さんは「『背広を着た関東軍』ほどおそろしいものはない」と書いていた(東京新聞コラム論説室から・12月24日)。
 日本を泥沼の戦争に引きずり込んだ旧日本陸軍の関東軍。ただ、軍隊なら“シビリアン・コントロール”で縛ることも考えられよう。だが、政治家連中が軍人よりも戦争好きだったら、誰がコントロールできるのか。
 人の命を破壊するために作られる兵器。それを、軍人よりも政治家が欲しがるという、ここにも逆転した現実。

2019年の夢見は、どうか?

 年末である。
 今年は、何かにつけて「平成最後の〇〇」という枕詞がつく。ぼくには鬱陶しいだけだ。年号が変わったって、別に世の中が変わるわけではないだろう。それとも年号とともにガラリと政治も変わるというのか?
 じゃあ来年はいい夢を見よう。

  • 辺野古の埋め立ては「県民投票まで工事を止めてくれ」という署名運動が盛り上がってアメリカ政府も困惑し、2月24日の沖縄県民投票では「辺野古基地」が圧倒的多数で否定され……
  • 玉城デニー氏の沖縄県知事転身に伴い、4月に行われる沖縄3区衆院議員補欠選挙で、またしても辺野古基地反対を表明した野党統一候補が、自民候補の島尻安伊子氏を圧倒的な票差で破り……
  • 沖縄公明党は、この選挙で自民候補に相乗りせず自主投票としたため、自民公明の与党間に大きな亀裂が生じ……
  • その上、各地方議会から「国はもっと丁寧に沖縄と協議すべきであり、その間は工事の一時停止を」という議決が相次ぎ……
  • これらを受けて、とりあえず工事は暫時停止ということになって辺野古の海に一時的とはいえ平穏が訪れ……
  • ダメ閣僚たちや与党議員、さらには官僚たちから、更なるパワハラ・セクハラ、金銭をめぐるスキャンダルなどが続出、森友加計問題では新たな資料で隠蔽や改竄が炙り出され……
  • それでも「知らぬ存ぜぬ」とシラを切り続ける安倍首相の支持率は、とくに女性層では急速に低下し……
  • ロシアのプーチン大統領との日ロ首脳会談では、結局、北方領土2島返還論は、実は「返還」ではなく「施政権は別」との厳しい要求を飲まされて、安倍支持層のネット右翼諸兄諸姉からも大きな反発を受け……
  • その上、米トランプ大統領からの「兵器押し付け」は、さらに増大し……
  • 予算は、軍事費増大だけが突出して、社会保障費や高齢者医療費などの抑え込みが表面化し……
  • 正社員主体の春闘で非正社員は置き去りにされ、貧富の格差が拡大する一方で……
  • 消費増税への対策がカード対応などで、結局、メチャクチャになって過疎地や高齢者にはなんの恩恵もないことが分かり……
  • それらの影響で4月の統一地方選挙では自民党の退潮が著しく……
  • 統一地方選の結果を受けて、自民党内部から「これでは安倍首相の下では戦えない」という不満が続出して安倍一強体制の揺らぎが表面化し……
  • 公明党内部でも「このまま安倍自民党の補完政党では、創価学会との軋轢は大きくなるばかり」と、自公連携への疑問が高まり……
  • その期に乗じて、野党統一候補擁立の機運が盛り上がり、7月に改選期を迎える参院選では、自民公明の与党が敗れて3分の2の議席を失い、改憲発議は困難となり……
  • 安倍首相は最後まで辞任に抵抗するが、さすがに自民党内からの反発は抑えきれず、暴言大魔王の麻生財務相ともども、とうとう総辞職せざるを得なくなり……
  • その結果、あのひどい「水道法」や「入管・難民法」なども再議に付されることになり、実際の施行は見送られ……

 とまあ、こんな夢を見てもバチは当たるまい。
 これらはもちろん、ぼくの個人的な夢想に過ぎない。しかし、知人のジャーナリストや評論家などから話を聞くと、このうちの幾分かは単なる夢想でもなさそうなのだ。
 安倍政権の基盤が揺らいでいることは間違いない。
 絶対権力は絶対に腐敗する。これは政治学上の真理でもある。

祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす
驕れる人も久しからず ただ春の夜の夢の如し
猛き者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。