第58回:不安(不穏)な年明け(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 明けましておめでとう…と言いたいところだけれど、ぼくにとっては3年続きの「喪中欠礼」。新年を迎えても、めでたいようなめでたくないような…。
 まあ、一茶風に〈めでたさも 中くらいなり おらが春〉といったところか。
 ところで2019年、いったいどんな年になるのだろう? 個人的には、なんだか大荒れの年になりそうな予感がしている。だって、新年早々、ろくなことがないのだから。

元旦未明の暴走車

 東京の大繁華街、新年を祝う若者たちでごった返す原宿竹下通りに暴走車が突っ込み、8人が重軽傷。いったい何が起こったか。
 若い容疑者(21歳)は「オウム事件の大量死刑に反感」「死刑制度に反対」などと供述しているとのことだから、組織的ではないにしろ、ある意味では政治目的を持ったテロとの疑いもある。
 だがその後の報道を見ていると、政府も警察当局も、そしてマスメディアさえも、なぜか「テロ」という言葉をほとんど使っていない。
 今年はラグビーW杯が日本で開催される。来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの大規模な演習という意味合いもある。大勢の観客などが集まるソフト・ターゲットとしては、テロリストにとってかっこうの舞台と言えるだろう。しかも、今回の暴走車はレンタカーだった。あの大勢の死傷者を出した秋葉原事件(2008年)と同じだ。
 アメリカのような銃社会ではない日本でも、レンタカーを借りさえすれば、大勢の人を巻き込む惨事が簡単に起こせるということだ。だからこの原宿での事件は、オリンピックを控えた政府や警備当局にとってはショックだったに違いない。
 警察はよく「テロ容疑者逮捕の訓練」をマスメディアに公開するけれど、それはほとんどナイフを持った不審な男を、警官隊がサスマタなどの器具を使って取り押さえる、といったもの。今回のように、人混みに車で突っ込む、などということはそれこそ想定外だ。いや、防ぎようがない、というのが本音だろう。
 オリンピック成功を引退の花道にしたい安倍首相にしてみれば、原宿事件がテロだなどとは、国際的には絶対に認めたくない。そのためには「テロ」という言葉を使わない…。
 これも“安倍忖度”のひとつなのかもしれない。いまや治安の良さくらいしか日本が世界にアピールできることはないのだから。

熊本で震度6弱の地震

 不穏な出来事は続く。新年3日、またも大きな地震。
 幸運なことに、あまり深刻な被害は出なかったようで、なんとか胸をなでおろしたが、それでも、この国が災害列島であることを思い起こさせるには十分だった。テレビでは、すぐに「この地震による玄海原発と伊方原発への影響はなく、現在も支障なく運転を続けています」などと報じた。
 昨年は、ほんとうに災害の多い年だった。地震、台風、大雨や暴風の被害、火山活動の活発化…。
 ことに、北海道の大地震では、なんと「全道ブラックアウト」で数日間の大停電。巨大発電所への一極集中が完全に裏目に出た。
 「だから、泊原発を再稼働しておけばよかったんだ」などと知ったかぶりの連中もいたけれど、もし泊原発が稼働中で、そこに電力需要が集中していたら同じことが起きたはずだ。また稼動中の泊原発の近辺であの大地震が起きていたら、原発過酷事故(福島の二の舞)につながりかねなかった。そんな当たり前のことも考えられないほどの想像力の決定的な不足。
 原発というものの危険性を報道機関だって知っているからこそ、少し大きな地震があれば必ず「〇〇原発への影響はなく、付近のモニタリングポストでも放射性物質の検出は観測されておりません」などと言い訳がましいコメントを付け加えるのだ。
 今年も我々は、地震や暴風雨のたびに、原発の心配をしなければならないという不安から解放されることはない。
 いったい、こんな国が世界にあるだろうか…?

株価乱高下が止まらない

 あっという間の2万円の大台割れで始まった株式市場だが、今度は大幅な株価上昇で2万円台回復。まさに乱高下で始まった今年の株価。
 知人の経済ジャーナリストによれば、この傾向はすぐには収まりそうにないという。なにしろ、トランプ米大統領が次に何を言い出すか、側近でさえ読めない状況の中では「トランプ・リスク」が株価を左右する。しかも、アメリカの予算案が「メキシコ国境の壁」を巡って成立の見通しが立たないのだから、米政府機関の閉鎖は続く可能性もある。
 こうなれば、アメリカの株価も乱高下するのは避けられない。アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪をひく…と言われる株式市場だから、これからも乱高下するのは間違いないだろうと、そのジャーナリストは言うのだ。アメリカが不安定であれば、ドルも不安定になる。となれば比較的安全と言われる円が買われ円高となる。つまり、日本を代表する輸出産業である自動車業界などには大打撃となる。
 それは取りもなおさず、日本の景気に大きく影響する。

韓国との軋轢

 「レーダー照射」が外交問題化し始めた。
 軍事ジャーナリストの田岡俊次さんによれば「あんなもの、米ロの間では日常茶飯事だったのだし、なんでこんなに大騒ぎするのかまったく分からない」とのことだけれど、大騒ぎして得をする誰かがいるに違いない。
 しかも、その際の動画を自衛隊が公表して、さらに波紋を広げている。報道では、安倍首相が渋る自衛隊に対し「公表しろ」と迫ったというのだ。「外交の安倍」を自負する首相が、なぜこんな火に油を注ぐようなことをするのか。このところの支持率下落をものすごく気にしているという安倍首相が、起死回生の手を打ったとも言われている。得意の「愛国心高揚」の旗を振って、支持率回復につなげようというわけだ。
 そうなれば韓国だって黙っちゃいられない。今度は韓国側が日本の言い分に真っ向から反対する動画を公開。
 お前の母ちゃんデベソ、そっちの母ちゃんこそデベソ……か。なんだか、子どものケンカじみてきた。
 なにしろ、北方領土問題では、誰がどう見ても完全にプーチン大統領に手玉に取られているとしか見えない安倍首相。ナショナリズムを煽ることで目を逸らそうとしているのかもしれない。

人質司法

 8日、ゴーン前日産会長が勾留理由開示のために、初めて法廷に姿を現した。その容疑はともあれ、すでに彼の勾留期間は50日にも及んでいる。これが欧米各国での激しい批判を呼んでいるということを、我々日本人は忘れてはいけない。
 勾留期間には一定の限度がある。本来なら保釈手続きに入らなければならない。だが日本の場合、それが近づくと再逮捕を繰り返す。容疑の否認を続ければ、延々と拘留期間を延長するのだ。
 これが、悪名高い日本の「人質司法」と言われるものだ。
 最近では、沖縄辺の辺野古や高江での米軍基地反対運動を指導した山城博治さんが5カ月間も拘留され続けたし、また例の森友学園事件の籠池夫妻に至っては、なんと10カ月間も檻の中に閉じ込められていたのだ。
 要するに、容疑を認めなければ娑婆には出さん! というのが日本の司法当局の姿勢なのだ。
 これも、日本が世界から「異質な民主国家」と見られている原因のひとつである。

沖縄県民投票の行方

 沖縄では、辺野古の米軍新基地をめぐる県民投票(2月24日)が揉めている。宮古島市、宜野湾市、沖縄市などが議会の反対決議を盾にして「県民投票を行わない」と言い出したからだ。
 もし、圧倒的な票差で基地反対派が勝つとなれば、さすがに安倍政権としてもむりやりの工事強行には躊躇せざるを得なくなる。そのために、安倍政権が保守系首長たちに反対するように強く圧力をかけて、県民投票そのものを阻止しようとしているのだ。
 これに対沖縄県は、投票に反対する自治体に成り代わって投票事務を行う方策を探り始めている。さらに、「『辺野古』県民投票の会」の元山仁士郎さんら若者たちが、反対自治体の首長に対して県民投票実施のための申し入れを行うなどの動きを活発化させている。
 また、4月の沖縄3区(玉城デニーさんが県知事に立候補したために欠員)の衆院補欠選では、自民が推す島尻あい子氏の評価が極めて低く、オール沖縄が推す屋良朝博氏の圧勝ではないかと言われている。つまり、何度選挙をしても、基地反対派が勝つという状況は変わらないわけだ。

選挙イヤーの大波乱?

 こんなふうに見てくると、どうも2019年という年が、それほど穏やかに過ぎていくとは思えない。自然も、政治も、世界情勢も、どうも不安(不穏)なのだ。
 日本は今年、選挙イヤーでもある。ことに7月の参院選は、安倍首相の悲願である「改憲」を左右する政治決戦の様相を帯びる。
 その参院選では、自民党が大きく議席を減らすだろうとの予測が多い。ただしそれは、野党統一候補の一本化が前提だ。もし、かなりの選挙区で野党共闘が実現すれば、自民大敗もあり得る。
 政治記者の早野透さんによれば「それをなんとか食い止めたい安倍首相が、奥の手の衆参同時選挙に打って出る可能性も無きにしも非ず」という。

 何が起きてもおかしくないという、2019年の年明けである。

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。