第77回:野党は「消費減税」を看板政策として国政選挙を闘え(想田和弘)

 山本太郎参議院議員が4月に立ち上げたばかりの政治団体「れいわ新選組」に、6月5日時点で1億6826万円もの個人献金が集まった。朝日新聞によると、千円や五千円などの少額の寄付が全体の6~7割を占めるという。

 ツイッターを眺めていると、一人で何回も寄付したという投稿をよく見かける。

 日大法学部の岩井奉信教授は「通常の個人献金の集め方では、これほどの金額は集まらない。異例だ」とのコメントを寄せている。

 リベラル派の急先鋒として活動してきた山本議員だが、彼がいま人気を集めている一番の理由は、「反安倍」でも「脱原発」でも「護憲」でもない。彼が人々の共感を集めているのは、「消費税廃止」や「最低賃金1500円」といった「庶民のための経済政策」「反緊縮」を前面に出しているからである。

 それは山本氏が全国津々浦々で行なっている、街頭演説と質疑を聴いてみればわかる。彼がしばしば目に涙を浮かべながら語っていることの大半は、この国でどうして庶民が苦しい生活を強いられていて、どうすれば生活を改善できるのか、という問題に費やされている。

 実際、日本で暮らす庶民の生活は苦しくなる一方である。

 金融広報中央委員会が行なっている「家計の金融行動に関する世論調査」によると、貯蓄ゼロ世帯(2人以上世帯)は1987年に3.3%であったのが、2017年には31.2%になった。ここ30年間で恐ろしいほど上昇しているのである。

 一方、日本商工会議所の三村明夫会頭は、経済財政諮問会議などで最低賃金を時給1000円に引き上げる議論が行われていることについて、「重大な影響が中小企業にあると思います。1000円というのは大変大きな金額ですよ」と述べ、反対を表明した。時給1000円で1日8時間・月20日間働くとすると年収192万円になるが、そんな賃金すらも払えないと言ったわけである。これでは貯蓄ゼロ世帯が増え続けるのも不思議ではない。

 他方、金融庁は退職後に2000万円が不足する例もあるとして、「若いうちから資産運用が必要」とする報告書をまとめた。麻生太郎財務大臣は次のように言い、無責任にも資産形成による自助努力を促した。

 「100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか? 普通の人はないよ。そういったことを考えて、きちんとしたものを今のうちから考えておかないかんのですよ」

 年収192万円に満たぬ貯蓄ゼロの人たちが、いったいどうしたら2000万円貯められるというのか。政治家たちの長年にわたる失政と無責任には憤りを禁じ得ないが、逆に言うと、だからこそ「庶民のための経済政策」と「反緊縮」を訴え、富裕層優遇の新自由主義政策をひっくり返そうとしている山本太郎は、草の根から支持を集めているのである。

 興味深いのは、山本氏が2月、民間業者に委託して独自で行った世論調査の結果だ。
 「山本太郎が新党を立ち上げたら支持しますか?」との問いに対して、9%超が「支持する」と回答したという。そして「支持する」と答えた人のうち、自民支持層と立憲支持層がともに約15%を占めたというのだ。

 つまり山本太郎の主張は、イデオロギー的には真逆であるはずの、自民支持層からも票を奪えるのである。

 なぜなら経済的に困窮しているのは、自民支持層も同じだからだ。そして彼らが消極的に自民を支持しているのは、野党がアベノミクスに対抗できる経済政策を打ち出してこないからではないか。僕は山本太郎の人気ぶりを眺めながら、そう確信している。

 不可解なのは、参院選もしくは衆参同日選を控えているにもかかわらず、立憲民主党などの野党がこの安倍政権打倒の絶好の機会に飛びつこうとしないことである。

 消費税廃止を掲げる山本太郎だが、野党が消費税の5%への減税を公約にするなら、選挙でも共闘したいと発言している。安倍政権を打倒したいなら、野党は今すぐに「消費減税」を政策の中核に据え、選挙戦ではそれを前面に出して「庶民のための経済政策」を訴えるべきであろう。

 もちろん、それは選挙のための単なる方便ではない。

 安倍政権が2014年に消費税を5%から8%に増税した際、消費が冷え込んで日本経済が深刻なダメージを受けたことは明らかである。これは多くのエコノミストたちが指摘しているところだ。

 だって、それはそうだろう。デフレ経済で消費が落ち込んでいるのに、消費するたびに罰金のごとく税を払わされる消費税を上げてしまったら、ますます経済がドツボにハマるであろうことは、経済学者でなくてもわかる物事の道理だ。というより、それは日々の生活の肌感覚でも実感できることである。

 しかも「消費増税分は社会保障に使う」という公約は完全に反故にされた状態だ。山本太郎事務所が内閣官房に問い合わせたところ、増税分の84%は使途不明だという。

 要するにあの増税は、少なく見積もっても「失政」であり、もっと言うと「詐欺」だった可能性が高いのである。であるならば、最低限、消費税は元の5%に戻すべきではないか。

 これは極端な主張でもなんでもない。いま話題の「現代貨幣理論(MMT)」を支持するかどうかとも関係ない。そういう意味では、実にハードルの低いはずの政策なのである。

 その最低限のハードルをもなかなか越えようとせず、「消費税増税凍結」にまでしか踏み出せない野党たちに、僕はもどかしさを感じてしまう。いったい何をためらっているんだ、と。安倍政権が消費税増税延期を再び言い出したら(その可能性は十分にある)、「凍結」ではとても闘えないぞ、と。

 とはいえ、当たり前だが山本太郎だけでは安倍政権を倒せない。安倍政権を倒すには、どうしても立憲民主・国民民主・共産・社民の力を合わせることが必要なのだ。それは山本太郎が望んでいることでもある。

 だからこそ強く願う。野党全党が「消費減税」を前面に掲げて選挙戦を闘うことを。「ボトムアップの政治」だけでなく、「ボトムアップの経済」と「経済のデモクラシー」を大きく掲げることを。

 いずれにせよ、今のままでは惨敗必至だ。野党はこの起死回生のチャンスを絶対に逃してはならない。

想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。