第122回:香港逃亡犯条例! ついに200万人デモが発生!(松本哉)

 ご存知の通り、香港で逃亡犯条例反対の巨大抗議活動が発生している。ちなみに初めてこの話を耳にしたのは先月のこと。そのニュースが出た時、香港の友達たちは「これで香港はもう終わりだ」「香港はなくなる!」などと絶望的なことばかり言っていた。ところがそれから一ヶ月、反対の声はみるみる大きくなってきて、海外でもそのニュースを耳にするようになり、あっという間に超巨大運動へ。当然のように、近年交流を深めているアジア近辺のアンダーグラウンド文化圏のやつらの間でも大きな話題に。
 ってことで、再度超巨大デモが発生するという6月16日当日、香港に到着した。

 空港に到着すると、台湾からは子瑄(ズーシェン)が到着。こいつは、台北で半路珈琲というカフェを運営していて、台北地下文化圏の中では重要な存在。2011年に台湾でも反原発のサウンドデモが発生してそこで知り合って東京マヌケ文化圏とも仲良くなった。おお、これは頼もしい援軍! 子瑄いわく台湾からもたくさん香港入りしていて、実際デモを歩く中やたら多くの台湾人にも会った。

空港で早くも台湾の盟友、楊子瑄(右)と合流。左は迎えに来てくれた香港の文李

東京のデモで謎の才能を発揮するイカル氏(左)と、韓国から勢いで馳せ参じたバルムくん

 さて、香港の人たちと合流してデモに向かう。途中、路上やら駅やらで仲間がどんどん合流し、だんだん大人数になりデモ現地へ。ただ、現地に向かうための地下鉄の駅がすでにやばい。地下鉄各駅が見たことないぐらいの人で埋め尽くされており、ホームに降りるだけでやっとの状態。東日本大震災で電車が止まって大混乱になった東京の駅みたいな感じだった。
 今回は、デモで黒い服を着ようという呼びかけがされていたので、駅も黒服だらけ。前回のデモでは警察の暴力が半端なかったり捕まる人もたくさんいたため、警察に追いかけられても逃げやすいように同じ色の服を着ようという意味や、この前日の夜に街頭で抗議活動をしていた人の一人が逃亡犯条例に抗議のメッセージを残し転落死した事件に対して、彼への追悼の意味もあるし、この法案が通ったら香港おしまいだっていう暗黒のメッセージなどなど、いろんなことで今回全員黒い服。
 ただ、そのおかげでみんなめちゃくちゃ迷子になる(笑)。ちょっと振り向いたら全員黒い服なので、一緒にいた人たちがどこにいるか全然わからなくなる。人が多すぎて携帯もすぐ切れるので役に立たない。こりゃ、勝手に行動するしかない。

駅は大混雑。地下鉄も始発駅じゃないのにわざと空の車両を回してくれたりして大歓声が上がる

 さて、中心の金鐘駅で降りたらもう全部が人。どの道も黒い人たちだらけで歩くのも大変。香港人たちもみんな「これは前回の100万人デモよりも人多いよ!」とのこと。まっすぐ行ってたら日が暮れちゃうからってことで、香港の友達の案内で遠回りの裏道を抜けてなんとかデモコースに合流成功。やはり現地人はなんでも知っている!
 細い路地からデモコースの大通りに出るととんでもない人数の人。まっすぐの道なんだけど、前も後ろも見えなくなるまで人。当然、全車線と歩道も全部使ってるけどそれでも大混雑。いや~、すごい人だな~、と驚いていると、「この道だけじゃないよ」と香港人。聞けば並行して通っているこんな大通りが5本全部デモコースになってるとのこと。見に行ってみると確かにどの大通りも全部デモ。というより、デモコースなんてあってないようなもので、あらゆる道がデモ隊。こんなにたくさんの人をいっぺんに見たのは生まれて初めてだ。

全てが埋め尽くされた道

 この日のデモの主張は主に2つ。まずは逃亡犯条例への反対。前回の100万人デモや、法案審議予定日の激しい抗議活動にビビりまくった香港政府は、このデモの直前に法案審議の一時延期を表明。ただ、撤回したわけではないということで、民衆の怒りは収まらない。政府は抗議の収束を目論んだんだろうけど、「撤回するまでやめない」というスローガンがあっという間に出回り、収束の予兆なし。すごい!
 そして、もうひとつは警察への抗議。前回の警察はひどくて、催涙弾やゴム弾などでデモ隊を鎮圧したため、みんな怒り心頭。さらに、香港政府は前回の抗議の時に起きた騒乱を暴動だと認定。暴動を起こす罪は最低3年の懲役なので、これもデモの力を削ぐための脅し。日本だったら「騒ぎを起こしたらその他の平和な人たちに迷惑でしょ」とか「捕まるようなことをするのは良くない」みたいな奴隷みたいな言説がすぐに出回るが、これも日本のローカルルール。香港の人たちは、よっぽどのことではない限りは仲間への弾圧として政府や警察に一緒に文句を言う。警察本部もデモコースに指定され、警察の前では老若男女問わず「屌你老母」「仆街」(どちらもとんでもない悪口)と叫びまくる。時にはそれがコールになってみんなで一斉に言ったりしてる。いや~、広東語やべえ!!!!

 どこへ行っても人。デモコース終盤の政府庁舎前の大通りでは、まさに大河。機会があれば動画みせるけど、この人数は本当にすごい迫力。たくさんの支流が流れ込んできた大河の感じ。

メインの大通りを政府庁舎に向けて進む

 そして、ちょっと驚いたのが、香港のデモにはデモの宣伝カーがない。制限されて出せないらしいけど、これがまたすごい。それどころか拡声器を持ってる人もほとんどいない。各所で突如巻き起こるコールなどがあるが、それ以外はただただ無数の群衆が行進してる。もちろんいろんな政党や政治グループもあるので、その人たちは一角に簡単なステージを作って話したりしてるし、楽器を持ってくるグループは太鼓(ドラムというより太鼓)を叩きながら行進したりもしているけど、やはりそれはそこまで多くない。そして時々怒りがたまってきた時に「うお~~~」とみんなで叫び始める。数千人数万人が叫ぶ。そしてすぐに止む。これすごい迫力。以前、「リーダーがいないデモ」ということを少し紹介したけど(ブログ参照)、デモ中もそれをすごい感じる。もちろん呼びかけた主催グループはあって、いろいろやってはいるけど、この人数だから全体を仕切るのは不可能だし、そんなつもりもない。デモ中も、警察も主催者もなくデモ参加者しかいない感じ。でも、塀を乗り越えて移動するときはみんなですぐ助け合ってるし、大きな荷物を通すときもみんなで道を作ったりと協力してやってる。すごいみんな優しい。
 主張もいろんなトーンがあっていい。大まかに呼びかけられている主張はもちろんあるけど、みんなテンションが違う。ものすごい警察に対して怒ってる人がいると思ったら、前日に死んだ人への追悼をメインにしてる人、「行政長官をクビにしろ!」と、政府に怒ってる人。いろいろ。で、ちょっと良かったのが、アメリカにも文句言ってる人もいたこと。香港にとって中国の存在は絶大なので、単純な反中国になりがちな人も少なくはない。でも、これだけだと新たな香港ナショナリズムと排外主義になりかねないので、ちゃんと全部に文句を言うべしということで「アメリカも言論弾圧してるだろ」との意思表示。みんないろいろ考えてるな~。

 そしてデモ後。人数多すぎて、どこがスタートでどこが終わりなんだかもよくわからないぐらいになってる。で、終わった後はとりあえず政府庁舎の周辺の道路を占拠して帰らない。しかも人数が多すぎて、日が暮れてもまだデモ出発もしてない人がいるぐらいだったので、続々と人が到着してくる。

解散する気ゼロ。みんな道路でくつろぎ始める

 今回、主催グループもありながら各小グループが独自に動いているということで、みんなが自分たちにできることをやっていた。たまたま合流した友達のグループでは、有事の際の救援をやることにしているという。消毒液やマスク、医療用具などの準備の状況などを会場内で見回り、不足しているものを新規に調達したり。いざ警察の暴力が始まったらデモの最前線に水やヘルメットなどを補充しに行ったり。
 そしてしかも、これが自分たちで考えてやってるのがすごい。主催者からの指示で担当しているわけではない。今回は香港の各グループが独自に意思決定して動いてるところがものすごい新しい動き。どのグループも「別に頼まれてないし…」なんていう遠慮もないし、勝手なことをやるなと怒られることもない。もちろん全体で統一してやってるわけじゃないから効率悪い動きなんかもあるかもしれないけど、全体で全部やろうとしたら目の届かないことだらけになってしまうので、逆に小グループ作戦の方が効率がいいのだ。
 デモ後も独自に政府に対して要求を出して、回答期限の時間まで返答がなければ直接行動に移すと宣言してるやる気満々のグループから、今日は平和的にと追悼行動に移る人たちから、早々に解散する人たちまで。で、そんないろんな人たちの動きが情報としてどんどん回ってくるから、普通に参加した人たちも「じゃ、今度はこっちに行ってみよう」と、自由に動いて決めればいい。
 ただ過激な行動を呼びかけても意味ないし、ただただ平和な運動をしてもダメ、街頭占拠を目指してもやられちゃう。香港ではいろんな経験を通して、統一行動の限界に直面して、ものすごい新しいやり方を始めている。日本でニュースを見ているだけだと、よくいろんな国で起こるように、問題が発生してみんなが怒って巨大な抗議活動が起こっているというだけに見えるかもしれないけど、その中身はものすごいバージョンアップされている。ここが今回の本当にすごい点だと思う。
 ちなみに、この当日の参加者は200万人との発表。いや、これ本当にいるよ。あんな人の数、生まれて初めて見たし!!!!  そして、デモ終了後の夜、香港の行政長官は軽率でしたというような内容の謝罪を発表。ただ、これはまだ撤回ではないので、微妙な謝罪。内容はともかく、政府としては相当ビビっていることの証明ではあるだろう。

前夜に抗議者が転落死した現場には大量の追悼の花

 そして、翌日以降、香港全土にてゼネストが予定されているが、主催グループは法案の審議延期になったとしてゼネスト中止を宣言。ただ、他のグループはゼネスト決行を呼びかけるところが多く、これ以降どうなるかは未定。で、本当に面白いのが、「明日の計画はどんな感じ? なにがあるの?」と聞いても、どの香港人も口を揃えて「まだわからない」という。もちろんいくつか発表されている行動はあるけど、いろんなグループが独自に考えて動いているので、極端な話当日になってみないとどう転ぶかがわからない。ただ、それは逐一情報が回ってくるので、参加者も当日の動きを見つつ考えていけばいいだけだ。政府が「誰と交渉していいのかわからない」として遂には音を上げつつあるのはこの辺りが効いている。
 香港の新しい運動、これは超勉強になる!!!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。