第87回:ぼくの「ニュース・ファイル」から(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 ぼくは毎朝、1時間半ほどかけて、新聞3紙をじっくり読む。そこで気になるニュースや心に残った記事を切り抜く。
 切り抜いた記事は、「原発」と「憲法・沖縄 他」に分類してファイルする。これは、2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う福島原発事故の直後から始めた習慣だ。いつの間にかファイルが増えて、「原発」は44冊、「憲法・沖縄 他」は48冊に達した。小さな本棚では収録しきれなくなり、ぼくの寝室の棚まで占領するようになってしまった。
 ときおり、必要があってそれらをめくってみる。たった8年しか経っていないのに、この国の変わりようがニュース記事の中にイヤになるほど反映されている。切ないと言えば切ない。ヒドイとも言える。何度かの選挙を経て、この国はどんどん堕ちていくように思える。
 とくに最近は「ナショナリズム高揚」の世相を反映して、イヤなニュースが増えている。
 ここ10日間ほどのニュースをピックアップしてみようか。

いいニュースは少ないなあ…

◎防衛省が2020年度予算の概算要求を発表
 なぜか防衛予算(すでに“防衛”の枠を逸脱している。これはやはり“軍事予算”というべきだろう)は、毎年青天井で増えていく。アメリカ製防衛装備品(“武器・兵器”の安倍言い換え語)の大量購入で、本来の必要なものの購入費が圧迫されている。そこへ、イージス・アショアや護衛艦「いずも」の空母化、アメリカ国内では数百カ所の不具合を指摘されているF35戦闘機の購入などの安倍の爆買い。
 イージス・アショアは、秋田では県民の強固な反対で配備が未定だというのに、すでにアメリカと契約を交わしたという。政府は住民の意見など最初から聞く気がない。
 なお、各省庁の来年度概算要求総額は、過去最大の104億9998億円。

◎沖縄でまたも米軍ヘリの窓が落下
 沖縄県が米軍に強く抗議したにもかかわらず、米軍も沖縄防衛局もほとんど無視。防衛省は、落ちた場所が海上だったから、米軍へ飛行停止を求めることはしないという。沖縄県の玉城知事も、むろん米軍と防衛省に強く抗議しているが、なしのつぶて…。

◎読売グループ会長が駐スイス大使に
 これほど政権と癒着するマスメディアも珍しい。巨大報道機関の現役の会長の白石興二郎氏が、あっさりと時の政権の内部に取り込まれていく。どこにジャーナリズムの矜持があるのだろう?

◎アメリカ、対中関税第4弾発動
 トランプ大統領が、中国からの輸入品約12兆円分に、新たに15%の追加関税を課すことを決定。当然のように、中国もアメリカ産の輸入品約8兆円分に、10%~5%の関税を上乗せすると対抗。泥沼の様相、結局は両国ともに経済的な損失につながることは分かっているのに…。
 「日韓摩擦」同様、振り上げた拳の落としどころが見つからないらしい。

◎またも米で銃乱射事件
 8月31日、アメリカ南部テキサス州オデッサで、30代の白人男性による銃乱射事件が発生。5人が死亡、20人以上が重軽傷を負ったという。8月3日には同州メキシコ国境の街エルパソで22人が犠牲になる銃乱射事件があったばかり。これはメキシコ系住民を狙ったヘイトクライムだと見られている。
 相次ぐ乱射事件で、小売り大手のウォルマートが「銃弾の販売を中止」と発表。しかしこれは普通の銃用だけで、狩猟用の銃弾は相変わらず販売するという。だがこんな弱腰の規制に対してさえ、トランプの有力支持団体NRA(全米ライフル協会)が強硬な抗議声明を出した。
 銃社会アメリカ、恐ろしい国。

◎朝鮮人虐殺の法要式典
 9月1日は関東大震災(1923年)から96年目。震災時に起きた朝鮮人虐殺犠牲者の追悼式が都内墨田区で行われたが、小池百合子都知事は今年も式に追悼文を送らなかった。これは歴代知事が続けてきたものだが、小池知事は3年連続で追悼文を送らなかった。歴史修正主義の影がちらつく。

◎丸山穂高議員がまたも戦争発言
 N国党の丸山議員が竹島に関し、またも「戦争で取り返すしかないんじゃないですか」とツイート。もはや「戦争愛好団」の団長とでも言うしかない。さらに、N国党の上杉隆幹事長が「言論の自由は保護しなければならない。個人的には丸山発言には絶対反対だが」と擁護。なにそれ?
 なお、N国党代表の立花孝志議員が、脅迫容疑で警察の事情聴取を受けたという。なんともすごい政党だ。最近亡くなった安部譲二さん風に言えば「N国党の懲りない面々」といったところか。

◎「週刊ポスト」嫌韓記事が炎上
 9月2日発売の「週刊ポスト」の凄まじい嫌韓記事「韓国なんて要らない」に、多くの作家らが反発。執筆拒否者も出る騒ぎになり、ポスト側が即日「誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めてまいります」との謝罪コメントを発表。だが「誤解を広めかねず…」とはどういう意味か。記事を読者が誤解するという意味なのか? では、いったいどう誤解するというのか? 記事は正しいけれど、誤読されるとでも言いたいのか? また「他のご意見」とは何か? 批判ばかりではなく賛同の意見もあるということか? まるで謝罪にはなっていないと、ぼくは思う。小学館とは、ぼくもまんざら縁がないわけではないから、ほんとうに悲しい。
 TBS系(CBC)の「ゴゴスマ」における武田邦彦なる人物の最低最悪の嫌韓ヘイト発言もあり、マスメディアは自らジャーナリズムの矜持を捨てたというしかない。売れりゃ、視聴率が取れりゃ、なんでもいいのかっ!

◎東京五輪組織委が旭日旗を禁止せず
 もう言葉もない。これも、世の嫌韓ムードに乗った組織委員会の呆れ果てた決定。国際的非難が沸き起こるのは必定。
 単に韓国からだけの批判にとどまらず、欧米各国では「ナチスのハーケンクロイツ旗を想起させる。日本はオリンピックに泥を塗るつもりか」というような強い非難論調が出始めている。ただでさえ、酷暑の五輪、トイレ臭の水泳場などと危ない目で見られているオリンピックにとって、決定的な打撃となりかねない。

◎日産・西川広人社長も不正報酬
 ゴーン元会長の不正疑惑で大揺れに揺れた日産。ゴーン氏追及の先頭に立った西川社長自らが、数千万円を不正に受け取っていたことが判明。西川氏は「正規報酬を上回った分は、会社へ返納する」と語ったが、それで済ませられるはずもない。ゴーン騒動は、結局は大会社の権力闘争でしかなかったか。では、片棒担いだ検察はどうするのか。西川社長は逮捕されないのだろうか? しかし批判が高まって、西川氏はついに社長退任の意向を示したという。

◎香港行政長官、「逃亡犯条例案」を撤回
 4日、香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、ようやく「逃亡犯条例改正案」の撤回を表明した。市民デモの力を見せつけた。だが「5つの要求」を掲げる市民側は他の4項目の要求が受け入れられるまでデモを続けるという。そんな中、8日に民主化運動のリーダー黄之鋒氏が再び拘束された。警察と市民の対立は、抜き差しならぬところまで来ている。

◎安倍・プーチン会談、成果ゼロ
 安倍首相は、いったい何をしにロシアへ行ったのか。27回目の首脳会談だと首相は誇ってみせるが、領土問題に関しては成果ゼロ、いや、マイナス。まるで「中学生の主張」みたいな青臭い詩もどきのスピーチで、プーチン氏を鼻白ませただけ。
 ところがプーチン氏は、安倍のおべんちゃらをまったく無視。わざわざ色丹島の工場稼働に祝辞を寄せるなどして、領土問題に関しては一歩も譲らぬ姿勢を、暗に安倍首相に示した。安倍首相は、まさに恥をかきにロシアを訪れただけ。さすがに安倍支持者からも批判が出始めた。そりゃ「愛国者たち」は怒るだろうな。

◎EU離脱延期、英下院が可決
 EUからの早期離脱を目指す英ジョンソン首相だが、議会との対立は深まるばかり。結局、ジョンソン首相が主張する10月末の離脱は不可能になった。ジョンソン首相は10月に解散総選挙を行って、強引に決着を図ろうとしたが、それも否決された。イギリスの混乱は収まりそうにない。
 「イギリスのトランプ」と言われるジョンソン首相、早くも窮地に陥った。

◎メキシコ国境の壁建設に在日米軍予算
 トランプ大統領の公約のひとつ、メキシコ国境の壁建設の費用に、在日米軍の予算から約430億円が回されるという。この予算の中に、日本側が負担する分が含まれているかどうかは分からないが、カネに色はついていない以上、いわゆる「思いやり予算」が流用される可能性もないとは言えないだろう。もしそうであれば、日本の税金の使い道について、重大な疑義が生じることになる。国会できっちりと内容を精査してほしい大問題だ。

◎沖縄・辺野古の工事に「お墨付き」?
 辺野古の米軍新基地の工事には「軟弱地盤問題」が立ちふさがる。専門家の意見では、「まるでマヨネーズのようなグズグズの地盤であり、基地建設はその部分で行き詰まるだろう」と言われているが、防衛省は「地盤改良で工事は可能」と言い逃れ続けてきた。それを検証するためと称して、防衛省は専門家による「技術検討会」を発足させて6日から議論を開始。
 ところがすぐさま委員から、防衛省の言い分を容認する意見が相次いだ。なにしろ委員8人のうち4人が旧運輸省、防衛省、国交省の関係機関などの所属やOBたち。まるで防衛省の「追認機関」である。要するに、工事に「お墨付き」を与える検討会に過ぎない。やり方が汚い。

◎日本のTVは「韓国放送局」、日本の疑惑には無関心?
 現在の日本のテレビ各局のワイドショーなどの「情報番組」は、ほとんど韓国一色。中でも曺国(チョ・グク)氏の疑惑については、朝から晩まで狂騒的に報じ続ける。かんこく韓国カンコクの大合唱。比較的冷静と思われている番組でさえ、その波に飲み込まれている有り様だ。
 日本の政治はガタガタだし、上野宏史前厚労省政務官の「斡旋利得疑惑」では、犯罪の証拠となるような電話記録まで判明しているし、秋田選出の石井浩郎参院議員のデリバティブ(金融派生商品)取引の不正も明らかになっている。丸山議員の戦争発言も大問題。むろん、モリカケ疑惑などまったくと言っていいほど解明されていない。テレビが取り上げなければならない「ニッポンの疑惑」は掃いて捨てるほどある。しかも、消費税の増税も間近に迫っている。他国のスキャンダルに多くの時間を割いている場合か。
 テレビは役割を思い返せ!

◎福島事故原発の排気筒の切断終了
 フクイチ1、2号機の共用排気筒の切断作業が、やっと終わった。なんとか無事に切断できたという。これは、1日で終える予定の作業だった。ところが切断器具の故障などが続き、なんと30日もかかってしまった。東電は「割合に簡単な作業」と見込んでいたが、予期せぬ不具合の連続で、延々と作業は繰り延べ。
 溶けだして固まっている核燃料(デブリ)の取り出しに、約30年かかる見通しだというが、簡単な筒の切断でさえ予定の30倍に日数がかかっている。廃炉への道は、遠く険しいと言わざるをえない。

◎東電幹部3名への判決が
 福島原発事故の責任を問う裁判が、いよいよ9月19日に判決言い渡しとなる。東京電力の事故当時の幹部、勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3名への判決である。
 「巨大津波を予見できたかどうか」が最大の争点。これに関しては、社外秘の事実や証拠が公判で多く暴露された。「無責任ニッポン」の極みのような東電幹部たちへの判決が注目される。もしこれで「無罪」などということになれば、この国からは「責任」という言葉が消滅したと思わざるを得ない。

 ここまでざっと最近のニュースを見てきた。アトランダムに目についた記事を辿ってみただけだ。それにしても、いいニュースが目につかない。でもこれが、良くも悪くもこの国の最近の進み行きなのだ。
 せめて少しでも、いい方向への揺り戻しがあることを期待したいのだが…。
 
 

ぼくの本棚、ニュース記事のファイルが溢れてしまった……

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。