第91回:企業崩壊、国家没落(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

「軽蔑しか感じない」と吐き捨てた

 10月4日、「デモクラシータイムス」(略称デモタイ)という市民ネットTV局の番組「ウィークエンドニュース」の司会をした。3人の出演者を招き、その週の出来事を中心に議論するという番組。ぼくも協力していて、月に1度は司会を仰せつかっている。
 今回は、消費税増税後の初回ということで、経済に強い方3名をお招きした。金子勝さん、荻原博子さん、斎藤貴男さんという豪華メンバーである。ともかく議論百出、かなりスリリングな1時間だった。
 さてその中で、当然ながら「関西電力」についても触れた。あまりに薄汚い成り行きの話だから気は進まなかった。今のこの国が陥っている総無責任、黙っていれば分からないだろう主義、みんなやってるんだから悪いのは俺だけじゃない感覚、時が経てばみんなが忘れてくれるという願望、そんなものにまみれた連中の話。
 ぼくは司会として、名著『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)をお書きになっている斎藤さんに、「今回の関西電力の問題、どう思われます?」と訊いた。だが斎藤さんは、見るからにイヤそうな顔をして切り捨てた。
 「彼らは原始人ですよ」「話にも何もならない」「こんな連中について、本を書く気になんかならない」「軽蔑しか感じない!」と、吐き捨てたのだ。
 まさにその通りだ。ほんとうに汚い!

 まあ、原発にまつわるヤバイ話はかなり耳にしているけれど、この関西電力の場合は、ちょっと度が過ぎている。
 1億円を超える金品を受け取っていた幹部がふたりもいたという。その「金品」というのが、申し訳ないけれど笑ってしまう。菓子折の菓子の下に小判があった? いったいいつの時代だよ!
 アホらしくて話にならない。それを大の大人たちが実際に演じている。完全に狂っている。
 しかし、ここで不審に思うのは、関電という大会社のことだ。東京電力が福島原発事故で財界活動等の第一線を退いた後、日本の電力企業のリーダーになったのが関西電力だ。その大企業中の大企業のトップが、元助役の恫喝に脅えていた…という。どうにも合点がいかない。
 八木誠関電会長は、2期前の電気事業連合会(電事連)の会長だった。電事連といえば、日本の電気エネルギー産業の総元締めだ。会長職は日本経済界の重鎮でもある。その八木氏は現在も関西経済連の副会長を務めている。押しも押されもせぬ日本の財界の大立者と言っていい。
 しかも岩根茂樹関電社長は、電事連の現会長である。そういう人物が、いかに原発立地自治体とはいえ、小さな町の助役に長年に渡って脅され続けてきたのだという。

日本では、バカでも大企業のトップが務まる?

 脅しにはむろん“脅しのネタ”があるだろう。なんの意味もなく脅しはしないし、脅されても撥ねつければいいことだ。だから、この脅しには、それ相応の理由があったはずだ。
 それは多分、カネにまつわる話だ。最初に受け取ってしまったことが、後々の“脅しのネタ”にされたのだ。卑しい気持ちで、少々ならかまうまい…と、金品を受け取ったのが 仇となったのだろう。
 「お前なあ、カネを受け取っておいて、俺の言うことは聞けんというのか」典型的な脅しの作法である。
 つまり、関西電力とは、幹部連中(とくに原発事業本部)が、元助役にカネでがんじがらめに縛りつけられてしまったのだ。ここまで典型的な企業腐敗の姿も珍しい。しかもその連中が、財界の指導者面をしてのさばっていたのだ。斎藤さんじゃなくても、反吐が出る。
 その上、「ふざけてんのか!お前」と怒鳴りつけたくなったのが、記者会見における八木会長の答えだった。
 「あのカネは、関電が仕事を発注している建設会社から還流したものではないか?」との記者の質問に、八木会長はこう答えたのだ。
 「金品の出どころがどこかは、承知しておりません」だと。
 言っちゃ悪いがたかが小さな町の助役さんが、数億円の金を左右する。ふつうなら、そのカネの「出どころ」がどこかはピンと来るはずだ。
 関電が仕事を発注し工事代金を支払った「吉田開発」という会社と森山氏が密接な関係にあったのは周知の事実。つまり、関電が支払った工事代金が、森山氏を経由して、自分たちの懐へ戻ってきたのだ。知らなかったとは言わせない。それを平気で「出どころは承知していない」とすっとぼける。
 百歩譲って、もし知らなかったとしたら八木会長は完全なバカである。バカが巨大企業のトップに君臨する?
 ならば、この国は終わりである。

大報道機関の堕落と脅しをかけた上級副社長

 大企業の堕落はこれだけじゃない。
 最近のNHKと日本郵政の大げんかほど醜悪なのもめったにない。例の「かんぽ生命」の不正な勧誘や詐欺まがいの行為を「クローズアップ現代+」が報じたことがきっかけだった。
 この続報の情報の提供を、NHKがホームページで一般に呼びかけたことに激怒した日本郵政が、NHKに強く抗議した。それを受けて、NHKの最高決定機関である経営委員会が、上田良一NHK会長に厳重注意を与えたことから始まった。
 この経緯をみれば、またも「圧力に屈したNHKの弱腰」と思われても仕方がない。経営委は個別の番組内容への介入は放送法で禁じられていることから、法に違反しているとの指摘もあった。やはり、NHKの体質の問題だという側面が強かったのだ。
 だが、ある人物の発言で局面が変わる。日本郵政上級副社長との肩書を持つ鈴木康雄氏の、まるでチンピラじみた発言である。この鈴木氏、実は元総務省事務次官、要するに、日本郵政へ天下りした高級官僚だ。鈴木氏は、こんな発言をしたという。(東京新聞10月4日夕刊)

 鈴木氏は、NHK側から「取材を受けてくれるなら(情報提供を呼びかける)動画を消す」と言われたと説明し、「そんなことを言っているやつの話を聞けるか。それじゃ暴力団と一緒でしょ。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならもうやめてやる、俺の言うことを聞けって。ばかじゃないの」と不満を述べた。(略)

 この記事では「ばかじゃないの」となっているが、他紙やTV報道では「バカじゃねえの」と報じられている。野党側の聞き取り調査でも、鈴木氏はこれを事実と認めている。
 いまどきは暴力団だってこんな品の悪い言葉は使わない。なぜこんなに鈴木氏が威丈高だったのか? それには理由がある。
 総務省というのは、放送行政をつかさどる役所だ。そのトップだった鈴木氏が、妙な文書をNHK経営委員会に送り付けていたという。朝日新聞(10月3日付)によればこうだ。

(略)鈴木氏は旧郵政省に入省し、同省放送政策課長を務めるなど放送行政に詳しく、2009年7月~10年1月に事務次官を務めた。
 文書では、「かつて放送行政に携わり、協会(NHK)のガバナンス強化を目指す放送法改正案の作成責任者であった立場から」とした上で、「幹部・経営陣による番組の最終確認などの具体的事項も挙げながら、幅広いガバナンス体制の確立と強化が必要である」と、木田氏(注・NHK放送現場トップの木田幸紀放送総局長)に伝えたことも明らかにしている(略)。

 分かりにくいかもしれないが、暗に「おれは放送法の作成者。総務省には今でも顔が利く。それでもおれに逆らうのか」と、監督官庁の元トップであったことをひけらかして脅しているのだ。なんともすさまじい人物。多分、次官時代もそうやって部下たちを怒鳴り散らしてきたのだろう。
 しかも、まだオマケがある。
 NHKの最高機関である経営委は、そんな脅しに負けて上田会長に厳重注意をしたのだが、実はこの際の経営委員会の議事録はないという。経営委員たちの中でも意見が割れ、議決に至らなかった。つまり、経営委員長の石原進氏の単独判断で、議決なしでの上田会長厳重注意となったわけだ。
 この「議事録がない」というのもおかしい。ふつうなら、なぜ議決に至らなかったかを検証するためにも議事録は不可欠だろう。まあ、安倍政権下での「議事録や記録なし」のデタラメな言い訳を、NHKも踏襲したとしか思えない。ここでも、巨大報道機関NHKと巨大金融機関でもある日本郵政という2社が、いかに堕落しているかがはっきりと見えてくる。
 脅す者と脅される者。脅しによって報道の筋が曲げられる。何度も見てきた光景が、また繰り返される…。
 この国、やはり終わりなのか。

 いいことのない日々。
 だが、うれしいことも一つだけあった。ラグビーだ。
 31人の日本チームに、15人の外国出身者たち。それが「ONE TEAM」をスローガンにして強敵に立ち向かう。そして、勝つ。
 小さな希望。
 いろんな国の人たちが、ぼくらと一緒に仲良く暮らす。もしこの国に、“真の復興”があるとすれば、そこからだろう…。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。