召集直前なのに、雲隠れ議員がいる
例年、年末年始は政治関係のニュースが少なくなりますが、今回はまったく様子が違いました。カジノをめぐる中国企業献金事件の新展開、中東地域への自衛隊の派遣決定、カルロス・ゴーン被告人の密出国、アメリカ・イラン間の軍事的緊張の高まり、といったニュースが立て続き、メディアも落ち着かない感じでした。いずれの問題も、本格的な事実の解明、政治責任の追及は、来週20日に召集される通常国会で行われることになります。「桜を見る会」の問題追及も年を越して続いており、主要野党が安倍内閣を総辞職に追い込むことができるか(敵前逃亡することなく、内閣不信任決議案の可決に全力を挙げられるか)どうか、しっかり注視していきたいと思います。
私はまた、少し違う点も問題視しています。国会召集直前というタイミングであるにもかかわらず、衆参に雲隠れ議員が存在していることです。雲隠れ議員を私なりに定義すれば、「議員活動を正常に行うことが可能であるにもかかわらず、報道によって自身をめぐる事件・不祥事が問題視されたことを契機として、所属する議院の委員会・本会議を連続して欠席するとともに、事件・不祥事に対する認否、委員会・本会議を欠席する理由、現在の生活状況等に関して、公の場で何ら合理的な説明を行っていない議員」ということになります。現在のところ、菅原一秀衆院議員、河井案里参院議員、河井克行衆院議員の3名がこの定義に当てはまります。私の知る限り、召集直前に雲隠れ議員が3名もいるのは例がなく、異常な事態です。
なぜ、これら3名が雲隠れをするに至ったのか、おさらいの意味で確認しておきます。
まず、菅原一秀衆院議員です。昨年9月11日、第4次安倍第2次改造内閣で経済産業大臣として入閣しましたが、10月24日発売『週刊文春』で、地元有権者に対する寄附(公職選挙法で禁じられている)の事実が報じられました。翌25日、大臣を辞任し、以後一度も登院していません。
また、河井案里参院議員については、10月31日発売『週刊文春』が、自身の選挙の運動期間中に法定上限を超えた報酬を車上運動員に支払っていた事実(買収に当たる)を報じました。同日以後、一度も登院していません。河井克行衆院議員は案里議員の夫であり、当時、法務大臣の職にありましたが、31日付で辞任し、その後は国会に一度も姿を見せていません。「夫婦そろって、いま何処?」という状況です。
およそ、一般の企業で無断欠勤を続ければ、懲戒によって給与が減額されたり、解雇されたりすることは当然です。しかし、国会議員に関しては、こうした常識、社会通念が通用しません。憲法49条は「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける」と、議員の歳費受給権を保障しています。雲隠れ議員であっても、所属する議院に対して「請暇」という手続を取れば、合法的に(延々と)、休み続けることができます。そんな状況でも毎月10日、月額約130万円の歳費が支払われているのです(国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律1条)。先週10日にも支払われていますし、来月10日にも自動的に支払われます。この現状に納得する国民は、果たしてどれだけいるのでしょうか。
豊田真由子元衆院議員の事例との比較
雲隠れ議員として記憶に新しいところで、秘書に対する暴言、暴行が話題となった、豊田真由子元衆院議員の事例はどうだったか、経緯を比較してみたいと思います。
事の発端は、2017年6月22日発売『週刊新潮』が、豊田氏の秘書に対する暴言・暴行の事実を報じたことです(秘書が録音したとされる音声データも公開されました)。東京都議会議員選挙の告示日の前日ということもあって、所属政党である自民党は幕引きを急ぎ、豊田氏は同日、離党届を提出しました(自民党は即日受理)。実はこのタイミングで国会は閉会(発売4日前の、6月18日に閉会)していたので、豊田氏は成り行き上、雲隠れの存在になってしまったのです。まして、自民党を離れて無所属議員になっているので、周囲で本人の行動を見守る組織もありません。
そして約3か月が経ち、豊田氏は地元で記者会見を開きました(9月18日)。10月22日投開票の衆院総選挙には無所属で立候補しましたが、落選しました。元秘書による刑事事件の告訴も12月27日に不起訴処分となっています。
豊田氏の事例を特別に扱う理由はありませんが、①所属政党を離れるなどして政治的なケジメを付けること、②自身に関して報じられている事件・不祥事の内容等について記者会見を行うことは、公人として最低限のマナーであると言わざるを得ません。昨年10月下旬から始まった議員3名の雲隠れも、そろそろ3か月間に及ぼうとしています。あの豊田氏でさえ(と言っては失礼ですが)、3か月後には自ら会見を開いているのですから、公の場に出てきて説明を尽くすことは当然です。
秋元衆院議員を含め、すべては自民党の責任問題
それでは秋元司衆院議員(元IR担当内閣府副大臣)はどうなのか、と思われたかもしれません。秋元議員の場合は、少し事情が違います。現在、昨年12月25日に中国企業からの収賄の容疑で逮捕・勾留されている立場にあり(身柄拘束中)、そもそも議員活動を正常に行うことができないので、雲隠れ議員の定義には当たりません(ある意味、究極の「雲隠れ」ですが…)。しかしそれでも、議員としての身分は失っていないので、歳費を受給し続けられる立場にあります。この点は余計に、国民の理解と納得が得られないと思います。
秋元衆院議員の件も含めて、議員個々の責任が問われると同時に、自民党の対応、責任に直結します。4名は全員、自民党所属です。自民党は最近、所属議員の事件・不祥事に関して、責任のハードルを露骨に上げてきています。複数の事案が同時期に重なってしまい、狼狽しているわけでもありません。慢心と驕り以外、何物でもないのです。雲隠れ議員に対して速やかに、離党勧告ないし除名等の処分を行うこと、公の場で会見を行うよう指導することを、一国民として自民党に要求します。衆院は解散の可能性がありますが、参院にはありません。河井参院議員の雲隠れは、最長であと5年6か月続いてしまいます。身内にこれだけの問題を抱え、放置している状況にありながら、まともに会期を迎えられるのかどうか。自民党はまず、その足元をしっかり見つめるべきです。
リコール制度は実際上不可能
雲隠れ議員の話題では必ずと言っていいほど、「自治体議員と同様、国会議員についてもリコール制度を置いてはどうか」という提案が出てきます。自治体議員であれば、住民(有権者)の3分の1以上の署名による請求があれば、60日以内に当該議員のリコールの是非を問う住民投票が実施され、投票の過半数が賛成を占めれば、議員のリコールが決まります(地方自治法の定めによるもので、その結果には法的拘束力があります)。憲法15条1項が「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定していることを重視すれば、自治体議員とパラレルに「国会議員リコール法」(仮称)を制定するか、公職選挙法にリコール手続きに関する新たな規定を置いてもよさそうです。
しかし、国会議員のリコール制度を立法政策上の問題と考えることは、理論上の問題をクリアしたとしても、実際上は困難です。「〇〇議員のリコールの賛否を問う国民投票」を一回実施するだけで百億円単位の経費がかかり合理的でないことに加え、リコール国民投票が公示された後に衆院が解散されたような場合には、リコール請求自体が無意味になるといった問題が生じます。また、状況によりますが、国政選挙のたびに特定の議員に対するリコール請求が繰り返されることにもなり、政治システムをかえって不安定にするリスクもあります。
結局のところ、リコールを求める世論(の圧力)が強くなった場合、「出処進退は議員自身が決めよ」という話に帰着します。リコールを制度化できなくても、常日頃から議員本人、所属政党に対して、責任追及&辞職要求の声を継続することが重要なのです。
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元衆議院議員の三宅雪子さんが亡くなられました。生前のご活躍とご功績に敬意を表し、ご冥福をお祈りします。