第188回:2025年参院選までに、被選挙権年齢の引き下げを(南部義典)

「県議選立候補届」を提出した、21歳の鹿児島大学生

 去る3月30日、こんなニュースが目に留まりました。

〇県議選立候補受理されず 大学生が被選挙権の年齢引き下げ訴え(NHK鹿児島)https://www3.nhk.or.jp/lnews/kagoshima/20230331/5050022473.html

 要は、21歳の鹿児島大学生が、鹿児島県議会議員選挙(30日告示)に立候補を選管に届け出たものの、被選挙権の年齢要件(25歳以上)を充たしていないことから、受理されなかった(立候補できなかった)という事案です。
 「権利が無いのだから、当たり前ではないか」と思われるかもしれませんが、この学生が、告示の当日、選管の窓口に出向いていることに注目すべきです。つまり、立候補予定者(陣営)向けの事前説明会にも出席し、説明を受けた上で、必要な書類(立候補届、経歴書など)をまとめ、さらに選挙供託も終えるなど、最低限の準備を終えている状況がうかがえるのです。被選挙権年齢をみたしていないことを自覚しつつも、立候補の意思(議員の職に就く決意)の強さが行動に直結していると私は思いました。
 気候変動問題に関する活動に精力的に取り組むこの学生の目には、外国の同世代の若者が果敢に政治参加する姿が羨ましく映った反面、日本の選挙制度に対する憤りが湧いてきたに違いありません。「年齢」という絶対的な壁が、25歳未満の若者のエントリーを阻み続けているのです。

戦後「25歳」「30歳」で固定化されてきた被選挙権年齢

 被選挙権年齢(公職の選挙に係る候補者の資格を得る年齢)は、その公職ごとに法律(公職選挙法、地方自治法)で決められています。
 衆議院議員、市区町村長、自治体議会の議員は「25歳以上」とされ(公職選挙法第10条第1項第1号第3号第5号第6号、地方自治法第19条第1項第3項)、参議院議員、都道府県知事は「30歳以上」とされています(公職選挙法第10条第1項第2号第4号、地方自治法第19条第2項)。
 議員、首長は重要な意思決定を行う役職であり、その特殊性ゆえ、一定の年齢に達していることを考慮しなければならないものの、選挙権年齢(18歳以上)と比べれば7歳、12歳という較差が存在し、政治参画への機会を著しく制限しています。戦後、一度も見直しの機会がなく、固定化されたままです。また、2022年4月1日には民法の成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳に達すれば親の同意なくして様々な契約(売買、ローン、レンタルなど)が結べるようになっており、法的に「一人前」と扱われる一般的な年齢が18歳であることに鑑みると、「25歳」ないし「30歳」というのは、大きくかけ離れていると言わざるを得ません。

 法律(公職選挙法、地方自治法)を改正する権限を持つのは国会ですが、与党・野党ともに長く、古くからの選挙に裏付けられたヒエラルヒーに慣れ親しんできました。「一見さんお断り」の雰囲気に近いものがありますが、無名無力の若者が政治の世界に首を突っ込むことを本能的に嫌って(避けて)きた歴史でもあります。2015年、18歳選挙権を実現した立法の際にも、被選挙権年齢の引き下げを検討し、必要な法整備を行うことが全党・会派で確認されていたはずが、いつの間にか有耶無耶になってしまいました。これを許してきたのは、私たち国民です。現実、80万人を割るペースで人口減少が進んでいる中、より若い年齢層の政策関与が無ければ、法律も予算も本当の意味で未来志向にはなりません。

スケジュール感を持った各党協議が不可欠

 主要な国政政党は現在、被選挙権年齢の引き下げについて「総論賛成」という立場です。それは、18歳選挙権が実現して以降、票は欲しい本音があり、反対はできないという事情があります。引き下げの法整備に向けた議論は決して捗っていません。この点は、先月、京都新聞が論説の中で書いていました。

〇選挙に立候補「被選挙権年齢」引き下げ議論が停滞 終戦後、一度も見直しなく(京都新聞)https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/990189

 立憲民主党は2022年5月20日、「公職選挙法及び地方自治法の一部を改正する法律案」を提出しています(第208回国会衆法第39号、審議未了により廃案)。これが近年みられる唯一の動きであり、その中では、被選挙権年齢「25歳以上」を「18歳以上」に、「30歳以上」を「23歳以上」にそれぞれ引き下げる提案がなされています。各々7歳ずつ引き下げる、この方向性(結論)で妥当ではないかと考えます。

 被選挙権年齢のあり方は、すべての政党会派に関わる問題であり、全会一致の賛成によることが望ましいといえます。議員立法によって成立を期すことを念頭に、「各党協議会」の枠組みで、法案づくりが進められることに期待します。ここまでの引き下げが一気にできなければ、最低限、「30歳以上」を「25歳以上」に引き下げることを第一歩とすべきでしょう。立法の期限の目安としては、2025年夏に行われる参議院議員の通常選挙です。これに間に合うよう、必要な法整備を進めるべきです。

少年法上限年齢の引き下げも必要

 法技術的な話題になりますが、被選挙権年齢を最終的に「18歳以上」に引き下げるのであれば、少年法の上限年齢も揃えて「18歳」に引き下げるべき、との議論は当然避けられません。現在、少年法の上限年齢は「20歳」であり、買収など連座制の適用可能性がある選挙犯罪に関して、18歳、19歳の者(特定少年)は刑罰ではなく、保護処分の対象となる可能性が残されています(少年法第63条)。
 仮定の事例にすぎませんが、18歳、19歳で当選した議員が、買収などの選挙犯罪に関して、保護処分となって有罪を免れたとします。法制上は筋が通っているとしても、議員を失職することなく(公民権を停止されず)活動を続けるのは、一般的な理解は得られないでしょう。法律どうしの関係整理が不可欠です。

デジタル広告の解禁、部分的助成を検討すべき

 より若い年齢層が選挙運動に取り組むことを想定すれば、その運動の態様、公費助成(選挙公営)のあり方も一体的に見直すべきです。
 選挙運動に関しては、現在禁止されている有料デジタル広告(SNSなどのインターネット広告)を解禁することが考えられます(公職選挙法第142条の6)。若い年齢層にとって、いわゆる選挙はがき(公選はがき)の有用性が乏しいことを踏まえ(そもそも、日常的にはがきを書く習慣さえなく、制限枚数分の名簿を獲得、保有することが困難である)、はがきの助成を止める分、その浮いた執行経費をデジタル広告に回してはどうでしょうか。スマートフォン、パソコンのネット利用を通じて、訴える政策や人となりがストレートに伝わるはずです。
 さらに言えば、街頭演説や個人演説会で配付しきれず、新聞折込みの中に消えるチラシも同様、枚数、種類の制限を撤廃すべきでしょう(文書図画の自由化)。公費助成分も縮減しつつ、デジタル広告に充てる方が、受け手も含めて、若い層の有難みが増すと考えます。

 現在、統一地方選挙(後半)が16日に告示され、衆参補欠選挙も真っ只中ですが、終わったら早速、選挙法制の見直しを行うべきです。最優先の憲法的テーマと言っていいでしょう。21歳の学生が、25歳になるまで待つ(待たせる)わけにはいきません。

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南部義典
なんぶよしのり:国民投票総研 代表.1971年岐阜県生まれ.衆議院議員政策担当秘書,慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任.専門は国民投票法制,国会法制,立法過程. 『教えて南部先生! 18歳までに知っておきたい選挙・国民投票Q&A』『教えて南部先生! 18歳成人Q&A』『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『図解超早わかり18歳成人と法律』(以上,C&R研究所),『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)ほか単著,共著,監修多数.(2023年1月現在)