第184回:〈救済二法〉野党提出法案もすぐに委員会審査ができる運用に改めるべき(南部義典)

立法のプロセスの検証も必要

 残り会期5日間という短期集中、超突貫工事を以て、いわゆる旧統一教会の被害者救済をねらいとする法律案二本(救済二法)が成立しました(12月10日)。今週には内閣で公布の手続きが取られ、新年早々には一部の規定を除いて施行される見通しです。救済二法が本当に実効性を持って機能するかどうか、運用が始まれば明らかになります。
 多くの政党は、今回はあくまで法整備の「第一段」が済んだという受け止めで、議論の継続を明言しています。年明けの通常国会以降も必要な救済施策、制度の見直しの検討が進められていきます。被害者、とりわけ宗教二世の方々の関与もポイントになってきます。政府・国会の対応に関心を持ち続けなければなりません。
 救済二法の内容に関しては、すでに様々な評価が出ているので、別の観点で、立法のプロセスを検証したいと思います。

立憲・維新案の委員会審査が始まらなかった理由

 前回前々回でも触れた点ですが、10月17日(会期末の54日前)に立憲・維新が衆議院に共同提出した「特定財産損害誘導行為による被害の防止及び救済等に関する法律案」が、消費者問題特別委員会で早く審査がスタートし、論点(対立点)を広く浮き彫りにすることができていれば、内閣が後れて提出した救済二法案との「修正協議」も、内容的に実効性の伴ったものになったのではないかと、私はいまだに考えて(悔いて)います。まずは、法案が提出されても、消費者問題特別委員会で審査が始まらなかった理由を明らかにしていきます。国会法の規定と運用(慣例)が関わります。

 国会法第56条第2項は、「議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する。」と規定しています。前記の立憲・維新案についての「適当の委員会」に当たるのは「消費者問題特別委員会」です。本来、10月17日に付託されるはずでした。
 しかし、国会法第56条の2は、「各議院に発議又は提出された議案につき、議院運営委員会が特にその必要を認めた場合は、議院の会議において、その議案の趣旨の説明を聴取することができる。」とし、本会議で法律案の趣旨説明を聴取する手続きを定めています。
 本会議で法律案の趣旨説明聴取が行われるのは、条文上、委員会に付託される「前」とも「後」とも示していないのですが、現在の運用は、委員会付託の「前」ということになっています。今回、国民、共産の二会派が、立憲・維新案に対する「本会議趣旨説明要求」を出したので、趣旨説明の聴取を行うための本会議を先行させなければならず、ここで一旦、消費者問題特別委員会への付託にストップが掛かってしまったのです。

 法案に対する「本会議趣旨説明要求」は、第56条の2が定めるように議院運営委員会
の議決で扱いが決まります。要求が可決されれば、本会議で法案の趣旨説明が行われ、その後、委員会に付託されます。他方、否決されれば、本会議で法案の趣旨説明は行われず、そのまま委員会に付託されます。議決が行われなければ、時間だけが過ぎていきます。
 つまり、本会議趣旨説明要求が出された場合は結局のところ、議院運営委員会がどういう判断、議決をするかという態度表明に依存しています。委員長を除く24名中、自民・公明が14名を占める状況において、判断が「保留」されれば、何も決まらずそのまま止まり続けるのです。一般論として、野党提出の法律案は、国会法第56条第2項、第56条の2の規定、運用の壁に苦しめられている現状にあります。

本会議趣旨説明は、少数会派にとって有用なシステムだが……

 法律案が提出された場合に、本会議趣旨説明要求が行われると、委員会への付託が止まってしまいます。デメリットが際立つのですが、制度の建前論からすると、メリットもあります。
 それは、少数会派への配慮です。例えば、れいわ新選組(れ新)は、衆議院で3名の議員数しかなく、各委員会への割当ての結果(基本的に各会派所属議員数の按分によります)、消費者問題特別委員会に議員を送ることができません。そうすると、立憲・維新案であろうと内閣提出の救済二法案であろうと、れ新の議員は委員会審査に関与できない(質疑ができない)まま、本会議の採決でいきなり賛否を問われることになってしまいます。この意味で、予め法律案の提出者から趣旨説明を聴取する場を設けるというのは、形式的ではありますが、無意味とまではいえないのです。問題はやはり、本会議趣旨説明要求が出された後の手続きが、議院運営委員会の判断(で多数を有する自民・公明のご都合)次第になってしまっているという点です。

 もし、立憲・維新案がスムーズに消費者問題特別委員会に付託されていたら、自民・公明との4党協議会での対立論点も可視化され、協議会に加わっていなかった会派(共産など)も含めて、議論を深化させることができたでしょう。もちろん、参考人質疑も行うことができます。自民・公明が議員立法として独自の対案を提出する可能性は当初から低かったものの、内閣が後れて救済二法案を提出した後は、併行審査をオープンに行うことができたはずです。
 本当に、残り会期5日間で、衆参それぞれ3日間ずつというような超窮屈な日程で成立させなければならなかったのか、もっと早く、長く審査を行うことができなかったのか、制度運用のあり方が問われるべきと考えます。今回の法律案だけに限りませんが、衆参委員会の随所で貴重な時間が浪費されているのです。

 ちなみに、国民民主党は12月9日(会期末前日)、内閣提出の救済二法案、立憲・維新案とは異なる法的枠組みとして、「心理的支配利用罪」を新設する法律案(刑法等の一部を改正する法律案)を参議院に提出しました。タイミング的に、この法律案を成立させることは甚だ困難ですが、この国民民主党案に対しても即日、自民、立憲、公明、維新、共産の5会派が一斉に本会議趣旨説明を要求しています。5会派は、半ば手グセ的に要求している面もあるものの、市民感覚的には委員会付託を「残り全集団で阻止」しているかのようなイメージに映ります。付託を止めることではなく、審査を促進することにエネルギーを使えと言いたくなります。

 端的に言って、本会議趣旨説明要求の制度は止めるべきです。その必要性を感じている議員は、衆参ともに皆無でしょう。所属議員が少ないため、委員会に委員を送ることができない会派に対しては、他の大会派が質疑時間の枠を譲るなど配慮すべきです。委員会の実質的な稼働時間を増やすのは、運用次第なのです。

「人権に関わる立法は閣法が望ましい」発言の真意を正すべき

 テーマから外れますが、救済二法に関係して、私がもう一点引っ掛かっていたのが、「人権に関わる立法は閣法(内閣提出法案)が望ましい」とする、公明・山口代表の発言(11月7日)です。

 (霊感商法や高額献金の今後の被害防止・救済に向けて与野党が検討を進める新法は)様々な影響が出るということと、実効性を確保するという点がよく練られなければならない。議員立法がそれに対応できる内容であれば、否定するものではないが、なかなかそうしたアイデアというのは、にわかな作業ですぐに実るというわけにはいかない部分も出てくる。
 閣法(政府提出法案)は憲法の趣旨を踏まえて内閣法制局など、専門家の検討をしっかり踏まえたうえでの提出ということになる。答弁のやり方についても吟味されたうえで提出されることになるから、法案作成の慎重さと精緻さという意味で閣法というのは非常に重要だ。
 あくまで原則として、憲法の特に人権に関わる立法というのは、閣法で検討することが本来望ましい。そうしたことも含めて与野党協議の進展を期待する。

*引用:朝日新聞デジタル2022.11.07

 発言の概要は、以上のとおりですが、衆参の議員が検討する法律案は、憲法上保障される信教の自由や財産権を侵しかねない、その意味で慎重さ、精緻さがないという趣旨に聞こえます。議員立法を否定しかねない、相当な自傷発言といえ、看過することができません。

 自公にとってみれば、救済二法案を内閣提出とする流れを最終的に固め、自公立維4党協議会を「閣法修正に向けた調整の場」へと変容させることに成功しました。会期末(時間切れ)が迫ると、野党にとっては今さら協議のテーブルをひっくり返し、反対に回ることもできなくなりました。閣法に対しては、「正面から文句を言いたくても言えない状況」へと、徐々に押しやられていったのではないか、と思います。政治的には、自公の「会期末ギリギリ作戦」が功を奏したのです。
 結果、成立したのが、「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(不当寄附勧誘防止法)です。旧統一教会の被害者救済を真正面から認めたものではありません(まして、法律に遡及効はありません)。世間の誤解を拡げないよう、メディアは安易に「救済新法」と呼ぶのをやめて、その立法プロセスをも十分に検証すべきでしょう。

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南部義典
なんぶよしのり:国民投票総研 代表.1971年岐阜県生まれ.衆議院議員政策担当秘書,慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)等を歴任.専門は国民投票法制,国会法制,立法過程. 『教えて南部先生! 18歳までに知っておきたい選挙・国民投票Q&A』『教えて南部先生! 18歳成人Q&A』『改訂新版 超早わかり国民投票法入門』『図解超早わかり18歳成人と法律』(以上,C&R研究所),『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)ほか単著,共著,監修多数.(2023年1月現在)