第107回:アベウツ……?(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

病む国に生きて……

 「アベウツって言葉が流行っているんだって」と、ある人が言った。なんのことだか分からなかったので、「なにそれ?」と聞き返した。するとその人が、紙に文字を書いてくれた。
 【安倍鬱】……。
 鬱って漢字、よく書けたな、と感心したけれど「それでも意味が分からないよ」と言いかけて、ふと思い当たった。ふんふん、分かる気がするなあ。実はぼくも、多少その傾向にあるみたい。

 その人は、こんなことも教えてくれた。
 「『十二国記』って小説、知っている?」
 「大ベストセラーだってことは知ってるけど、実は読んだことがないんだ。ゴメン」とぼく。
 「そこでは、王様を決めるのは不思議な力を持つ麒麟なんだけど、その王様が悪いことばかりすると、麒麟は病んでしまう」
 「へえ、そうなの? 病気になっちゃうの?」
 「とにかくメチャクチャに面白い小説だから、読んでみなよ」と、その人は言った。それじゃ今度、読んでみよう。でも、悪い王様には、“聖獣”さえもかなわないのか……。
 ま、『十二国記』のことはさておいて、ぼくも最近どうもウツっぽいのだが、そうか、「アベウツ」と考えれば納得もいくというもんだ。

近頃お国に流行ること……

 とにかく、近頃のこの国に起きていることの多くについては、ぼくのような者にとっては理解しがたい。それらを真面目に考えていくと、こちらの神経がもたない。
 まずは、東京新聞(2月8日)のスクープ記事

辺野古、70メートル超も「軟弱」
地盤調査、防衛省伏せる

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設を巡り、埋め立て予定海域で防衛省の想定に反し、海面下七十メートルより深い海底の地盤が「軟弱」であることを示すデータが検出されていたことが分かった。「七十メートルまで地盤改良すれば施工可能」という同省の設計の前提は、根底から覆る可能性が出てきた。同省は「業者が独断で行った調査で信頼性が低い」としてこの実測データを採用せず、調査した事実さえ伏せていた。(略)

 説明するまでもないだろう。
 これまで防衛省は「軟弱地盤」の存在は認めていたけれど「70メートルまで地盤を固める工事をすれば、滑走路建設に支障はない」と言い続けてきた。海底70メートルまでの地盤を固める工事だって、ほぼ不可能ではないかと指摘されてきたが、実はそれでも足りず、もっと深いところもズブズブの軟弱。6段階の地盤強度の区分で2番目に軟弱だったというのだ。
 ところがそれを防衛省は認めず、これまで「そんな強度の試験をやっていない」として隠していた。しかもバレてもなお「業者が独断で行った調査で信頼性が低い」と言い逃れる。いったいどこの業者が、依頼もされていないのに、国の事業を「独自で調査」するというのか。隠蔽だけでは事足りず、ウソをまぶしてのデタラメである。
 防衛省の弁解も、まさに「アベ桜」の類だ。
 もうひとつ、こちらは原発絡みのウソつき会社。これは2月8日の朝日新聞の記事

地層データ、原電が書き換え
規制委、改善まで審査せず 敦賀原発

 日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)の新規制基準に基づく審査で、原電が、原子炉建屋直下に活断層があるかどうかの判断に必要な調査資料の記述を書き換えていた。7日の会合で原子力規制委員会が指摘して発覚した。規制委は信頼できる資料が出されるまで審査を再開しない方針。
 書き換えられたのは、原電が2012年に敷地内で実施したボーリング調査の結果。採取した地層の観察記録で、18年の審査会合の資料では「未固結」などとしていた記述が、この日は「固結」に変わっていた。(略)
 原電の和智信隆副社長は、指摘された問題を認めた上で、「悪意はない。意図的ではない」などと釈明した。

 これも呆れ果てた話。
 審査がユルいと批判されることの多い規制委でさえ、怒り心頭。敦賀2号機の審査は当面行わない、と言明した。
 しかも許せないのは、この件に関し副社長が「悪意はない、意図的ではない」などと弁解しているということ。
 いったいどこのバカが、地層の「固結」(きちんと固まっていることが判明)を、「未固結」(固まっておらずこれからも動く可能性がある)と、まったく正反対の記述を見逃すのか。そんなことを白々しく会見で語る副社長が鎮座するのが、この日本原電という会社なのだ。
 原子炉建屋直下の地層だ。正反対の記述に誰も気づかなかったというのなら、日本原電は会社の体をなしていない。即刻、原発を廃炉にして発電事業から手を退くべきだ。危なくって、こんな会社に任せておけるか。ここでも、資料の改竄が平然と行われていたのだ。

「適材適所」の意味不明

 「アベ桜」問題で、内閣府が推薦者名簿の一部の部局名を「白塗り改竄」したことも同じだ。この国のいたるところで、「アベ桜現象」が噴出しているわけだ。
 しかも「白塗り改竄」を追及されると、公文書管理担当の北村誠吾地方創生相は、「改竄には当たらない」と一度は答弁したものの、その後に「刑法上の改竄ではない」→「私の思いを伝えたもの」→「刑法上の改竄ではないと内閣府から報告を受けた」と、自分でも何を言っているのか訳が分からなくなってシドロモドロ。
 北村大臣が答弁に窮すると、官僚たちが椅子を飛び越えて大臣の後ろから突進。もはや耳打ちというより、大っぴらにレクチャーを始める始末。吉本漫才か、お前らは、と怒鳴りたくなるほどの醜態。
 ところがその後、菅官房長官は会見でこのことを聞かれ「適材適所。北村さんらしい味を出している」と答えた。
 何があってもカエルのツラに何とかの菅官房長官だが、「適材適所」という言葉の意味を知らないらしい。それにしても「北村さんらしい味」とはいったいなんだっ! ふざけるにも度が過ぎる。
 菅官房長官、きちんと答える気がない。後から後からワケの分からない事案が噴出する。それでも適当に鼻であしらっておけば、仲良し会の記者クラブがテキトーな記事を書いてくれる。
 東京新聞の望月衣塑子記者が記者クラブ体質を批判すると、逆に毎日新聞は秋山信一記者の「東京新聞の望月記者のほうが間違っている」という、記者クラブ擁護、望月記者批判の記事を掲載して、菅官房長官へのヨイショぶりを発揮する。
 これじゃ、とうてい「安倍追及」なんかできはしない。

 ぼくがツイートでそんなことを書けば、すぐさま「なんでも安倍さんのせいにするのはおかしい」とか「パヨクのアベガー」などという批判が飛んでくる。しかし、この国のいたるところに現れているモラル崩壊の引き金になっているのは、どう考えたって、安倍首相のデマとゴマカシとウソと開き直りの影響じゃないか。ぼくはそう思う。

「決断する政治」ってなんのこと?

 新型コロナウイルスの蔓延への政府の対応は後手に回るばかり。もはや「漂流監獄」とまで言われているクルーズ船乗客の検査は、なぜか厚労省が尻込み状態だ。例によって、誰も責任を負いたくないらしい。
 なんでたった3千人(!)の全員検査ができないのか。密室と化したクルーズ船の乗客たちを前に右往左往している間に、感染者はどんどん増えていく。安倍官邸の危機管理のお粗末さばかりが露呈する。「決められない政治から、決断する政治へ」というのが安倍スローガンのひとつだったはず。だが、新型ウイルスではまるで決断できない。
 しかもまるで火事場泥棒のように「緊急事態条項がないからいけない。この際、改憲して緊急事態条項を憲法に書き込むべきだ」と吠え始めるバカ者どもまで出てくる始末。
 新型ウイルスと改憲は関係ないだろっ!

禁断の検察人事にまで介入

 「サクラ疑惑」の火の手はいっこうにおさまらない。
 そこへ、今度は検察人事へ安倍官邸が強引に手を突っ込んだ。東京高検の黒川弘務検事長の定年を、前例のない形で延長したのだ。
 この黒川氏は官邸ベッタリで有名だという。そういう男を次期検事総長に据えるための閣議決定だと噂されている。この人事には、違法だとの声が政府や法務省内部からも上がっている。
 つまり、検事総長という検察トップを官邸の息のかかった人物にすることで、さまざまな政府の疑惑を封印。政府筋への捜査を止めさせようという官邸の意図は、誰の目にもミエミエだ。
 やることがあまりに露骨、これが「決断する政治」ってか?

 こんな泥沼を毎日のように見せつけられていれば、気分が落ち込むのは当然だろう。
 この国ではいまや、フツーの神経をしている人は、いささかウツになっても仕方がない。ぼくも、自分がフツーだと思っているので……。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。