第109回:新型ウイルスよりひどい安倍話法(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

“監禁”で拡散してしまった…

 「安倍話法」が「新型コロナウイルス」に負けないほど、安倍内閣の閣僚やその手下に堕した官僚たちに蔓延している。
 国会の“議論”を聞いていると、ほとんど言葉が通じていない。一方の言葉をもう一方はまともに取り扱わない。言葉同士のやりとりではなく、もはや“議論”などと呼べる代物ではなくなっている。
 まるでキイキイ叫んでいるだけの動物園の猿山の大騒ぎでしかない。いや、猿山だって、ボスの座がときおり交代するのだから、猿山以下か。
 ボスがひどいと子分どもはそれに輪をかける…。

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の新型コロナウイルス蔓延に関しての安倍政権の対応は、まったくひどかった。乗客を船内に“監禁”しておいたことで、凄まじい数の感染者を出してしまった。
 海外メディアからは「第二の武漢」「感染牢獄」、さらには「漂流監獄」などとまで言われた。ニューヨーク・タイムズは「公衆衛生にかかわる危機について『こうしてはいけない』と教科書に載る見本である」と酷評した。
 それでも政府は、必死になって対策の遅れや失敗を覆い隠そうとした。岩田健太郎神戸大学教授が指摘した問題点に関しては、自民党議員が猛反発。批判を受け止めて改善しようという姿勢がない。
 ところが、橋本岳厚労省副大臣が「清潔・不潔」と書かれた船内の“ゾーニング”の様子をツイートして墓穴を掘ってしまった。危険地域と安全地域の区別がなされていなかったのがバレた。隠し切れなかったのだ。
 たった数人(?)の感染者に始まったクルーズ船は、ついには600人超の感染者と4人の死者を出すに至った。

加藤厚労相の、あまりに愚かなやり方

 この船に乗って必死の対応に当たった厚労省の職員たちには、心からご苦労さまと言いたい。けれど、その後の厚労省と加藤勝信厚労相のやり方に、ぼくは憤慨してしまった。
 厚労省は、乗船した職員の感染症検査を行わず、そのまま省庁での勤務を認めた。その理由として「検査をして多数の陽性が出れば、以後の業務に支障をきたす恐れがあったので、検査はしなかった」と弁明した。これを聞いたとき、ぼくは思わず「バッカじゃねえの!」と口走っていた。そんなリクツがあるものか。
 もし陽性のまま勤務させたら、そのほうがずうーっと恐ろしいじゃないか。同僚に感染させるし、厚労省内に新たな感染源を作ることになる。感染者が電車やタクシーで通勤したら、市中にウイルスをばら撒くことになる。
 一刻も早く検査して、感染者は入院させるか自宅待機にして出勤させないことが、感染源を拡げない唯一の方法だったはずだ。そうじゃないのか、厚労省よ、加藤厚労相よ!
 この件には批判続出。さすがにこのままではまずいと思ったのか、加藤厚労相は、ついに「クルーズ船で業務に当たった厚労省職員全員の検査を行う」と前言を訂正せざるを得なくなった。批判が効いたのだ。やはり、正当な批判は続けていかなければならない。
 簡単に前言をひるがえして適当に言い繕う。とにかく、なにか都合の悪いことを問われると、まるで答えにならない答をとっさに口にして、後からつじつま合わせをする。まさに「安倍話法」そのものだ。
 結局、「安倍話法」が事態を悪化させている元凶だと、ぼくには見える。

「安倍話法」の強制力

 「安倍話法」は、自民党のプリンス小泉進次郎環境相にも感染していた。小泉氏は新型ウイルスの対策会議を欠席、地元の後援会の新年会に出ていたというのだ。そこを共産党の宮本徹議員に突っ込まれると「先生のおっしゃる通り」を連発。まともに問いに答えようとしなかった。
 「新年会に出ていたんですね。イエスかノーでお答えください」と何度も突っ込まれても「先生のおっしゃる通り」と、○○のひとつおぼえのお子ちゃま答えを繰り返す。話をずらして時間切れに持ち込むパターン。まさに「安倍話法」の典型である。
 同じく、森雅子法相や萩生田光一文科相もまた、対策会議を欠席して地元の書道展や消防団長の受勲祝賀会に出ていたというのだから、彼らには真面目に新型ウイルスに取り組む気などないのだ。

 また、森法相の「東京高検黒川弘務検事長の定年延長問題」に関しての答弁のいい加減なこと! ほとんど誰もが、この黒川氏の定年延長は、安倍内閣のゴリ押しであり、彼を検事総長という検察トップに据えることで、政界疑惑への捜査を安倍氏の都合のいいように捻じ曲げようとする意図があると見ている。
 安倍首相自らが国会本会議で言い出したものだから、それにつじつまを合わせようと、森法相も必死。そこでデタラメ答弁の連発となる。だが、法律は次のようになっているのだ。

検察庁法22条
検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は、年齢が63年に達した時に退官する。

検察庁法32条の2
この法律(略)22条(略)の規定は、国家公務員法付則13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法(国家公務員法)の特例を定めたものとする。

国家公務員法 付則13条
一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基づいて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律または人事院規則を持って、これを規定することができる。

 検察庁法に書かれてある通り、「検察官の職務と責任の“特殊性”に基づいて」検察官は特別なのだから「特例を定める」とされている。つまり、他の公務員とは違って、これは破ってはいけない特例だからこそ「国家公務員法の特例を定めたもの」とわざわざ検察庁法に但し書きしているのだ。
 ところが、森氏は安倍首相には逆らえない。そこでむりやり上記の「国家公務員法の付則」を持ちだして、黒川氏の定年延長を合法化(?)したのである。誰が見ても無理筋の解釈変更だった。しかもこの決裁はとっておらず、苦し紛れに「口頭で決裁した」と口走った。「安倍語辞典」に「口頭決裁」なる新語が登場した瞬間だった。
 本来なら変更できない法を、自分の都合に合わせて解釈を変えてしまう。これもまた「安倍話法」の典型である。しかも、「閣議決定」という奥の手の汚いやり口を多用する。

天下無敵の「つい間違えました」

 予算委員会で、松尾恵美子人事院給与局長は、立憲民主党の山尾志桜里議員に、その解釈時期の矛盾を「何でこんな大事なことを間違えるのですか」と問い詰められ「つい言い間違えました」と答えた。
 これには山尾議員もあっけにとられて二の句が継げず、議場騒然。ここまで開き直られると、もはや言葉もない。何を聞かれても「つい間違えました」と返されるなら、もはや審議もクソもない(汚語でゴメン)。
 しかし、松尾局長も無念だったろう。苦し紛れとはいえ、ウソをつかざるを得なかったのは本意ではなかったはず。席に戻って溜息をつきながら宙を見つめる松尾局長の虚ろな表情は、ぼくが見ていても哀れだった。まさに、官僚の末路を見た思い…。
 しかもこれにはオマケがある。松尾局長が答えようとすると、茂木敏充外相が「帰れ帰れ!」と大声で局長を怒鳴りつけたのだ。さすがにヤバイと思ったのか、手で口元を隠していたけれど、もう遅いわい! きっちりとその場面は写っていたし怒鳴り声も録音されていたんだぞ!
 なんというエラそうな態度だろう。ヤクザに失礼だけれど、ヤクザ以下というしかない。この恫喝、大声のヤジもまた、典型的な「安倍話法」のひとつである。

「みんなウソだったんだぜ」…

 防衛省の「沖縄辺野古米軍基地建設」に関する「軟弱地盤の調査資料隠蔽」も、次々に明るみに出てきた。この件では、防衛省はこれまで「その地点での強度試験はやっていない」と否定してきた。データを突きつけられてようやく資料の存在は認めたものの、「これは簡易的な試験であり、設計には反映しない」と開き直った。
 この防衛省のやり方もまた、まさに安倍流。
 隠蔽→露見→否定→詳しいデータ流出→しぶしぶ認める→しかし大事なデータとは違うと開き直る→結局ウヤムヤへ…。

 国が崩壊寸前だ。
 アベノミクスという言葉も聞かなくなった。言いだせるはずがない。大反対を押し切った消費税の増税は、凄まじい威力を発揮し、日本の景気は完全に後退局面に入った。日銀の介入で、なんとかしのごうとしているようだが、それも有効だとはとても思えない。黒田日銀総裁の顔が、日に日に暗くなっていく。
 そこへ新型コロナウイルスの強力パンチ!

 東京マラソンは縮小せざるを得ず、一般参加者数万人は走れなくなった。他にもスポーツ大会やイベントの中止や延期が続く。
 南アフリカは、3月予定のU-23サッカー国際親善試合に、代表チームの派遣を取りやめる方向だ。
 当然のことながら、東京オリンピック開催にも世界中から疑問の声が挙がり始めている。安倍政権のウイルス対応の失敗に、アスリートの健康優先の国々が反応しないわけがない。もしこの蔓延が収まらなければ、東京へ選手団を送らないという国々が続出するだろう。
 あの安倍首相の五輪招致の際の世紀の大ウソ「アンダーコントロール」が、今回の新型ウイルス対応のひどさで、「みんなウソだったんだぜ」(by斉藤和義さん)と、いまさらながらバレてしまった。

 この国はどうなるのだろう?
 安倍氏と一緒に沈みたくはないよ。
 ぼくの「#アベウツ」は当分、治りそうもない。

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。