第110回:安倍内閣の末期症状(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

小道具頼みの安倍演説

 2月29日の安倍晋三首相“緊急記者会見”なるものを、ぼくはブチギレそうになりながらも我慢に我慢を重ねて、最後まで見た。まあ、たったの35分ほどだけど、ぼくの忍耐力の限界でもあった。
 しかしよくもまあ、あれだけ中身のないことをペラペラと喋れるもんだ。だけどそれだって、すべて「プロンプター」のおかげだ。
 知らない人のために書いておく。
 この会見で安倍首相は、話す内容をきちんと頭に入れて演説したのではない。目の前の「プロンプター」と呼ばれる透明のアクリル板に文字が投影されていて、それを読んだだけだ。透明だから記者側からは文字は見えないし、TV画面にもはっきりとは写らない。だからあたかも、安倍首相が原稿もなしで話したように見える。しかも、プロンプターは読み終えるとスルスルと下がり、見えなくなる。アメリカで生まれた演説用の小道具なのだ。
 それでもNHKニュースなどでは、ともかく大演説みたいに見せているから効果てきめん。しかも批判コメントまったくなしに伝えるから、安倍得意技の「やってる感」に溢れている。あれだけを見ていれば、「安倍さんはスゴイ」ってことになるのもやむを得ないか。
 だけどどうも、今回だけは様子が違う。普段は政治批判などあまりしないスポーツ紙も、かなりきつい表現で安倍批判に傾きだした。こうなると、多分テレビもおそるおそるだけど、世の中の雰囲気を読み始めるだろう。これは明らかに、政権の末期症状だ。
 直近のフジサンケイの世論調査でさえ、安倍支持率はガタ落ちになった!

安倍逃亡劇

 それにしても“安倍会見”はひどかったなあ。
 最初から指名する記者が決まっていて、質問内容も通告済みだったという。だから「まだ質問があります」「まだ最初の質問に答えていないじゃないですか!」と詰め寄る女性ジャーナリスト(江川紹子さんだった)には、答えようがない。だって通告をもらっていないのだから、何を聞かれるか戦々恐々の安倍首相、逃げるしかない。というわけで、江川さんを振り切っての“安倍逃亡劇”だったのだ。
 安倍首相が逃げたのは、他に重大な会議でもあるからかと思って調べたら、そのままご自宅にお帰り。“愛しい妻”が待っていたのかどうかは知らないが、たった35分で記者会見を終えるほどの用事があった様子はない。
 周りの“男”記者たちは何をしていたのか。黙って安倍逃亡劇を見ていただけか。なぜ江川さんと一緒になって、「もっと質問を受けろ」「逃げてはいけない」「聞きたいことはたくさんある」と詰め寄らなかったのか。少なくとも幹事社であった朝日新聞は「まだ質問が残っています」と、安倍首相を押しとどめるべきではなかったか。朝日よ、どうしちまったんだ!
 ほんとうに“男ども”が情けない。望月衣塑子記者といい江川さんといい、頑張るのはなぜ女性ばかりか?

「それを言っちゃおしまいだよ」

 さすがに、安倍支持者たちも呆れているからか、SNS上ではいつものように「安倍さんはよくやっている」ツイートをあまり見かけない。なんだか安倍支持者たちにも地殻変動が起きているのかもしれない。ぼくのツイートにいつでも絡んでくる人も、やや減ったような気がする。
 だけど、執拗な人はまだいる。そうまでして“安倍擁護”をしたいのか、とあきれるような人が、少数ながら存在する。
 例えば「韓国の対応はかなり徹底している。日本も真似すればいいではないか」というぼくのツイートには、「韓国の感染者数は日本よりずっと多い。そんな国の真似をしてどうするのか」とリプを投げつけてくる。
 だけどねえ…。
 ぼくが「韓国と日本の検査数はまるで違うのだから、検査数の多いほうに感染者が多数見つかるのは当然でしょう」と返答すると「その証拠を示せ」と来る。んなもん、自分で調べろよ、TVでも新聞でも毎日のように言っているじゃないか。まったく、である。
 何を言っても、絡んでくる人の論理構造(というほど立派なもんじゃないけどね)は変わらないみたい。こちらの言っていることを微妙にずらして、別の問題へ持っていってしまう。相手にするだけ疲れるから、もうやめた。
 そんな論理無視の人たちに支えられながら、安倍政権は存続してきたのだ。それに与しない人たちに対しては「こういう人たち」(by安倍)と罵倒して排除する。まさに白か黒かの二分論。グレーゾーンなどは一切認めない。
 狭間に立たされた官僚たちは苦悩する。挙句、「つい言い間違えました」などと開き直るしかできなくなる。「つい間違えた」?
 かわいそうだとは思うけれど、寅さんなら「ああ、それを言っちゃおしまいだよ」である。

混乱を招く安倍パフォーマンス

 安倍首相のパフォーマンスは続く。
 感染者が増加している北海道の鈴木直道知事は、学校の休校などの対応がかなり素早かった。それが海外メディアなどでも称賛された。何よりも「やってる感」が大好きな安倍首相は、後手を踏んだ対応が大批判を浴びたことにひどく怯え、いきなり鈴木知事の手法を取り入れた(つもり)。それが唐突な全国一斉一律休校宣言だ。
 これは今井尚哉首相補佐官の入れ知恵だったと言われている。いまや「官邸のラスプーチン」と呼ばれ始めている人物だが、関係各所にはほとんど知らせず「宣言」に踏み切った。
 寝耳に水の文科省は大慌て。「各地方の実情に合わせて柔軟な対応を」などと、一斉一律との“お上のお触れ”を否定するような見解を示した。仕方なく安倍首相も「柔軟な対応を」と、自分の言ったことは棚に上げて、白々しく前言を微修正。相変わらずの「安倍話法」だ。
 閣内はガタガタ。安倍の面目丸つぶれ。

 安倍首相は会見で「PCR検査を希望する方が、保健所に拒否されたという事例も聞いているが、これ以降、新型コロナウイルス検査は、医師から直接検査機関へ回せるようにするので、心配な方は誰でも受けられる」とも見得を切った。
 だが実は保健所の代わりに「帰国者・接触者相談センター」という機関の承認が必要であることが判明。医師から直接検査機関へ、というのはウソだったことが判明した。ウソつき首相の面目躍如。
 結局、増えるのは1日数百件のみ。なぜ韓国のように1日1万件もの検査ができないのか。安倍パフォーマンスになんら実効性はない。ただただ混乱を招いているだけだ。

 安倍パフォーマンスはまだ続く。
 「北海道の事態は深刻。品不足に陥っているマスクを政府が買い取って、北海道へ送る」なんてことも言いだした。こんなときに言うことか!
 ただでさえマスク不足で店頭は大混乱中。マスクやトイレットペーパーを争って乱闘騒ぎまで起きているときに、マスク不足を助長するようなことを言うのはどう考えてもバカだ。
 実際に北海道でマスクが必要なら、それを実行した後で「こんなことをやりました…」と発表すれば済むことじゃないか。ただ目立ちたいだけで、その場その場の思いつきを考えもせずに口走ってしまい、後で大変なことになる、というのが安倍パフォーマンスの最悪なところだ。

火事場泥棒の「緊急事態宣言」

 最悪は、最後に控えている。
 安倍首相はとうとう「この新型コロナウイルス蔓延を重く見て、緊急事態宣言を出せるような法整備を推進したい」などと言いだした。最後はそこに行き着くだろうと思っていたけれど、まさにドンピシャ。
 とにかく「改憲」しか頭にない安倍首相、この機に乗じて憲法に「緊急事態」を書き込むことを画策し始めたようだ。
 人の弱みに付け込んで悪さをするのを“火事場泥棒”というけれど、安倍改憲はまさにそれだ。
 野口健氏のように「今や戦時中と同等」だとか、松川るい自民党参院議員のように「国難を乗り切る」だとか妙に煽る連中が出て来て、ヤバイことおびただしい。太平洋戦争時の「進め一丸火の玉だ」かよ。
 そんな雰囲気を利用して、安倍は「国難改憲」などと言い出しかねない。自分の新型コロナウイルス対応策が大失敗だったのに、それを「国難」や「戦時中」との言葉でベタベタに色塗りしてごまかし、最後には「改憲」へ持っていこうとする。
 冗談じゃない。
 こんな男、ほんとうにさっさと退陣させなきゃ、ぼくの「#アベウツ」(毎回繰り返しですみません)が亢進するばかりだ。
 もうぼくは、恥も外聞もなく叫んでしまう。
 安倍やめろー!

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。