第115回:安倍劇場の無惨な終焉(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

無神経ツイートが大炎上

 まあ、頼りにならない人だとは思っていたけれど、こんなにバカだとは……と、ぼくは絶句してしまった。
 4月11日、安倍晋三首相がツイートした。星野源さんが歌うシーンの隣に、自宅のソファで犬を抱きながらコーヒーを優雅に飲んでくつろぐ動画を配信したのだ。そのツイートには、こんなことが書かれていた。

 友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。

 どう反応していいものか、ぼくは頭を抱えた。言葉を失った。
 11日は土曜日で休日。しかも多くの店や施設が、いわゆる自粛要請に従って休業に入っている最中だ。多くの人々がのんびりと休日を満喫しているわけじゃない。苦闘している、苦悩している、必死に耐えている、その真っ最中の安倍ツイートである。
 立派なご自宅の高価なソファでの優雅なコーヒー・ブレイク。それが、奮闘している人々への安倍流の「心からの感謝」のスタイルなのか。
 漢字もろくに読めない安倍氏なのだから、この程度の文章でもスラスラと書けるとは思えない。当然、お側用人(君側の奸=殿の耳元でいらんことを吹き込むバカ)の入れ知恵のツイートなのだろう。あの悪評の塊のような「布マスク各世帯に2枚配布」という、466億円も無駄遣いした稀代の愚策を企画したのも、実は同じ今井尚哉首相補佐官だと言われている。
 布マスクについても、「これで日本中から不安がパッと消えます」なんてアホなコメントで、パーッと大炎上したばかり。
 当然、この自宅からのツイート&動画は、それ以上の批判や罵倒の嵐に見舞われたのだ。普通の感覚ならば、自宅からであっても、具体的なコロナ対応の中身を語るか、真剣な面持ちでお見舞いの言葉を発する、ということくらいは考えるのではなかろうか。
 どう見たって、「まあ、下々は頑張りなさいよ。アタクシは、ちょいと休憩中だかんね」って感じだ。批判が殺到するのは当たり前だ。首相補佐官って、そんなことも分からないヤツなのだろうか。なぜ、そんな男を安倍は重用するのだろうか。

◎国民が必死で耐えているのに、その態度は何だ!
◎休業補償もしないくせに、自分は優雅に休業中かよ。
◎食えなくなっているフリーランスなんかは、ほっとけかよ!
◎すぐに芸能人を宣伝に使う。芸能人好きもいい加減にしろ!
◎議員や首相の報酬はそのままでいいのか。
◎お前らが使うレストランや高級料亭はそのままかよ。
◎昭恵のレストランはどーしたんだ。
◎原発事故のときの菅首相や枝野官房長官を見習え!
◎ごたごた言わんと、すぐに金を出せ、現金を!

 いやはや、批判の数はすさまじい。気の毒なことに、ダシに使われた星野源さんに対して、「安倍にすり寄った」「カネで買われた」などという批判まで飛び出す始末だ。
 しかし、それは星野さんがかわいそう。動画使用に関しては、星野さんは次のようにコメントしている。

 ひとつだけ。
 安倍晋三さんが上げられた“うちで踊ろう”の動画ですが、これまで様々な動画をアップして下さっている沢山の皆さんと同じ様に、僕自身にも所属事務所にも、事前連絡や確認は、事後も含めて一切ありません。

 星野源さん、なかなか骨のある人だ。きちんと、私は安倍首相に協力したわけじゃない。こちらにはいまだに何の連絡もない、という意味の怒り(多分)のコメントを発しているのだから。

アベサポの逆襲は尻つぼみ

 このように、安倍批判の暴風雨だったが、しばらくすると妙に「安倍さんはよくやっている」&「安倍さんガンバレ!」が増えてくる。いよいよアベサポのご登場である。だけどこれが、いつものように同じパターンで、まるで中身がない。

◎安倍さんはよくやっている。
◎安倍さんは頑張っているから、たまには休養も必要。
◎安倍さんの代わりに誰がいる?

 安倍支持は、ほぼこの3パターンに集約される。あとは、またもゴマすり芸能人の言葉を引用して「みんな団結して切り抜けよう」を連呼するだけ。同じ文言もたくさんある。つまり、いろんな方が指摘しているように、これは雇われバイトの小仕事なのだろう。こんなバカ仕事に、どれほどの資金が投入されたかは知らないけれど。

「賛否両論」のうさん臭さ

 この「安倍さんの代わり論」について、ぼくはたまらず、以下のようにツイートした。

 もう、どんなヒトでも安倍サンよりはよく見えます。「安倍サンの代わりに誰がいる?」とネット右翼さんたちは言いますが、もう誰だって安倍サンよりはましだと思う今日このごろです。

 これがけっこうな賛同を得ているのが、ほんとうに悲しいこの国の現状なのだが。
 もうひとつ付け加えておけば、このような安倍ツイート炎上に関して、マスメディアの一部は「安倍首相ツイートに賛否両論」などと報じている。詳しく見てみるがいい。どこが「賛否両論」か。否定や批判が圧倒的ではないか。評価を放棄して、「両論併記」や「どっちもどっち論」に走るマスメディアのいちばん悪いところだ。
 自社や書き手の記者の評価を書くことを恐れる。それをジャーナリズムとは言わないのだ。

誰が「検査」を邪魔しているか?

 正直、ぼくはこの国を信じられなくなっている。
 とくに、連日のように最大を更新している感染者数については、まったく信用できない。たくさんの方たちが怒りの批判を表明しているように、なぜ今でも検査数が圧倒的に少ないのか。
 安倍首相も加藤勝信厚労相も「検査態勢は整ってきている。1日1万件以上の検査は可能だ」と何度も言い続けている。それならば、なぜ検査数が増えないのか?
 報道では「保健所が検査を拒否するので、医師が疑わしい患者を検査に回すことができない」と伝えている。
 こんな記事を見つけた。東京新聞(11日付)だ。

 さいたま市保健所の西田道弘所長は十日、県内の他の中核市などと比べ、感染者数が少ない実態に触れ、「川口市などと比べ、検査数が少ないのは、一つには病院があふれる恐れがあり、ちょっと(PCR検査の)条件を厳しめにしたところはある」と明かした。
 さいたま市では二月九日~四月九日までの検査数が百七十一件で、他の政令市と比べても少ないとされる。検査数を絞った形だが、それでも十日現在、入院先が見つからず待機中の感染者が二十人程度いる。市は同日、感染者用の病床を五十程度新たに確保したことを発表しており、西田氏は、今後は民間PCR検査を活用して検査数を増やしていく意向を示した。

 どうにも納得がいかない記事だ。まるで保健所長の独断で、検査を「厳しめ」にしているようにも読めてしまう。だが、そんなことが出先機関である保健所の一所長の権限でできるものだろうか。どこかから、なんらかの指示がなければこんなことができようはずがない。では、どこからの指示か?
 何度も言われているように、それは結局、政府判断だろう。「専門家会議の助言に基づいて…」とは言うが、その専門家なる人たちへの批判はかなり強い。実際、市民ネットTV「デモクラシータイムス」に出演した児玉龍彦教授(東京大学先端研・がん代謝プロジェクトリーダー)は、実名を挙げて「彼らが検査を邪魔している」と批判している。
 つまり、「医療崩壊を防ぐために検査数を絞っている」ということが、「逆に医療崩壊を招いている」というのだ。ぼくもそう思う。
 初期段階で徹底的な検査を行い、無症状の感染者を隔離するという方策をとっていれば、こんな感染爆発は起こらなかったのだ。韓国の例を見ればよく分かる。それを無視したのが、トランプ大統領であり安倍首相だった。アメリカの悲惨な状況に、日本も追いつこうとしているのか。

Yuriko on Stage

 いまさら言っても仕方のないことだけれど、ぼくはやはり「東京オリンピック」が背景にあったと思っている。
 なぜかちっとも表舞台に出てこないなあ、と思っていた小池百合子東京都知事が、3月24日にオリンピック延期が発表されるやいなや、突然、連日の記者会見。矢継ぎ早にさまざまな発信を開始した。
 そして、休業要請する業種や休業補償等をめぐって西村康稔経済再生相とバトルを繰り広げた。
 なかなかケンカ馴れした小池氏、理はあるだけに、政府をコーナーまで追いつめてパンチを浴びせる。しかも、あえてダウンはさせず落しどころも心得ている。ほぼKOに近い判定勝ち。まさに、Yuriko on Stageである。
 だが、そこまで考えていたのなら、なんでもっと早く都独自の政策を提案しなかったのか。オリンピックを逆手にとって、その延期をIOCと安倍政権に押しつけ、自分の責任を免れた上での政治バトル。はあ、やるもんだなあと、つくづく感心したのだ。

 安倍ツイートの後遺症はかなり大きい。
 「3・11の原発事故の際、菅直人民主党政権で本当によかった。菅氏は命懸けで現場に乗り込んだ。一歩間違えれば東日本壊滅の危機だった」
 「あのとき、もし安倍政権だったらと思うとゾッとする。優雅に自宅でコーヒーなど飲みながら、みんな頑張ろうね、などと言うだけで、その間に原発は連鎖的に大爆発に至ったに違いない」
 いまさらではあるけれど、こんな「菅直人再評価」や「民主党時代がよりまし」との反応も、安倍炎上ツイートにはたくさんぶら下がっている。

 目を覚まそうね、みんな
 さすがに、安倍終焉劇の幕は上がったのだ……。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。