私は今、恐怖すら感じている。
ゴールデンウィークを挟んで、状況は一段、確実に悪化した。4月の時点では「家賃が払えない」「収入が減った」だった相談が、「野宿生活になった」「明日ホームレスになる」「もう何日も食べていない」に変わってきている。家賃を滞納しながらも住まいがまだある層からの相談も深刻さを増している。「パートの仕事がなくなり、残金は数千円。米と塩と漬物でしのいでいる。2、3万円でも貸してくれるところを知らないか。あるいは食料をもらえるところを教えてほしい」という声も届いている。
5月2、3日に開催された「新型コロナ関連 労働・生活相談」に寄せられた相談も、すぐに対応が必要なものが多かった。フリーランスでエステ関係の仕事をしていた人は、すべての仕事が流れ、「持続化給付金」についての問い合わせをしてきた。旅館やホテルにリネンをおさめる仕事をしていた自営業の人は、「もう廃業するしかないのか」と苦しげに言った。自身が百貨店で派遣で働くという女性は4月はじめから仕事がなくなったものの、「派遣だから休業手当はない」と言われていた。夫はタクシー運転手、息子は派遣。家族3人、収入が激減し、住宅ローンも払えない、生活費にも事欠くということだった。また、10万円の給付金についての相談も多かった。
みんなが口を揃えて言ったのは、「給付金はいつ出るのか?」「いつ手元に届くのか」ということだった。一律の給付金もそうだが、フリーランスや自営業者に給付される持続化給付金についても、とにかく「いつ?」という質問が多かった。今週か、10日後か、今月中か、来月か。差し迫った様子の質問に、そのお金がいつ入金されるかによって、今後の生活の明暗が分かれるのだろうと気づいた。各種支払いが迫り、金策に走り回っているのだろう。4月のホットラインと比べて、「いつですか?」という声は悲鳴に近くなっていた。
一方、コロナ禍を受けて急遽立ち上げられた「新型コロナ災害緊急アクション」の「緊急対応・相談受付」フォームにも深刻な声が寄せられている。この緊急対応に関しては、反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作氏の「事務局長のサポート日誌」を読んでほしいが、連日のように「残金が残りわずか」「路上生活をなんとか回避したい」「ネットカフェが閉まって行き場がない」「何日も食べていない」「家にいるけど食べ物がなく、このままでは死んでしまう」などのSOSがひっきりなしに入っている。
多くの人の残金は、数百円から数千円。瀬戸氏をはじめとする支援者たちは連日のようにそんな人々のもとに駆けつけ、緊急宿泊費を渡して公的な支援、制度に繋げるなどしているのだが、生活困窮者支援の現場は3月からずーっと野戦病院のような状態で、民間がボランティアでできるキャパをとっくに超えている。私は今、現場を駆けずり回っている支援者たちが心配で仕方ない。コロナ感染も心配だが、このままでは支援者から過労死が出てもおかしくないような状況だ。本来であれば行政がすべきことを、なぜ、民間団体がボランティアで身を粉にしてやらなければならないのか。
ただ、救いもある。このような生活困窮者支援に、大勢の地方議員が協力してくれていることだ。例えばもう残金もないなどの人が生活保護申請に行く時に、その区の区議会議員が同行してくれる、という形で連携のネットワークができているのだ。これは本当に心強い。この連載第518回コラムで書いたAさんの申請にも、北区の共産党の区議会議員が同行してくれたことにより、スムーズに進んだ。本来であれば一人で行っても適切な支援に繋がるべきだが、このように「生存を支える」地方議員のネットワークがコロナ禍をきっかけにできたことの意味は大きい。
さて、そんな中、5月8日には「新型コロナ災害緊急アクション」のメンバーと東京都に申し入れをした。
緊急事態宣言によってネットカフェが休業となり、住まいのない人にビジネスホテルが提供されている東京都だが、ただ「入れっぱなし」の状態のようなのだ。
例えば緊急事態宣言延長を受け、当初5月7日までだったホテル滞在は5月31日まで延長されたのだが、その情報すら知らされていない宿泊者が「明日出ないと行けないのか」と6日に相談してくる、という事態が起きている。それだけではない。誰が所持金いくらで、どのような支援が必要か、などの相談体制も整備されておらず、1日3食弁当は出るものの、所持金は数百円なので求職活動もできないという声も届いている。
また、緊急事態宣言が終わったあとの状況もまったく見えてこない。働ける状況で仕事があったとしても、交通費さえない人もいる。携帯が止まっている人も多い。必要な人は生活保護に繋ぐなどして「家のある生活」に戻って働いてもらうというのが理想だろう。が、生活保護を希望する人が様々な窓口をたらい回しにされているという現状もある。一方、債務相談が必要な人もいるだろうし、10万円の給付金を受け取るために住民票登録が必要な人もいる。とにかく、緊急事態宣言が開けたらまたネットカフェに戻る、というようなことだけは感染リスクの面からも、生活再建という面からも避けなければならない(どうしてもネットカフェがいい、という希望者は別として)。
5月6日時点で、都の用意したホテルに宿泊しているのは823人。これだけのネットカフェ生活者たちの支援体制をきちんと作ってほしい、自分たちも相談会をするのでホテルにいる人たちにチラシを配布してほしい、と申し入れたのだ。
都は「できることはできるし、できないことはできない」という答え。また、こちらで準備した相談会のチラシ配布はできないという。ならばぜひ、明日開催される「もやい」や「新宿ごはんプラス」でやっている相談会に来て、当事者の生の声を聞いてほしいと「もやい」の大西連さんが食い下がったが、当日、都の職員は来なかった。翌日、私は現場に行ったが、140人を超える人々が食料配布と生活相談に訪れていて、「新顔」が増えているという印象。所持金800円で野宿をしているという男性の対応をした。ちなみにこの日の夕方には池袋の公園で「TENOHASI」によって食料配布と生活相談が開催されたのだが、こちらには250人近くが集まっていた。コロナ以前と比較して、明らかに、路上の食料配布や生活相談に並ぶ人は増えている。1.5倍ほどにはなっているのではないだろうか。都内を歩いていても、明らかに「ホームレス状態になりたて」とわかる人が目に見えて増えている。
5月8日、東京都に「ネットカフェ休業等に伴うホテル宿泊者に対する法律相談について」申し入れ。「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんが要望書を手渡しています
東京以外の状況も厳しい。
ネットカフェ生活者に神奈川武道館が提供された神奈川では、すでに7日で宿泊の提供は終了。相部屋で食事は出ない、現金給付もないという悪条件だったが、最大時で1日に76人が利用。女性も1、2割程度いたようだ。「食事提供もなければ、残金わずかの人は弱っていくばかりで、支援団体も入れてくれなければ最悪、餓死者が出てしまうのでは」と心配されていたが、その後、宿泊者がどこに行ったのかが心配だ。神奈川県は利用した人々の「受け入れ先が整った」と言っているが、現場の支援者の声を伝え聞く限りでは、まったくそんなことはない。
なぜ、しかるべき公的な支援に繋がずに放り出してしまうのか。コロナさえ収束すれば、彼ら彼女らは働き、納税者となれるのだ。が、今放置すれば、コロナに感染するリスクも高い。感染しなくとも、家がなければなかなか安定した仕事につけず、仕事が途切れた瞬間に路上だ。路上生活は、人を心身ともに深く傷つける。そんな傷を癒すには、長い時間がかかる。だからこそ、傷が浅いうちに支援し、働ける人は労働市場に戻って活躍してもらえばいいのだ。そこをケチると、働けない人が増えていくばかりで結果的には財政を圧迫することは目に見えているではないか。貧困の現場を14年見ていてつくづく思うのは、「目先の金をケチることで貴重な人材をみすみす潰している」ということだ。
そんなことを思うのは、先ほども触れた第518回コラムの、所持金13円だったAさんが、ビジネスホテルを出て、5月はじめからアパート生活を始めたからだ。4月13日に生活保護申請をして3週間ちょっと。大型連休を挟んだというのに、マトモに福祉が機能すれば、コロナ禍を「チャンス」としてこうして一気に生活を立て直すことができるのだ。このような「成功例」もあるからこそ、他の人々がマトモな支援に辿り着けないような意地悪なシステムに憤るのだ。
しかし、希望もある。新型コロナウイルスによる経済危機を受けて急遽立ち上げられた「新型コロナウイルス緊急ささえあい基金」に、多くの寄付が寄せられているのだ。立ち上げからわずか1ヶ月ほどだというのに、その額は2500万円以上。このお金は、所持金が尽きた人々の緊急宿泊費や当面の生活費などになっている。支援活動は、多くの人の善意によって支えられている。
コロナ禍を契機に、この国が少しでも「自己責任社会」から「助け合い社会」に変わればいいのに。それが今の、一番の願いだ。
5月9日、「もやい」と「新宿ごはんプラス」による食品配布、相談会にて